嫉妬の世界史 (新潮新書 91)

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  • Amazon.co.jp ・本 (206ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106100918

作品紹介・あらすじ

喜怒哀楽とともに、誰しも無縁ではいられない感情「嫉妬」。時に可愛らしくさえある女性のねたみに対し、本当に恐ろしいのは男たちのそねみである。妨害、追放、殺戮…。あの英雄を、名君を、天才学者を、独裁者をも苦しめ惑わせた、亡国の激情とは。歴史を動かした「大いなる嫉妬」にまつわる古今東西のエピソードを通じて、世界史を読み直す。

感想・レビュー・書評

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  • げに恐ろしきは、男の嫉妬…。この本には男の嫉妬にまつわる妨害、追放、殺戮にまつわるエピソードが古今東西に渡って収録、紹介されてあって、読みながらおなかいっぱいになってしまいました。問題作だと思います。

    あんまり具体的なことは書くまいと自分に 戒めているが、僕がとある出来事から学んだことは、男にとって嫉妬という感情が自分という人間を焼き尽くしてしまいかねないくらいに度がし難い感情であるということでした。やはり、嫉妬というものは女性のそれよりも男のそれのほうが何倍も激しいものなのだということを実感した次第でありました。

    この本はそんな「嫉妬」というものについて、古今東西のさまざまなエピソードを通じて、世界史というものを考察するというものです。しかし…。嫉妬というものが場合によっては一国の運命を揺るがしかねないような途轍ものない感情であることが延々と書かれてあって『そうだよなぁ…』というなんとも言いようがない感情とそれに伴う妨害工作、追放。殺戮…etcのオンパレードに
    「自分の中にもこういう『魔物』が潜んでいるのか・・・。」
    という思いに恐れ慄いてしまったことを正直に告白します。

    森鴎外は医学者でありながら小説も書けるということで最後まで男爵の称号を得られず、石原莞爾はその天才的な軍事的才能ゆえに東条英機から疎まれ、追放されます。旧ソ連のトハチェフスキーという将軍はその出自と教養。そして才能をスターリンにねたまれ、非業の最期を遂げる…。このほかにもさまざまな嫉妬にまつわるおぞましいエピソードが列挙されていて、新書ながら読んでいておなかいっぱいになってしまいました。

    嫉妬。この度がし難い感情を否定することはできませんが、この感情に真正面から向き合ってみるためにも一読して損はないと感じています。

  • 2010年に読んだ本の中でのベスト本。

    山内先生といったらイスラムのイメージだけど、こんな歴史雑学の引き出しもあったんだと、思わず感激です。

    出典もきちんとカバーしてる点など、評価できると思いましたね。

    少しユルイとは思いつつ、思わず人に話したくなっちゃう話の連続で、大変、満足でした。

  • 「嫉妬」という観点から、歴史上の人物を分析する。
    アイデアは面白いが、何度も読むような本ではないかな。
    著者はやや難解な言葉遣いを好むよう。

    徳川慶喜、島津久光、呂后、森鴎外、近藤勇、ロンメル、中谷宇吉郎、牧野富太郎、石原莞爾、東条英機、カエサル、スターリン、島津義久、ゴードンなど。

  • 「嫉妬」という言葉を聞いて良い感情だと感じる方は少ないだろう。だが時に自身を奮い立たせる原動力になったり、その気持ちを抱いた後に来る自身に対する嫌悪感から、より精神を高度に成長させる糧にもなったりする。斯く言う私もビジネスの世界では同僚や後輩の昇進に内心平然ならぬ感情を抱いたり、学生時代には好意を寄せる女性が他の男と話をしているのを見ては、自分は大して好きじゃないという想いとは逆の態度をとりながら自分の精神を無理やり平静に保とうとした事を思い出す。これは絵に描いたような嫉妬である。
    本書は歴史上の人物にも見られた嫉妬と、それを要因に発生した政変や粛清などを取り上げている。
    それは古代ローマ時代から現代に至るまで、誰もがよく知っている人物にまつわる話が中心となっている為、非常にわかりやすく頭に入ってくる。
    そして嫉妬の恐ろしさが世界史・日本史を大きく変えてきた事実にも驚愕してしまう。
    兄弟間、夫婦間、親子、上司部下の関係などいずれのパターンでも人が常に自分と他を比べる性質である以上、何処にでも嫉妬は発生する。そして時代背景が戦時のような混乱した状況にあれば、嫉妬の相手方を容易に死に追いやることも珍しく無い。そのやり方も恨みの大きさや見せしめの効果を狙ったケースなどでは見るも無惨な形で執行される。嫉妬とはその様な恐怖につながる危険な感情だし、現代でもニュースにされる様な男女間の嫉妬の行く末などにも通ずる。
    嫉妬が生み出すもの、自身の身を追い落とす存在になる様なケースでは相手への恐怖心、自身にできない事をやってのけてしまう事から来る畏怖の念、蹴落としてでも競争に勝ちたいという執念など、かなりの爆発力を秘めている。それほどまでに人を突き動かす原動力になるが、その一方で、そうした嫉妬を受けないタイプや、嫉妬の感情に縛られない人物もいる。本書はそうした人材も取り上げることで嫉妬の感情の抑制に繋がる方法も示唆しているようだ。
    とは言え本書を読んで感じるのは、目立てば当然に周りからの嫉妬にさらされるし、そうならない様に身を潜めれば大業を成し遂げるのは難しいし、究極的にはそれを抱えながら上手く生き延びるしか方法は無いというこではないだろうか。
    本書後半で取り上げる「天才」石原莞爾と「秀才」東條英機の辺りは非常に面白く、現代社会で自分の周囲を見渡せば、その様な嫉妬に渦巻く争いの一つや二つが容易に出てくる。
    本書を読みこうした知識を持っておくだけでも、また一つ自分の精神を周囲にはコントロールされにくい強固なものにできるのではないだろうか。会社組織なら優秀な部下がいてこそ、チームの勝利と自身の評価に結びつくのであって、部下への嫉妬などは持たない事である。万が一上司部下の関係がひっくり返るなら、自身の努力が周りに対して及ばなかっただけである、と素直に受け入れるだけである。が、自分がそこまで立派な人間になる日は遠そうだ。

  • 何年振りかの再読。嫉妬した歴史的な著名人の実例を次々に紹介した本。特に森鴎外と牧野富太郎のところが面白かった。牧野富太郎は、在野の植物研究者で偉人だと、子供の頃、伝記を読んで記憶していたが、そういった面ばかりでなく、非常に人間臭い部分があったと改めて知った。
    嫉妬されないためにどうすべきか、学ぶべきところの多い本である。

  • 歴史上の偉人も嫉妬したり、嫉妬されたりしていたという話をまとめた本。歴史上の裏切りの影にこういう感情が存在したのか、という驚きと納得があった。
    ただ、知らない偉人も多いのが残念。まあ、自分が歴史に詳しくないだけなのだが。
    「嫉妬ドリブン」とも言える負のエネルギーが歴史を動かしていたのは面白かった。

    <アンダーライン>
    マルクス主義と共産主義の罪は深い。これは、平等思想の美名のもとで、人間の嫉妬を構造化し、密告や中傷を日常化する体制をつくりだしたからである。

  • 自分を苛む嫉妬の感情に対処することを目的に、

    佐藤優『嫉妬と自己愛 「負の感情」を制した者だけが生き残れる』にて推薦されていたため、購入しました。

    まず、嫉妬とは何かを考えたとき、
    "他人が順調であることをにくむ感情"
    という定義は、言い得て妙だと感じました。

    本書では、偉人の例を取り上げ、嫉妬がいかに危険なものであるかを教え、他人の嫉妬を買わないように警告しています、

    自分の場合、嫉妬を買う側ではなく、抱く側だったのですが、本書の例を読み、体感した嫉妬の罪の大きさに、いつの間にか自分の抱える嫉妬が小さくなっていました。

    私は秀才でも天才でもありませんが、沈黙は金なりという言葉を心得、そうは言っても、勇気まで失わないよう精進していこうと思いました。

  • 認められたい。優れていることを証明したいという欲は暴走すると自らと周囲を滅ぼすことになる。そして、そのことによって自らの名誉(存命中・死後問わず)を失うことをスターリンや東条英機から学びたい。

    私は小さなことで嫉妬に狂う凡夫だ。優秀な人の能力を目の当たりにすると自分の中で嫉妬の炎が燃えるのが分かる。読み進める中で、歴史に生きた人も同様であることに安心感を覚えたが、それと同時に嫉妬に狂った人生が喜びに満ちたものに終わらないこともよく分かった。

    本書でも言われたように『知足』は嫉妬心を上回る心の支えになると思う。日々の小さな喜びを見出して、満足を得たい。
    そして、優秀な人を見ても『余所は余所、私は私』と割り切れるような器量も持ち合わせたいと、歴史上に生きた人たちを見て思った。

  • 嫉妬という面から世界史を俯瞰する、やはりドラマがあるなあ、特に石原莞爾の考察が秀逸

  • 歴史
    心理

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著者プロフィール

一九四七(昭和二二)年札幌に生まれる。
現在、東京大学大学院総合文化研究科教授、学術博士。中東調査会理事。
最新著書として、『岩波イスラーム辞典』(共編著、岩波書店)、『歴史の作法』(文春新書)、『帝国と国民』(岩波書店)、『歴史のなかのイラク戦争』(NTT出版)など。

「2004年 『イラク戦争データブック』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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