「こころ」は本当に名作か: 正直者の名作案内 (新潮新書 308)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106103087

作品紹介・あらすじ

文学に普遍的な基準はありません。面白いと思うかどうかは、読者の年齢や経験、趣味嗜好に左右されます。「もてない男」に恋愛小説が、そのケのない人に同性愛的文学がわからなくても、仕方のないこと。世評高い漱石の『こころ』やドストエフスキーは、本当に面白いのでしょうか?読むべきは『源氏物語』か『金閣寺』か?世界の古典を「大体読み終えた」著者が、ダメならダメと判定を下す、世界一正直な名作案内。

感想・レビュー・書評

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  • いま、ちまたでは女性お笑い芸人が占い師に洗脳された、という話題が持ちきりである。占いってのは、「こちらがわからない手段によって、こちらのことを知る」技法のことであり、事前調査とかコールドリーディングとか視線の動きをみるとか、かまをかけて反応をみる、とか誰にでも当たるこという、とか様々な技法がある。

    で、つまりは、それって、「人間を知る」方法なのであり、そのやり方をしらない人にとっては、「魔術師のように」みえる効果がある。

    小谷野氏のこの本は、ある意味そういう「魔術師のように人間を知る」本であり、読んだほうがいい本であろう。

    どういうことかといえば、「相手が好む本で相手がわかる」ってことで、たとえば「漱石が好き」という人は「母に愛されなかった」人であり、小林秀雄が好きって人は「母に愛された人」。

    じゃあ、両方好きな人は「自己欺瞞に陥っているか嘘つきかどちらか」ってことで、これを知っただけでもこの本を読んだ価値があった。

    志賀直哉好きはお坊ちゃん。

    ワイルドが好きなひとは同性愛者。

    ドストエフ好きーはキリスト教好き。

    こういうの知っていると、占い師よろしく、相手の生活環境で好きな本がわかるようになるかも。

    まあ、まあ、そもそも読書好きにしか通用しない占いだけどね。

    人の生まれ育ちが読書の好みを左右するから、普遍的に面白い本なんてないという、まあ、よく考えると当たり前だが、そんなことをいうと評論家は飯が食えなくなってしまうから誰も言わなかったことをいったから「正直者の名作案内」というわけである。

    だから、小谷野も、ここに上げた名作が普遍的な価値をもっているといっているわけでなく、あくまで好みだ、としているから正直だ。これによって、小谷野自身の人間がバレてしまうからだ。

    結局のところ、自分をどの程度さらけ出したか、が小説の価値に大きく影響する。
    で、「そんなとこまで見せちゃうひとっていままでいなかった」ってのが歴史的名作であり、でも、みんながみせちゃうと、いずれ読まれなくなるかもしれない、から、価値は普遍的ではありえないってことです。

  • おもしろかった。突飛な意見もあるが、私には著者の意見は的を射てゐると思った。高校の時に買はされ、教科書で読まされたこゝろはつまらなかった。昔私は、自身にとってつまらなかったり理解できなかったりしても良い作品はあると思ってゐた。いま考へると自己欺瞞だったのだらう。書き方がいやといふ他人の感想も解るが、よく勉強してゐて芯が通ってゐる事やその正直さを私は評価する。

  • またタイトルに惹かれて、つい読んでしまった小谷野作品。相変わらずの辛口批評が満載で、自分も受け付けなかった文学作品がけなされていると、何となく拠り所が見つけられたように感じてしまう。それが極論の効能なんだろうけど、何だか辟易としてしまう自分もいて、正直、読んでいるうちにだんだん疲れてきました。

  • ●文学作品に普遍的な価値基準は存在しない。昔みたいに、一握りの人たちしか本を読まないわけではない。
    ●モテない男に二人の女に惚れられて悩む男の小説が共感できるか?
    ●想像力が欠けているからと言うが、年に一度新潟の芸者に会いに行って感慨にふける男に、親の金で遊び暮らしながら、美しい江戸が失われていくなどと言っている者に共感する必要がどこにあるのでしょう。
    ●須磨源氏という言葉。次は明石から読めば良い。
    ●ホメロス イリアス・オデュッセイア
    ●セルバンテス ドンキホーテ
    ●ルソー 孤独な散歩者の夢想
    ●オースティン プライドと偏見 エマ
    ●バルザック 従妹ベット ゴリオ爺さん
    ●メルヴィル 白鯨
    ●デュマ モンテクリスト伯
    ●曲亭馬琴 南総里見八犬伝

  • 2020/1/6読了

  • 文学

  • 読書が万人のものというのはたかがここ百年のことであって、名作と呼ばれるもも全てが誰もが楽しめるものではない。
    この主張は分かる。

    が、論考を進める上で著者が面白いと感じる作品の面白さは主観の域を超えていないように読める。

    ある程度の読書経験や習慣がある人にはいいが、層でない人には怠惰な態度や読解力の至らなさの言い訳、隠れ蓑になってしまうのではないか。

  • 『こころ』は本当に名作なのか?
    なんか当たり前のように名作だと決めてかかっていたけど、言われてみれば思い込みとか周りの評判に流されていただけかもしれない、と思ってハッとさせられた。
    確かに、その小説が面白いかどうかは読者の人生経験や知識などで左右されそうで、普遍的な絶対的な基準は難しそうだ。
    森鷗外、三島由紀夫、ドストエフスキーなどなどバッサリ切ってて痛快だった。けっこう何カ所かで笑った。この主張が合わないという人も多いだろうけど、最近はいろんな作家や知識人が読書遍歴や読書のすすめみたいな本を出してる中でとても特異な主張だと思う。
    昔も今も「みんながこう言うから」みたいな感じでそれを信じて自分を合わせようとする人が多いけど、小谷野さんのように自分の基準がちゃんとある人はいいなと思う。

    以前『ぼくは勉強ができない』という本を読んで嫌悪感しか感じなかった経験があったけど、たとえ自分以外の全員が褒めていても自分はそう感じたということは間違いでもなんでもないんだと本書でちょっと勇気をもらった気がする。

  • ブックオフで買って、速攻ブックオフに売り払った。

    はしがきを読みだすと、「いわば」(だったと思う)があり、その数行後に「いわば」がまた使われている。

    同じ言葉の連発に受けた印象は「文章雑だなー」。

    読む気がしなくなり、文学作品を著者の視点から批評する内容なので、どの作品のどのようにいいのかをちょっとチェックすればいいやとわりきった。

    で、著者が一番いいと論じているのは「源氏物語」だ。理由は「とにかくいい」

    だけである。

    どのようにいいのかを読者は知りたいんだよ!

    もういいや、この本読まなくて。

    いや、待てよ。本書のタイトルの「こころ」はどうなんだ?高校の教科書にもある日本文学における大作品をどう斬っているんだ?

    要約「みんながいいって言うのが気に入らないからけなしたい」

    マジかよ。天邪鬼なだけかよ。

    そんな本書から得られたこともある。

    「文学作品の評価は普遍的なものではない」

    ってこと。昔に駄作といわれていても、現在では評価の高い作品もあるし、現在評価の高い、人気のある作品でも未来では駄作といわれることもあるかもしれない。

    読む人の価値観がちがえば、その作品の評価も変わってくるってことです。

    絵画の世界でゴッホの描いた絵は生前全く評価されていなかったけど、今は高額の値がついている。それと同じことが文学にもいえるんですね。

    いや、芸術的なものだけじゃなく、もの、人の評価は全て普遍的じゃないんだな。

  • 2015/5/1読了34
    私もこころが名作だと思えず購入してしまった。著者ならではの文学論が書かれているが、一般論とは異なるように感じられ、なかなか刺激的。

    作家によっては、偉大な作家かどうかさえ疑われていたりするのだが、そんな作家の本でも著者は面白いと感じた本は面白いと言っている(例えばトーマス・マン)

    私も自分が面白いと感じたものだけを面白いと言えるように、自分の中での明確な基準を持っていたいと感じた。

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著者プロフィール

小谷野 敦(こやの・あつし):1962年茨城県生まれ。東京大学文学部大学院比較文学比較文化専攻博士課程修了、学術博士。大阪大学助教授、東大非常勤講師などを経て、作家、文筆家。著書に『もてない男』『宗教に関心がなければいけないのか』『大相撲40年史』(ちくま新書)、『聖母のいない国』(河出文庫、サントリー学芸賞受賞)、『現代文学論争』(筑摩選書)、『谷崎潤一郎伝』『里見弴伝』『久米正雄伝』『川端康成伝』(以上、中央公論新社)ほか多数。小説に『悲望』(幻冬舎文庫)、『母子寮前』(文藝春秋)など。

「2023年 『直木賞をとれなかった名作たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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