逃亡くそたわけ

著者 :
  • 中央公論新社
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感想 : 126
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  • Amazon.co.jp ・本 (168ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120036149

感想・レビュー・書評

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  • 続編が出たので読む前に再読。
    精神科病院から脱走した二人…花ちゃんとなごやんは、なごやんの車(ルーチェ)で福岡から鹿児島まで逃亡する。九州人としては馴染のある地名が次々出てくるのが楽しい。

    二人の病(花ちゃんは躁状態で入院し、なごやんは鬱で入院)が何から発したのかは詳しく書かれていないし、二人がこれからどうなるのかに至っては全く分からないまま。
    花ちゃんが何から逃げたいのか。頭の中で繰り返し聞こえる『亜麻布二十エレは上衣一着に値する』という声なのか、自分の頭の中で自分を殺す相談をしている人々からなのか、患者がみんな『固められる』と言っている薬からなのか、『普通』になれないことからなのか。

    感情の起伏が激しい(病気のせいなのか元々の気質なのか)花ちゃんにどこまでも付き合うなごやんの優しさが光る。だがなごやんだってヤマビルに驚いて花ちゃんを置いてきぼりにしかけたり花ちゃんに怒ったりもしている。
    博多で生まれて博多を愛している花ちゃんは標準語は話せるが頑なに博多弁を使い、逆に名古屋生まれだが東京に帰りたいというなごやんは頑なに名古屋弁を話さない。病も考え方も真逆な二人だ。

    二人のドライブは時にクライムサスペンスのようなギョッとするようなこともしでかすし、時にほのぼのし時にしんみりしたりもする。
    途中で出会ったメンタルクリニックのライオン先生が格好良かった。二人を一目見て『脱走兵か』と見破ったにも関わらずドンと構えていた。

    『いや、びびんない?そういうの。みんな普通に働いてるんだぜ。俺たちがこんな…』
    『川で溺れたりしかぶったりしとうときに?』
    『みんな普通にガッコ行ってるんだ。それで恋愛とかバイトのはなしばっかりしてるんだ。ばかみたい。
     でも、そのばかみたいな生活はもう、あたし達の後ろではなく目の前に来ている』

    逃げているのに行き詰まり後悔し、だが求めていたものとは違ったものをいくつも見つけた二人の旅。簡単に解決する病ではないだけに先のことは答えは出ない。
    彼らがこの旅で何を思いどうその後を過ごしたのか、続編が楽しみになった。

  • 躁鬱病の花ちゃんと鬱病のなごやんが精神病院を脱走する。
    薬漬けで廃人になってしまうのではと不安になった花ちゃんの気持ちは想像出来るが、やることが突拍子もなくてハラハラする。これは映画化されるとロードムービーの面白さがあり良いかもしれない。
    しかし小説としてはあまり好きではないな。

  • この本はsinsekaiさんの本棚を見て読んでみたくなりました。

    • りまのさん
      新世界さん、フォロー、ありがとうございました。どうぞよろしく。
      新世界さん、フォロー、ありがとうございました。どうぞよろしく。
      2020/08/01
    • sinsekaiさん
      絲山秋子の作品はこれを読んでからハマりました!
      ページも短くテンポ良くサクッと読めると思います。ぜひ!
      絲山秋子の作品はこれを読んでからハマりました!
      ページも短くテンポ良くサクッと読めると思います。ぜひ!
      2020/08/01
  • サラッと読めるんで本が苦手な人にもお薦めです‼
    九州に半年いたことがあるので
    方言が懐かしかったです。
    絲山秋子は天才だぁ

  • 何も起きないお話。行程を楽しみ、ラストに一緒に 'くそったれ!'と叫ぶ。正にロードムービーのようだった。

  • 「まっとうな人生」を読みたくて、その前に。

    書かれている問題は大きいと思うけれど、そんな感じはしなくて楽しく読める。(のがいいのかどうかはわかりませんが…)

    「なごやん」(お饅頭の方)とか名古屋の地名には親しみを感じ、花ちゃんの博多弁、そして二人の道程の描写に、いつか阿蘇に行ってみたいという気持ちが強くなりました。

  • 精神科の入院先から脱走した鬱と躁の二人が九州を縦断する。
    メジャートランキランザーがバンバン出てくるのも臨場感をあげている。
    病人でありながら、自分が病人であることを自覚している二人は、一体何を感じたのか。
    なにも明確な答えは書いていないけど、なごやんの最後の言葉は読者に投げかけているのかもしれない。
    この作品自体が双極性障害そのもののようにできていて、なかなか面白い作りだと思う。
    開放の先には閉塞があり、人はそこを行ったり来たり。
    誰だって病気になっちゃうよ。

  • この本を読んでどこが良いのか理解できない私がくそたわけ。


  • 「逃げろ」、とも、「逃げられない」、とも「逃げちゃダメだ」、とも書かないというのは、きっと文学にしかできないんだろうな。花ちゃんの博多弁の響きが心地いい。この一冊で絲山サンにノックアウトされました。

  • いつも行く図書館でやっていた名古屋が舞台の小説や地名が出てくる小説を集めた企画
    『小説で楽しむ名古屋』で借りたもの。

    博多出身の21歳、精神病院に躁鬱病のために入院している花ちゃんと
    同じ病院に鬱病で入院している名古屋出身の会社員なごやんが
    病院から抜け出した後のロードムービー。
    花ちゃんは変な言葉が頭の中で繰り返されるようになり
    薬に頼る生活をしていたが、自殺未遂し入院。
    なごやんは出身地の名古屋が嫌いで東京の大学に進学、
    卒業後、就職して博多に配属されたが鬱病になり入院。
    名古屋出身ということを患者仲間には隠していたが、ひょんなことからばれてしまい、
    『なごやん』という名古屋人にとっては親しみあるお菓子の名前のあだ名を付けられた。
    そんなふたりが博多から鹿児島まで南下し、短い夏の思い出を作る。
    オンボロ車のエアコンが故障したり、
    コンビにすらない辺鄙な山道に迷い、食事にもトイレにも困ったり、
    無免許運転したり、温泉旅館でのんびりしたり、高級ホテルに宿泊し豪華な食事をしたり・・・
    会話の中では方言が出てきて、移動する各地の有名なお菓子や郷土料理が出てきた。
    地元から出たことのない花ちゃんと、育った地元が嫌いで出てきたなごやん。
    そのふたりの価値観の違い・病気の回復などいろいろの織り交ぜてあって、とても面白かった。
    花ちゃんが感じるなごやんのやさしさはこの病気・旅があってこそ。
    このふたりの今後が知りたいな。

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著者プロフィール

1966年東京都生まれ。「イッツ・オンリー・トーク」で文學界新人賞を受賞しデビュー。「袋小路の男」で川端賞、『海の仙人』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、「沖で待つ」で芥川賞、『薄情』で谷崎賞を受賞。

「2023年 『ばかもの』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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