夢も定かに

著者 :
  • 中央公論新社
3.52
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本棚登録 : 117
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120045318

作品紹介・あらすじ

郷里を離れ、天皇の身の回りの世話をする采女としてやってきた若子。同室にはしっかり者の笠女、数々の男性と浮き名を流す春世がいた。器量は十人並み、何事につけても不器用、優柔不断な若子も、次第に宮廷内で生き抜く術を身につけていく。だが藤原一族の勢力が伸張しつつある時代にあって、若子も政争に巻き込まれ…。

感想・レビュー・書評

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  • 阿波国(あわのくに/徳島県)から采女として宮城に上がり、天皇の食事の配膳をする、「膳司(かしわでのつかさ)に勤務することになった、若子。18歳。
    本来なら、長女の若子が婿を取り、妹が采女として後宮に差し出されるはずだったのだが、妹がまさかの出来ちゃった婚!
    そんな娘を天皇に仕えさせることはできない。
    妹の相手が次男だったため婿に入って家を継いでくれることとなり、代わりに若子が後宮に入る羽目になった。

    采女としての教育も覚悟もなく後宮に入った若子にとって、女官の仕事は辛いことばかり。
    同室の春世に、「そんなに仕事がつらいなら結婚してしまえば?」と言われ、そうかその手があったのか!
    ・・・およそ1300年後の現代でもありそうなやり取り。
    しかし、玉の輿だと思った縁談は、お妾の口だった。
    若子、大ショック!
    しかし、これをきっかけに、ちゃんと勉強をして、女官として一人前になろうと決意するところがえらい。

    宿舎では三人が同室に暮らす。
    頭脳明晰で能筆、頼りになる姉御肌の笠女(かさめ)19歳。
    藤原家の四男・麻呂の子を産んでいるが、次々と浮名を流している春世(はるよ)は、若子より年下の17歳。
    聖武天皇が即位したばかりの奈良の都では、藤原氏が強大な力を持ち始めた頃。
    さまざまな事件が起こり、巻き込まれまいとしても、若子たちのような下級の采女たちでさえ、否応なく巻き込まれてしまう。
    そんな後宮で二年を過ごすうちに、若子は、弱い立場の自分たちが生き抜いていくための確固たる処世術を身につけて行く。
    奈良時代のお仕事小説。
    取るにたらない私たち女性の悩みと友情と。

    ラストに神亀四年(727年)十月二十二日、とはっきり日付が記されているのが気になるのですが・・・

    十年前くらいの発行ですが、こういうお話もまた書いてほしいな、と。
    若子から更にキャリアウーマンとして女官を極めると『恋ふらむ鳥は』の額田王になるのでしょうね。
    時代は遡ることになりますが。

  • 雰囲気を分かりやすく例えるなら、『クララ白書』+『なんて素敵にジャパネスク』って感じ。
    特に何の取り柄もないけれど明るく真っすぐな主人公。
    男に負けない仕事がしたいと必死な才女・笠女。
    藤原麻呂の愛人であり、宮廷内で数々の浮き名を流す美女・春世。
    彼女たちを通して、当時の後宮の雰囲気や構造、空気感や文化のようなものが、ものすごくリアルに浮き出るのです。
    わたしは春世が一番好きですが、この時代、閨事が秘め事ではないとはいえ当然無法地帯というわけではなく、不文律の秩序があったはずなんですね。そういう不文律を描くのは小説の役割だなと改めて感じた。
    藤原房前も出てきますが、教科書赤文字有名人に、ちゃんとキャラクター的魅力を与えて動かすのが本当に上手いなと思います。

  • 女がどう生きるのか。誰にもその幸せを決めさせない。

    舞台は聖武天皇の奈良時代、後宮に勤務する采女の若子を中心に、その同僚の笠女、春世らの物語が紡がれる。正直、この時代は不勉強だったが、そんなに詳しくなくても大丈夫だった。説明はされているし、主な登場人物が最初に載っているし、歴史小説とは時代が違うだけで、いわゆる「働く女子」の物語なのだ。キャリアを目指すもの、玉の輿を狙うもの、漠然と働くうちに何かを見出すもの。女子の社会に疲れたり奮闘したり、男性社会との距離に悩んだり。短編集でひとつひとつの話はそんなに長くなく、全編を通じて奈良の宮廷社会も味わえる。楽しい。

    同僚女性の中からぬきんでよう、あわよくば男性官吏に並ぼうとする笠女。添い遂げることができなくても、恋に生きる春世。流されるだけでなく、自分の足で歩こうとする若子。厳しい上司、辛く当たる先輩、慕ってくれる後輩。自分の身近にもいる働く女性たちの姿である。奈良でも現代でも、いつの時代も変わらない。

    個人的に、権力争いの中で聡明な姿を示す井上皇女(聖武天皇と広刀自の長女)が印象的。特に彼女の進むこれからを思うと。

  • 妹の代わりに後宮に勤める采女としてやってきた若子。不器用で学もない若子は苦労するが、同室で暮らす才女の笠女、男を手玉に取る美貌の春世に助けられ後宮で勤めていく。今までの著作の固い雰囲気が一変したライト風味の本。舞台は聖武天皇在位の720年頃の後宮だが、台詞や行動が現代的で後宮内の派閥や仕事、色恋など現代に通じるOL物語のような感じでサクサク読める。主役の3人を含め女性キャラたちが生き生きしていて、大らかな男女関係や宮中権力闘争のなかで悲哀も味わいながら強かに生き抜いていく彼女たちがとても良い。

  • 面白かったです…!

    平城京の頃。
    後宮を舞台にした物語です。

    畿内豪族の娘たち・氏女と地方豪族の娘たち・采女。
    采女の三人を描きつつ、聖武時代の政争を感じさせるお話でした。

    最初は新人で芯のなかった若子が、最後には采女としてこの後宮で生ききろうとする姿はとても成長物語としても面白かったし、これまで光を当てられていなかった部分なので、面白いと思いました。

  • 平安時代の後宮のイメージが少し分かった気がする。男女の関係は奔放だな。場が狭いから、話の展開が難しいのが難点か。

  • 軽やかで読みやすい。平城京の後宮のお仕事と意地。清々しい青春記。

  • 聖武朝、3人の采女が中心の物語。文庫版の表紙はかわいらしいイラストになってるが、そのイメージでもじゅうぶんイケる。
    石上朝臣志斐弖が登場すると聞いて読んだが、なぜか常陸出身の采女ということになっていた。左大臣石上麻呂からはじまる石上朝臣氏とはいったい…いや、小説だからストーリー展開に必要なら史実を曲げるのも仕方ないのはわかってるんだけどね…
    藤原房前は好き

  • 2016.10.05

  • 各章独立一話完結型の、奈良時代の下級女官たちの群像劇。
    この時代に多い貴族皇族の政争はあくまで背景、架空ではあるが、当時いたに違いない歴史の闇に潜んでいる女たちの切ない日常。姫君のありがちな色恋沙汰ではなく、寄る辺無き女たちの仕事ぶりがわかる。

    澤田ふじ子二世という予備知識がなく読んだ。
    ラノベ歴史ものみたいな平易さだが、よみやすい。ラノベよりはしっかり純文学している、お硬い感じ。

    資料調べがていねいで当時の風俗がよくわかるが、その描写に嫌味さがない。時代は聖武天皇の御代。

    この時代の小説はいくらでもあるし、里中満智子の漫画に感化された軽いもの、と期待しないでいたが、おもしろかった。
    ただの歴史マニアだけではなく、著者の労働体験が生きているのではないかと思わせる、非常に闊達した人間ドラマとなっている。別作も読んでみたい。




    ただ、主人公の若子があっさりと権力者の宇合とねんごろになってしまうあたり、最後にそのことが後輩を救う手だてになるとはいいつつ、いささか無理がある気がしたので★は4つ。

  • 2015.5.13

  • 澤田瞳子2冊目。
    お堅い内容だった『日輪の賦』にくらべると、主人公が3人の若い采女ということもあり、とても読みやすく面白かったです^^
    後宮での采女の仕事ぶりや生活が詳しく描かれており、この時代が好きな人には たまらないですね。
    一話一話きれいにまとまっていて、これ、漫画とかで見てみたいなあ。

  • 澤田さんの作品を初めて読みました。
    藤原不比等と房前が好きなので
    面白く読めました。
    不比等さんの時代のお話を書いてほしいです。

  • 宮廷青春小説

    慣れない名前や部署名に苦戦しましたが
    主人公たちの奮闘ぶりに好感

  • 天平期は藤原四子政権の頃、後宮のあれやこれは、コバルト文庫的な切り口だけど、内容が濃いので興味深くとても面白い。
    今も昔も変わらないのは男と女、怖いのは妬み嫉みか。

  • 澤田瞳子さんの、奈良もの第三弾。
    持統さんの時代です。
    かわいくてわきゃわきゃした女子もの連作かと思ったら。
    裏に詰まってるあれこれが、カウンターで効いてきましたなー。
    政争に色恋沙汰に、身分制度まで。
    軽く見えて、実は中身が濃い。
    自分的に、持統天皇とか表記せずに、讃良とか首とかで書いてあるのが好。やー、幾つか人名、読めなくて、ぐはりとしましたが(汗)、それはそれということで。

  • 私の大好きな平安時代のお話。
    登場人物には、実在の人物である藤原4兄弟も出てきたりする。

    主人公は采女たちなのだが、当時の采女や氏女の暮らしぶりを知ることができた点はよかった。
    けれども、人物の描きかたが、現代風っぽくてなじめなかった。
    昔の人も今の人と変わらない気持ちを持っていたのだろうか?

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著者プロフィール

1977年京都府生まれ。2011年デビュー作『孤鷹の天』で中山義秀文学賞、’13年『満つる月の如し 仏師・定朝』で本屋が選ぶ時代小説大賞、新田次郎文学賞、’16年『若冲』で親鸞賞、歴史時代作家クラブ賞作品賞、’20年『駆け入りの寺』で舟橋聖一文学賞、’21年『星落ちて、なお』で直木賞を受賞。近著に『漆花ひとつ』『恋ふらむ鳥は』『吼えろ道真 大宰府の詩』がある。

澤田瞳子の作品

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