- Amazon.co.jp ・本 (377ページ)
- / ISBN・EAN: 9784120043642
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
読む前は純文学系(?)と思っていたら、SFというほうがしっくりくる感じ。『大草原の小さな家』を思わせる開拓地、近代文明を拒絶する清教徒かアーミッシュかといった暮らしをしている村、だけど舞台はロシア?といった設定から、その村に独りきりの主人公、なんで?と意表を突く展開に圧倒され、心地よく裏切られながら読了。それにしてもこの物語が突拍子もないものでなく、現実に起こってしまいかねないことがただ恐ろしい(いや現実に起こっている、と言ってもいいかもしれない)。暴力や残酷さに満ちているにもかかわらず不思議な静謐さを感じる。主人公メイクピースの語り口のせいなのか?
主人公は無人島へ流れ着いたわけではないのだが、ロビンソンのごとくサバイヴしている。タフである。私と、私がが今しがみついている社会のなんと脆弱なことか! -
モノトーンで近未来的な物語。
しかし、あり得ないお話かというと、
妙に現実感もあるし、
そもそも話の筋立てが大変面白く、
深く深く惹きつけられた。
翻訳して下さった村上春樹氏に感謝。 -
4.07/869
『極限の孤絶から、酷寒の迷宮へ。私の行く手に待ち受けるものは。この危機は、人類の未来図なのか――読み始めたら決して後戻りはできない圧巻のサバイバル巨編。』(「中央公論新社」サイトより▽)
https://www.chuko.co.jp/bunko/2020/01/206829.html
冒頭
『毎日、何丁かの銃をベルトに差し、私はこのうらぶれた街の巡回に出かける。
ずいぶん長いあいだ同じことを続けているので、身体がすっかりそれに馴れてしまった。寒冷な空気の中で、せっせとバケツを運び続けてきた手と同じように。』
原書名:『Far North』
著者:マーセル・セロー (Marcel Theroux)
訳者:村上 春樹
出版社 : 中央公論新社
ハードカバー : 377ページ -
「昔の方が良かった」と過去は時に美化されがちだけれど
便利になったことはもう少し素直に受け入れてもいいのだと思う。
そうでなくちゃ先代の人々に失礼だ。
今日からもっとキャッシュレスやペーパレなどに感謝しよう。。
かろうじて今は「不便」だった戦後の時代を生きた人がご健在だけれど
あと数十年したら日本には便利しか知らない人だけになるのだな。
絶対にやってくる不便を本でしか学べなくなる時代のためにも、存在価値が高く、尊い本。 -
いつ頃ぶりだろうと思い出せないくらい久しぶりに、冬休みを利用して小説をしっかり読んだ。話に入り込んで3日で読んでしまった。極北というタイトルや雪原の装丁からジャックロンドン的な世界観かと思ってたけど、マッカーシー的な荒野のイメージや村上春樹の世界の終り的なイメージの方が近かった。細かい部分はちょっと雑というか、説明不足で話がいきなり進んだりするけど筋としてはとても濃密な終末小説。欲や文明から逃れようと思ってシベリアのどこかに入植した人間たちが結局は人間であることから逃れられず階層社会を作って自滅していく中で生を受けた主人公が、信仰を取るか目の前のパンを取るか的なキリスト教の矛盾を問うよくあるテーマもいれつつ、最後は不遇な生い立ちも含めて自分の人生だと受け入れながら死に向かっていくそんな重厚な話。
-
「老いるとは冷え込むこと」…この小説の世界は、全てのものが終末へ向かっているから冷え込んでいるのかもしれません。
メイクピースという女性が辿った道、過酷で思いもよらない展開が次から次へと起きますが、読み終えたときとても心にずっしりきました。重厚。メイクピース、弱さや惑いもたくさんあるのですが、それでも勇敢で優しさもあって、飛んでいる飛行機を目にしたことで希望を持ったりして愛すべき主人公でした。女性の方が、やっぱり精神的には頑丈なのかもと少し思ったりしました。
面白かった…というと表現が違いますが、夢中で読みました。冷え切っていて、電気や通信が無いかつての生活様式ですが、こんな世界の終わりもあるのかも。これは極北なので、他の地域がどうなっているのか気になりました。 -
考えても答えの出ない問が次々に浮かんだ。
危機に面した時人々が団結するのは映画の中だけの話で、実際はこの小説のような事が起こるのではないかと思うと絶望する。
団結する未来より、対立する未来の方がイメージしやすい私は主人公寄りの考え方かもしれない。
人が文明的である為には、一部の人が野蛮である事を必要とするのだろうかと感じた。
自分が生きている間は生きることは美しいと感じたいが、地球全体から客観的に見て、人が生きることが美しいかどうかはわからない。
ハッピーエンドかバッドエンドかは読み手に委ねられると思う。
主人公の過酷な運命を淡々と描いた著者にタフさを感じる。 -
近未来のシベリアの厳しい環境が舞台に、一人の女性が辿る運命の物語。
旅を続ける主人公は様々な出来事に遭遇。
過酷な運命に翻弄され、肉体的に消耗していく姿を見ると「過酷」という印象しかありません。
また、真白な氷原に、黒い粒が一つ、そんな表紙絵も、物語全体に横たわっている「孤独」な雰囲気を醸し出しています。
第四部の6章の、イーベンからメイクピースへの告白する部分の以下部分が心に残ってます。
「時はどこに行ってしまったんだろうと考える事はないか?急に年を取ったと感じることがあるだろう。歳月はどんどん過ぎ去っていく。憐みをかけることもなく」
この部分で、イーベン自分を重ね合わせてしまいました。
物語はフィクションであすが、あり得ない話ではないなと思いつつ、内容の重みと文章の素晴らしさに感動しました。
ちなみに村上春樹訳です。