時計まわりで迂回すること - 回送電車V

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著者 : 堀江敏幸
  • 中央公論新社 (2012年3月23日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (279ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120043499

時計まわりで迂回すること - 回送電車Vの感想・レビュー・書評

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  • 「ホチキスをはじめて使ったときの感触を、いまでもよく覚えている。」

    身の回りの文房具や事務用品をはじめて使った時ってどんな感じだっただろうか。上に挙げたのは「たなごころの玩具」の出だしの文章。はさみものりもテープも初めて使う時はきっとわくわくしたのに違いない。そういえば小学校の頃は「お道具箱」というものがあって、机の左にお道具箱、右に教科書を入れる、という暗黙の決まりがあった。お道具箱の宝箱感が好きで、家でも疑似お道具箱を作って、小物やらなんやらを入れていたこともあった。

    今回の回送電車は文房具やスポーツの話題がけっこう多かった。文房具の話も、堀江さんの手にかかればとても品のいい話になる。道具への愛情、というよりはその道具を見つめたり扱ったりする時に生じる様々な思いや観察結果を文章として刻みつけている。こんな風に書ければな、と思ってしまう。

    サッカーの話もあった。「ダイヤモンドサッカー」というテレビ番組のことを語る文章の中で「現在ならフットボールと言い換えるべき」という表現がちらっと出てくる。数ヶ月前にジャイキリにはまってしまい全巻一気読みしたのだけど、そこでも出てくる「フットボール」という響きは何となく心地よい。

    私はどちらかというと野球の方が好きでサッカーは見ないのだが、サッカーが文学者に愛されている姿をなかなかうらやましいと思うことがある。村上龍しかり金井美恵子しかり。野球でも保坂和志さんがベイスターズファンで小川洋子さんがタイガースファンとかあるのだが、なんとなく愛し方の質が違う感じがする。どっちがいいと言うわけではなくて、なんとなく野球を好きな人の感覚にはないものを羨ましいと思ってしまうのである。

    堀江さんの文章を読んでいて個人的にまたジダンに興味が出てしまった。昔、知り合いが「あれは素人目に見ても気持ち悪いくらい上手い」と言っていたのがなんとなく印象に残っていて、それ以来それを確かめてみたい、と心のどこかで思っている。

  • エッセィってなんだか、車窓風景眺めているみたいだなぁ~と、フト思った。

    旅人は
    心をからにして
    流れる景色を
    ぼんやり眺めるだけ。

    とりたてて
    拾うべき言葉も
    制約された時間も
    忘れられないシーンも無いけれど、

    電車の揺れは心地よく

    (この地に立つ事は恐らくないだろうが、
    それでもどこかで関わっているのかも知れない。)

    と、思わせる安心感がどこかにあって、
    パタン、と閉じて眠ったり、
    コーヒーの香りを夢うつつに感じたり、

    こんな旅の様な読書もなかなかいいもんだな、と思えた一冊。

  • 一番好きな作家。
    このヒトの紡ぐ空気に自分も同化したくなる。
    読んでいる間、想う間は細やかにそれが叶う。
    Podcastの学問ノススメでご本人の声を聴き、自分的にフェイント気味にAmazonで購入してしまった。

    大好きな本は、手に入れる過程にもストーリーがあって欲しい。
    ネット通販は便利だが、やはり書店でジワジワと探し、ようやく書棚にお目当ての一冊が見つかる。
    買うのは決まっていたとしても手に取りゆっくりと最初のページをめくり、何行か目で追ってみる。

    開いた本を元に戻し、両手で挟み、また表紙や装丁、紙の手触りやその重さを確かめる。

    暖かい気持ちになって書棚を離れ、会計へと向かう気持ち、カバンにしまい、何かカバンが暖かくなったかのような気がしながら帰る道すがらなど…。

  • 「堅実な・・・・時刻表のなかで限定された融通無碍をめざす」著者いわく「回送電車主義宣言」です。

    ダイヤのすきまをぬって走る回送電車のように、紙上・誌上の限られた字数で、自由であろうとしています。そんなシリーズの5冊目です。

    身の周りの物へのこだわりが満載の「Ⅰ」
    旅先でのこだわりとの出会いを書いた「Ⅱ」
    スポーツ観戦の妙な醍醐味を紹介する「Ⅲ」
    東京という土地を独特の視線で眺める「Ⅳ」

    「Ⅰ」の各篇4ページほどのスペースで、オーディオ機器の正面とツマミの色合いを語り、手動の鉛筆削りや、万年筆のインクの色にこだわる姿は、回送電車主義の真骨頂です。

    そのひと品、ひと品の背景、たとえば、メーカの歴史、ミニチュアならその本物歴史などを丹念にたどった形跡があります。

    一見、とりとめもなく、個人の好みを書きちらしているようで、美しいものの中で暮らしたい、との1本の芯が浮かびあがります。

  • 散文の呼吸、読了。
    興味深いフレーズ。
    「彼のプレーの本質は、勝負の行方よりも、ボールをどれだけ滑らかに扱い、周囲をどのように生かし、生かすことによってまたどのように自分自身を輝かせるかという過程の模索にあった。」

  • 面白いなぁ、読んでいて、楽しいし、うれしい。将来的には、どこまで回送電車は続くかな。また次も楽しみ。(12/7/2)

  • 堀江敏幸「時計回りで迂回すること 回送電車V」読んだ
    http://t.co/xVSsba44 あちこち本を読み散らかしてたまに堀江敏幸の文章に戻ってくるとなんだかほっとする。本当にこの人を知れてよかった。回送電車シリーズももう5冊目なのかあ(つづく


    文具や日用雑貨への凝視と愛着が並ぶI部で堀江敏幸の文章を堪能した。一番好きなのはイタリアとフランスの工房を巡るII部。万年筆、パイプ、自転車、スピーカー、ピアノ、皮張り。読んで製造業について考える。わざわざひらがなの「ものづくり」とかいう日本の浅薄政策とは全然違うぜ(おわり

  • Ⅱの「雨のブレスト」「Hのないホテル」がよかった。やっぱりこの人、フランスを中心に研究してきた人なんだなぁ、と思った。いまや、堂々たる作家なんだろうけれども。この本をもってヨーロッパに行ってみるの、いいかもしれない。
    あと、個人的にすごく共感したのは甲子園の話と映画館の話。この人の出身の地域に住んだ私としては、やっぱり、この人の、故郷にまつわることをテーマに書いた文章をどんなかたちであれ、私なりの感傷を以て読みたい。

  • 堀江さんのエッセイにはふむふむと感じるところが大きくあります。
    いつも楽しみです。

  • 『列車の微弱な振動が伝わっていたのだろう。腰を下ろすと、地面が揺れている、ような気がした。いや、たしかに揺れていた。揺れている、と私は感じていた。当時の映画館の記憶は、このぶるぶると震える下肢の感覚と切り離すことができない。そんなもの感じないよと笑う友人も多かったけれど、二十歳前後の私は、闇のなかでいつもその揺れとともにいた』-『「いま」が揺れる』

    堀江敏幸の短いエッセイは洒落た小話のようである。枕があって落ちがある。それを真面目くさった顔をしてこれ以上ないくらいに真面目にやってみせるものだから、こちらもついついその気になって真面目に聞き入ってしまうのである。

    しかし騙されてはならない。真面目そうなその見掛けとは裏腹に、堀江敏幸は巧みな計算のできる作家なのだと自分は思う。決して「素朴」に面白いのではなく、きちんと構成の効いた話を面白く語っている、というのが実のところだと思う。

    堀江敏幸のどこにそんなに惹かれるのか。自分でもよく解らないまま、小説でもエッセイでもついつい手に取ってしまう。よく解らないとは言いながら、一つ感じるのは、作家のこだわり方にあるのだと、思ってはいる。堀江敏幸は誠に小さなことにこだわってみせる。文房具や音響機器の型番や微妙な手触りの違い、そんなものにどこまでもこだわって、いちいちその名前を挙げる。このどんなものでも名付けなくては気が済まないというのは、別な見方をすると正しく人文主義の流れを汲む文学者としてまっとうであると言える。だからどうという訳でもないけれど。

    しかしだからといって堀江敏幸があたら知識をひけらかすタイプのいけ好かないオタク的物書きであるかというと(確かにオタク的な趣味はあると思うが)、そういうことは決してない。彼のこだわりの姿勢には、先ず感覚的なものがあり、それに名を与えて意味を読み取ろうというスタイルが貫かれている。そしてその感覚的な部分については、非常に「素朴」である、ということも言える。だからこそ、騙されまいぞ、と思いつつ、案外と素直に堀江敏幸の話の展開についてゆける。

    このどこまでも人を食ったような文学青年(既に青年とは言えない年代だが)風の人物が、映画館の暗闇の中でじっと震えているというエッセイは、だから、自分にとってとても新鮮な驚きだった。それは自分自身の過去の習慣と重なり合い、畏れに響き合いもするエピソードだ。小さな箱の名画座で年間会員となり、言い訳を誰にするともなく自分自身に言って聞かせ、じっと二時間程度の時間が過ぎるのを、自分も恐れながら待っていた。今思い返しても、あれは「待っていた」としか言いようのない時間だった。

    一体何を待っていたのか。待っていれば誰にも非難されることの無い大人になれるとでも思っていたのか。堀江敏幸が今でも映画館の中で揺れを感じてしまうと告白するように、自分自身ももう待つのを終えることができたのかどうか、未だに解らなくなってしまうのである。

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時計まわりで迂回すること - 回送電車Vの作品紹介

爪切りひとつで、世界は大きくその姿を変える。眼鏡、ジダンの足さばき、世田谷線の踏切…愛はまっすぐ五十五篇。

時計まわりで迂回すること - 回送電車Vはこんな本です

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