ヴォイド・シェイパ

著者 :
  • 中央公論新社
3.89
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120042270

作品紹介・あらすじ

ある静かな朝、彼は山を下りた。師から譲り受けた、一振りの刀を背に――。若き侍は思索する。強さとは、生とは、無とは。あてどない旅路の先には何があるのか。

「スカイ・クロラ」シリーズの中央公論新社からの出版の新シリーズ。装丁も同じく鈴木成一デザイン室。

感想・レビュー・書評

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  • 森博嗣の描く時代劇エンターテイメント。主人公のゼンは剣の達人であるものの、幼い時から師匠と二人で山の中で暮らしており、通常の暮らしを知らない。師匠の死をきっかけに山を降り、剣の修行をするとともに人々の生活に溶け込んでいく。

    『ヴォイド・シェイパ』すごく、面白い。
    主人公のゼンは剣の達人でありながら、世間知らずな面とかが非常にコミカルに描かれており、すぐに彼に感情移入できる。

    さらにすごいのは剣での戦闘シーン。
    森博嗣特有のこれでもかというくらいの改行が、戦闘シーンのスピーディーさを演出する。この手法は『スカイ・クロラ』シリーズでの戦闘機の空中戦でも効果的だったが、剣の斬り合いシーンでも非常に活きている。
    さらにストーリー面白く、登場する人物たちもキャラが立っているので一気読みできる。

    5巻シリーズということなので全巻一気に読みたいね。

  • 森さんの新鮮さが溢れている。でも、やっぱり森さんだね。。。

  • 森博嗣による『スカイ・クロラ』系のエンターテインメントノベル。『ヴォイド・シェイパ』では新渡戸稲造『武士道』を背景にしている。引用のつなぎ方が森博嗣作品の特徴のひとつだと思う。
    メフィスト賞からのデビューということで、文学作品としての認知はされないものの、アンダーグラウンドに近い魅力を放っている。
    面白いのは、森博嗣の場合モチーフにしている作家ないし作品が伏せられているということ。「秘すれば花」とはよく言ったもので、森博嗣は自分の手の内を隠しつつ表現するのが得意技である。
    理系センス、と一言で括られることは多いものの、実際はアートの発想で、精密さを重んじるのも西洋絵画の遠近法を思わせる。幾何学的なものと芸術的なものが絡み合い、融和された作風で綴られている。

  • 虚の中に形を。

    物心ついた時から山に篭り、スズカ・カシュウと共に暮らしてきたゼンは、カシュウの言い付けに沿って山を下り、村の長のもとへ向かう。

    英語のタイトルで侍が主人公の森小説、ってあらゆる意味で物珍しい感じ。
    内容としては大きな起伏はないのだけど、全く飽きずに楽しめた。自問自答の内容や、年寄りたちの言葉は決して他人事ではない。
    侍でありながら、侍のめんどくさい体面を意に介さないゼンはすこし変わっているけれど、素直で礼儀正しいので好感が持てる。世間知らず故の、女性たちとのズレたやりとりも面白かった。

  • 詩を味わうように読む。冒険活劇だけど、静か。ゼンがユニーク。

    私の読書は乱読で、めったに再読はしない。だから図書館も多く利用する。購入する本は、「この作家にはお礼しなくちゃ」と思うものに、買い の判断をする。ヴォイド・シェイパは再読するし、愛読書となった。ゼンの物語、続編を切望する。

  • 6月7日読了。霧煙るような静かな話。

  • 表紙をパッと見て「スカイ・クロラシリーズの新作か!」と思って買ったのですが、違いました(笑)よくよく見たら空じゃなくて山ですね・・・。

    森博嗣さんの書かれた小説は9割方読んでいますが、今作品は最も作者自身の思考や価値観がはっきりと書かれているような印象を受けました。
    ゼンの剣に対する姿勢は作者の研究に対する姿勢と似ているんだろうなぁと勝手に想像しています。。

    スカイ・クロラシリーズでは巻数と時系列がバラバラでしたが、このシリーズではどうなるんでしょう。個人的には続きが気になります。

    それにしてもこういった「剣豪小説(?)」を作者が書くことに驚きました。日本刀収集とか、そういう趣味を持つようになったんでしょうかね??

  • なんとも静かで不思議な話。大きな悪を倒す!という話の展開にならず、淡々と「道」について話が進むところがいかにもという感じ。ゼンというキャラが好きになったので、続けて欲しいなあ。

  • シリーズ1作目
    物心つく頃から師と山奥で生活し、師の死後はじめて山を降り、旅の途中で出会った人との関わりを通じて、さらに剣士として、人として成長していくゼン。無口なのに好かれる人ってこんな人だな。むっちゃ頭でいろいろ考えるのに、理屈っぽくなく素直に他人の良いところを受け入れられる所というか。
    作中、思わずメモしておきたくなる言葉がいくつかあった。
    派手な展開はないけど、静かにこのシリーズ好き。
    2作目もさっそく読もうと思う。

  • 再読。2021.11

  • 山で師と暮らしていた侍である主人公が、山を下り人々が暮らす街や村を旅しながら、色々な出来事を経験していく物語です。文章が綺麗で読みやすく、また著者の死生観も現れているのだろうか、そういった部分も魅力的で引き込まれる。

  • 1人の若い侍が山から下りてきた。ってだけの話なのにとても有意義な時間を過ごせたような気がする。スカイ・クロラと似ているけれど、こちらの方が好きかもしれない。

  • 大雑把に言えば、森さんの作品の中では「スカイ・クロラ」シリーズに近い、と思う。
    生と死、生きることと死ぬこと、生きていることと死んでいること、生きていくことと死んでいくこと。
    タイトルは無を形作る者、というくらいの意味か。

  • 貴種流離譚て森博嗣嫌いそうなんだけどな。そうでもないのかな。

  • 侍のゼンが師の死をきっかけに山を降り旅をする。強さやいきることなどについて考えていく。
    強さを隠すということ、虚勢をはらないということ、最近興味のあるはなし。考えてみるけれどわからないことだらけ。
    出来事より考えたかと中心の物語

    蔵書
    電子書籍

  • 禅。

    哲学的で、静けさが心地良い。
    スカイクロラシリーズを彷彿とさせるが、とても対照的。
    どちらも好きだなぁ

  • 物語の形をした禅問答。

  • 静かな物語だなというのが第一印象です。主人公は山暮らしが長く、擦れていないというか、純粋というか。話自体の流れには大きな起伏があるわけではないのですが、ひきこまれる物語です。

  • 実は再読。
    装丁、書名からして「スカイ・クロラ」シリーズを彷彿させる。実際それを意識していながら、対の存在でもあるように思える。
    スカイ・クロラの主人公は空に上がり、常に不安定な状態にいるのに対し、この主人公は山から降り、地に足のついた(一見)穏やかな青年ーーゼン。
    しかし二作の主人公のどちらも「自分探し」で彷徨っているという共通点を持っている。前者はそれで壮大な自分探しミステリーになったので、剣豪小説と見せかけて実はミステリーという展開にドキドキしながら読むつもりであるけれど、1作目ではリラックスしてこの世界に入り込める。相変わらず情景描写が上手く、すぐに脳内で景色が再現される。
    森先生の哲学が好きな人にはすんなり読めると思うが、文章のスタイルとしてはスカイ・クロラとほぼ同じ。しかし航空用語がない分、斬り合いの場面は少し分かりやすいかな?
    ゼンは、スカイ・クロラで言うとクリタのような雰囲気の優しい青年というイメージがある。腕前はあるものの謙虚で、ひたすら考えることが好き。山から降り、道中彼が見聞きしたこととその思考を纏めたのがこの本かもしれない。
    自分とはどんな人なのか、強さとは何か、はっきりとした目的地がないまま、考えながら進むゼンの道はいかに?

  • 森博嗣流の時代小説。
    雰囲気は『スカイ・クロラ』が近い。
    森作品を読むと、いつも心が洗われるが、これは特に純粋な物語だった。

  • とても静かに進む物語だった。
    彼はこれから生きる意味を見つけ幸せになれるのかなー?

  • 「ゼン」
    「ゼン? 何ゼン?」
    「氏のこと?」
    「そう。お侍さんなんだから、上の名前があるでしょう?」
    「氏というのは、生まれるまえからあるもの。そういうものは、つまりは、ないのと同じ」

    「死は、誰にでもある。まことに不思議なことだ ー ただの一度だけしかない。生きることがただの一度であるのと同じ。つまりは、この一生の長さと一瞬の死が、対になっているということだ。わかるか?」
    「はい」
    「両者は同じ価値なのだ」

    「死を悲しむことはない。今ここにものが、明日はなくなるだけのこと。煙も同じ、花も同じ、ここにあったかと覚えても、たちまちどこかへ消えてしまう」

    「似ていることを嫌い、慣れ親しんだものを捨てなければ、自分に囚われる。そうではない新しい自分を常に求めるのだ」

    『考えるな、というのは、考えている暇があったら動けという意味で、つまりは、迷うなというとこなのだろう。』

    「ようは、金でなんでも買えるようになってしまった。これこそが諸悪の根源。売っているものだけではない。人の心まで買えるようになった。否、人が心を売るようになった、というべきか」

    「教えてくれ。礼儀って何だ?」
    「人を不愉快にさせないための決まり事だ。礼儀に従っていれば、相手もちゃんと応えてくれる」

    「人と人との関係は、その場その場で必ず釣り合っている。貸し借りというものはない。世話になったと感じていても、世話をした方も満足して世話をしている。勝負でも同じこと。負けたと感じていても、勝った方も必ず同様に悔いている。だから、あとになって返そうなどと考えるものではない」

    「何故泣いているのだ?」
    「こんなに飯を沢山食ったことはねえ。こんなに暖かいところで寝たこともねえよ」
    「嬉しいから泣いているのか?」
    「違う ー 嬉しくて泣くなんてあるものか」
    「では、何が悲しい?」
    「これまでが悲しいとわかったんだ ー 昨日の俺が可哀相だ」

    「いやいや、此奴も不満はないだろう。一生を全うしたのだ。多少の長い短いはあれ、生きたことには変わりない」
    「そういうものでしょうか」
    「わからんなあ。どういうものかの。しかし、そのときどきで、都合の良いように思う以外にあるまい」

    『運命を知ったうえで、それでも、やはり逃げる道はあるのではないか、と自分は考える。今の自分にはそれが正しいと思えた。だが、僅かな正しさ。弱い正しさだ。その程度の正しさではヤエジを救えないのか。
    正しさが常に人を救うわけではないのだ。』

    『是非とも、 自分の内に取り入れたいものだ。そう考えるだけで、心が躍る思いがした。
    カシュウが死んで以来、初めての嬉しい気持ちのように感じた。生きていれば、こういったものに出会うのではないか。これが生きる価値なのではないか。』

    『人間は生きているかぎり、別人になれる。
    生きている人間に価値があるのではない。その変化にこそ、価値があるのだ。死んだ者は、もう変わらない。土に戻る道しかない。』

  •  このシリーズ、最初の話を読まずにいました。
     淡々としています。ゼンさん世間知らずですが、相手が剣術家なのでまだ話がかみ合ってます。
     ここから読んでいたら続き読んでたかな?このシリーズ先に行くほど面白いです。ゼンさんのオトボケぶりがかわいい。

  • 作者の作品を読むのがこれがはじめて。みずみずしい本の装丁に惹かれて、どうしても単行本で読みたかった。
    うつくしい。
    全編に配置された余白が、物語にしみこんでくるみたいです。余白。無。たしかに、何も無いということに対するストーリーだなと思います。おはなし、というよりは、やわらかい詩集を読んでいるような具合。そのくらい、隙のないやさしい言葉。うつくしい後味です。続編を読んでみようと思います。

  • 18 マインドクアンチャが素晴らしくて再読。

  • 森氏が描く剣客の話ってどんなのだろう??
    ミステリのイメージが強かったので、ちょっと興味深々で手に取りました。

    森氏が時代物の話を書くなんて!と思いましたが、これがまたすごく面白い。
    なるほど、主人公の思考とかに森氏らしさがにじみ出ていて哲学的。(笑)
    これは本当に面白かった!
    ぜひ続きも読みたいです。

  • 著者の本は初めて読んだが、読みやすくグッとくる言葉が多い。

    塩味の小説って感じ。後には引かない。

  • 禅・武士道がテーマの小説。幼少期を剣の達人と2人山で過ごしたを出た主人公(若武者)が、旅に出て精神的に成長してゆく話。
    物語の世界観と主人公の心の描写が好き。続編も読みたい。
    初めのうち主人公は相当な剣の実力の持ち主であると思わせておいて、最後にまだまだ未熟だったことが明らかになる構成は面白いと思った。

  • 森博嗣さんが、好きだ。

    落ち着いた雰囲気の文章がとても読んでて気持ちいい。
    スカイ・クロラシリーズを読んだときにも思ったけれど、
    戦う場面の書き方が本当に好き!

  • 『スカイ・クロラ』シリーズ以来の森博嗣さん。
    “剣豪小説”らしいけれど、自分にはどちらかというと“禅問答小説”かと思われた。
    主人公“ゼン”の本名が出てくる前から、漢字では“禅”だろうなと思ってたし。
    「ドラゴンボール」+「バガボンド」と評している書評もあったが、確かに“ゼン”の無垢さは悟空に通じるものがあるかも知れません。
    雑念が無い故に強いのか? 
    『スカイ・クロラ』では結構叙述トリックを仕掛けてきた森さんなので、油断しないように読んだつもりだけど、とりあえずストレートに読んで大丈夫そうです。

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著者プロフィール

工学博士。1996年『すべてがFになる』で第1回メフィスト賞を受賞しデビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、エッセィ、新書も多数刊行。

「2023年 『馬鹿と嘘の弓 Fool Lie Bow』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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