優しいおとな

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (306ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120041501

感想・レビュー・書評

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  • 福祉システムが崩壊した日本。スラムと化した渋谷(シブヤ)が舞台の、ディストピア?小説。
    気にかけてくれる「優しいおとな」であるモガミのことを突っぱねて悪い方に流されていく少年イオン。
    地下で暮らすまさにアンダーグラウンドな集団の仲間になろうと地下に潜っていくイオンの不安と恐怖と、こうするしかないという諦めが寂しい。非行に走る子の心の動きってこういう感じなのかなと思った。

    イオンの唯一の支えで、憧れだった双子の鉄と銅の真実が切なかった。それに、結末も悲しすぎる・・・!『死にがいを求めて生きているの』を思い出す。

    「優しいおとなと優しくないおとなと、どっちつかず。俺たち子供はきっとゲームをしていたんだ。優しいおとなは本当の親。優しくないおとなは、親のふりさえもしない冷たい人たち。どっちつかずは、その時々で適当な人たち」
    家庭で子どもへの愛情に差があるのはたしかに悲しいことだし、問題といえば問題なのかもしれない。でも、それを解決しようとした結果、イオンの出生とその後の人生は結局寂しくてつらいものになっちゃったな、という感じ。


    「自分の目をあまり信じない方がいいよ、イオン。人は都合のいいものしか見ないこともあるんだ」

  • 感想
    題材がストリートチルドレンというところが衝撃的。東欧などでストリートチルドレンの話は聞くが、東京でもそのようなことが起こっているとすれば、かなり衝撃的。

    また、ホームレスも一括りではなく、地上に住むもの、地下に住むもの、川の近くに住むものなど色々いて、それぞれの特性が違うことなど、勉強になる。

    愛情を知らないイオンが、同じ境遇の人との出会いを通じて、愛情を知り、成長していくが、最後は自分を犠牲にすることに。


    内容
    ストリートチルドレンのイオンが主人公。生まれながらにして親がおらず児童センターから11歳で逃げ出し、一人で生きてきた。舞台は渋谷区。代々木公園に住んでいたが、人間関係が煩わしくなり、公園を飛び出す。

    モガミという自分を気にかけてくれる大人に出会ったが、心を閉ざしたイオンはモガミを拒否する。

    やがてイオンは、児童センターにいた頃の兄弟である鉄と銅を追い、アンダーグラウンドに住む闇人に加わり、鉄のことを知る錫と出会う。しかし、アンダーグラウンドが闇人狩りに会い、命からガラ逃げたところを川人と出会い助けられる。

    最後は地上に住むケミカルの子供を、闇人から取り返すべく、地下に向かうも、銃で撃たれて植物状態になる。鉄が無事に錫に会ったところで、息を引き取る。

  • ストリートチルドレンのイオンが「優しいおとな」に出会い存在を認めるまで。世の中には「優しいおとな・優しくないおとな・どっちつかずなおとな」の3種類のおとながいて、どっちつかずのおとながいっちゃん多く、タチが悪い、なるほどなあ。なにかしら助けてあげたいという気持ちは持っていても、中途半端になってしまうことは多いわけで、ある意味それはとても残酷なことなんだろう。ほんとうに、だれかに寄り添うことができたら、寄り添ってもらえたら。けっきょくのところ、ひとはひとりで生きていくにはなにか心みたいなものを捨てるしかないのか。でもそれじゃ、人間にはならないんだろう。
    最後はきちんとしたハッピーエンドじゃないけど、それでもいいと思えた。

    (306P)

  • 近未来のお話❓こんな時代がやがて来るのかな?

  • こんな小さなころからストリートチルドレンになり大人を信じられず生きてきたイオン。
    彼が良い大人を信じられるまでには、つらい経験も人の死も最後には自分自身への苦しみを背負って生きてこなければならなかった。もちろん親がいないことや親からのネグレクト、虐待も大いにあるし、どこの国に行っても地球のどこかでこういう状況になっている子供はいる。それを自分たち大人が最低限に食いとどめること。そしてなにより、彼らに親がいなくても自分たちの経験と人とのつながりで、どこにだって誰にだってイオンのようになれるということを、今生きている子供たちに語り掛けているのかなぁと思う作品だった。

  • 「優しいおとな」に、自分はなれるのかな。おとなを好きになれなかった過去の自分と、おとなになりたくない今の自分が、読み進めながら考えていました。

    感情って一回解放してしまうと恐ろしいね。感受性が豊かなことなのも大切だけど、気を強く生きていかなきゃいけない時は、どうなんだろう。

  • 桐野夏生さんが共同体の破壊の危機をテーマに読売新聞での連載に挑戦した「やさしい大人」を読了。まず舞台が渋谷から代々木公園辺りに設定されているが、スラム化した渋谷の街が妙に生々しい。オリンピックでリオのスラム街が取り上げられたが、日本もこのまま国が借金の額を際限なく増やし続け、格差が拡大して行くような政治が続いて行けばこの国のどこかにスラム街が広がってしまう恐れだってないとも限らないなあなどとちょっと暗い想像までさせられてしまう内容だ。新聞小説として書かれた小説なのでテンポ良く話が進み暗い話ではあるのだが桐野流の力でかすかな希望を随所でちゃんと感じさせてくれるので落ち込まずに読み進む事が出来る小説だ。たまに天童荒太さんの小説のように読みながらあまりに話が暗く自分を鼓舞し続けないと先に進めない物もあるが、そう意味では桐野夏生さんの小説では愛の欠乏についての警笛がならされていて反省はさせられるが、著者が絶望はしていない感じが伝わるので心が折れずに読みめられる。どの作品も安心して勧められるすぐれた作家ですね。

  • ストリートチルドレンとして暮らすイオンは、昔一緒に暮らしていた「きょうだい」の鉄と銅という双子に会う為、地下組織にもぐったり脱走したり。

    恵まれた境遇である私なんかには想像もつかない位壮絶な生活を送っています。とにかくごはんの心配をしなければいけないなんて15歳の少年にとっては辛い事でしょう。

    最終的に植物状態になったイオン。探していた銅とは会えたものの、左手しか感覚がなくなってしまう。そして訪れる別れの時。

    彼は幸せになったのだと思いたい。

  • 桐野夏生はどこに行くんだ。
    近未来SF設定の渋谷で、過酷な状況を生き抜く児童ホームレスを描く。と思ったら、左翼的な共同体の実験の末路か。
    主人公も含めたキャラに救いがない。
    それでも桐野夏生なので面白いんですが。

  • 公共制度や福祉が破綻した近未来が舞台であるが、妙にリアルなのは実在の名称が随所に書かれているからであろう。 こんな世の中にならないようにしていかなくては。

著者プロフィール

1951年金沢市生まれ。1993年『顔に降りかかる雨』で「江戸川乱歩賞」、98年『OUT』で「日本推理作家協会賞」、99年『柔らかな頬』で「直木賞」、03年『グロテスク』で「泉鏡花文学賞」、04年『残虐記』で「柴田錬三郎賞」、05年『魂萌え!』で「婦人公論文芸賞」、08年『東京島』で「谷崎潤一郎賞」、09年『女神記』で「紫式部文学賞」、10年・11年『ナニカアル』で、「島清恋愛文学賞」「読売文学賞」をW受賞する。15年「紫綬褒章」を受章、21年「早稲田大学坪内逍遥大賞」を受賞。23年『燕は戻ってこない』で、「毎日芸術賞」「吉川英治文学賞」の2賞を受賞する。日本ペンクラブ会長を務める。

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