モナ・リザの背中

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (332ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120042911

感想・レビュー・書評

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  • これまでの篤弘さんとはちょっと変わった、幅広い読者へ向けての発信、とでもいうようなユーモアを交えての作風。これはこれで楽しく読めました。SFでもないファンタジーでも哲学でもない、やはりクラフトエヴィング風というのでしょうね。

  • 『それでイノウエ君はアノウエ君になった。同様にゆで卵もうで卵となった。これらはすべて私の一存であって法則はない』

    『問屋を問い詰めたい自分は問屋を問い詰め、問い詰められた問屋は、なるほど問屋のトンはなぜ「問う」という字なんでしょうな、問屋的には「間」という字の方がふさわしい気がするのですが、違いますか?』

    『というか、そこでふと思ったのだが、淹れたての「たて」とは何であろう。私はインスタント・コーヒー派であるが、その場合は何と言うのか。「溶けたて」だろうか』

    自分のものなのに自分では見られないものなあに? 答えは、背中。それでも頭をものすごくしなやかにしてみたら、見えてこないかな。エヴィング・クラフト商會のように。

    一見駄洒落のようにも見える言葉遊びの中に、柔らかくかつ強かな筋が通っている。それがエヴィング・クラフト商會の特徴。その駄洒落のセンス担当と思わしき作家の小説は、めまぐるしく変化する世界がいつも潜んでいる。それを眺めていると、ドラえもんの四次元ポケットを思い出す。

    その何処に繋がっているのか、よく考えると不思議なポケットから取り出される数々の道具を荒唐無稽と断じれば、それでことは終わってしまう。もう何処へも進まない。それでも、昔の少年の心を捉えて離さなかったウルトラ警備隊の腕時計型通信機は、ほとんど現実のものになったし、リニアモーターカーと なんていう言葉の響きは光子力ビームという言葉の響きと同じ程度に荒唐無稽な感じがしていたのにもう直ぐ普通の輸送手段になる。その背後にある発想と努力。きっとそこには不可能を可能にするしなやかさが必要な筈。

    何もそんな人生訓のようなものを絞り出してみる必要もないことは重々承知なのだけれど、吉田篤弘の言葉は色々な思考を喚起するのだ。ふざけているようで至極真面目な思考。それが大事なポイント。しかめ面をしていると、直ぐに脇の下をくすぐられてしまう。

    なんでも硬直的に考えがちな日本人としては、朝令暮改なんていい加減な感じで否定的に捉えがちだけれど、その時その時で最適と思われることを柔軟に実行することは悪いこととは限らない。前例や権限規定から想定される範囲内に身を閉じ込めてばかりいるものにとって、吉田篤弘は時々必要な頭の体操をしてくれる作家だ。

著者プロフィール

1962年、東京生まれ。小説を執筆しつつ、「クラフト・エヴィング商會」名義による著作、装丁の仕事を続けている。2001年講談社出版文化賞・ブックデザイン賞受賞。『つむじ風食堂とぼく』『雲と鉛筆』 (いずれもちくまプリマー新書)、『つむじ風食堂の夜』(ちくま文庫)、『それからはスープのことばかり考えて暮らした』『レインコートを着た犬』『モナリザの背中』(中公文庫)など著書多数。

「2022年 『物語のあるところ 月舟町ダイアローグ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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