人生教習所

著者 :
  • 中央公論新社
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感想 : 125
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  • Amazon.co.jp ・本 (458ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120042775

感想・レビュー・書評

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  •  この小説は作者の心象風景のようなものなのかな。ふとそう思った。いや。小説というものは、すべからく作者のなかに生まれた心象風景なのかもしれない。そうした心象風景を、不特定の見知らぬ読者たちに表現として受け渡す方法こそが小説、であるのかもしれない。

     本書は小笠原で行われる人間再生セミナーを三人の男女の視点で描いた長編小説である。思考や五感は主人公らに委ねられ、その中で参加者たちの実像が明らかになってゆく。同時に三人も自分たちを新たな眼で見つめなおしてゆく。読者は、時系列に従ってセミナーをシミュレートする。変わった小説である。物語は、ここにはない。むしろ主人公らの回想の中に物語が存在する。出会う人たちの中に物語が存在する。

     島に暮らしてきた人々。戦前から住んでいた人たち。戦争中に疎開し、島に戻ってきた人たち。戦後移住してきた人たち。小笠原に魅せられてとりあえず移り住んでいる人たち。小笠原固有の島の歴史に沿って、米日の国籍を変えた人たち。変えなかった人たち。多くの個人の歴史の集積が今の小笠原を作っている。作者はそんな語り口で、本書を群像小説に作り上げたのだと思う。

     何のてらいもない。再就職の一手段として参加した者。老後の孤独な時間を埋めるためにやって来た者。人生の先々が見えないゆえに救いを求めてきた者。自信を失い行き場を失った者。彼らの再生を、物語ではなく、あくまでセミナーのルポルタージュのように描いた、現実に近いところに身を寄せた小説なのである。珍しい、と思う。

     元アメリカ人で今は帰化して日本名になっている方々の講話は、作者取材によるところが多いようであり、現実に1962年というポイントで、唐突にアメリカから日本に返還された小笠原と、そこに暮らしていた人々の混迷が語られる。兄弟のうち半分はアメリカ人として本国に渡り、半分は日本国籍を取得して東京に就職したり島に残ったりしてきたという現実。戦争という歪みに曝された島の現実は、彼ら数名の語りから得ることができる。

     小笠原の自然は、登場人物のほとんどの人間から好ましい目線で描かれている。癒し、再生の象徴としての海であり、空であり、夕陽であり、永遠である。小笠原に興味のある方なら、そちらの側面から読んで頂いてもよいと思う。読めば誰でも一度は小笠原に行きたくなるような本である。歴史、自然、またそれ以上に血の通った観光案内書としても貴重な一冊である。

  • 満足のいかない今の人生をどうにかしたい。
    自分と向き合い、他人と向き合いながら、少しずつ前に進んでいく登場人物達の姿が印象的だった。

  • 島の歴史部分が少し退屈で(大事なのだろうが…。)読み飛ばしました。ストーリーとしてはまずまずでした。

  • 小笠原の歴史と地理はわかった。

  • 財界の有名人主催の小笠原諸島での自己啓発セミナーの類に参加した四名の話。年齢的にと言うか、性格的に通り過ぎた部分がテーマと言う感じで、あまり感じる部分はなかった。読み物として普通に読んだ。著者の過去の作品に出てる人物が出てるらしいが、単独でも問題なく読める。

  • 長編のSFが読みたくて、タイトルと分厚さで選びました。が、SF感はゼロ。でも、それなりの読み応えがあったので良かったです。
    小笠原の歴史に触れる良い機会となりました。
    いってみたいけど、船酔いが不安。とりあえず、竹芝まで行ってみようかな。
    2014/6/30読了

  • 読みやすかった。

  • 小笠原諸島で人生のセミナーを開催し、それに参加する人々の話。小笠原諸島が返還された時の話など、自分も知らないことが多々ありましたので、自分がセミナーに参加してるような錯覚を覚えながら楽しく読むことが出来ました。

  • 「人間再生セミナー小笠原塾」!!

    『ギャングスターレッスン』で最後ブラジルに逃亡したヤクザの柏木。
    日本に戻ったものの、元ヤクザの身で真っ当に生きるすべもなく・・・(笑)。

    セミナーに最後まで参加できれば就職斡旋という文句に惹かれ応募。
    集まった面々は、休学中の東大生、暗い女性ライター、謎の竹崎・・・。

    竹崎は『ゆりかごでねむれ』の登場人物!?
    ここでもいい味出してますね(笑)

    人間再生というとなんだかおこがましいセミナーに思えますが、
    その人の心持ち次第で人生何とでもなる!!っていう前向きなお話でした。

    最後の〆はそれぞれの人生への覚悟。
    元ヤクザの柏木が踏み出した道は・・・(笑)

  • 題名のインパクトのわりに物語が普通。
    四人のキャラクター設定もまあまあありがち。
    セミナーもまっとうすぎるくらいまじめ。
    でも小笠原ってすてきだなと思った~\(^o^)/

著者プロフィール

1966年長崎県生まれ。筑波大学卒業。2000年『午前三時のルースター』でサントリーミステリー大賞と読者賞をダブル受賞。04年『ワイルド・ソウル』で、大藪春彦賞、吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞の史上初となる3冠受賞。その後も05年『君たちに明日はない』で山本周五郎賞、16年『室町無頼』で「本屋が選ぶ時代小説大賞」を受賞。その他の著書に『ヒート アイランド』『ギャングスター・レッスン』『サウダージ』『クレイジーヘヴン』『ゆりかごで眠れ』『真夏の島に咲く花は』『光秀の定理』などがある。

「2020年 『信長の原理 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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