憲法改正とは何か: アメリカ改憲史から考える (新潮選書)

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著者 : 阿川尚之
  • 新潮社 (2016年5月27日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106037870

憲法改正とは何か: アメリカ改憲史から考える (新潮選書)の感想・レビュー・書評

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  • 27回の改正と解釈による改憲を経てきたアメリカ。合衆国憲法の成立過程とこれまでの改正・解釈改憲を具体的な判例を通して紹介し、憲法と立憲主義を考察した内容。

    ゆるやかな13の邦の集まりだった英国領植民地アメリカをひとつにするために新たに作られた憲法はその制定当初から波乱含みだった。新憲法制定は独立後の13邦をまとめた連合規約の改正という形をとったが、反対派はそれは違憲であるとやり直しを主張。そこで連邦派は制定後に改正できることを約束し新憲法を制定する。後に権利の章典を記した修正1~10条が合衆国誕生後に制定されたことからもあるとおり、憲法というのは改正が可能で、であるがゆえ憲法の正統性と永続性を保証するといえる。
    合衆国憲法はこれまでに27回改正されているがアメリカといえども正式な手続きによる改正は簡単ではない。連邦議会の上院・下院それぞれの議員3分の2以上の賛成を得て、議会が起草した改正案を各州に提案する。各州は改正案を検討し、4分の3の州で議会による批准が完了したとき、改正案は憲法の一部になり有効となる。面倒くさいのはどこも一緒。

    「ザ・フェデラリスト」を書いたマディソンは、安易な憲法改正は憲法の内容を不安定にすると同時に極端に難しい手続きは憲法の欠点を固定化する、と記した。マディソンの主導のもと改正手続きは相当高いハードルとなる。
    三権分立が厳格なアメリカだが、マディソンら連邦派や建国の父たちは議会による多数派の横暴で政府への信頼と国の分裂を招くと危惧し、三権のなかで特に議会の力を警戒した。半面、司法の力があまりに弱いと考えていたフシがある。しかし、振り返ると歴史は司法に強い権限と力を与えた。連邦最高裁は建国初期に判例を通じて司法審査の権限を獲得。それを用いて、議会、行政府、州政府の法制定・行政行為が違憲か否かを判断するようになった。最高裁はさらに進んで、みずからの憲法解釈によって個々の条文の内容を大きく変えるようになった。(解釈改憲) これが定着し、正式の改正手続きを経ることなく実質的な憲法改正が実現でき国のかたちを変える例が生まれた。
    一方の議会、行政府も最高裁に対抗して、正式の憲法改正、判事の任命・任命拒否、最高裁の管轄権の変更、判事の弾劾など陰に陽に司法の判断に異を唱え、最高裁と争った。
    一番の変化は大統領だろう。戦争や危機において大統領権限は肥大化した。南北戦争時におけるリンカーン。大恐慌と第二次大戦時のルーズベルト。必ずしも憲法が守れたとはいえない事例があった。が、大統領は国を守るためと権限の強化と行政行為を正当化した。その結果20世紀以降、正式な改正手続きを経ることなく、連邦行政府と大統領の権限はかなり拡大するが、もちろんそれは無制限でなく、司法や議会に抑制される。このように憲法をめぐって司法・立法・行政が抑制し合うことで均衡を保ち、極端な権力集中を防ぐ努力がなされてきたのがアメリカ改憲史といえよう。

    大統領の権限拡大の判例は、憲法をめぐるジレンマを示唆しているようで興味深い。憲法とは何だろう。権力や統治者を縛る国民からの命令。だが、ときに憲法を頑なに守るだけでは国を守れない状況もある。戦争や災害といった国の存亡に関わる危機のときがそれだ。権力者が憲法を守るのは当たり前。常に力は制限され無限ではない。定められた法にもとづいて政治は行わねばならない。それが立憲主義だ。それでもただ憲法を守るのみでは国家の独立と国民の生命と安全が守れない状況があるということと、危機に対処するためにときに改憲や憲法解釈を変えることを踏み越えて憲法そのものを破ることさえあり得る。アメリカの改憲の歴史と解釈を変えることで国のかたちを形作ってきたアメリカ憲法史から学べることは、そんな憲法と立憲主義の奥深さである。

  •  アメリカの建国から現在までの歴史を通してのアメリカの憲法の制定と改正に関する歴史の物語です。海外出張に当たっての飛行機での睡眠導入にもなるかなと思って読みはじめたのですが,内容がとても面白く,眠るどころか最後まで通して読んでしまいました。アメリカ史の把握と言うことにもありますし,アメリカにおける憲法の位置付け,そしてその位置付けが確保されるまでの背景など,経緯とともに興味深く読みました。
     日本の憲法についてもいろいろと意見がありますが,個人的には,少なくとも,憲法についてどう考えるという議論はあってもよいと考えています。何も考えないままに最高法典として触れてはいけないものとして盲信するのは,最高法典としての位置付けを損なうことや,その重要性を損なうだけでしかないように考えます。議論をしたうえで,改正をしないのなら改正しない,改正するのなら改正するということを進めて行くのは,おかしなことではないと思いますし,アメリカではそのようにしていたということがこの作品からもわかります。

  •  本書が今注目されているのは、40頁にも満たない第10章のためだろう。1~9章で米国憲法史をなぞった後、筆者は一般化して以下の7点を挙げている。改めて、一般の日本人がイメージする憲法像と少なからず異なることに驚く。
     1)憲法の制定と改正は最初から一体
     2)憲法の改正・変更は国民の権利
     3)憲法とその改正の間には緊張関係、簡単な改正は危険
     4)憲法には解釈が必要、解釈をめぐる論争は当然
     5)解釈の積み重ねが実質的な改憲に至る流れは自然
     6)国家の存立が揺らぐ事態では大統領が実質的に憲法の制限を破ることはあり得る
     7)憲法の解釈・改正は最終的には国民の支持が必要
     その上で筆者は、「アメリカ人は憲法を大切にするが、神聖視はしない。日本人は憲法を神聖視するものの、それほど大切にはしない。」と述べている。日本では内容以前に「解釈改憲」「憲法改正」「改憲派」といったレッテル貼りをし、それ自体を危険視・タブー視する見方が少なからずあることを考えれば、頷けるものだろう。そして筆者は最後に「精神的な改憲論や感情的な護憲論を慎み」「タブーのない議論をしてはどうか」と締めくくっている。

  • アメリカの憲法も、その成立について違法性が指摘されていること。改正条項により成立させる事ができ、また憲法としての正当性に寄与していること。解釈改憲が行われてきたこと等について、初めて知った。
    日本国憲法も改正条項がありながら、一度も改正されてこなかったのであり、国民の意思としてその必要性が強く認識されなかったという事だ。自主憲法論は、一からの作り直しがその目的となっており、ここまで長きにわたり改正を必要としてこなかったこととの整合が取れない。
    今一度、憲法の存在理由を国民の全体で考え、認識し直す事から始めるべきである。

  • アメリカの憲法史。予備知識の不足が過ぎて厳しい面もあるが、勉強になった。
    世界最古の現存する成文憲法とも言われるアメリカ合衆国憲法であるが(著者は厳密にはそうではないとしている)、過去27回の改正を行っている、元はイギリスのコモンローを構成する、マグナカルタや権利章典を受け継いでいる。独立当初にバラバラだった13州の調整を取らなければならず、最初はとりあえず成立させ欠落していた権利章典を改正で追加する。大きな変化は南北戦争であり、奴隷制の否定に関わる部分を明確にしていく。また南北戦争や大恐慌時代など大統領が憲法の解釈を超えて行動したことや、実質的に解釈が変わったことも多い。
    ただアメリカ合衆国憲法には時代の価値観はあまり記載はなく、それが時の流れに耐えうる少ない改正につながったと著者は考えている。改正の要件は連邦議会両院議員の2/3および州議会議員の3/4である。著者の憲法改正に対する立場にイデオロギーの側面は見当たらず、方法論として、改正は時の要請にあったものはすべきである、拙速な改正やすでに何十年のその仕組みでやってきたものの全面改訂は混乱につながる。実際自衛隊は解釈の変更によってすでに国民にある程度認知された存在になっている。

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憲法改正とは何か: アメリカ改憲史から考える (新潮選書)の作品紹介

日本人が知らない「立憲主義」の意外な真実! 「憲法は〈国のかたち〉を表現している」「〈国のかたち〉は、改憲しても変わらないこともあれば、改憲しなくても変わってしまうこともある」―― 27回の改正を経てきたアメリカ合衆国憲法の歴史から、「立憲主義」の意外な奥深さが見えてくる。「憲法改正」「解釈改憲」をめぐる日本人の硬直した憲法観を解きほぐす快著。

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