- Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
- / ISBN・EAN: 9784106038198
作品紹介・あらすじ
国際報道の第一人者が現場から読み解く「現代地政学」の決定版! 互いに引かれあうトランプとプーチンの真意、中国「一帯一路」の最終形、弱小国・北朝鮮が求めるもの、移民と難民に悩む欧州と中東…… そして日本の行く先は? 隘路に嵌った資本経済と民主主義から生まれる人々の「怒り」をキーワードに、エゴを剝き出しに動き始めた国々の“行動原則”と世界を見るための“8つの指標”を示す。
感想・レビュー・書評
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21世紀に入り大きなパラダイムシフトをむかえた国際情勢を、地政学と「怒り」というキーワードで読み解いた本。非常に見通しよく議論を整理してあり、分かりやすかった。
地政学は最近も世界情勢を語る際のキーワードとしてよく使われるが、本書では19世紀後半から学問的に語られるようなった地政学の歴史も振り返ったうえで、それが現在の世界情勢にどのように繋がっているかが分かるように書かれている。
地政学的な要因は数千年にわたって国際政治に影響を与えてはいたが、それが各国の外交政策において中心的な役割を果たすようになったのは19世紀以降の帝国主義の時代だろう。地政学の代表的な理論が構築されたのもこの時代であり、マハンのシーパワー理論、マッキンダーのハートランド理論、ハウスホーファーの国家生存空間論、スパイクマンのリムランド理論などがその代表であるという。
欧州でもアジアやアフリカでの植民地支配においても、地政学的な観点の陣取り合戦が、国家の合従連衡や紛争の背景にあり、また日本においても地政学的な発想が日清・日露戦争や諸外国との同盟関係に大きな影響を与えていた。
第二次世界大戦後、このような地政学が描く国際関係は米ソの自由主義陣営対社会主義陣営の対立に置き換わった。これは表面的にはイデオロギーを軸とした対立であるが、一方でその足元においては中東や中央アジアなどで地政学的な対立が存在しており、それらが冷戦終結後に噴出した。
本書のように、19世紀終わりから現代までの歴史を「地政学」という軸で読み返すと、冷戦終結が「歴史の終わり」ではなく、むしろそれ以前の歴史を支配した力の復活であったことがよく分かる。
筆者はさらに、地政学だけではなく「地経学」の視点が重要であると述べている。これは、エネルギーや鉱物資源、工業製品のロジスティックスなど、グローバルに展開した経済活動やますます地理的な要因に影響をされるようになってきたということである。
中国が進める一帯一路や、欧米・東南アジアで進む経済圏づくり、ロシアが進める資源開発などが、国際政治を動かす大きな要因になっているのは事実であろう。地政学を動かす大きな力はむしろ経済の力になっているという指摘は、非常に納得がいった。
地政学的な戦略は、それを実現するときに力が必要となる。主に軍事力が使われることとなるが、21世紀においては経済制裁や関税競争などの経済的な力、さらには規制や基準づくりも、地政学(地経学)的な競争のツールとして使われている。しかし、総じて力への信奉というのが基盤になっているのは間違いない。
冷戦時代のような価値観の対立を看板に掲げた国際関係に慣れた目からは、地政学、地経学的な対立は、ロシアや中国などの一部の国が取っている旧時代的な政策のように見えることもあるが、実際にはこのような力の対立は、現実世界の中では避けられない。
特に、本書でもたびたび触れられているが、アメリカがトランプ政権になって自由主義陣営のリーダーの役割を降りたと言われるが、実際にはこれはブッシュ(息子)政権、オバマ政権から徐々に進んできた潮流であり、冷戦期の価値観を軸にした同盟の背後にも、地政学的な力のバランスは存在していた。価値観同盟の一方の軸(社会主義陣営)が崩壊したことによって、そのような傘が取れて実態がより明瞭に見えてきたにすぎない。
地政学や地経学が鳥瞰的な視点で国際情勢を見た分析であるとすれば、本書のもう一つの重要なキーワードである「怒り」は、足元から見た国際情勢を動かす要因であると言えるだろう。
アメリカにおける「忘れられた中間層」、ヨーロッパに押し寄せるアフリカや中東からの移民との対立などの背景には、「恐れ」や「屈辱」などの感情に突き動かされる人びとの姿がある。
国際社会を動かすこのもう一つの大きな力を国際情勢を分析する軸として取り上げたのが、ドミニク・モイジである。モイジは世界を「恐れ」「屈辱」「希望」の三つの感情に分けて分析した。
「恐れ」は、経済の衰退、移民の流入による社会の変化、近隣の軍事大国の存在などの要因によって引き起こされる。「屈辱」は将来に対する希望の欠如と、その要因を他者に転化することから生まれる。一方「希望」はこれらの要因がなく、あるいはあったとしてもそれを乗り越える明るい経済的な見通しがもたらしてくれる。
モイジによれば、現在の世界において「恐れ」や「屈辱」の占める世界がどんどん広がり、ますます「希望」をもった世界が小さくなっているということである。
イスラム過激派の伸長や各国で見られる保護主義的な経済政策への賛同、フェイクニュースの拡散などの背景には、このような感情があり、これらを無視して社会を分析することはできない。
また、「怒り」の感情が渦巻く政治環境下においては、政策はますます地政学的になり、自由で開かれた国際秩序が受け入れられる余地は少なくなる。「怒り」の高まりと地政学の復活は相互に関連している。
本来、恐れや屈辱の伸長を防ぐためには、社会保障の充実、人間開発といった政策が必要であるが、現実的にはそのような動きよりは国境管理の徹底、宗教への回帰などの政策がより力を持ってきている。
感情は人々の本性に関わるものであり、それ自体をなくすことはできない。そのため、それらが敵意やそれに基づく政策に結びつく前に、「恐れ」を生み出している社会的、経済的な課題を解決する取り組みを進める必要がある。また、筆者が指摘しているように、普段からの人の移動・交流も重要な役割を果たすであろう。
さらには、感情、特に変化に対する恐れが人間には不可分のものであるということを認識したうえで、産業構造の変化も、移民の受け入れも、コントロールされた形で進めていくことが重要であるとも指摘されている。急速な変化は社会の側が受け入れることが難しいが、これらを進めることは最終的には経済の成長や人の安全保障につながる。
このように、地政学と怒りという視点は、国際社会が抱えているリスクとその背後にある要因を考えるうえで重要なものであると感じた。
筆者は、中東、欧州、アメリカ、旧ソ連、アジア、豪州と、世界各国の取材歴が長く、政治家や国際政治学者から難民の人びとまで、多くの人へのインタビューなども経験している。本書のあちこちでそれらの中から得られたその当時の現場の生の声も盛り込まれており、理論的な視野と現実の世界の繋がりを感じることができた。
2017年に書かれた本であるが、いまの国際情勢を見るにあたっても有益な視点を与えてくれる本だと思う。 -
312.9
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「地政学」と「怒り」(概ねポピュリズムを指しているようだ)を軸にした世界の分析。現在の世界で両者とも重要な物差しなのは確かだろうが、本書自体は事象を詰め込み過ぎて消化不良の印象を受ける。
敢えて両者を組み合わせて本書の主張を解釈すれば、中露など大国の対外政策において地政学が復活している、そして先進民主主義国はもちろん中露のような国ですら対外政策に国民の意向(=「怒り」)は無視できなくなり、中露では世論をコントロールしている、ということだろうか。しかし、地政学を「むき出しの自国第一主義」程度に狭く解釈していないか。トランプ政権下で内向きの米を「地政学大国」と呼ぶのが適当かどうか。
本書で挙げられている個別事象についても、たとえばISや民族紛争それ自体は、「怒り」ではあっても地政学なのか。北方領土の記述では、「地政学の縮図」とはしているが「怒り」は出てこない。また北朝鮮の「怒り」として中国に対する非難と北朝鮮市民の「怒り」を挙げているのには首をかしげる。 -
著者は共同通信の論説委員長。
現在の世界情勢を「地政学」の観点だけでなく、人びとの感情、とりわけ「怒り」に焦点を当てて分析した好著。トランプ政権の成立、英のEU離脱、難民問題、中東情勢などバラバラに起きているように見えることが、この2つキーワードで実にうまく整理されている。
学術的・理論的な分析に、実際の取材経験などを織り交ぜて記述されているため、議論が重層的に進み、読み応えがあった。 -
180120 中央図書館
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東2法経図・開架 318.2A/J76s//K