月と雷

著者 :
  • 中央公論新社
3.11
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  • (9)
本棚登録 : 1046
感想 : 196
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  • Amazon.co.jp ・本 (235ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120043994

作品紹介・あらすじ

不意の出会いはありうべき未来を変えてしまうのか。ふつうの家庭、すこやかな恋人、まっとうな母親像…「かくあるべし」からはみ出した30代の選択は。

感想・レビュー・書評

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  • いつも角田作品を読むときは、ある程度どんなあらすじなのかを事前に知った上で読み始めるのだが、本書に限ってはざっくりした情報しかなかった。「家族」「恋人」「母親」が描かれるようだ、ということしか知らずにページを繰ってみたら、30過ぎてもふらふらと女を渡り歩く智が、かつてよく角田さんが描いた「ちゃんとできない」人物で、「あ、懐かしい」と感じてしまった。
    世間のレールから逸脱した、ふわふわゆるゆるだらだらと生きる若者。90~00年代によく角田作品に出てきた男女だが、もう、そういう彼らがテーマの作品は描かないのだろうと勝手に思っていたから、軽く裏切られた気がしてちょっと嬉しかった。
    勿論当時そのままの作風で物語は進まない。直木賞受賞前後から角田さんが描くようになった、「夫婦」「家族」のあり方。描くジャンルの振り幅がぐっと広がった彼女だからこその今の視点で斬り込む「ちゃんとできない」人達の生き方は、「普通の人生」に淡い憧れを抱きつつもどうしてもまっすぐ歩めない。住まいを転々としながら流されて生きてきた智の母・直子。そんな彼らに巻き込まれる、かつての直子の恋人の娘、泰子。それぞれいびつさを抱えた彼らの、噛み合ってるんだか噛み合ってないんだかなつかみどころのない日々が、滑稽なような哀しいような、何故か切なくなるような不思議な感情を湧きあがらせる。
    彼らに関わる人々も、一見まっとうなようでもどこかいびつで、何が「まっとう」なのか読みながらわからなくなってくる。行き当たりばったりな行動は先が読めず、一体どう落ち着くのかとハラハラさせられっぱなしだが…
    読みながら、自分がつまらない固定観念に捉われていたことに嫌ってほど気付かされる。この不思議な自由さが読んでいて心地よく、ちょっと羨ましかった。こういう形もアリなのだろうと。
    決してわかりやすい話ではないし、人によっては嫌悪感しか感じないかもしれない。万人受けはしないだろうけど、角田さんがかつて描いてきたテーマをまた別の角度から眺めることが出来て、長年のファンとしてはただただ嬉しかったな。これまで読んできた角田作品の片鱗を、場面場面でちょいちょい感じることが出来た。

    • vilureefさん
      こんにちは。

      わかりますー!!
      私もこの本を読んだ時に往年の角田作品だととっても懐かしくなりました。
      角田さんの作品はどれもこれも...
      こんにちは。

      わかりますー!!
      私もこの本を読んだ時に往年の角田作品だととっても懐かしくなりました。
      角田さんの作品はどれもこれも好きなんですけれど、これは地味ながらお気に入りの作品です。
      絶対ドラマ化されない安心感(?)があってファンにはたまらないですよね(笑)
      頑張って成長するのも良いんですが、だらしなくてでも憎めないそんな人達にどうしても惹かれちゃいます。
      時々はこういう作品書いてほしいですよね(^_-)-☆
      2014/04/14
    • メイプルマフィンさん
      vilureefさん:コメントありがとうです♪
      共感して頂いてとても嬉しいです!
      やっぱりこういう作品が角田さんの原点ですよね~、彼女だ...
      vilureefさん:コメントありがとうです♪
      共感して頂いてとても嬉しいです!
      やっぱりこういう作品が角田さんの原点ですよね~、彼女だから成立する世界観だなと。
      本当に、映像化は無理だと思う(笑)私もお気に入りの作品です。
      2014/04/14
  • 幼少期の家庭環境が「ふつう」ではなかったと感じている智と泰子。
    そのせいで自分は「ふつう」の生活が出来ないし、「ふつう」の関係を築けないと思っている。
    智は一時同じ環境で過ごした泰子に救いを求め、泰子は直子と智が滅茶苦茶にした自分の人生から抜け出そうとしていた。

    「あの時こうなっていれば‥」とか「あの人がいなかったら今頃は‥」とか、今の延長線上にいない自分を想像したり、今の自分を作った原因を特定しようとする泰子の気持ちは分かる。
    自分の人生を変えた直子になぜ?と聞きたくなるのも分かる気がする。
    知りたい、納得したい、あの瞬間分断された時間を繋げたいという欲求ではないだろうか。
    本当はそんなことに意味なんてないことも知っているけれど、考えずにはいられないのだ。

    でもそんな単純な話じゃなくて、全てが他人の影響を受けているし、自分が存在することで周りにも影響を与え続けている。
    自分がこの世に生まれた理由すら誰も全貌を語ることは出来ない。
    過去の目立つ出来事一つだけを取り上げて、あれこれ考えるのは無駄なんだ。

    過去を悔やむのでもなく未来を空想するのでもなく、今を切り抜けていくということ。
    言葉にすると単純なことだけど、私は出来ているだろうか?

  • 角田さんの初期の作品はフリーターの男女を描いている事が多かった。売れっ子になって多様な作品を描くようになったけれど、根底には自分の居場所を探し続けている人物が多く登場する。
    この作品もそう言う意味では角田作品の王道。出てくる登場人物全てが真っ当に生きられない「普通」ではない人々。
    いいな~、こう言うの好きだな。
    作品に漂う雰囲気とは全く違うけど、ロマンチックな話だなと思ってしまった。見当違いか!?

  • 始まってしまえばやり続けていくしかないのだ。
    そう思えるかどうかによるのな

  • 不幸に追いつかれた、という感覚はわかる。自分も智に近い人と恋愛したので。はじめは、追いつかれないように逃げてみたりして、でもあまりに居心地がよくて。結局、一緒に過ごしてしまう。そんなに悪い人でもないし、人をだましたりする人間でもない。一緒にいると案外不幸でもなくて、でもなんかいなくなることが泰子にとって前提の、「生活」のできなそうな人。いますよね~~。そんな人とわかって、でもそれも含め智のところへ行くときめた泰子は、かっこいいなぁ。だれかに引っ張られているようでも、強引に動かされたようでも、結局私たちは自分で選んですすんでるんだなと思いました。

  • いきあたりばったりで流されるように生きている人達のお話だけれども、何故か嫌な気がしない。むしろその流されっぷりを楽しむ私がいた。そのように生きるきっかけになった母親が最後に答えた言葉、「何かが始まったらもう終わるって事はない。はじまったらあとはどんなふうにしても切り抜けなきゃなんないってこと。そしてね、あんた、どんなふうにしたって切り抜けられるものなんだよ。」って言葉が胸に沁みる。そうだね。誰だって生まれたら、生きて行くしかないし、生きてさえいればなんとかなるもんだよねと思えてなんだか希望のような物さえ見える気がした。

  • 半分くらい読んだところで、この作品すっごく好きだ、と強く思った。そして、なんだか晴れ渡ったように、自分のこんがらがって見えた心をすっきりとできた。そして、力強いエネルギーが自分の内からみなぎるのを感じた。
    人は「こうであるべき」とか、「このことをしたら次はこうするべき」とか「しなければいけない」とか、本当はそうでなくてもいいかもしれないことを「常識」とか「義務」とか「さだめ」とか「ふつうは」とか言った言葉に置き換えて自分の思考を行動をがんじがらめにしているのかもしれないってふと思った。そういうことにとらわれていない直子も智を見ていると、なんだか読んでいる私まで息を吸うのが楽に感じた。「みんなどこかでねじれている」っていう泰子の確信めいた言葉は、「そうか。私もねじれているんだ。人間はねじれているものなんだ」と私の肩の力を抜いてくれたように思う。
    またいつか、読みたい。

    星4.5

  • 掴み所がないと感じた小説。直子は障碍者だったのかなぁ。子供を捨てなかったのが本当に不思議。普通ってなんなんだろう。普通じゃないから普通である事を求める智と泰子。でも普通ってなんなんだろう。。

  • 自分の境遇とはかけ離れているのに、ありえることなのかと安心感に似たものを得られた。

  • ひとつの出来事、誰かの行動が、水の波紋のようにひろがっていく。
    中村文則さんの「何もかも憂鬱な夜に」では命の縦のつながりを思ったが、今回は横の広がりをひしひしと感じる。

    直子の行動で自分や両親や様々な人の人生がどうしようもなく変わったと考えた泰子。
    それは確かに事実だけど、それぞれが自分で選んできた道でもあり、すべてのことは始まってしまえばどこかに向かって動き続けるしかない。なんとかなるもんだ、というのは直子らしい言葉だけど、そこに希望を抱かずにはいられない。

    智の章から始まったけど、どうも智は脇役にしか感じられなかった。夫、父親としてはさすがに頼りないなあ。

    角田さんの本は、盛り上がりが来るぞ来るぞ〜と冷静に感じつつ、まんまと言葉に酔えるから気持ちいい。今回は控えめだった気もするけど。

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著者プロフィール

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。90年『幸福な遊戯』で「海燕新人文学賞」を受賞し、デビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で、「野間文芸新人賞」、2003年『空中庭園』で「婦人公論文芸賞」、05年『対岸の彼女』で「直木賞」、07年『八日目の蝉』で「中央公論文芸賞」、11年『ツリーハウス』で「伊藤整文学賞」、12年『かなたの子』で「泉鏡花文学賞」、『紙の月』で「柴田錬三郎賞」、14年『私のなかの彼女』で「河合隼雄物語賞」、21年『源氏物語』の完全新訳で「読売文学賞」を受賞する。他の著書に、『月と雷』『坂の途中の家』『銀の夜』『タラント』、エッセイ集『世界は終わりそうにない』『月夜の散歩』等がある。

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