昭和史の逆説 (新潮新書 271)

著者 :
  • 新潮社
3.39
  • (1)
  • (12)
  • (17)
  • (0)
  • (1)
本棚登録 : 122
感想 : 12
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (207ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106102714

作品紹介・あらすじ

昭和史は逆説の連続である。希望はいつの間にか絶望へと変わる。夢と思えたものが悪夢に転ずる。平和を求めたはずが戦争になり、民主主義の先にファシズムが生まれる。一筋縄では進まない歴史の奔流のなかで、国民は何を望み、政治家はどのような判断を下していったのか?田中義一、浜口雄幸、広田弘毅、近衛文麿など、昭和史の主人公たちの視点に立って、「かくも現代に似た時代」の実相を鮮やかに描き出す。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 東2法経図・6F指定:210.7A/I57s/Inoue

  • 本著の白眉は5章「戦争を支持したのは労働者、農民、女性だった」である。現代でも実現しない二大政党制が約100年前には実現しており、そこから第3極としての社会大衆党が台頭してくる過程。それを当時の国民が社会民主主義を要望していた証左とし、結果、総動員体制としての国家社会主義へと発展していったという解釈は全く認識がなかった。
    確かに戦争はある種の平等社会をもたらすのかもしれない。その善悪には賛否があるだろうが。
    尚、本書の特徴は「作中の人物が見たり聞いたり考えたりした事だけから歴史を再現している」という点であり、歴史の全体像を描いているわけではない事に留意する必要がある。
    (そもそも、どう逆立ちしたって全体像など描く事は不可能なんだが。)

  •  昭和史の本を読んでみたくなり手に取った。本書は、昭和戦前から終戦までのターニングポイントとなった歴史的事件を、田中義一、浜口雄幸、広田弘毅、近衛文麿など昭和史の主人公の視点から描くユニークなものだ。著者は次のように述べる。「昭和史は逆説の連続である。希望はいつの間にか絶望へと変わる。夢と思えたものが悪夢に転ずる。平和を求めたはずが戦争になり、民主主義の先にファシズムが生まれる」(表紙より)。

     本書を読むと、昭和史においては政治家の意図とは異なる結果の連続が、しばしば事態の悪化を招いていたことがよくわかる。楽観していたことが大ごとになったケースや、行動のタイミングが悪かったケースもあったようだ。時局に適切に対応できなかったのには、「元老」のような政治的に円熟した老獪な人物がこの時代にはほとんど存在しなかったことも関係していると思う。

     そして、本書では常識を覆す形で次の見解が述べられる。
    1.山東出兵は国際協調が目的だった
    2.軍の暴走は協調外交と政党政治が抑えていた
    3.松岡洋右は国際連盟脱退に反対していた
    4.国民は〈昭和デモクラシー〉の発展に賭けた
    5.戦争を支持したのは労働者、農民、女性だった
    6.アメリカとの戦争は避けることができた
    7.降伏は原爆投下やソ連参戦の前に決まっていた

     叙述のスタイルや紙幅の都合上やむを得ないのかと思われるが、もう少し説明がほしいと思う部分がいくらかあった。

  • 小見出しとはそぐわない内容が多いのではと本質的ではないところに目が行ってしまう。そのほか、いわゆる当時の雰囲気を醸し出ているように感じられるのだが、歴史小説のようで史実感がない。著者の意見を登場人物を通して語る、または登場人物の言動を著者の意見に乗せる手法は新しい試みなのだそうだが、わたしには、はまらなかった。

  • 開戦に至る道のりの中で、関係者がそれぞれに戦争回避に向けて努力していた。なすすべもなく陸軍にずるずると引きずられた訳ではなかった。ただ、残念なのは、岡田内閣を追い詰めた政友会の「天皇機関説」批判や、近衛文麿が政治的野心から宇垣外相を辞任に追い込んだ事など、国益を考えない政争が事態を悪化させたこと。

  • 戦前の昭和史を人とその行動に焦点を当てて書いている。まるでドラマのように登場人物が生き生きとして、目の前に いるようだ。

  • 坂野の議論に近いのかなぁ?
    昭和史の再考を促す。

  • 内容は平易。全てを知る「神の視点」からではなく、登場人物がその時々に置かれた状況、知っていた事実から書いている。協調外交と政党政治により当初は軍の突出は抑えられるも、党利党略のために貫徹できず、政党政治に失望した国民は近衛内閣での「新体制」を求め、社会主義政党も含めた既製政党はこの「新体制」にすり寄り、近衛内閣総辞職後の東条内閣は挙国一致体制確立のために明確な目的もないまま対米開戦し、国民はこれを熱狂支持する…という姿が描かれており、「軍の暴走に善良な国民が引きずられた」「欧米に追い込まれた日本は生存のためにやむ無く戦争をした」という、左右どちらの通説とも異なる点が新鮮。

  • 山東出兵から終戦までの間、関係者がどのように考えて動いていたのか、その結果どのような事態になったかが書かれている。

    一般的に言われているようなイメージとは違い、政治家がどうにかしたいと努力していたのに、その様子は予想以上に世の中に広まっていないことにも気がつく。

  • 我々は歴史を振り返るとき、往々にして現代の視点からみてしまう。本書では、当時の指導者が何を考え戦争を選んだのか、出来るだけ当時の視点にたって記す努力をしている。7つの出来事を扱っているため、広く薄くなったきらいがあるが終戦記念日に読む価値のある一冊である。

全12件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

井上寿一
1956年(昭和31)東京都生まれ。86年一橋大学大学院法学研究科博士課程単位取得。法学博士。同助手を経て、89年より学習院大学法学部助教授。93年より学習院大学法学部政治学科教授。2014~20年学習院大学学長。専攻・日本政治外交史、歴史政策論。
著書に『危機のなかの協調外交』(山川出版社、1994年。第25回吉田茂賞受賞)、『戦前日本の「グローバリズム」』(新潮選書、2011年)、『戦前昭和の国家構想』(講談社選書メチエ、2012年)、『政友会と民政党』(中公新書、2012年)、『戦争調査会』(講談社現代新書、2017年)、『機密費外交』(講談社現代新書、2018年)、『日中戦争』(『日中戦争下の日本』改訂版、講談社学術文庫、2018年)、『広田弘毅』(ミネルヴァ書房、2021年)他多数

「2022年 『矢部貞治 知識人と政治』 で使われていた紹介文から引用しています。」

井上寿一の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×