中央公論特別編集 吉本隆明の世界

制作 : 中央公論編集部 
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120043963

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  •  吉本隆明の追悼特集は沢山刊行されているが、本書は思想家としての吉本隆明に焦点を絞った編集となっている。見田宗介、加藤典洋、中沢新一、内田樹、高橋源一郎などの論客のエッセイや対談・インタビューなど立体的な構成で内容は充実している。
     2002年に『三田文学』に掲載されたインタビュー(聞き手は田中和生)で、吉本が面白い発言をしている。「宗教というのは原始時代から尾を引いて残っているわけですけれども、段階で言うと、宗教の次の段階は法律なんですね。(中略)それで法律のうちで、普遍性をもつ部分と言うか、この法律はどこまでいっても通用するというところだけをとってくると、国家になる。(中略)どうして人類とは言わないで、国家と言ってそれが強い求心力をもつかと言うと、あれが宗教だからですよ。宗教の最後の形態が国家なんです、段階的に言って。だから、特別の強さをもっている」 尖閣列島や竹島の領土問題で喧しい昨今であるが、これは形を変えた現代の宗教戦争だと見ることもできるということに気付かされる。
     また、見田宗介と加藤典洋の対談で、見田が吉本の文体に触れて「吉本さんの文章はとてもゴツゴツと節くれだっていて、深みや澱みを作りながら決して流暢に流れていかない。その文章が、僕には何より信頼できるものなんです。そうなるのは吉本さんの内部に矛盾があるためだと思います」と語っているのが印象的だ。吉本自身が茂木健一郎との対談の中で、「やっぱり表の面と裏の面を肯定しながら否定するというか、二つの問題を同時に考えていくことが必要だと思います。たしかにそれはむずかしいことではあるけれども、知的であるというのはそういうことを考えることではないのかなと思います」と言っていたことが思い出される。吉本が最後まで手放さなかった親鸞の「歎異抄」には強烈な印象を残す逆説的表現が見られるが、吉本の文体を特徴づけているのも逆説的表現の多用である。肯定と否定とを同時に呑み込んで咀嚼しようとする思考方法は、矛盾を孕んだ文体を生むらしい。そして、また、両者がともに詩人でもあったことにも思い至る。

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