数えずの井戸

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (771ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120040900

感想・レビュー・書評

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  • 京極版番町皿屋敷――というか京極夏彦がエンターテイメントとしてよみがえらせた感じかしら。文章の感じとか怪談ってこともあるし、これ夏の一冊にちょうどいい。怖くはないけれど、なんとなく同じような寒さを感じてしまうから。

    あらすじ;
    何かが欠けている感覚に苛まれる播磨。鈍間だが満ち足りているお菊。気に食わないものは斬ってしまう残忍さを持つ主膳。欲しい物は手に入れなければ気が済まない吉羅。その他さまざまな人物の欲や愛憎、思惑などが絡み合い、ゆるりと破滅へ向かう。

    こういう歴史小説がミックスになると、京極夏彦の文章の美しさがますます際立つよなあ。もちろん「どすこい。」とか「虚言少年」みたいな面白おかしく書くのも巧い。でもそういう軽い小説よりか、陰鬱とした物語にこそテンポのよさや美しい文体が活きてくる気がする。世界観とマッチする度合いが見事だし、むしろ文章が世界観に一役二役かってる。
    毎回思うけど狂った人を書くことにかけて京極夏彦はずば抜けてる。満たされないなんて思いは誰でも持ってるだろうに、それが京極夏彦の手にかかれば病的になってしまうんだから。あんなにどこかおかしい登場人物が出てくるのに混乱しない。各章を読むごとに「何か足りない」「欠けてる」という感覚や齟齬が、少しずつ積み重なっていく様が見事。職人芸って感じ。何かを起こそうとしているんじゃなくて、そういう人々のどこか狂った部分によってずれていくのが、恐ろしく美し。
    長い。まあ長い。でも京極ファンにとって、長いのは大歓迎だし慣れてるし、一つ一つのエピソードが面白いからページ数程に長さはあまり感じないけど、今回はなかなか話が進まなかった。その牛歩並みの歩みでも、しっかりと蓄積されていく狂気が感じられて、それゆえじれったい! ばーんと爆発したと思ったら終わるし。でもね、何が起きたか語られると、ホラー映画の狂気に見入ってしまうような美しさというか、魅力を感じてしまうのだ。明らかになった「怪談」成立過程なんて、京極夏彦らしいじゃないの。

  • これ裏の巷説シリーズでいいじゃんと思わずにはいられない。

    又さんがもっと仕事すれば悲劇は防げたのかと思うと切ない…

  • 数える、という行為に、それぞれの意味づけをしていた登場人物たち。狂うとは言わずとも、それぞれが少しずつずれていて、それが重なって地獄絵図と化してしまった。大惨状を呈していても、なぜか静かで哀しい。

  • 全然理解ができなかった。

    数を数えだすときりが無いので数えない、貧しいながらも精神は満たされ、欠けているものなど無い下女、菊。
    全て揃っているはずなのに”何かが足りない気がして仕方が無い旗本、青山播磨。
    手に入るものは全てが欲しい。手に入れれば捨てはしない、播磨の婚約者、キラ。
    欠けているなら打ち壊せば良い。そうすれば欠けはなくなると考える播磨の悪友、遠山。
    数えることはできるけど数え切ることはできない。狭い”井戸の中”のような小さな世界で暮らすことに不満の無い菊の許婚、三平。

    菊は番町更屋敷の”お菊さん”とはイメージのかけ離れた人格。
    コレがどうして「一枚~二枚~…」と数えだすようになるのかとワクワクスラスラ読めたんですが。
    菊への濡れ衣、仙によるキラの秘密暴露、役者が雁首揃えて庭に揃った…所までが最高潮。
    あとは「え?」「なんで???」で意味不明。
    とりあえず、理解できなかったのは下記

    ①なんで菊を殺したのか
    ②一騎打ち前に回りの人間惨殺したのは何故か
    ③播磨は刀さえ持てば超強いのに素手で町人にケンカを仕掛けてボコボコにされて殺されたのは何故か
    ④で、なんで夜な夜な井戸で皿数えるの?それで何の足しになる??

    …ほとんど理解できていない。
    人間同士の歯車が最悪の方向へと転がる話ってことかな。
    歯がゆくて残酷。でもそんな最期??って思っちゃって駄目だった。

  • 「番町皿屋敷」の物語を京極夏彦が編み直したもうひとつの「皿屋敷」。出て来る人物皆が皆、何かが欠けていて満たされず。そんな中、己を莫迦だと思う菊だけ満たされている。しかしそれはこれ以上望まぬから満たされているという状況。ならばそれは満たされているというのか。数えるから判らなくなる。数えるから満たされない。数えなければ満たされるのか。考えると哀しくなる。静かに哀しい物語。
    最後は何とか仕掛けてくれるんじゃないかと思っていましたが、実に哀しい。哀しいだけで括ってしまうのは問題があるかも知れないけれど、やはり哀しい。

  • 怪談小説。
    彼の「番町皿屋敷」の書き直しというか、「巷説百物語」シリーズとのコラボ作品。

    中断して久しいのだけれども、どうも優先順位が低くて、再度手を着けることが出来ずにいる。

  • 京極さん、すごすぎっっ!!!

  • 期待が大きかったので、ちょっと『なぁんや』という感じ。手法に走り過ぎてる、というか。あと、せっかち人間としては、菊ののろまぶりにイライラ。

  • かの有名な物語「番町皿屋敷」。しかし、その裏ではいったいどんな物語があったのか。それが描かれた怪談。実は「巷説百物語」の番外編でもあったのですね。あの人やあの人がひそかに活躍しています。
    家宝の皿を巡って、そこここで繰り広げられるさまざまな思惑。不穏な企み。そんな中で巻き込まれてしまう菊はまさしく悲劇のヒロインなのかも。だけどなぜか、彼女があまり不幸な気はしなくって。決して幸せな物語では当然ないのだけれど。どこかしら不思議な読後感が残りました。

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著者プロフィール

1963年、北海道生まれ。小説家、意匠家。94年、『姑獲鳥の夏』でデビュー。96年『魍魎の匣』で日本推理作家協会賞、97年『嗤う伊右衛門』で泉鏡花文学賞、2003年『覘き小平次』で山本周五郎賞、04年『後巷説百物語』で直木賞、11年『西巷説百物語』で柴田錬三郎賞、22年『遠巷説百物語』で吉川英治文学賞を受賞。著書に『死ねばいいのに』『数えずの井戸』『オジいサン』『ヒトごろし』『書楼弔堂 破暁』『遠野物語Remix』『虚実妖怪百物語 序/破/急』 ほか多数。

「2023年 『遠巷説百物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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