死の壁 (新潮新書)

著者 :
  • 新潮社
3.43
  • (161)
  • (289)
  • (699)
  • (62)
  • (14)
本棚登録 : 3317
感想 : 291
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (190ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106100611

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 皆安楽死する側の気持ちは考えるが、安楽死させる側の視点は欠如していることがある。
    死体を見る視点では、俺の死体は存在しない。

    普段考えが及ばない視点からの記述があり新鮮でした。

  • 死は観念ではなく、日々トイレでひねり出さねばならないウンコと同じく、有機的でどうにもならないものなのだという養老節に、毎度のごとく唸らされました。

    都市化と共に生活の場から死も消えたというのは納得です。都市というのはクリーンで支配できるものに満ちています。汚らしいもの、秩序を乱すものは許されず、周辺に追いやられます。当然、臨終は病室においやられ、すぐに匂いを発する死体などもさっさと焼却処分される。野生動物の死骸すら、その日のうちに処理されて目につきません。

    こうして本物の死はかくされ、無味乾燥かつ抽象的な数字におきかえられる一方で、フィクションの世界では残酷で派手な死が跳梁跋扈する。それで想像力ばかりが刺激されるから、無駄に恐怖心が高まってしまう訳です。新型コロナに対する世間の過剰反応にも、案外そんな理由があるのではないかと、本書を読みながら思いました。

    養老先生は、フィクションに出てくる死体は嘘っぽいと言います。長年、解剖学に心血を注いだ専門家の言葉には重みがあります。きっと、私たちが思うよりも違うのでしょう。しかし、普段死体をまぢかに眺める機会のない私たちには、本質的な違いなど分かりようもありません。

    昔、ミイラ展や人体の不思議展に行ったことがあります。どちらも本物の死体が展示されていました。興味深くエキサイティングではあったものの、ある意味では少し拍子抜けもしました。

    なんだかミイラは大きな干物に見えたし、プラスティネーションはおどろくべき精巧な標本であり、私が思っていた死体ではなかったのです。今思えば、何かもっとおどろおどろしさがあるだろうと期待していたんだと思います。見世物小屋に求めるべき物を求めていたのです。

    ただ一点、スライスされた人体標本の頭部にうっすら毛が生えていたのだけは、なんだか今でも覚えています。理由は分かりませんが、それを見た時にはじめてこの人は生きていたんだと思えました。

    不思議な感覚でした。これが養老先生言うところの「死体である死体」の存在感なのでしょうか。それはフィクションの世界にあるように、怖くもなく、グロテスクでもなく、ドラマチックでもありませんでした。目の前のこの人は、自分と同じように生きていたのに、たしかに今は死んでいる。自分も、いずれこの人のように死ぬのに、どうやら今は生きている。

    この不思議さには果てがありませんでした。見つめれば見つめるほどに、分けがわからないけれど、何か心の深い部分に、慄然と鮮やかに響いてくるものがあったのです。哀しみでもなく恐怖でもありません。言葉にはならないものです。それが都市化によって私たちが失ったものなのかも知れません。

    死とはなにか、生とはなにか。それは情報や論理だけで答えが出るものではなく、なんだか分からないけれども目の前に歴然と存在する有機的なシステムと向い合う中にしか、見えてこないものである、という、養老先生の言葉には、不思議と心安らぐものを感じました。

    他にも色々と面白い話がありました。ただ最終的に心に残るのは、父親の死について、しんみり語る先生の後ろ姿です。何度も読んだ話ですが、とりわけ本書では響いてきます。

  • バカの壁、二度目の読了に続いて本作を読みました。死生感、人生について考えさせて頂きました。感謝

  • 死について色々な視点で書かれている。「死んだら共同体から追い出される」という考えは面白いと思った。冷淡で単純だけど的を得ているような、合理的とも言えるような言い回しがかえって納得させられる感じがした。死について考える事はとても大事だけど、自分の死を怖がって不安になっても仕方ねえよな!って話

  • 解剖学者だった筆者が思う"死"について書かれた本。
    自死は自分は死んでしまって関係ないが、周りに与える影響は大きい。
    だから、"死"というものを軽く考えて自殺をしてはいけない。
    医者である筆者が考える安楽死。医者も人間で人を殺めるということはしたくない。十字架を背負いたくない。
    よく考えれば、わかりそうなことだけれど、気づかせてくれたような気がする。
    コロナ禍で自死が増えている今、すごくおすすめの一冊です。

  • 哲学に興味を持った時、図書館で見つけた。
    「バカの壁」より先に読んだ。
    死を失う事だけだと思っていたが、
    観点が3つぐらい増えた。

  • 殺人、葬式、自殺、死体、戦争、死刑、脳死。。世の中の死に関する昨今の問題を読み解き、そこから生きる知恵を見いだす本。
    バカの壁の続編にあたるような位置づけで、確かにここでも脳化された社会が死の様々な問題を引き起こしていることが分かる。

    とりあえずごちゃごちゃ考えるより、身体を動かそうという筆者の意見は、強引のようだけど今の閉塞感のある日本では本質を突いていると思う。

  • 口と死が似ているって。本当だと思う。猫好きは深いと思う。

  • 「生きがいとは何かというような問いは極端に言えば暇の産物なのだ。」
    都市化、意識化が死を遠ざけている。

  • ズバリって感じで答えを提示するのではなく、こちらに考えることを促してくるというのか…
    死についていろんな観点から論じているけど、私みたいなアホでも理解できるように、かなり優しい言葉を用いて書いてある本だと思いました。

    自殺はやっぱり駄目。

    自分が自殺した後、周囲にどんな影響を与えるのか考えてみなさいってことは、養老先生でも同じことを言うのだなと…
    安楽死についても、「殺す側の気持ちが理解できてない」と言っていた?

    内容が全部理解できたかと言うと多分できてない。

    死とは何か→証明書が出たら。

    ボケることを怖がらなくていい、困るのは自分ではないのだから。

    死体は仲間外れって言葉もなんだか新鮮に響いた気がします。

    大して生きてもないくせに、人生の意味なんか聞くんじゃない。

    どのお言葉も胸に刺さるような、それでいてやさしい本。

著者プロフィール

養老 孟司(ようろう・たけし):1937年神奈川県鎌倉市生まれ。東京大学名誉教授。医学博士(解剖学)。『からだの見方』でサントリー学芸賞受賞。『バカの壁』(新潮社)で毎日出版文化賞特別賞受賞。同書は450万部を超えるベストセラー。対談、共著、講演録を含め、著書は200冊近い。近著に『養老先生、病院へ行く』『養老先生、再び病院へ行く』(中川恵一共著、エクスナレッジ)『〈自分〉を知りたい君たちへ 読書の壁』(毎日新聞出版)、『ものがわかるということ』(祥伝社)など。

「2023年 『ヒトの幸福とはなにか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

養老孟司の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×