月と雷

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著者 : 角田光代
  • 中央公論新社 (2012年7月9日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (235ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120043994

月と雷の感想・レビュー・書評

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  • いつも角田作品を読むときは、ある程度どんなあらすじなのかを事前に知った上で読み始めるのだが、本書に限ってはざっくりした情報しかなかった。「家族」「恋人」「母親」が描かれるようだ、ということしか知らずにページを繰ってみたら、30過ぎてもふらふらと女を渡り歩く智が、かつてよく角田さんが描いた「ちゃんとできない」人物で、「あ、懐かしい」と感じてしまった。
    世間のレールから逸脱した、ふわふわゆるゆるだらだらと生きる若者。90~00年代によく角田作品に出てきた男女だが、もう、そういう彼らがテーマの作品は描かないのだろうと勝手に思っていたから、軽く裏切られた気がしてちょっと嬉しかった。
    勿論当時そのままの作風で物語は進まない。直木賞受賞前後から角田さんが描くようになった、「夫婦」「家族」のあり方。描くジャンルの振り幅がぐっと広がった彼女だからこその今の視点で斬り込む「ちゃんとできない」人達の生き方は、「普通の人生」に淡い憧れを抱きつつもどうしてもまっすぐ歩めない。住まいを転々としながら流されて生きてきた智の母・直子。そんな彼らに巻き込まれる、かつての直子の恋人の娘、泰子。それぞれいびつさを抱えた彼らの、噛み合ってるんだか噛み合ってないんだかなつかみどころのない日々が、滑稽なような哀しいような、何故か切なくなるような不思議な感情を湧きあがらせる。
    彼らに関わる人々も、一見まっとうなようでもどこかいびつで、何が「まっとう」なのか読みながらわからなくなってくる。行き当たりばったりな行動は先が読めず、一体どう落ち着くのかとハラハラさせられっぱなしだが…
    読みながら、自分がつまらない固定観念に捉われていたことに嫌ってほど気付かされる。この不思議な自由さが読んでいて心地よく、ちょっと羨ましかった。こういう形もアリなのだろうと。
    決してわかりやすい話ではないし、人によっては嫌悪感しか感じないかもしれない。万人受けはしないだろうけど、角田さんがかつて描いてきたテーマをまた別の角度から眺めることが出来て、長年のファンとしてはただただ嬉しかったな。これまで読んできた角田作品の片鱗を、場面場面でちょいちょい感じることが出来た。

  • 幼少期の家庭環境が「ふつう」ではなかったと感じている智と泰子。
    そのせいで自分は「ふつう」の生活が出来ないし、「ふつう」の関係を築けないと思っている。
    智は一時同じ環境で過ごした泰子に救いを求め、泰子は直子と智が滅茶苦茶にした自分の人生から抜け出そうとしていた。

    「あの時こうなっていれば‥」とか「あの人がいなかったら今頃は‥」とか、今の延長線上にいない自分を想像したり、今の自分を作った原因を特定しようとする泰子の気持ちは分かる。
    自分の人生を変えた直子になぜ?と聞きたくなるのも分かる気がする。
    知りたい、納得したい、あの瞬間分断された時間を繋げたいという欲求ではないだろうか。
    本当はそんなことに意味なんてないことも知っているけれど、考えずにはいられないのだ。

    でもそんな単純な話じゃなくて、全てが他人の影響を受けているし、自分が存在することで周りにも影響を与え続けている。
    自分がこの世に生まれた理由すら誰も全貌を語ることは出来ない。
    過去の目立つ出来事一つだけを取り上げて、あれこれ考えるのは無駄なんだ。

    過去を悔やむのでもなく未来を空想するのでもなく、今を切り抜けていくということ。
    言葉にすると単純なことだけど、私は出来ているだろうか?

  • 角田さんの初期の作品はフリーターの男女を描いている事が多かった。売れっ子になって多様な作品を描くようになったけれど、根底には自分の居場所を探し続けている人物が多く登場する。
    この作品もそう言う意味では角田作品の王道。出てくる登場人物全てが真っ当に生きられない「普通」ではない人々。
    いいな~、こう言うの好きだな。
    作品に漂う雰囲気とは全く違うけど、ロマンチックな話だなと思ってしまった。見当違いか!?

  • 不幸に追いつかれた、という感覚はわかる。自分も智に近い人と恋愛したので。はじめは、追いつかれないように逃げてみたりして、でもあまりに居心地がよくて。結局、一緒に過ごしてしまう。そんなに悪い人でもないし、人をだましたりする人間でもない。一緒にいると案外不幸でもなくて、でもなんかいなくなることが泰子にとって前提の、「生活」のできなそうな人。いますよね~~。そんな人とわかって、でもそれも含め智のところへ行くときめた泰子は、かっこいいなぁ。だれかに引っ張られているようでも、強引に動かされたようでも、結局私たちは自分で選んですすんでるんだなと思いました。

  • いきあたりばったりで流されるように生きている人達のお話だけれども、何故か嫌な気がしない。むしろその流されっぷりを楽しむ私がいた。そのように生きるきっかけになった母親が最後に答えた言葉、「何かが始まったらもう終わるって事はない。はじまったらあとはどんなふうにしても切り抜けなきゃなんないってこと。そしてね、あんた、どんなふうにしたって切り抜けられるものなんだよ。」って言葉が胸に沁みる。そうだね。誰だって生まれたら、生きて行くしかないし、生きてさえいればなんとかなるもんだよねと思えてなんだか希望のような物さえ見える気がした。

  • 自分の境遇とはかけ離れているのに、ありえることなのかと安心感に似たものを得られた。

  • ひとつの出来事、誰かの行動が、水の波紋のようにひろがっていく。
    中村文則さんの「何もかも憂鬱な夜に」では命の縦のつながりを思ったが、今回は横の広がりをひしひしと感じる。

    直子の行動で自分や両親や様々な人の人生がどうしようもなく変わったと考えた泰子。
    それは確かに事実だけど、それぞれが自分で選んできた道でもあり、すべてのことは始まってしまえばどこかに向かって動き続けるしかない。なんとかなるもんだ、というのは直子らしい言葉だけど、そこに希望を抱かずにはいられない。

    智の章から始まったけど、どうも智は脇役にしか感じられなかった。夫、父親としてはさすがに頼りないなあ。

    角田さんの本は、盛り上がりが来るぞ来るぞ〜と冷静に感じつつ、まんまと言葉に酔えるから気持ちいい。今回は控えめだった気もするけど。

  • 根無し草の様な直子と智親子。
    元はと言えば旦那に逃げられたからだ。
    幼子と生き続ける為の生き方だったのだろうか?
    そして、あちこちに波紋が…。
    世のシングルマザーは、反論されるだろうな。
    それにしても、智や泰子にしても幼少期の生活ぶりが、大人になっても大きく影響するんだ。
    普通の暮らしが、如何に幸せなのかと考えさせられる。どうぞして明日香ちゃんが幸せでありますようにと願う。

  • 親…特に母親から子供への影響を考えると、“きちんとしないといけない”と思って行動するのが普通なのだと思っていた。当たり前、普通の基準を作ってあげられるのは、親だけだから。それも“母性”というのだと思う。でもそれが欠落している人も稀にいるのだろう。

    なんだか、智も直子も彼らを救ってきた人たちも私は理解できないし、納得できない。泰子があれだけ疑問をもち悩むことになるなら、やはり与えた影響は間違ったものなんだと思う。

    結局は本人が幸せならいいのかもしれないけど、違和感を感じ始めたら新たな不幸が始まってしまうのだろう。

  • ご飯を食べ、掃除をして、お風呂に入り、眠る、そんな繰り返しこそがいわゆる生活。その生活をきちんと出来ない、という理由でふられた主人公。そもそも母親がジプシーのごとく色んな男のもとへ転がりこむ暮らしをしていたこともあり、地に足がつくような、ずっとそこにいる、ということが出来ないでいる。
    と、まあ相変わらずダメダメな人間たちをだらだらと書いた物語。
    彼女にふられた男がやけくそで過ちを犯した結果生まれた子供と共に語るセリフが印象的だった。君に失恋しなければこの子はいなかったから、君のおかげだよ、みたいなこと。
    自分の生きる世界に、誰の行動が影響し、また自分も影響させているのか。そんなものは誰にもわからない。バタフライエフェクトの起点などはつきつめたらきりがない。
    と、なんとなくそんなことを考えながら読み終わる。裏を返せば、それ以外に特に感想が浮かばなかった。ちょっと今回の作品はあまり好きではないかも。

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月と雷の作品紹介

不意の出会いはありうべき未来を変えてしまうのか。ふつうの家庭、すこやかな恋人、まっとうな母親像…「かくあるべし」からはみ出した30代の選択は。

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