人質の朗読会

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (247ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120041952

感想・レビュー・書評

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  • 地球の裏側にある、一度聞いただけではとても発音できそうにない込み入った村の近くで、日本の旅行会社が企画したツアーのバスが拉致された。バスには日本人が8人乗車していた。
    犯人グループは政府を相手取る、ゲリラ。
    ゲリラと政府軍との交渉は長引き、遠い国のこととてやがて人々の記憶が薄れかけた頃、軍の特殊部隊がアジトに強行突入、激しい銃撃戦となり、その場にいた犯人グループは全員射殺、人質8人は犯人が仕掛けたダイナマイトにより全員死亡・・・という痛ましい結果に。
    その後現場から、細かく文書がぎっしり書かれた板きれや、壁などが発見される。
    そののち政府側が差し入れ時に偲ばせておいた盗聴器によって録音されたテープが公表された。
    人質が時間に任せて、一人ずつ語り合った朗読が入っていた。板きれなどに書かれていた文章はその下書きと見られた。
    以下の章は8人の人質の朗読の内容である。
    今まで生きてきた中でのほんの一コマであったり、特異な体験の模様であったり、その人の人生そのものであったり、非常に興味深く引き込まれて読んでいくうちに、どういう状況で、誰が語っているのかわからないまま読み終わると、巻末に誰それ、職業、年齢、今回このツアーに参加した理由、が記されていて改めておっ、これは人質になった人の朗読なんだ、とその都度現実に引き戻されるということの繰り返しだった。
    聞き手は人質同士と、見張り役の犯人たち、そして盗聴器の向こうにいる特殊部隊の一員だけ。
    毎回控えめな拍手とともに始められる静かな静かな朗読会、それは犯人や人質などの立場を超えたある種の一体感を持った、まるで憩いのひとときのようだ。
    しみじみとした何とも不思議な読み物に出会った。

  • 小川洋子さんの作品は、『博士の愛した数式』以来でした。

    反政府ゲリラにより異国で人質にされた日本人が一人ずつ、自分の人生の最も印象的な部分を小説にし、朗読会をするお話。

    序章で終わりが示されているからこそ、年齢も性別も職業も異なる人達の人生の1ページがささやかにも輝いて映る。

    「やまびこビスケット」。
    こういう、二人だけの秘密のコミュニケーションっていいな。
    ビスケット工場で労働していたのが最終的にはパティシエになっていてすごい。

    「B談話室」。
    世の中にはマニアックな会合がたくさんあるよな。。と妙に納得。

    「冬眠中のヤマネ」。
    全く売れない手作りの動物のぬいぐるみを売るおじいさんが何だか切ない。
    ビスケットにしてもこの話にしても博士の愛した数式にしても、
    小川さんは愛すべき変な老人を書くのが得意なのだろうか。

  • 今ここに亡き人々の語り事によって、「生きていた時間」がありありと感じられた。
    心に刻まれ蓄積された記憶たちを語る日が、いつか訪れてほしいような、なんだか怖いような......

  • 人質になった人たちの話。

  •  小川洋子さんらしい連作短編集! とっても静かで、淡々と…ほんの少しだけ時空がねじれているような空間に連れて行かれたような気分になります。
     前半の5つのおはなしが好きかな。後半、ちょっとだけダレてしまいました。

  • 枠組みと中身のギャップに苦しみました。
    こんな枠組みじゃなければ、もっと面白かったかも。
    途中、「これ、どうやって終えるつもりなんだろ?」と心配までしてしまいました。

  • 「人質の朗読会」
    悲しい事件の背景。


    突如飛び込んで来たニュースは、一度ではとても発音出来ない村で起きたバスハイジャック事件だった。犯人グループの反政府ゲリラは、乗客8人を拉致し、仲間の釈放と身の代金の支払いを求めた。


    この事件は長期化し、最悪の終幕を迎えた。特殊部隊がアジトに強行突入し、ゲリラ側と銃撃戦になり、結果犯人グループ全員を射殺したが、人質8人は犯人の仕掛けたダイナマイトの爆発により、全員が死亡した。


    2年の歳月が流れ、事件は思わぬ姿で帰ってきた。アジトで録音された盗聴テープが公開されたのだ。そこに録音されていたのは、人質による朗読会だった。


    人質と朗読会、全く噛み合わない2つを組み合わせるという難解作業をやり遂げている一冊。ゲリラに拉致された中で、自らの話を朗読する。彼らの姿を想像すると、とても怖い。


    しかし、彼らの朗読には、怖さがない。彼らが話す一つ一つの物語は、縁側で孫に聞かせているような穏やかな空気が流れている。とても人質になっているような緊迫感が無い。


    個人的に好きなのは、「死んだおばあさん」。「あなた、僕の死んだおばあさんにそっくりなんです」から始まる朗読は思いがけない出だしで、最後の締めは、思ってもみないあったかさとほのかに香るしんみりさ。


    また、「やまびこビスケット」はどこか童話的で、「B談話室」はちょっぴりホラー、「冬眠中のヤマネ」は、2番目にお気に入り。「ハキリアリ」も好きな物語。


    人質と朗読、ぱっと見れば、アンバランス。でも、人質になっている一人一人は朗読者として世界観を確立している。だからか、人質として感じるだろう恐怖や緊迫感は排除されているように思うし、アンバランスは感じない。


    このアンバランスに見えて、読んだらアンバランスではない感じが好きです。

  • 何の人質で、その後どうなったのかは序章で語られる。
    その時点で「ええええぇ!」であった。
    人質たちの朗読内容は、≪世にも奇妙な物語≫チック。

  • 不思議な話が多かったです。
    人にはだれも物語がある。著者がそうコメントを残しています。

    人がいざピンチ絶望的な状況に陥ったとき、こういう話をするのでしょうか。
    不思議です。

  • 冒頭で、人質が亡くなっている事実を知るからか、どこか一編一編に悲しさが残ります。
    私の人生は私目線でしか進まないけど、きっと一人一人語れる人生の物語があるのだろうなと思いました。

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著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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