恋しくて - TEN SELECTED LOVE STORIES
- 中央公論新社 (2013年9月7日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (372ページ)
- / ISBN・EAN: 9784120045356
作品紹介・あらすじ
村上春樹が選んで訳した世界のラブ・ストーリー+書き下ろし短編小説。
感想・レビュー・書評
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村上春樹選定&訳の「いろんなレベルの恋愛小説集」。
ー ー初心者の震えも、上級者の迷いも、「恋する心」に変わりはありませんーーという帯も、 竹下夢二「黒船屋」の表紙絵も、“少女”(#^.^#)の心をくすぐります。
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春樹さん書き下ろしの小説が入っている、とあれば、たった一作であっても、そしてとても短いものであっても、それは買わなければいけないでしょう。(#^.^#)
で、もちろん、一番最後に収録された「恋するザムザ」から読み始めた私。
ザムザとくれば当然カフカなのだけど、これはまさに「変身」のその後、という設定。
なんとザムザはまた人間の身体に戻って、でも、変身していた間のことは何も覚えていないどころか、その前の人間だった時のことも記憶にないという…。
よほど長い間を大きな虫として過ごしたあげく、ということになっているらしく、例のベッドの上で目を覚まして非常に戸惑いながらも徐々に体を起こしていく過程が、よいしょ、よいしょと声をかけてあげたくなるようなおぼつかなさで、哀れというか、可愛いというか。
カフカは「変身」を笑いながら書いた、というような話があるけれど、昔々に読んだそれは私にはとても笑えるものではなく、特に最後に家族から打ち捨てられる怖ろしさには、なんなんだ、これは~~!と思った覚えがあります。
で、春樹さんは、その笑いのテイストをとても優しく後日談としての春樹物語にしてくれて、ようやく私にザムザを完結させてくれたんですね、なんて、まるでずっと彼のことを気にしていたみたいに思ってしまったのが可笑しいです。
恋愛小説集なのですから、当然ザムザの前にも女性が現れるわけですが、その彼女がまた、実に味わい深い!! 差別用語をあえて使った、背中にハンデを持つ錠前屋の娘が“変態ファック”について語る口調の諦観というか強さというかがとても好き。
ザムザが部屋に閉じ込められている間に彼の街はとうとう戦闘状態に入ったようで、そんな非常事態の中での“恋”が滑稽で、哀しくて・・・。
後書きもよかったです。
しかしここに収められた作品をひとつひとつ読んでいくと、人を恋するというのもなかなか大変なことなんだな、と改めて痛感しないわけにはいかない。あなたの場合はいかがですか?僕個人の場合もーいちいち細かく説明しているような紙数はないけどーそれなりに大変でした。
でもたしかにいろいろと大変ではあるのだけれど、人を恋する気持ちというのは、けっこう長持ちするものである。・・・・
う~~ん、引用を始めると切りなく続けてしまいたくなるので、こんな半端なところで切ってしまいますが、
「またあなたに会えるだろうか」と尋ねるザムザに
「誰かに会いたいとずっと思っていれば、きっといつか会えるものだよ」という娘の答えが、言ってしまえばかなり陳腐な物言いであるのに、なんでこんなに優しく響くのか。
春樹さんは今年もノーベル賞には当たらなかったけど(ご本人は欲しいとも思ってないんでしょうね。私はくれるんだったらもらってほしいな、って思いますけど。)ぽつりぽつりと新作を発表してくれるのが何よりファンには嬉しいこと、なんて、それこそ陳腐なフレーズで〆ることにいたします。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
きらめく星がいつか消えていくように、愛もいつかは終わるもの。誰かを愛しているとき、いつまでも一緒にいたいという望みと、もしかしたら、いや、遅かれ早かれ別れのときが来るのだという恐れがからまり合って胸をしめつける。生きて出会うことは、すべてがこの繰り返し。たとえ運命の嵐に翻弄され、悲しい結末を迎えたとしても、共に過ごした時間と交わした想いは何物にも代えがたい。
瞼を閉じて。ときとして、わたしはあなたを思い起こし、ときとして、わたしはあなたを忘れて眠る。わたしがこれから歩む薔薇色の道であなたの面影が踊るでしょう。 -
村上春樹のお眼鏡にかなった北米の作家たちによる短篇を9篇収録+最後に御大自身の小品という構成。中にはちゃんと本年度のノーベル文学賞を受賞したアリス・マンローの作品も入っていて、なかなかに慧眼。もっとも、彼女の作品は柴田元幸氏の選らしいのだが。収められた短篇はいずれも大人の恋を描いて洒脱な風情を漂わせるものばかりだ。村上春樹も若くないのだ(これはいい意味で)。篇中では「モントリオールの恋人」が白眉か。なお、作品集のタイトル『恋しくて』には違和感が否めない。『ラヴ・ストーリーズ』でよかったのではないだろうか。
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始めの2つ3つくらいまでが、結構ストレートめのラブストーリーだったので、「ん?」と思ったが、その後からは、癖のあるものも。
「モントリオールの恋人」が読みやすいながらもひねりがあって面白かった。
村上描き下ろしは、力が抜けていて、筆者が楽しんで書いた印象。ザムザが女の子に恋してしまうきっかけには、思わず笑ってしまった。 -
「これは長く水の中を泳いで、そのあとで水面に浮上して息を吸い込むのと同じだな。
世の中でいちばん素晴らしい気分だよ。
もう二度と吸えないんじゃないかと思っていた空気を、胸一杯に吸い込む」。
彼はコンパスを見て、その頬に手を触れ、優しく言う。
「それが浮上することだ」 -
こんな小さいけど素敵な作品学園あるんだなぁと幸せな気持ちになりました。
私は"Lデパードとアリエット愛の物語"が一番印象に残りました。
お父さんが亡くなったら会いに行けばいいのに、って思ったけど、そういう問題では無いんだろうな。
愛の凄さ?
私には無理だな。
何だか切なくて温かい気持ちになりました(^^) -
1月の読書会お題本。
春樹さん翻訳のラブ・ストーリーアンソロジー。
『いろんな種類の、いろんなレベルのラブ・ストーリー。』
私の一番のお気に入りはそりゃそもちろん春樹さん書き下ろし「恋するザムザ」。
だが、春樹さんセレクトの8編もとても素敵。
「愛し合うふたりに代わって」
911以降の兵役の為に離れ離れになった恋人たちの代理結婚をベースにした、高校時代からの友達のような関係を気づいてきた男女の、どちらかといえば男の子の切ないお話し。私的にはこの男の子、ウィリアムがかなり好き。とても感情移入しながら読んだ。
「テレサ」
これ、かなり好き。クールで都会っぽくて、すごく切ない。
14歳で身長190cm体重120キロという巨漢のアンジェロ、がストーカーのようにテレサのあとをつけてしまう。ここが春樹さんのいう、ちょっとしたロードムービーみたいだ。すごく短い話。世相を思う。子どもの貧困とか?
「二人の少年と、一人の少女」
これも好き。根っからの皮肉屋、「最もシニカルな生徒」ギルバートと、レイフとメアリ・アンの良くある青春の3角関係?でもなんだかわけのわからないハードボイルドなラストがとにかく好きだ。レイフがいない間に二人で何度も行った店のいつものジュークBox前の席でいつも聴くのがボブ・ディランってとこが、なんとも初期の春樹さんっぽいところも好き。
「ジャック・ランダ・ホテル」
これは柴田元幸さんのおすすめだとか。
現在からの描き始めで、遡っていく感じがなかなかつかめなくて読み進めるのにてこずるも、だからこそこのしたたかな女のやり方に痛々しくも可愛いと思ってしまい、もう一度読み返す。そして良くできてるわーと膝を打った。
「恋と水素」
これもいい。飛行船での、空中での逢瀬。病みつきになりそうだ。
「恋するザムザ」
春樹さん曰く「変身」後日譚の、ようなもの。
何かから、どうやら人間に変身してしまったザムザくんが鍵師でせむしの女の子に恋する。メリー・ポピンズみたいな女の子の姿がなんとも素敵だのにせむしなの。 -
読みにくいのも読みやすいのもありました
リチャード・フォード -
切ない恋心
いっそ恋なんかしなければいいのに
なんで恋するのぉと思ってしまう
もー恋なんて封印だー
『薄暗い運命』なーんかわかる
『恋するザムザ』会話が下ネタ笑う