人質の朗読会

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著者 : 小川洋子
  • 中央公論新社 (2011年2月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (247ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120041952

人質の朗読会の感想・レビュー・書評

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  • 静かな眼をして表紙に佇む子鹿が、
    遠い異国で反政府ゲリラの人質となった数か月を
    忘れられない思い出を文章にして朗読し合いながら過ごした
    8人の人質たちの慎み深く穏やかな最後の日々を思わせて。。。

    かけがえのない思い出としてしまってあった過去が
    言葉となって紡がれたときに流れる敬虔な空気。

    語られる物語と、その結びに添えられた語り手の職業やツアーへの参加理由が
    「ああ、この過去があったからこそ。。。」とストンと腑に落ちる繋がり方で
    そうして重ねてきた人生が、自分とは関わりのない政争で
    あっけなく絶たれた痛ましさに胸が詰まります。

    第二夜の『やまびこビスケット』で、ベルトコンベヤーを流れてくる
    欠けたり生焼けだったりする不良品のビスケットに愛着を感じて
    「ここまでよく頑張ったわね。さあ、あなたたちを待っている人の元へ行きましょうね」
    と語りかける女性に、欠落や喪失を嘆くどころか慈しむ、
    小川洋子さんならではの感性が溢れていて、印象的です。

    第九夜の、自分の体より大きい葉っぱを、天に供える捧げ物のように掲げて
    根気よく巣に運び続けるハキリアリのように
    自分だけの物語を生きた8人のそれぞれの生の尊さが
    静かに胸に沁みわたる作品です。

  • 人質の朗読会というタイトルから想像していたのは、傷つき疲れきった人達の嘆きのような語りだった。
    なんてバカなことをことを考えていたんだろう。
    もっとずっとずっと素敵な物語だった。

    人質になった8人と朗読を聴いていた特殊部隊員が語ったのは、「自分の中にしまわれている過去、未来がどうあろうと決して損なわれない過去」。
    誰にも言わずにいた、お守りのような思い出だ。

    こんな物語を語れるなんてうらやましいなと思った。
    どの朗読もその特別な時間を一緒に過ごした人への思いやりが溢れていて、とても優しい。
    時が経ってから振り返ることで、自分にとってその時間がどんな意味を持っているかが明確になるのかもしれない。
    何気なく過ぎていく無数の瞬間の中に、時間が経てば経つほど鮮明になっていく一時が確かにあるように思う。

    特に素敵だなと感じたのは「杖」、「コンソメスープ名人」、「ハキリアリ」。
    共通点は幼少期の思い出だということ。
    9つの物語の中でも特に驚きと好奇心に満ちていて、一際キラキラしていた。
    すごくすごくキレイで、スペシャルな時間をお裾分けしてもらった気分。とても幸せな一時だった。

  • 伝記を読む。確かに存在したその人物の、姿を、感情を、息遣いをありありと思い浮かべる。

    読み終えて、しんみりとする。この人はもう、この世に存在しないのだ…

    この本もそうだ。
    武装集団により異国の地で拉致監禁され、100日以上が過ぎ…

    長い人質生活の中で徐々に恐怖は薄れ、それぞれが書いたお話を朗読することで退屈や不安を紛らわせていた彼ら。

    人質全員死亡という顛末を知った上で彼らの語りに耳をすませば…

    過去は変えられない。否定的な意味ではない。未来のように不安定でなく、脅かされもしない、揺るぎない過去の思い出たち。

    欠損品のビスケットを食べた日々、お爺さんがくれた黒ずんだ縫いぐるみ、持て余した花束、談話室に紛れ込む男性…

    これらのお話を語った人々はもういない。遺されたのはテープだけなのだ…

  • 死は決してその人の人生を支配することはないんだなあ。と、本を閉じた後に涙が零れました。
    幕引きではあっても、それがどんなに悲劇的なものであっても、その人が着実に歩んできた道のりを一変に変える力はないんだなあ。それって、ものすごい、救済ってやつじゃないだろーか。

    今作品の語り部である人々の、悲劇的な死が語られるプロローグ。その後に続く8人の物語を読み終わった後の率直な意見です。「どんなに悲劇的な死であろうとも、その人の人生を悲劇と決定付けるものではない」。

    反政府ゲリラに人質に取られ、救出作戦が失敗して犠牲となった人々。
    彼らが人質として捉えられていた間、緊張の中の退屈を紛らわす為に語られた、それぞれのちょっと不思議な体験談、という体裁を取った短編集です。
    取り立ててドラマチックでもない、日常の中にスルッと慎ましやかに差し挟まれた、ちょっぴり不思議な体験。
    彼等が確かに生きた証がこんな形で残ってくれたことを、フィクションだというのにとても尊く感じてしまったのでした。うーん、不思議だなあ。

    小川先生、やっぱ好きだなあ←結局今回も告白するー(笑)


    今回は帯の惹句が素敵だったので、そのまま引用しました↓↓

    遠く隔絶された場所から、彼らの声は届いた。紙をめくる音、咳払い、慎み深い拍手で朗読会が始まる。祈りにも似たその行為に耳を澄ませるのは、人質たちと見張り役の犯人、そして……。
    しみじみと深く胸を打つ、小川洋子ならではの小説世界。

  • 普通の短編集として読んでもよさそうなお話たちが
    遠い異国の人里離れた森の奥の小屋の中で、
    ゲリラに拉致され監禁されている人質たちの自分語りとして聞くと
    何とも不思議で切ない告白に思えます。
    どことなく百物語のようで、ろうそくの火を吹き消すように
    彼らの無残で非業な最期へのカウントダウンのようで、背筋がヒヤリとします。

    淡々としすぎてよく分からない話もありましたが
    どれも意味深長な気がして落ち着かない気持ちになります。
    文章は美しいのだけど、なかなか入りづらい話ではあった。

    「やまびこビスケット」「死んだおばあさん」「花束」
    あたりが印象深い。

  • 初めての小川洋子作品はとても深い作品だった。
    今自分たちに必要なのはじっと考えること、耳をすませること。
    考えるのは、いつ解放されるのかという未来ではなく、「未来がどうあろうと決して損なわれない過去」。それをそっと取り出し、掌で温め、言葉の舟にのせる。その舟が立てる水音に耳を澄ませる。
    そして人質は、一人ずつ自分たちの物語を朗読した。
    『冬眠中のヤマネ』 『やまびこビスケット』 『B談話室』が面白かった。『槍投げの青年』は考えさせられる。

  • 私が未熟すぎるんだろう。
    この本の魅力がいまいちわからない…

    いや、設定は面白い!
    それに、ひとつひとつの物語はとても深く、味わって読んだ。

    でも「この設定」でやるならもう一ひねりというか…
    もうちょっとこう…。

    いや私が未熟なのだろう。

    一生懸命このシチュエーションを想像したまま読み進めるんだけど、
    どうもしっくりこない。心に入り込んでこない。
    気が付くとただの短編集のつもりで読んでしまっている。

    いや、はい、私が未熟なんです。

  • 地球の裏側で人質になった8人の日本人旅行者に物語を語らせると言うちょっとひねった構成。一編一編の内容は小川洋子ならではの独特の世界観で満ちている。
    エピローグのハキリアリの描写は面白かったな~。

  • 私も朗読会に耳を傾ける一人となりました。人質の語る話はすべてどこかに死がまざっている。丁寧に語られた話はずいぶん昔の話で、それから大分時間がたってい、みなおじさんおばさんの年齢だが、今となってはその人たちもいない。2段階に時間が早送りされた感じだ。『やまびこビスケット』が心に残る。お話の最後の1行とプロフィールの1行の行間に詰まった年月に思いをはせる。今のところ今年1番。

  • プロローグが衝撃的過ぎて、その後どう読んだらいいのか戸惑った。
    プロローグでは以下のことが語られる。
    「日本から見ると地球の反対側のある国で、ツアー旅行に訪れていた7人の日本人と添乗員がテロ組織の人質となった。
    人質になった日本人の男女は拘束されているものの穏やかに過ごしており、夜な夜な自分たちで作った話の朗読会を繰り広げた」
    こうした説明が淡々とされ、あとは章ごとにその人質の語った話が連なっている。
    ただしプロローグの最後で、人質たちは軍隊の突入で全員死亡したことが判明する。
    つまりプロローグの後に綴られている話は、その後死んでいった者たちの最後の言葉と言うこと。

    人質たちが語る話は、どこからどこまでが創作でどこからが実体験なのかとか、詳しいことが書かれていたりはしない。
    このあと全員死ぬことになるんだけど、穏やかに暮らしていたせいもあってか、語る内容はあくまで淡々としている。ただし、その中にどこか、遠くて近い死の香りがする。
    身近な人の死を語っていたり、やり投げの選手が放つ槍を「魂」と表現して、地面に刺さった槍に死を描いていたりする。
    「死んだおばあさんに似ている」と誰もから言われる女性などは、もう死の世界に片足を突っ込んでいる存在そのものではないかな、と思う。

    人質たちの話の最後に、人質たちの様子を伺っていた「ある国」の兵士の話が入る(ちなみにこの兵士も、「死んだおばあさんに似ている」と言われていた女性の声だけを聞き、何を言ってるかわからないが死んだ祖母の声に似てた、と言っていて唸った)。
    兵士が、人質たちの朗読会を聞いて「ハキリアリのように粛々としていた」と感じているけど、読んた私も全く同じような思いに浸った。
    静かにひとが死んでいく話である。

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