現場主義の競争戦略: 次代への日本産業論 (新潮新書 549)

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  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106105494

感想・レビュー・書評

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  • 本社よ、覚醒せよ。
    長らく日本の製造業に携わってきた著者が語る、日本の競争戦略、経営戦略論。

    公演を基にしているので、論拠としての詳細なデータには乏しいが、現場を熟知した著者が語る主張には説得力がある。

    日本には、日本に合った競争戦略、成長戦略がある。
    欧米の真似事でしかない、金融を機軸とした成長戦略は、日本では限界がある。

    「ものづくりに拘泥していてはダメになる」「先進国としてものづくりを捨てて米英に追随しサービス産業特化せよ」といった過剰な悲観論や、「日本人には擦り合わせ型DNAがある」「日本人は生来ものづくりが得意だ」といった過剰な楽観論を排し、「沈黙の臓器」である「現場」を生かした競争戦略が日本では必要となる。

    「経済」は「産業」の集まりであり、「企業」の集まりでもある。産業も企業も、結局は「現場」の集まりである。経済学の論理から導かれる産業論も勿論必要となるが、現場から見上げる産業論や企業論も欠かすことができないものである。

    「擦り合わせ型(インテグラル型)」と「組み合わせ型(モジュラー型)」の分類だけではなく、各国の歴史文化による組織能力や比較優位製品についての言説や、VWとトヨタの「モジュール化」の違いや、災害時に「設計情報」を避難することで別の場所で復旧するサプライチェーンの「バーチャル・デュアル化」など、単なる理論や事例紹介に止まらず、とても興味深い内容となっている。

    最近、アップル社やソニーを引き合いに出して、製造業のサービス業化を進めようとする動きが盛り上がってきているが、逆に、サービス業の製造業化も進んでいくだろう。(例えばグーグルのように)

    その時に、サービス業が成功するカギは、やはり現場の生産性にかかっている。そして、現場力を生かすための本社力にもかかっている。

    日本のことを過剰に持ち上げることは不要だが、卑下する必要もない。

    「現場主義の競争戦略」は、製造業に限った戦略の話ではない。

    トヨタ生産方式の生みの親である大野耐一氏は、豊田紡織からトヨタ自動車に移ったときに、「自動車の生産現場は遅れている。繊維産業の進んだ生産方式を導入すれば、すぐに三倍、五倍の生産性になるぞ」と思ったという。
    進んだ生産方式とは即ち、上流で品質を作り込み、作業を標準化して、多台持ちで生産性を上げる方法である。
    繊維産業から自動車産業へ伝えられた方法は、トヨタ生産方式として昇華され、今や電機や化学といった他の製造業だけではなく、IT業界やサービス業、病院、官公庁にも取り入れられている。
    海外では、「リーン生産方式」としても注目されている。
    今後、トヨタ生産方式というか、ものづくりの根底に流れる考え方は、他の産業の現場にも取り入れられていくだろう。

    本書の根底にある主張は、過去の藤本氏の著作と通じるものがあるが、本書は新書で読みやすいので、藤本氏の主張を知るために、入門者にもおすすめな一冊。

  • 経済学や経営学に基づいた理論だけでは、企業の強さを図る事はできない。
    そこには現場の強さを考慮に入れた理論が存在しないから、日本の製造業の強さを解き明かすことは出来ない、というのが著者の藤本教授の従来からの持論だ。
    この方ほど企業の製造現場を頻繁に訪れて、現場から拾い上げたファクトに基づいて独自の理論を展開している学者は他には居ないだろう。
    あらゆる製造現場に頻繁に顔を出していて、そこで自身が読み取った動きが彼独自の理論の礎になっているので、他が反論するのは相当に難しいはずだ。

    円高、デフレの時代を潜り抜けて日本経済に薄暮が差し始めているいま、藤本教授の提唱する日本製造業現場の強さが復活の肝になる。
    その強さは、会社の戦略や本社からの指示に惑わされず、製造現場の自立的な生産性向上への飽くなき取組にあるのだという。
    これは終身雇用、永く勤務を続ける慣習のもと、雇用を守るために自分たちの職場の能力を磨き続ける構造的な習性が源にもなっている。
    生産性を示す数値の推移を見てみると、中国など製造業の新興国とは比べ物にならないほど向上率が高いのだそうだ。
    定性的に見てみても、中国などでは頻繁に多数の向上要員が辞めてしまうので、恒常的に現場が自身で生産性をあげようとする動きが起こるすべもない。
    しかもここ10年ほどで中国の労働者賃金は大きく値上がりをしていて、生産性と合わせて比較するともう少しで日本国内の賃金&生産性バランスに追いつかれてしまうらしい。
    この状況を考えれば、特に付加価値の高い製造現場を日本に呼び戻し、他国では出来ない生産性向上の能力を使って、国内の工場を世界に類の無い製造現場として仕立ててしまうことが、日本経済の復活の戦略だという論は説得力がある。

    著者が本書で述べているこういった現状は、私自身も肌身で感じていることでもあり、まさに今の日本の製造業にとっての正論と言って良いだろう。
    新聞やネット上の論調を見ていても、本書の主張に沿った動きが多くの日本企業で起きていると感じる。
    このようなやり方での日本経済の復活を心底願ってやまない

  • 自分の事業、現場に照らして、何度も立ち止まり、読み直し腹に落とした。
    21世期の世界は、めんどくさい設計の製品をまだまだ必要とする。だから日本は今後も現場を鍛え続け「めんどくさい設計の生産は日本にやらせれば間違いないからやらせておけ」。
    心の弱りかけている設計、製造部門のマネージャーたちの気持ちを慮る契機になった。

  • ハーバードでMBAを取得し、ゴールドマンサックス、マッキンゼーでの勤務経験のある著者が、優秀なビジネスマンの仕事のやり方を紹介した本。ビジネスの世界では、ハーバードでMBAを取得し、ゴールドマンサックスやマッキンゼーで働くビジネスマン達は、その優秀さで頂点に立つ人たちであろう。実際にそのような道を歩み、そのような人たちを身近に見てきた著者の意見には説得力があった。内容も簡潔でわかりやすい。
    「(人の名前を覚える)これから当てようとする学生の名札をチラ見し、自分のおぼろげな記憶とマッチさせた後、何気なく逆側の学生に目をやり、ワンテンポ置いてから、元の学生の顔を見て、名札を見ずに名前を呼ぶのです」p23
    「自己紹介時に相手の名前を口に出して確認する。自己紹介が終わったら、相手の名前を呼んで質問する(○○さんは、どちらのご出身ですか?)。別れの際にも名前を言う(それでは、○○さん、本日はありがとうございました)。」p25
    「できるだけ前回と異なる環境下で時間を共有する」p32
    「立食パーティーで少々立ち疲れし、お酒もまわっていた我々がエレベーターに乗り込んだときのことです。私と同期の部屋は別々の階でした。無意識に二人は、相手の降りる階のボタンを同時に押し合いました。私は同期の降りる7階を、同期は私の降りる13階を押しました。お互いが相手を優先しようとする無意識の行動が何とも嬉しく感じました」p49
    「(読んだら3倍考える)日頃からビジネスパーソンとして、現実の様々な事象に対して自分なりに課題設定し、解を見出す努力をすることが重要です」p54
    「仕事ができる人は朝型が多いという話をよく耳にします。実際、周りのできるビジネスパーソンは、朝型の人が圧倒的に多いです。脳の働き的にも朝が仕事を効率的にこなす最適な時間帯であるというのは様々な研究でも言われていることです。生理的な理由以外にも、朝の効率が高い点はいくつか挙げられます。電話が鳴らず、訪問客がなく、社内の上司・同僚・部下から相談を受けることが少ないことです。つまり、朝一のオフィスは、静かで、誰にも邪魔されず、自分の仕事にほぼ100%集中できる唯一の時間です」P100
    「月曜午前中の仕事ぶりを見れば、その人の能力がわかります」p106
    「ホウレンソウの基本は、上司に聞かれる前にすることです」p129
    「(割り込み力が仕事の鍵を握る)多忙な上司やチームメンバーの時間にタイミング良く割り込み、効率の良いホウレンソウを実現することは重要です」p135
    「プレゼン資料は3色以内におさめる」p146
    「まず、骨太のメッセージを用意し、最後に強調ポイントに配色を施します。これが理想となる資料作りのステップです」p147
    「マッキンゼーのコンサルタントは、必ず手書きで資料作成を始めます」p153
    「会議に出たら必ず発言しましょう。会議への出席者には、発言の権利が与えられているのではなく、発言の義務が課されていると考えるべきでしょう。会議での貢献は発言にあります。その意味では、発言のない出席者の存在意義はないと言っても言いすぎではないでしょう」p164
    「議論調整役として効果を発揮するのが、[What if?]です。例えば、次のように使います。
    (What would the conclusion be if A happen?)もしAが起こったら、我々の結論はどのように変わるのだろうか。
    (What would you respond to the issues if you assumption changes?)もしあなたの前提条件が変わったら、課題に対してどのように対応しますか。」p175

  • タイトルの通り、「現場主義」発信の著者の講演会のエッセンス版です。
    著者は、平均1回/週の現場へのフィールドワークを欠かさず、現場発のエビデンスに基づく実証主義による理論形成を本業としております。
    これだけで、心酔しております。
    本書は3章構成ですが、最終章に主張が要約されておりますが、一貫して30年前からの著者の主張が集約されております。

  • 良い設計の良い流れを作る

    自社の現場の技術で、
    モジュラー型からインテグレーション型へと変革できるような製品・工程アーキテクチャを選択して、それを実現できるようなモノづくりの組織能力改善を進めていく。

  • 2015/4/23読了。結局は一度も参加できなかったものの、かつて丸の内で「ものづくり寄席」という企画が定期的にありました。それを主催(東大のMMRC)していたのが著者。本書も財界人への講演がベースとなっております。製造業に限らず日本の産業の強みは現場の能力構築にあり、モジュール型ではなく擦り合わせ型でそれが優位的に発揮される、など他書で語られている事と比べても目新しさはありませんが、理路整然というより思いついた事を脱線しながらも総花的に語っているので、著者の主張への理解を補完する為に軽く読み流すのにはいいかもしれません。

  • ものづくり現場を知り尽くした藤本教授が、サービス業や金融業も含む経済産業界の重鎮や先達が多数おられた経済倶楽部という場で話された内容に加筆を加えたもの。

    産業現象は経済現象でもあるから、経済学抜きには産業を語れないが、かと言って経済学だけで産業が語れるわけでもないと筆者は考えている。

    経済・産業の土台にある「現場」は、経済学・経営学・法学・工学・社会学などの論理が錯綜する一つの小宇宙なのであるとしている。

    第1講「現場」は死なず―金融危機と優良現場
    第2講 本社よ覚醒せよ―自滅の道を回避できるのか
    第3講 ぶれない枠組みを持つ―製造業悲観論を超えて

    製造業、非製造業という枠組みではなく、「良い流れの設計」を持つ「現場」を大切に育てて行く。

    設計情報の転写を組織内できちっと自分の持ち場で転写できる組織こそが、エンドユーザーが求める製品・サービスを創造し続けるのです。

    先生の理論も現場の発想でますます進化していると感じた一冊でありました(笑)。

  • 上司から推薦された 藤本隆宏さんを初めて読んだ。現場力を発揮する組織能力の構築が重要であることがわかり、自分自信の考え方でもあり同感した。そのためには、地域連携そして本社の覚醒が重要であり、現場力が向上される良い流れを戦略的に進めることがポイントと読めた。

    ・気になるセンテンス
    35 きりがない 厳しい機能要求
    37 組織能力
    42 比較的優位の部分と劣位の部分があると考え、現場現物できちんと潜在能力を見極めること
    43 何をやりたいか だけでなく 何なら勝てるかという戦略的なものの見方が必要
    47 能力構築競争
    49 複雑化対応能力 単純化
    83 経営者の役割
    99 三つの労働時間区分
    219 場発の産業競争論
    良い現場見極め 彼らの実力潜在力を信じ 彼らを活性化させるような施策と戦略を連動させることである。
    220 良い現場は人としての成長の場であり人生の意味を見つける場である。現場は団結し 本社は覚醒し 地域は連携していくこと

  • 製造現場は、ポテンシャルを秘めているところが多いのに、本社がそのポテンシャルを見抜くことができていない。これからは下手に海外に工場を移転する必要はなくなるかもしれないのに。

著者プロフィール

早稲田大学教授,東京大学名誉教授

「2024年 『工場史 ポスト冷戦期の日本製造業』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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