サルファ剤、忘れられた奇跡 - 世界を変えたナチスの薬と医師ゲルハルト・ドーマクの物語

  • 中央公論新社
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (364ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120044793

感想・レビュー・書評

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  • たいへんに面白い本だが、ややタイトル詐欺。
    副題を「世界を変えたナチスの薬と医師ゲルハルト・ドーマクの物語」というのだが、これだけ見ればあたかも、ナチス政権下で国立研究所かなんかにいたドーマクなる人物がサルファ剤を作ったかのように誤解する。
    実際には、ナチスと聞いて多くの人が想起する1938年の開戦以後のような抑圧社会と、サルファ剤の開発ストーリーはほぼ関係がない。「いわゆるナチス政権」は、サルファ剤の開発も発売も全世界的な熱狂もすべて経た後、ドーマクにノーベル賞が与えられるという段になって、わずかに絡んでくるにすぎない。よって本書でも——こんな副題のくせに——「ナチス」という語は半ば過ぎまで登場しない。

    それはともかく、くり返しになるが面白すぎる本である。
    サルファ剤の開発に至るまでに、ドーマクたちは2年以上もありとあらゆる化合物を総当たり式で試していくのだが、涙なくしては語れないこの苦難の日々は、あっと驚く結末を迎える。メイン物質Aにありふれた物質Bを合成したA+Bにこそ薬理作用があるのだと思い込んでいたのに、なんと取るに足らぬ引き立て役とされてきたBこそが「奇跡の薬」の本体であり、しかもそのことは、ついに発売なったA+B薬の華々しき門出からわずか4か月後に発表されたのだ。
    嘘のような本当の話だが、考えてみれば科学読み物の世界では、逆ベクトルのこの手のエピソードには事欠かない。培養皿にたまたま飛び込んだカビとか、こぼした試薬をとっさに妻のエプロンで拭いたとか、ストーブの上にねばねばを落としたとか、リンゴが頭の上に落ちてきたとかいうアレである。あのような「奇跡」が数々起こるのであれば、「答えはすーぐ目の前にあったのに! なーんで見つからないかなあ?」ということもまた、十二分に起こりえるものなのだろう。

    なお、サルファ剤が「忘れられた」のは、上記B薬の真実が天下に知れ渡ったからではない。かの「奇跡の薬」が辿った運命は、それをはるかに上回る複雑さと興味深さに満ちている。ぜひ一読を勧めたい。

    2017/10/5〜10/7読了

  • すばらしい一冊。原題のほうがしっくり来ます。

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