「法令遵守」が日本を滅ぼす (新潮新書 197)

著者 :
  • 新潮社
3.39
  • (18)
  • (46)
  • (89)
  • (13)
  • (2)
本棚登録 : 543
感想 : 68
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (190ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106101977

作品紹介・あらすじ

「申し訳ございません。違法行為を二度と起こさないよう、コンプライアンスを徹底いたします」とは、不祥事を起こした際の謝罪会見での常套句。だが、こうした「コンプライアンスとは単に法を守ること」と考える法令遵守原理主義そのものが、会社はおろか、この国の根幹をも深く着実に蝕んでいるのだ。世の中に蔓延する「コンプライアンス病」の弊害を取り上げ、法治国家とは名ばかりの日本の実情を明らかにする。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 法令と社会的要請との間にズレがあるのに、企業が法令規則の方ばかり見て、その背後にどんな社会的要請があるかということを考えずに対応すると、法令は遵守しているけれども社会的要請には反している、ということが生じる。社会的要請に応えていくことこそがコンプライアンスである。確かにそう思う。
    「社会的要請」という言葉は勉強になった。
    確かに合法か違法か、ということにばかり注目が集まるが本質はそこではない。事例の中に、合法ではないが社会的要請には応えている、というものが数多くあり、一方で社会的要請に応えていない法律が今だに残っていることは驚きだ。本質よりも形式を重んじる風潮は滅びゆく日本の兆しなのかもしれない。

  • 1. 検察の起訴裁量について

     法令と実態が乖離しているような状態で「形式的にすぎる」官僚を批判しているが、検察については法令違反については淡々と職務を遂行すべきだと感じた。世間から特装検察が評価されていた執筆時とは異なり、袴田事件を筆頭に検察への不信も高まっている現在では、「柔軟に」事件に対応したところで「恣意的に運用したのではないか」との疑いをかけられるのは目に見えているし、そのような疑いに市民の目を入れたはずの検察審査会についても良い評判を聞かない。
     法令におかしいところがあるのであれば、司法に持っていって判断を待てば良いのであるし、その判断を元に立法が法令を変えるのが筋であるから、検察に柔軟さを求めるのは賛同できなかった。

    2. 法令遵守について

     法令に限らず、「法令遵守」にある問題はSDGsにもあり、社会に根強く残っているものだと考えた。すなわち、建前においてSDGsという崇高な理念に賛同しているポーズをとり、環境コンサルの助言に従って配慮している形式だけを重視して、その実、「実質的に」持続可能な社会の実現にどのように寄与するのかという問題には直視しない態度が見られる。
     このような観点でいうと、世界を滅ぼす、ということにもなりかねない。本書の主張を敷衍すると、地球の構成員一人一人の鋭敏性が地球に「眼」を与えることになるのだろうか。

  • 1

  • カバーの言葉より引用する。
    「申し訳ございません。違法行為を二度と起こさないよう、コンプライアンスを徹底いたします」とは、不祥事を起こした際の謝罪会見での常套句。だが、こうした「コンプライアンスとは単に法を守ること」と考える法令順守原理主義そのものが、会社はおろか、この国の根幹をも深く着実に蝕んでいるのだ。世の中に蔓延する「コンプライアンス病」の弊害を取り上げ、法治国家とは名ばかりの日本の実情を明らかにする。

    つまり、短絡的な法令遵守ではなく、法の背景・精神、社会的要請をまず考えよ、ということである。慣用句で言えば、枝葉末節、木を見て森を見ず、ということである。

    そして筆者は、「コンプライアンス」と「法令遵守」は異なると主張する。コンプライアンスとは、「社会的要請への適応」としている。

    目次
    第一章 日本は法治国家か
    第二章 「法令遵守」が企業をダメにする
    第三章 官とマスコミが弊害を助長する
    第四章 日本の法律は象徴に過ぎない
    第五章 「フルセット・コンプライアンス」という考え方
    終章  眼を持つ組織になる。

  • 確かにその通り。バランスが大切

  • 多少不合理な面も含めて形式を満たしながら守るのが法令遵守と思い込んでいたのを改めさせられた。かといって、顕在化した社会要請だけでなく潜在的な社会要請をあれもこれもというわけにいかない。だからフルセット・コンプライアンスの第1が「組織の方針」ということか・・・。法令は環境変化を知る手がかりというのはなるほど。

  • 本質が書かれた 著者の鋭い本です

  • コンプライアンスとは「法令順守」ではなく、「社会的要請への適応」と解釈すべきと作者は問う。
    本来、何のために法律が存在するのか?単純に法律を遵守する事が社会の要請に応える事にはなっていないにも関わらず、「法令を守れば良い」、「法令に従って物事の是非を判断すれば良い」と単純化されていないか、作者は警笛を鳴らす。
    文章も簡潔に非常に読みやすく、分かりやすい。おススメ。

  • 本書を読了したまさにその日、TBS「朝ズバッ!」の不二家関連報道捏造疑惑のニュースで、信頼回復対策会議議長として著者・郷原信郎の名前を発見した。まさに適任であろうと思う。不二家に対する一連の報道は、本書の中でも触れられている、メディアスクラムの構造そのものである。「法令」という正邪の境界を踏み外したと当局から判断された落伍者については、ささいなことでも針小棒大に取り上げ、よってたかって袋叩きにするという、本質論からかけ離れた報道姿勢。ささいなことでも事実であるうちはまだいいが、いつしかバッシングのネタすら捏造するという本末転倒した現象に発展する。
    マスコミに限らず外形的な「法令遵守」にのみ捕らわれ、社会的要請を見誤る日本の企業社会のひずみについて、ライブドア事件や談合などの具体的な事例を挙げながら的確に指摘して、非常に有用な組織論となっている。

  • 細かい条文がどうなっているなどということを考える前に、人間としての常識にしたがって行動すること。そうすれば、社会的要請にこたえられる。
    本来人間がもっているはずのセンシティビティというものを逆に削いでしまっている、失わせてしまっているのが、今の法令遵守の世界

    組織が社会の要請にこたえるためには
    1 社会的要請を的確に把握し、その要請にこたえていくための組織としての方針を具体的に明らかにすること
    2 その方針に従いバランスよくこたえていくための組織体制を構築すること
    3 組織全体を方針実現に向けて機能させていくこと
    4 方針に反する行為が行われた事実が明らかになったりその疑いが生じたりしたときに、原因を究明して再発を防止すること
    5 法令と実態とがかい離しやすい日本で必要なのが、1つの組織だけで社会的要請にこたえようとしても困難な事情、つまり組織が活動する環境自体に問題がある場合に、そのような環境を改めていくこと

    組織が何を目的とし何を目指しているか、その実現に関して何が問題になっているかを、全構成員が理解、認識すること

全68件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

桐蔭横浜大学法科大学院教授。弁護士。1955年生まれ。1977年東京大学理学部卒業。1983年検事任官。東京地検検事、長崎地検次席検事、法務省法務総合研究所総括研究官などを経て、2005年桐蔭横浜大学コンプライアンス研究センター長に就任。2006年検事退官、弁護士登録。警察大学校専門講師、防衛省や国土交通省の公正入札調査会議委員なども務める。不二家信頼回復対策会議議長などとして多数の企業の危機管理対応に関与。(株)IHI社外監査役も務める。著書に『「法令遵守」が日本を滅ぼす』(新潮新書、2007年)、『入札関連犯罪の理論と実務』(東京法令出版、2006年)などがある。

「2009年 『証券市場の未来を考える』 で使われていた紹介文から引用しています。」

郷原信郎の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×