陰謀史観 (新潮新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106104657

感想・レビュー・書評

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  •  張作霖爆殺はソ連の仕業,ルーズベルトは真珠湾攻撃を知っていた,世界はユダヤ人やフリーメーソンに操られている…。こういった近現代史を捻じ曲げる臆説の数々を紹介し論駁を加えた好著。世に陰謀論の種は尽きない…。
     著者の定義によると,陰謀史観とは,「特定の個人ないし組織による秘密謀議で合意された筋書の通りに歴史は進行したし、進行するだろうという見方」(p.8)。なんとも不自然な視点だが,単純明快で結構受け入れられてしまう。政治的敗者によって考案され,社会的弱者によって支持される。
     田中上奏文,シオン議定書など,偽書であることがほぼ証明されている文書や,なかばでっち上げられた史料に(そうとは知らず/それを信じず)基づいて,陰謀史観に陥る人は後を絶たない。田母上史観がそんなにやばいとは,知らなかった。かなり体系的に自身の陰謀史観を固めている様子。それを広める藤原正彦氏…。
     こういう人々に,陰謀組織としてあげつらわれるものには2タイプある。コミンテルン,ナチ,CIA,MI6,モサドのような国家機関と,ユダヤ,フリーメーソン,国際金融資本,カルト教団などの秘密結社。後者は活動内容が事後的にも見えづらく,論者の妄想力はますますたくましくなっていく…。
     真珠湾奇襲はプロの軍人にはあまりにも投機的に見えて,意表を突かれたというのが真相のよう。哨戒飛行もしていない。相当な戦果を挙げたのだし,ほんとに察知してたなら前日に艦隊を移動していたはずという秦氏の意見はもっともだなぁ。

  • ラストに陰謀論を見抜くレクチャーが載っているが、著者である秦教授自身が、まさに本書の中で陰謀論を信じこませるための手法を使っているのには、苦笑せざるを得ない。

  • 陰謀史観の発生と変遷を日米関係を機軸に分析した良著。その線上で、中西・藤原・田母上あたりの論考を陰謀史観に基づくものと、簡潔な論考で一蹴。
    愛国史観が好きな方は一読しておくとよろしいかと。

  • 秦氏の余技の範疇のテーマだと思ったけれどやはり読めば面白い。イデオロギー全般に対する醒めた態度と好事家的なスタンスである。

  • 陰謀史観ちゅーのはね、と・・・
    著者は・・・
    『身のまわりに不思議な出来事が起きる。
    もしかしたら、それは偶然ではなくて、何かの陰謀、<彼ら>の企みではないだろうか。このような考えを陰謀史観という。
    この、見えない<彼ら>は、神であるかもしれず、悪魔であるかもしれない。
    <彼ら>として、ユダヤ人、フリーメーソン、ナチ、共産主義者、さらには宇宙人までもが名指しされてきた。』との解説を紹介し、
    これに著者は、『特定の個人ないし組織による秘密謀議で合意された筋書の通りに歴史は進行したし、進行するだろうと信じる見方』とも付け加える・・・

    世の中にはたくさんの陰謀史観がありますが・・・
    この本では、主に日本の近現代に絡むメジャーな陰謀論、陰謀史観を取り上げ、ヨユーで各個撃破していく・・・
    そして様々な陰謀史観の内容と共に、日米戦争を巡る歴史講義のような形になっているので、歴史本としてもgooというお得スタイル・・・
    ちなみにメジャーな陰謀論というと・・・
    田中上奏文
    ルーズベルト陰謀説
    コミンテルン陰謀説
    等々・・・
    陰謀史観をクールに分解していくのも面白いし、歴史講義としてもなかなかに面白い・・・
    good

    さて、陰謀って・・・
    何だか面白そうで興味惹かれちゃうし・・・
    ストーリーも至ってシンプルで分かりやすいし・・・
    実はこうだ、って言うのを知ってると何だか通っぽくなれるし・・・
    非常に魅力的なモノなんだけど・・・
    実際、世の中に陰謀はいっぱいあるんだろうけど・・・
    陰謀通りにコトが進むなんて・・・
    この複雑怪奇な世の中じゃほとんどないんじゃない?と思うよね・・・
    いろんな思惑、それこそいろんな陰謀がめちゃくちゃ絡まり合うんだからね・・・
    そうそう陰謀なんて上手くいかない・・・

    ということで・・・
    この本のラストは・・・
    CIAやMI6・・・
    ナチスやコミンテルン・・・
    ユダヤやフリーメーソン・・・
    三百人委員会など・・・
    実態、実績をザックリ総ざらいし・・・
    陰謀史観の手口を確認し、単純なそれに引っかからないよう学べるようになっている・・・

    でも・・・
    例えば・・・
    日本がこんなになってしまったのは、とか自分がこうなったのは・・・
    きっと誰々(どこどこ)の陰謀のせいに違いない・・・
    と誰か(どこか)の陰謀のせいにすれば・・・
    それはそれで少しは楽になれる、スッキリするから・・・
    今後とも・・・
    陰謀史観ってーのは・・・
    廃れはしないんだろうなぁ、と思うよね・・・

  • いつの時代も疑心暗鬼になると、歴史上に陰謀史観がでてくることが多い。本書は特に近代以降のアメリカとの戦争前後の関係、コミンテルンなどの陰謀と言われることについて検討し、述べている。

    著者によると、「特定の個人ないし組織による秘密謀議で合意された筋書の通りに歴史は進行したし、進行するだろうという見方」という定義になるが、いろいろな歴史上のことを確認すると勘違い等や特定の人間の恣意によって事実が曲げられていることも多い。

    CIAなどの大きな組織や、ユダヤ人や秘密結社のような小さいものまでの団体はあるが、やはりそれらを見抜く力が必要だと感じさせられた。

  • 陰謀論というのは実に便利な論法だと思う。
    なぜなら加害者であっても被害者のふりができるから。

    しかも証拠は、ほとんどいらない。

    いや、証拠が全くないケースでも
    「これに関する証拠が全くない事が逆に証拠となっている」
    などと言う事ができる。

    最近、逮捕された指名手配犯がかつて所属していた某宗教団体が強制捜査を受けているとき
    「自分達を陥れようとしている何者かの罠だ」
    と主張していたことを覚えている人もいるだろう。

    本書は、そんな陰謀論を一刀両断にするもの、と思ったが、さにあらず。
    ジャンルも日米関係、それも第二次世界大戦前後に絞っている。
    しかも日米関係の歴史に全体の半分近いページ数を割いて説明している。

    一番、興味を持ったのは、一つの章を使って、元自衛隊幕僚長の某氏の論文を批判している部分。
    過去に出てきた陰謀論を体系的にまとめているという功績はあるものの目新しい内容はなく、事実誤認も多いらしい。

    以前、ニコラ・テスラ(エジソンのライバルと言われた人物)の伝記を読んだことがある。
    本自体、古本屋で買ったものだったのだが、オカルトに近い事になるとあちこちに赤線が引いてあるが、電気についてなどの業績に関わる部分には1本の赤線もなかった。

    人は何かを見たり、読んだりしても、ありのままでなく、無意識に自分が望んでいるものに合うもの以外は切り捨てているのだな、とつくづく思う。

  • 第二次大戦はコミンテルンやユダヤが仕組んだものだ、などという世間に流布する陰謀史観を検証。スケールの大きい話で反証しきれないことが、説がいつまでも生き続けることの背景にあるらしい。国際理解の妨げになるのでは問題だが、わかったうえで珍説を楽しむのならばよいのだろう。そのためにも騙されないようにしないと。。

  • 陰謀史観について解説した本である。著者は歴史学者であるが、陰謀史観を唱える人は殆ど素人である。よっぽど苛ついているという事がよくわかった。

  • ルーズベルトは真珠湾攻撃を知っていたとか、田母神様の論文の内容など主に近代史に顔を出す陰謀論についての考察。戦争などの原因などは多方面に渡ることが多いので、どうしてもこれといった確定的な要因が無いことが陰謀論のはびこる原因だということがわかる。個人的にハワイ併合の話は知らなかったので参考になった。

著者プロフィール

1932年,山口県生まれ。東京大学法学部卒業。官僚として大蔵省、防衛庁などに勤務の後、拓殖大学教授、千葉大学教授、日本大学教授などを歴任。専門は日本近現代史、軍事史。法学博士。著書に、『日中戦争史』(河出書房新社)、『慰安婦と戦場の性』(新潮社)、『昭和史の軍人たち』(文春学藝ライブラリー)、『南京事件―虐殺の構造』(中公新書)、『昭和史の謎を追う』(文春文庫)、『盧溝橋事件の研究』(東京大学出版会)、『病気の日本近代史―幕末からコロナ禍まで』(小学館新書)、『官僚の研究―日本を創った不滅の集団』(講談社学術文庫)など多数。

「2023年 『明と暗のノモンハン戦史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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