ニッポンが変わる、女が変える

著者 :
  • 中央公論新社
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感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (261ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120045479

作品紹介・あらすじ

女の力を活かさないこの国に未来はない。3・11以後の日本をめぐって上野千鶴子が12人の女性と徹底討論!

感想・レビュー・書評

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  • このタイトルは何とかならなかったのだろうか。ちょっと手に取る気になりにくい。よく見ると、上野先生の対談相手がとてもユニークなので、読み始めてみたら非常に濃い内容で、大きく心を揺さぶられた。

    「3.11」の後、ニッポンは変わらなきゃ、変わるはずだ、それを担うのは女性だ、という強い意気込みで対談の連載は始まったそうだ。そして二年…。今年の夏に書かれた「あとがき」には、「本書を世に送り出すのに、もっと前向きの明るい『あとがき』を書ける状況にないことが哀しい」とある。まったく日本はどこに向かっているのか。そういう思いをタイトルにも反映してほしかったと思う。

    しかしまあ、この顔ぶれはすごい。上野さんが「こころから尊敬できる女性ばかり」だそうだが、馴れ合いの雰囲気がカケラもなく、緊張感に満ちている。疑問に思うこと、異議があることを上野さんは容赦なく突きつけていく。それに対してどの方も、一歩も引かず自分の考えを述べていく。こういう実のある対談は珍しいと思う。

    田中眞紀子さんと対談しようなどと考える論客が他にいるだろうか。ここでの田中さんの発言を読むと、メディアが彼女をいかに露骨にイロモノ扱いしているかということがよくわかる。もちろん、上野さんとはまったく立ち位置が違うわけだけれど、それだけに対談内容は刺激的だ。

    辛淑玉さんとの対談は、まさに猛者二人のがっぷり四つ。非常に読み応えがあった。以下、印象に残ったところを引用しておく。

    高村薫「地震で死んだ人と死んでいない人の不幸を受け入れる唯一の方法として、仏教の“縁起”という考え方を発見した。私はその時から、生まれて初めて生きていることを肯定的にとらえることができるようになったのです」
    上野「私は社会学者であることを選んだとき、一つ自分に課したことがあります。祈りと超越を禁じたのです」
    高村「私が発見したのは、信仰という超越ではなく、あくまで仏教の思想原理です。」
    上野「というか、宗教を禁じ手にしたのです」
    高村「確かに.宗教を持ち出したらズルでしょうというところはありますが」
    上野「ご自分で言ってくださってありがとう(笑)」

    上野「石原や橋下がウケるのは中央政府や公務員という敵を作り、徹底的に叩いているから。既得権益に戦いを挑んでいるという幻想が大きいのでしょう」
    高村「大阪府の職員を叩いて政治ができるならこんな簡単なことはない」
    上野「そんな簡単なことに引っかかる有権者がいるわけです」
    高村「私の周囲には一人もいません」
    上野「私の周囲にだっていません。アメリカにいた時も、私の周りにブッシュに投票する人は一人もいなかった」
    高村「アメリカのような階層分化が、ついに日本でもできたのでしょうか」

    永井愛「橋下さんのように罰則でもって人を支配したがる人を、皆、なぜあんなに尊敬するのか。自分の首を絞めることになる結果が見えているのに!」

    中西準子「今、私たちが直面している問題は、『リスクはあるが、選びましょう』ということです。私から言わせれば、これは『人生』。われわれの生きる道であり、生きていかなければならない道です。なぜ、それを選ぶのか。それは選ばないともっと困ったことが起きるからです。リスクを選んで生きよう、なのです」
          (中略) 
    上野「納得のいくお答えですね。リスクはなくならない」
    中西「なくならない」
    上野「だから相対的なリスクを選べ、ということですね。しかし、一つ間違えれば、中西さんは政府の回し者、と見られるかも」
    中西「いつもそう言われてます(笑)」
    上野「ずっと行政と闘ってきた闘士だったのに(笑)。情報と選択肢を提供するのは専門家と政治の責任で、あとは自分の運命を自分で選ぶという自己決定。つまり、情報公開と民主主義が、中西さんのお考えです。私も同感です」

  • 聞き手が上野さんて凄いな。東日本大震災を受けての対談なんだけど、今のこの不穏な空気感で読むとまた興味深い。なんならそこから10年経っても何も変わらない日本が悲しい

  • 今から6年前の本で、東日本大震災を経ての内容が多い対談だった。
    日本は変わるかもしれない、変えていかなきゃいけないっていうそういう空気をひしひしと本の中から感じ取って、ふと本から目を離して、今現在に戻ってみれば、絶望じゃないか。

    上野千鶴子さんの本は読んだことないけど、ウートピの対談は読んだことがあって、その対談は上野千鶴子さんの圧というか語彙の強さが凄すぎて、上野先生にはそんな気はないんだろうけど、なんか対等じゃないというか、責められ感な雰囲気を感じちゃったんだけど、この本の対談では一切そんなこと感じなかった。みんな上野先生に負けない圧のある人ばかりで、これぞ対等な対談って感じだった。
    加藤陽子先生目当てだったけど、辛淑玉さんの対談が一番印象に残った。被災地での外国人への差別を語る辛さんが、2019年現在日本にいられなくなってしまった事が、辛さんの言葉を一層重たいものとして感じる。
    そして自分には女性差別的な視点はあるけど、外国人や障がい者の視点は欠落している事に気付いた。避難所で中国語を喋らないように隅っこで黙っているとか、本当にきつい。

    加藤陽子先生との対談は歴史との比較を踏まえてわかりやすくてよかった。自分自身もそうなんだけど、この隠蔽体質・結果のための捏造や都合の良いデータ指数っていう問題はどうやったら改善するのだろうか。それこそもはや日本の伝統じゃないか。昔っからの。

    全体通して力強いというか、まだどうにか変わる!みたいなパワーを感じる中、最後の石牟礼さんだけは、読んでてあんまり希望を持ってないというか、なんかそういうのの先にいる感じを受けました。

    あと、瀬戸内寂聴さんの「あなたたちの苦しみを代わって死んでいった」のあたりは、すごいぐっときたというか。どうして死んだのかの意味。自分がもし好きな人を失ったとき、瀬戸内寂聴さんにそう言ってもらえたら少しは救われるのかもしれない。
    高村薫もそうだけど、宗教の力ってやはりあるのかもって思いました。

  • 2011年の原発事故を受け、上野千鶴子が12人の女性たちの対談録。対談相手は、髙村薫(作家)、瀬戸内寂聴(作家、天台宗尼僧)、永井愛(劇作家、演出家)、国谷裕子(キャスター)、田中眞紀子(前衆議院議員)、辛淑玉(人材育成コンサルタント)、浜矩子(経済学者)、加藤陽子(歴史学者)、中西準子(環境リスク学者)、林文子(横浜市長)、澤地久枝(ノンフィクション作家)、石牟礼道子(作家)というバラエティ豊かにして珠玉の面々。
    特に面白かったが、加藤陽子、中西準子との対談。どこか一歩引いたような感じを受けてしまった。いわゆる知と理と論で成り立つ学者の世界だからこそ説得力があるところに、女性的な視点(この場合、なれ合いにならなかったり、学者バカにならないという意味)が絡まることで、思い切りよく斬新で裏付けのある話が生まれてくる感じがした。対して、作家の話はおしなべて観念的というか、一歩引いているような感じがしてしまった。
    もともとは「婦人公論」に連載されたものだとか。果たして日本の他の雑誌でこのような企画が成り立つだろうか。男性を読者対象に入れている雑誌では成り立ちにくいし、天下国家や社会的な課題に日ごろから触れている雑誌でないとまた成り立ちにくいのではないかと思う。その点で「婦人公論」は稀有にして貴重な雑誌だ。

  • 上野千鶴子と聞き、最初から食わず嫌いする人に何を言っても無駄でしょうが、対談している相手が錚々たるメンバーなら興味もわくでしょうか。
    高村薫、瀬戸内寂聴、永井愛、国谷裕子、田中眞紀子、辛淑玉、浜矩子、加藤陽子、中西準子、林文子、澤地久枝、石牟礼道子。
    上野さんが、ラブコールして実現した対談集ですが、いやはや中身の濃さが身にしみます。上野千鶴子信者ではありませぬので、女性がどうのこうのというのはわたし的には問題外ですが、社会学や、女性学ちいうように、"学"がつくモノには意味があると思います。この本は、昨年2014年の水俣病シンポジムでに講演で販売されていたものですが、年末にじっくりと向き合ってみました。
    政治家、アナウンサー、作家などなど固有の職業に就く女性から見た日本は、女性の力をいかに有効に使うか、またどう使えば、今以上の日本を良くできるかという観点で話が始まります。地に足がついた女性だからこそわかることを明確に指摘しているのはみなさんおなじでした。大きく変えていくには、民間だけでは無理で、やはり政治の面からのアプローチは重要。大きなポストにつかずとも、底辺を支えていくことも女性の力でしか、なし得ない部分もあるということの気づきをもらいました。

  • 雑誌「婦人公論」での連載対談をまとめた本。
    すべての言葉がすんなり沁みるように入る。
    本当に第二次大戦の総括をしないと、日本のこの責任逃れと先送りの宿痾に変化が現れようがない。
    私自身、政治的なことに対して、どう判断するか?と考えるとき誰かの意見にめちゃくちゃ左右される。
    そして“わかりやすさ”に流れる軽薄もの。そっちは絶対注意と戒めても、思考の土台となる根っこがないもんだから揺れまくる。
    自分のバカさと教養の無さが大きな原因だが、それでも、あの戦争のときのデジャブか?とも思える3.11後では「何が失敗で、誰に責任があって、何がどうだったのか?」という総括は歴史授業で絶対にやらないといけないと強く感じる。
    未来を創る上で絶対必要だ。
    日本という国は、また民を守らず棄てる、と語るこの対談の女性たちの声を権力の中枢にいる男どもは本当にどう聞いてるんだろうか。

    -髙村薫
    -瀬戸内寂聴
    -永井愛
    -国谷裕子
    -田中眞紀子
    -辛淑玉★
    -浜矩子★
    -加藤陽子★
    -中西準子
    -林文子
    -澤地久枝★
    -石牟礼道子★

    ★読んだことない方もあり読みたいのと、改めて読み直したいのと。

  • 考えること とは こういうこと
    話すこと とは こういうこと
    丁々発止 の
    言葉 と 思考 のやりとり
    が 気持ちよい

    この対談に登場している
    人たちが
    どのように見られているか
    どのように位置づけられているか
    どのように抑圧されているか
    どのように賛同されているか

    その集団 その個人 そのチーム
    の 資質がみえてくる

    次の人に
    手渡したい一冊です

  • 304婦人公論連載対談集

  • 国谷裕子さん、浜矩子さん、林文子さんとの対談に期待をして手に取りました。

    社会学者である著者の視点が中心で、時節柄、原発問題を柱に展開されています。個人的には、ウーマノミクスに興味があったので読んでみたのですが、本書により、国民の一人として原発問題にもっと関心を持たなければいけないと感じました。

    さまざまな専門領域の女性トップランナーと一緒に、少しずつ角度の違うところから社会問題を斬るといった構成です。

    本書から学んだことは、女性が意思決定の場にいることが大事であり、男性にお任せという立場ではいけないということです。

    また、なるほどと思ったのは、環境リスク学者の中西準子さんが「リスクを選ぶ」という表現をされていたことです。
    リスクのない世界はありません。それは私が専門領域とする投資の世界でも同じです。「受け入れるならどのリスクを受け入れるのか」という考え方をする……、なるほどな~と思いました。

  • 上野先生、強いですね。女の怖さを思い知りました。と同時に聡明な女性たちの活発な発言を聴いて、自分自身の意見を臆せず言うことの必要性、そしてそのための自分の知識不足を思い知りました。もっと勉強して、強く自分の意見を秘めた(あまり普段からガツガツはしていたくないので、必要な時だけそういう発言をしたい・・・)人になりたいですね。良い刺激になりました。

    でもタイトルはちょっともったいない気がする。3.11以降の女性たちの生き方の紹介だってことがイマイチわからない。3.11をもっと押しても良かったきがする。

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著者プロフィール

上野千鶴子(うえの・ちづこ)東京大学名誉教授、WAN理事長。社会学。

「2021年 『学問の自由が危ない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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