松下政経塾とは何か (新潮新書 92)

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  • Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106100925

感想・レビュー・書評

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  •  某掲示板の政治関連の記事を見ていると時々目に飛び込んでくる「松下政経塾」という単語。松下幸之助が作った事以外は何も知らなかったので、知るために読んだ本。

     読み終えた後の率直な感想は、「やはりどんな崇高な目標を掲げた組織も、人間関係で大きく揺らいでしまうのだな」というものだった。
     「地盤、看板、カバンを持たない若者を政治家にしてやろう」という目的で日本の政治を変えるために作ったのに、現在では選挙資金の援助や人脈をアテにして入ってくる者が多く、肝心の政治を学ぶという目的が失われ「選挙の候補者」を生み出す場と成り果ててしまっている。かつての先輩が出馬する際には同期・後輩が手伝い、その自分達が出馬する際には先輩に面倒をみてもらうという研修の場が、歪んだ形で伝わってしまっているのは残念である。中田宏や三日月大造の経歴からもそれは伺える。現役塾生が「心配してくれる先輩などいない。上ばかり見て生きている」と功利的になってしまうのも無理も無いのかもしれない。

     幸之助亡き後、上甲晃は厳しい運営状況を改善するために「ちにか運動」や京都政経塾を作ったが、代償として新入生に対する研修機会を失い「独断専行」と批判がおき、選挙に負け、幸之助の考えを帯びた新党を作ろうと言った山田宏に対し「彼ら(新党派)は自分が出世することしか考えておらず、政経塾や後輩のことは頭にない」とあしらわれるなど、大きな溝ができてしまった。資金難を乗り切るために松下家の人間である松下正治を迎え入れたところ、金のやりくりばかりに集中してしまい(関淳がリストラが断行)、塾生の育成に手が回らず緒方彰が辞任する(一応双方に非があるという趣旨の文章が書かれている)といったゴタゴタした状態が続く。
     他の塾出身者も「あくまで松下幸之助の考えは保守ニ党論」(野田佳彦)、「第三党が政権を取るというのはロマンにすぎない」(島聡)、「塾で固まるのは排他的で嫌味な感じがする」(山井和則)など、考えがまるでまとまっていない。実際に幸之助と顔をあわせ指導を受けた先輩に対して後輩たちが白けてしまうというエピソードは、いつの時代、どこの組織でも起こる日常風景だ。

     野田佳彦、前原誠司も松下政経塾出身であり、民主党側につき政権をとったものの、前原は不祥事を起こし、野田は先日の総選挙で自民党に政権を明け渡すこととなってしまった(もっとも、私自身はこの原因は野田一人のせいというよりは、鳩山由紀夫前首相の発言と行動の不一致や、対中韓政策、震災後の行動といった党全体の責任であると思っている)。
     政治アナリスト:伊藤惇夫が「政経塾出身の政治家には縁の下の力持ちがなく、政治家になること自体が目的となっている」、塾出身者が「人に認められたく、集団行動が苦手」と分析しているが、この点も今回の政局に現れていたのだろうか。

     どちらかというと、私は政経塾の歴史よりも、松下幸之助の発言や理念の方に興味がわいた。真々庵とわずか70億円(加えて松下グループからの計50億円の出資)で、良くも悪くも何かを期待させる人材を輩出出来たのは、やはり先を見る目があったということなのだろう。
     苦汁を舐めた経験からPHP活動、「右手にそろばん、左手に政治」、「政治に経営感覚を導入せよ(税金の無駄遣いをするな)」、生活物資を水道の水のように安く提供するという「水道哲学」、「われわれ人間はお互いに飼い合いをしている。お互いに人間の本質を知ることで、初めて政治家としての可能性がある」、「欲望は力であり、人間の活力である。一休さんのような欲のない人ばかりでは世の中は成り立ちません。欲望は力ですから、悪にも善にもなり得ます」という理念は、経営者であったからこそ生まれたのだろう。
     新党結成を信頼していた人々から反対された時「明治維新を成功させたのは若い武士で、大名ではない。若いのに良くやったというが、失うものがないからこそ出来たともいえるな」と振り返ったそうだ。今後、政治を良くしようとする若い力は現れるのだろうか。

    自分用キーワード
    硲宗夫『悲しい目をした男 松下幸之助』 地域から日本を変える運動(ちにか運動) 聖徳太子の憲法十八条事件 

  • [ 内容 ]
    カリスマ経営者・松下幸之助が創立してから四半世紀を迎えた松下政経塾。
    現在、塾出身の議員・首長は総勢六十名となった。
    彼らは、閉塞し危機に瀕した日本の救世主か?
    それとも、老人の妄執が生み出した現代のドンキホーテなのか?
    政治家を志し、政経塾に集まってきた若者たちの群像、彼らの成長や挫折の軌跡を追いながら、ここまでに至る塾の歴史と実態、さらにその功罪を明らかにする。

    [ 目次 ]
    序章 「殿」と政経塾
    第1章 昭和版「松下村塾」の誕生
    第2章 「幸之助新党」の真実
    第3章 日本新党ブーム
    第4章 「政経塾新党」への挑戦
    第5章 大政奉還
    第6章 夢のまた夢
    終章 深き「業」の果てに

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 最近因縁を感じ始めたので、読んでみた。

    小物臭がするな~とは思っていたが、

    やっぱり実際のところも政経塾出身の者は選挙の仕方だけを学んだ成り上がり者にしか過ぎない。

    民主主義を破たんに追いやる一因になるのは間違いないだろうな。

  • 今日では政界に多くの門下を輩出するようになった松下政経塾についてよくわかる本。著者は松下政経塾の存在意義に懐疑的で、批判的な文章も多い。一時期は赤字運営で経営が厳しく、さらに塾生と職員の軋轢も絶えなかったというのは意外でした。

著者プロフィール

1965年、岡山県生まれ。ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒業。英字紙「日経ウイークリー」記者、米国黒人問題専門のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」(ワシントンDC)客員研究員を経て、フリー。著書に『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)、『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)、『松下政経塾とは何か』(新潮新書)など多数。

「2019年 『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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