美の考古学 (新潮選書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106037801

作品紹介・あらすじ

石器・土器・古墳の「美」とは何か? 新たなる人類史の試み。60万年前のホモ・ハイデルベルゲンシスの石斧に始まり、縄文・弥生土器、古墳に至るまで、考古学は物の機能や技術面しか見てこなかった。だが、じつは「美」こそが、いにしえの人びとの在りかたを方向づけてきたのだ。物に託された数と図形、色や質感などを切り口に、人の心の動きと社会の変遷とを重ね合わせる画期的論考。

感想・レビュー・書評

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  • ▼福島大学附属図書館の貸出状況
    https://www.lib.fukushima-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/TB90315145

     とても魅力的な題名だと思いませんか。本書の著者(松木武彦氏)は日本考古学が専門の方ですが、「モノの分析をとおしてヒトの心の現象と進化を解明し、科学としての歴史学の再構築を目指している」そうです。本書の中で著者は「従来の歴史教科書の記述には結実してこなかったような新しいモノの見方をもって、過去の人びとが数十万年以上にもわたって残してきた考古資料に意味付けをあたえてみたい。・・・新しいモノの見方のキーポイントになるのは「美」だ。」と述べています。本書に魅力を感じるのは、我々人間の祖先が創り上げてきた遺産を技術的な側面からだけの分析によらず、人間とモノとの関わりという点を重視した分析が行われていることです。それは、人間そして今の自分たちを見つめ直すことにも繋がっているのだと思います。

    (推薦者:人間発達文化学類 浜島 京子先生)

  • 従来の考古学は物の機能や技術面ばかりを重視して来たが、心理的な側面も重視するべきではないのか。そこからわかる古代の「謎」があるのではないか。松木武彦氏の、新たな冒険をワクワクしながら読んだ。

    例えば土器文様は、時代や土地や技術から離れて独自の発展をする。(機能的役割を持つ)「素朴段階」から(社会的なメディアとしての役割を持つ)「複雑段階」へ。そして(物理的機能を優先する)「端正段階」へと変わる。

    また、人間の指は十進法の発達を促しただろうし、偶数がの「四」が最初に採用されたのは、最も典型的な偶数だからだろう。よって縄文時代前期までは、四の波を打つ土器ばかりだった。ところが、複雑段階になる中期から、四の土器は減らないものの、三や五の波を持つ土器が増えゆく。そして、端正段階に入る晩期から、また亀ヶ岡式土器という波を消した土器が出現し始める。

    私はこの本に、「四」の持つ物語性を説明してもらいたかった。確かに「四」は安定した数字だ。しかし本当にそれだけなのだろうか。認知考古学と云えども、それ以上は言及出来ないのか。

    松木氏によると、弥生時代は、稲作の始まりよりも、金属器の導入時(前期後半BC4世紀)の方がインパクトがあったという。金属器には正円と直線が導入される。剣にしても、銅鐸にしても、銅鏡にしてもそうである。

    墓が参るものから「向き合う」ものへ、巨大モニュメントとして変化したその最初の契機に、吉備の楯築と、山陰の四隅突出墓を挙げている。楯築の二つの突出部は先端に大きな石が並べられているので、登り口としても作用しない。その代わり、墓に対する顔としての意味を持つだろう。しかも、頂上の平坦部には見たこともない特殊器台が置かれている。既に継承儀礼が終わった後の楯築の異様は、仰ぎ見るものとしてのみ作用しただろう。それは、その後の前方後円墳に引き継がれる。

    数で面白いのは、こういう事実もある。
    「もともとは偶数の表現が優っていた銅鐸に、奇数表現が現れ、さらには五段や三段の奇数を志向する前方後円墳が現れて発達するのが、紀元後1世紀から5世紀にかけてであることは重要だ。人々の間に階層が生じ、有力者が出て支配を強め、さらにそれらが政治的に結びついて日本列島の王権や国家ができてゆく数百年間に、それは当たっているからである。縄文時代に一度栄えたのち、しばらく鳴りをひそめていた奇数が、中央性や階層性の感覚と結びついたもうひとつの側面を強調されて、再び物の形に盛り込められて行った様子が伺える。」(125p)

    縄文土器は機能的役割よりも作り手のメッセージを発する手段として機能した。祭り道具だけでなく実用道具としても複雑段階だったことで、縄文時代の人々は科学的思考をする思考習慣(アプリケーション)を持っていなかったとも考えられる。という。なるほど!最盛期の縄文土器に、不均衡・不均等・非対称・奇数など、私たちに「不合理」とも感じられる造形や表現が盛り込められているし、「どうでもとれる」曖昧な表現、煮たき、貯蔵、盛り付けなどの機能性がないことなどから、どういう縄文時代の「理」があったのか。万象の中に隔てや境界、区切り、終始などの線引きをしない、人を自然の中に組み入れる、その中に生と死を繰り返す、独特な価値観があったのではないか。と、松木氏は云う。

    紀元前400年ごろから紀元前後の日本列島は弥生時代ではなかった。という。弥生時代は、簡単に日本列島にきたのではなかった。199pの図は、私には衝撃だった。朝鮮半島南部と北九州では国境はなかった。それと、水田稲作はもたらされていたが縄文時代の「理」は刷新していなかった西日本、そして金属器は伝わらず複雑段階の縄文土器さえ残っていた東日本とにわけられる、という。なるほど!

    ただ、松木氏は史的唯物論と認知考古学を対立的に捉えている。しかし、史的唯物論も、上部構造が下部構造に影響を与えることは認めているのだが、松木氏にその認識はないのだろうか。私は認知考古学も史的唯物論で説明出来ると思うのだが、どうだろう。気になったところではある。

    2016年8月読了

  • 自分にとって良い本とは、読んだ後にこれまで意識しなかった世界を想起させてくれる本です。美と考古学の観点から古代の世界観をわかりやすく描き出し、近現代を生きる我々との相違を浮き彫りにしたことで、自分の中に人間像に対する新しい疑問が生まれたことが個人的な収穫です。
    古代が好きな人には情報量は物足りないのかもしれませんが、美と考古学というタイトルに沿えば素晴らしいまとまりでした。

  • 人の脳の実に1/4が美を認知するための部分だと脳科学者の中野信子さんは言った。
    じゃあ人は美をどう必要としてきたのか?めっちゃタイムリーに興味があったので、とっても面白かった。社会的な情報ツールである側面やモノ時計の感覚は特に興味深かった!

  • ☆縄文時代の生活は自然の生態系の一部。縄文の村は円の構造。
    ☆弥生文化は日本史に限定された概念。

  • 縄文・弥生時代を中心に当時の美を探る旅。

  • 美の考古学、古代人は何に魅せられてきたか ということで、従来の考古学にはないアプローチの仕方、つまり、
    第1章 人類は美とどうかかわってきたか
    第2章 形の美の変遷
    第3章 数と図形の美
    第4章 色と質感の考古学
    という方法をとり、その中身を詳しく述べている。
    その成果を踏まえ、
    第5章 美の人類史と列島史
    で、仮説の理論づけを施した著作である。
    従来の単純な縄文時代、弥生時代、古墳時代・・・
    という直線的な歴史認識では、面白くもなんともないわけで、著者の論法からいけば、ユーラシア大陸の東西で、同時期同じような石斧が作られることも立証できるわけです。
    考古学の世界におけるステレオタイプ的な実証主義、その限界性を打破する色んな考え方に今後もますます出会いたいものです(笑)。

  • 日本古代史を政治や経済ではなく「美」で捉え直す。博物館・歴史資料館において、展示されている実物を見ずに説明パネルを読んでいるような考古学のあり方と一線を画す。
    文化のライフサイクルとも言うべき、素朴段階(発現期)、複雑段階(機能的役割以上の社会的メディア)、端正段階(機能優先)の考え方はピラミッドをはじめ様々な古代史の疑問へのヒントになりそうである。
    物時計(世代が変わると物の見た目が変わる)、物地図(地域ごとの変異)。

  • 貸し出し状況等、詳細情報の確認は下記URLへ
    http://libsrv02.iamas.ac.jp/jhkweb_JPN/service/open_search_ex.asp?ISBN=9784106037801

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著者プロフィール

松木 武彦(まつき・たけひこ)
1961年愛媛県生まれ。大阪大学大学院文学研究科博士課程修了。岡山大学文学部教授を経て、現在、国立歴史民俗博物館教授。専攻は日本考古学。モノの分析をとおしてヒトの心の現象と進化を解明、科学としての歴史の再構築を目指している。2008年、『全集日本の歴史1 列島創世記』(小学館)でサントリー学芸賞受賞。他の著書に『進化考古学の大冒険』『美の考古学』(新潮選書)、『古墳とはなにか』(角川選書)、『未盗掘古墳と天皇陵古墳』(小学館)『縄文とケルト』(ちくま新書)などがある。

「2021年 『はじめての考古学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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