『洪水はわが魂に及び』 『ピンチランナー調書』 (大江健三郎小説)

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著者 : 大江健三郎
  • 新潮社 (1996年9月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (560ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106408243

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『洪水はわが魂に及び』 『ピンチランナー調書』 (大江健三郎小説)の感想・レビュー・書評

  • 長編2作、共にすごい熱量を放つ。小説家としての使命を担って宣戦布告しているとしか考えられない。「一体この人類の世界に、人間がほかの人間を支配する関係よりも、なお大きい問題があるかね?人間が人間に支配される体制を、打ち壊すのが革命じゃないのか?」これほど単純なことすらできない人類を、嘲り嘆きながらもピンチランナーの受難を引き受けようとする決意。リー、リー、リーとけしかけられながら、虎視眈々と最終局面での奇跡を狙うピンチランナーの悲哀。その無様な一途さを武器に最後まで抗うことで未来は託される。信じるしかない。


    『洪水はわが魂に及び』は、小説として物語性があるし、スリリングだし、エロティックだし、大江の長編の中では読みやすい方だと思う。ラストは感動的だ。『ピンチランナー調書』は、難解なドタバタ劇の中に潜む悲哀を感じ取れば一挙に引き込まれる。核に対する考察は、3.11以降の今でこそ通じる必要な示唆が含まれている。

    余談だが、ピンチランナーは私が10代の半ば頃、始めて読んだ大江作品なので感慨深い。この喜劇に涙涙して、この作家についていこうと心に決めた。因みに先頃再読したユング自伝は、この小説に導かれて手にしたことを思い出した。ユング自伝はキーポイント。

  • ちょっと難しいけどおもしろかった。

  •  うーん、凄まじかった。すごいな、大江健三郎。さすがだな。

     正直、少年たちが出てくるまでの100ページはかなり厳しかった。読み進めるうちにラリホーくらう感じで、なんとかページ数を数えながら読んでいた。これが200ページ続いたら諦めてしまおうかと思っていたらだんだんおもしろくなったので救われた。

     鮮烈なイメージと現実の状況を混濁させながら展開していく物語の吸引力ったらなく、変に陽気な印象を持つキャラクターたちと陰惨な印象を与える文章のミスマッチ(ではないんやけど、適切な言葉が思いつかない)が恐ろしいくらいにはまっている。

     破滅に向かって加速する物語のなかで、各自の立ち居地が明らかになっていく。キャラクターの底が浮き彫りになっていくにつれて、なぜか世界の全体像までが透けてくる。ものすごく小さな世界の話にすぎないのに、ペシミスティックな虚妄に侵された人々が、それを惑星レベルに捨象してしまう。

     人類の最後でさえ乗り越えるために作られたシェルターのなかで、しかし洪水におぼれていく勇魚の最後は、ちょっと他に類がないくらいに圧倒的な終局を覚悟させる。結局、望んだもの、目指したもの、自覚していたものでさえなく、人間のひとりとして溺れる魂の叫びが「すべてよし」だというのは、こらえようもなく破滅的だと思った。

     なんとも表現のしようがないけれど、これはたしかな傑作だった。

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