ポースケ

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著者 : 津村記久子
  • 中央公論新社 (2013年12月9日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (283ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120045752

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ポースケの感想・レビュー・書評

  • 「ポトスライムの舟」の続編ともいうべき作品。
    奈良の居心地の良いカフェを中心に、出入りする女性たちの人間模様を描いていきます。
    前のを読んでいなくても差し支えありません。

    「食事・喫茶 ハタナカ」を経営するヨシカ(畑中芳夏)は34歳。
    体格がよく子供の頃からしっかり者と見られてきた。
    ある日、ポースケというフィンランドのお祭りがあることを知り、何となく店でやってみようかと考えます。
    品数は少ないが日替わりで親しみやすい料理を出すお店のコンセプトは、一人で来てもくつろげる場所。
    店の奥には持ち寄りの本棚があり、借りて行ってもいいことになっている。

    店でてきぱき働く陽気なオバチャンのとき子さんは、3人の子がいる主婦。弁当工場などで働いてきた。
    今は末娘が求職中で、はらはらしながら見守っています。
    企業が見ることもあるからと娘がブログを作ったが、書く暇もないので代わりに書いているという。

    若い店員の竹井さんは、店から2分のところに住んでいる。
    電車に乗ることが出来ず、浅い眠りでは悪夢を見るため、疲れきってから倒れるように寝て、へんな時刻に目が覚めてしまう状態。
    会社で直属上司のモラハラに遭い、壊れてしまったのだ。
    この描写は迫力があります。
    何気ない日常がゆるやかに過ぎ行くうちに、希望の光が見えるのが嬉しい。

    ヨシカの友人りつ子の娘・恵奈は小学生。
    飼育栽培委員で、植物を育てるのが大好きなのだが、意地悪な先生の目を盗んで、苺を余分に育てている。
    学校の隅っこで起こるあれこれが妙に面白い。

    にぎやかな主婦のそよ乃も、ヨシカの友人。
    明るく人懐こいが、不登校になった息子のために奔走する日々。

    店の常連ののぞみは、大人しい会社員。
    強気な先輩やいい調子の後輩に挟まれて、いささか苦労している日々。
    ポースケに参加してみようかと、ふと考える。

    一人暮らしのゆきえは、彼氏のぼんちゃんとゆるゆる付き合っている。
    ところが元彼が妙な手紙をよこし、ストーカー化してきた。上からものを言っていた男は、自分がふられたのが納得いかず、いまだに支配したいらしい。

    ピアノの先生の冬美は、夫と二人暮らし。
    ピアノが好きでお試しに来た幼い女の子が、よく世話をされていない様子なのが気にかかっていた。
    母親が引きこもっているらしい‥

    登場人物が多くて、ちょっと混乱‥メモを取る必要があるかも。
    急いで読むことはなくて、楽しみにじっくり読めばいいのかな。
    どこにでもいそうな人の誰にでも、色んな悩みや事情があるんですね。
    ちょっとした出来事や美味しい食べ物に、親しみを感じながら読み進められます。
    こういうお店が近くにあったら、いいのに!
    登場人物の年齢や境遇の幅が広くなったため、誰でもどこかで共感できそうです。

  • 奈良でカフェを営むヨシカ。そのカフェに集う人々の日々をゆるやかに綴った連作短編集。
    母子家庭の小学生の娘、就活に苦戦する娘を抱える主婦、元彼のストーキングに悩むOL…皆がそれぞれ大なり小なり、生きていく上での煩わしさを感じている。だけど津村さんは相変わらず絶妙な距離感で、時にユーモアを交えながら、自然にそっと、立ち止まっていた登場人物らを歩ませてくれる。その押しつけがましくないところに救われる。
    毎回津村さんのフード描写は絶品なのであるが、今回はカフェが舞台であるからして、出てくるお料理がもうどれもおいしそうなのだ。いくつかのカフェを丁寧に取材したことが窺えるようなカフェの日常。ヨシカが提供するこの空間が、お客さん達の憩いの場所になっているということが自然に伝わってきて微笑ましい。それが存分に感じられるのが、終盤の「ポースケ」のシーンだ。ポースケって、当初「ポー助」みたいな誰かの呼び名かと思ってましたが(笑)ノルウェーのイースターのようです。でも、この「ポースケ」て響きが間抜けでかわいくって、津村作品によく合ってるなと思うのだ。カフェが舞台って描き方によってはしゃらくさくなってしまいがちだけど、ただおしゃれなだけじゃなく、書棚にノルウェー語の本やウミウシの写真集があったり、海外ドラマが流れてたりと、店の雰囲気にも「津村イズム」が感じられるのがまたいい。話の流れに絡む小ネタのチョイスも巧いです。
    そして、「一喜一憂を延々と繰り返すことこそが、日々を暮らすということ」というくだりが印象的だ。
    「えらい人は先々のことを見据えてどうのこうの考えられて、八喜三憂とかに調整できるのかもしれないけれども、我々しもじもの者は、一つ一つ通過して、傷付いて、片付けていくしかないのだ。そうする以外できないのだ。」
    ほんとにね、八喜三憂なんてやりたいけど(笑)私もまた要領のよくないしもじもの者だと自負しているので、小さいアップダウンに翻弄されながら暮らしていくのだ。そんな当たり前のことを再確認して、足もと見つめられたなって思える。津村作品を読むと。
    ところで本作は「ポトスライムの舟」続編ってことで、ナガセの登場が懐かしかった。「ポースケ」のみでも十分楽しめるけど、「ポトス…」と合わせて読めば面白さ倍増かも。「ポトス…」発表からだいぶ時間が経っているので、改めて読み返したいな。

  • 冒頭───
     その日の最後から二番目のお客は、店の奥に置いてある高さ一八〇センチの本棚を指さして、あそこに横積みしてある本って店主さんの趣味なんですか? 来るたびに様子が違ってるんやけど、と不思議そうに訊いてきた。若い、といっても三十代前半ぐらいに見える男のひとだった。最近の人は、よほどの年齢にならない限りは皆若く見える。わたしの本もありますけど、パートさんの本もあるし、お客さんが持て余してなんとなく置いていく本もあるし、とヨシカは答えながら、千円札を受け取り、興味のある本があればお貸しします、と付け加えた。
    ──────

    どうも最近は長編小説と言っても、章ごとに視点が変わる作品が多い気がする。
    視点が変わると、自分の頭の中でも脳内再生の切り替えをしなければならず、それがちょっと疲れる。
    少し時間を空けないと前の視点が頭に残ったままなので、切り替えがスムーズにできない。
    年を取ったせいかな。

    食堂とも喫茶店ともつかないようなヨシカの経営する店に集う様々な客たち。
    それぞれ、何かしらの悩みや問題を抱えている。
    章ごとに、ヨシカやその客たちの視点で自分の日常が語られていく。
    会社での人間関係に少し疑問を抱いているのぞみ。
    母しかおらず、学校で密かに苺を栽培している小学生の恵奈。
    どこでも寝てしまい、電車にも乗れないという奇病を抱えている竹井さん。
    別れた彼氏のストーカーまがいの行為に悩まされているゆきえ。
    就活で苦しんでいる娘を何とか手助けしてやりたいと願っている十喜子。
    夫婦仲に不満はないが子供ができないピアノ教師冬実。

    些細なことのようで深刻であったり、重い問題なのにさらっと軽く書き流したり、その辺りの津村さんの描写や心情表現がいつも上手いなと感心する。
    基本的に悪人は殆ど登場しない。
    みんな、心のどこかに少し傷を負った優しい人ばかり。
    悩みや問題も、最後には明るい光が射し込んでくる。
    完全に問題が解決したわけではないけれど、まだまだ頑張れば未来は明るい。
    それぞれの客のエピソードは、つらいことがあっても人間何とかなるものだと希望が持てるような展開だ。
    そして、最終章はみんなを集めて“ポースケ”というノルウェーで行われているという復活祭の開催。
    集まったみんなの少しはにかんだ笑顔が目に浮かぶようだ。

    ありふれた日常だけど、光に満ちた新しい明日は必ずやってくる。
    寒くて身体も心も冷え切っているときに飲む温かな一杯のミルクティー。
    そんな感じを抱かせる、心休まる秀作だと思います。
    いやあ、好きだなあ、津村さんの紡ぎ出す独特の作品世界。
    彼女の作品を読むたびにファンになっていきます。

  • もう津村さんの作品はここずっといつもおもしろい。安心。
    これもものすごくよかった。
    会社を辞めてはじめたカフェに従業員やお客として次第に集まってくる人々の話で。

    津村さんの作品ではいつも、人々の会話の繊細さというか会話している人たちの心の繊細さというかを感じる。普段わたしたちだってなにげなくしゃべっているようで、その実、心のなかではあれこれあれこれ考えてるよなあ、というのをあらためて思い出すような。(いや、わたしだけじゃなくてみんなもこんなに考えてるんだったら、わたしももっと気をつけなきゃいけない、緊張するなあ、とかとも思う)。

    わたしは人と気やすく打ちとけたり、社交したり、友達になったりするのが苦手なので、共感するところがすごく多く、また、いろいろほっとした。そして、まあまあちょっとずつ頑張らなきゃいけないなあとも。

    あと、津村さんの作品を読むといつも、ほんとうにほんとうにささいなことでも楽しいと思うことがあればいいんだよねえ、とか思う。

  • 津村さんのよさがとってもよく出てる作品かと。
    物語の中で繰り広げられる日常にどっぷり入れて、それが心地よい。
    非日常、ではないんですよね。

    人生には一喜一憂しかなくて、それを繰り返しながら日々を生きるしかない、っていうのが、諦観ではなくて前向きな生き様として描かれていて。
    うれしかったり、落ち込んだり、たのしかったり、苦しかったりする、愛すべき日常。
    なんだろうなあ、やっぱり好きだなあ、としか言い様がないんですが。
    生真面目で善良な登場人物たち。
    みんながんばれ。おれもがんばる。

  • 津村記久子さんの最新小説。
    本屋さんで偶然見つけて、その場で買いました。
    大阪出身で大阪在住の同年代の小説家さんで、
    きっかけは友人に勧められて、5年くらい前に「ミュージック・ブレス・ユー」を読んだことから始まるんですが、
    なんとなく常に最新刊を読むようになって3年くらい経ちます。
    文章も世界観も嫌いじゃないので、そういう人を常に進行形で追っかけることができるのは、これはこれはで読書の愉しみですね。

    で、「ポースケ」です。
    一年前か二年前に、サラリーマン小説家であることを辞められたそうで。
    どことなく装丁(ORANGE100%さんですね。素敵ですね)を見た感じからも、
    タイトルからも、「あ、なんとなく肯定的な方向、前向きな方向に向いてきたんじゃないかな」と感じたんです。
    悪くない意味で、そうでした。

    「ポトスライムの舟」の続編というか姉妹編というか、という言葉でも言えるんですが、
    読んでなくても全く大丈夫だと思います。

    奈良の、恐らく近鉄沿線沿いの、駅前商店街のどこかに、「ハタナカ」という喫茶店があります。
    喫茶店というか、21世紀的にはカフェ、というのかも知れませんが。
    どうやらそんなに狭くなくて、ご飯も食べられるようなお店です。
    そこのカフェの店主、従業員、常連客たちの、連作的人生模様短編小説集、というのがいちばんざっくりした言い方ですね。
    年代的には小学生から、50代くらいまで。共通点は唯一、女性っていうことですね。
    それぞれに、元カレがちょっとストーカーぽかったり、子供が就活で苦しんで家の中が暗かったり。
    学校の先生が嫌だったり母子家庭だったり、パワハラで前の会社を辞めて後遺症的な心身症的な病気があったり、
    子供が欲しいけどできない夫婦でもうアラフォーだったり、肌が弱くて職場の女性先輩がどうにも仲良くなれなかったり。
    色々ありますが、津村記久子さんの小説世界なんで、
    別に犯罪とか国際的陰謀とかは起こらないし、
    派手に一流企業で戦士のように働いている人も出てこないし、
    アンニュイな美男と美女が抽象的な哀しみに浸ったりブンガク的にHをしたりすることもありません。

    ひたすらに具体的で瑣末な現実的な事柄が見えたり語られたりして。
    みんなが大抵それほど立派でもなくて。
    なんだけどほとんどみんなが妙にサブカルチャーと呼ばれる、「テレビのバラエティのように超メジャーな位置づけになっていない、軽めの文化風俗的事象」
    について詳しかったり、楽しんだりしている、という、共通項があったりするけれど。まあそこは看過するとして。

    (欧州サッカーとか、外国語とか、フィギュアスケート、海外ドラマ。
    脱線しますが、津村さんの中に基本的に海外嗜好があるんですね。妄想としての海外の世界。フィクションとしての海外性というか。
    それがあるから、ローカルに留まって作品を書けるのか。どっちが卵で鶏か、わかりませんけど。
    これがまた、年輪が一周して、津村さんが日本古典文学とか仏像とか自社とか歌舞伎とかを、
    本当に好きになったらどういう小説になっていくのか、それはそれでワクワクします)

    特段ドラマチックなことはなくて、起こるとすれば悪いものごとだったりする予感に満ちている。
    そして、世界は男性的な暴力と、思いやりのなさと、強い者による累進的独占と、救いのなさと断絶と孤独に満ちているんですね。
    そして、それをウェットに謳うこともなく、淡々とむしろ時折ユーモラス。
    そこら辺の、知的であるというか思考的であることの肯定と、
    その引換にヤンキー的な盲目的肉体的な享楽や他人との一体感みたいなものと、絶対に相容れない冷温さ。
    でも他者を見下さない謙虚さと、合理的であるがゆえの諧謔味。そのへんが... 続きを読む

  • もう終わった過去のことを思いだしてイライラしたり、前に進めなかったり、わかるな。
    特別なことは起きないけど、頑張ろうって前向きになれる。

  • 能天気に見える中年女性も、さばさばと生きているような店主も、夫も職もあって困ることなどなさそうな30代も、小学生の女の子さえ、みんな人には言わないだけで、いろんなものを抱えて生きている。その彼女達が、ちょっとだけ前に進む話。

    読み終わったとき、世界が変わって見えることはないけれど、少し気分が軽やかになれる。

    女性が主人公だが、周りにいる男性がまた興味深いキャラクターで、ついほくそ笑んでしまう。

  • ポトスライムの舟、が好きなので、続編と聞いてワクワクしながら図書館にリクエスト。
    表紙の絵がかわいくて個人的にツボ。
    100%オレンジという方らしい。

    恵奈の章にサラッと出てきた、《選択的孤立者》になる時と場合もある。という表現がやけに気に入った。

    精神的な餌食にされる。って表現もうまいな。

    登場人物たちの胸の内と日常生活が、次々に明かされて行くのが飽きなくて面白い。

    このヨシカさんのお店が、うちの近くにあればいいのにーと何度も思った。

    個人経営の飲食店のバイト経験者として、
    あの時代を懐かしく思い出しながら読んだ。

    みんな人生いろいろありながら、それでも一喜一憂しながらひたすらに生きてゆく。
    人生ってそうゆうもん。
    と言われた気がした。

  • 津村氏の、ほんのちょっと社会の流れからはずれちゃったとか、人間だれしもがいつだって、そんな不安を抱えて、それでも生きている、そんな作品が好きで、本作はある喫茶店を通して、地味だけど、それぞれ、存在している、主に女性たちが描かれています、ポースケという謎めいたことばが、しっかり最後にまとめられていて、うん、特に、幅広く女性におすすめする作品です。

  • 最初はすごい眠い時に読みはじめてしまい、あまりに多い登場人物に「これは無理」と思っていた。下手したら、そのまま読まないままだったかと思うと恐ろしい。こんな面白い本をみすみす読み逃がしたかもしれないなんて!
    津村さんはこれまでにも何作か読んでいて好きだったので、最初の予感は何かの間違いだろうと。まさに間違ってました私。
    飲食店を経営するヨシカ、その店の本棚にウミウシの写真集をおいている加藤さんの同僚との間がもたない帰り道。べたべたしない上司、小林さんにコーヒードリッパーをこっそり買ってあげたり。
    そのウミウシの写真集を眺める恵奈ちゃんは、ヨシカの友人の娘。彼女はドッジボールでは外野が好き。中学受験よりも気になるのはイチゴの栽培。
    ヨシカの元で働く、睡眠障害らしき竹井さん。会社員時代のせせこましい人間関係に辟易し、電車にも乗れない。いつかの時のために、様々な外国語を独学で身につける強者でありながら、あまりの眠気に帰宅途中で寝てしまう。翌日もあわやその事態に陥りそうになりつつも、周りの人を不安がらせる権利がない、と思うくだりが謙虚すぎて笑ってしまう。
    常連のゆきえちゃんの元彼からのストーカー被害や、嫌がらせの手紙を読んでもコップを投げつけなかった意思。インスタント食品の粉末調味料を噛みちぎる場面。
    店で働くときこさんと、就活に追い詰められる娘さんの偽ブログのやりとり。
    常連さんのピアノの先生が、無料レッスンに通いに来る女の子をなんとか助けたいと家で流す涙。これまでは腹をわって話すことのなかった同僚から、思わず差し伸べられた手。
    そして、ずっと不思議だった、この作品のタイトル、ポースケ。私はてっきり誰かのあだ名かと思っていたけど。フィヨルドの復活祭のこと。これにちなんだ祭りを店でやるぞ!というのが一応最後のヤマ場で、ここではもうみんなわらわら出てくる。これまではすれ違ってばかりの人たちが、ずらりと揃う。
    よくこの細かいところまで書いてるなあ!と思うくらい、津村さん以外の作家さんならきっとさくさくとばすような描写のいちいちくだらない感じがとにかく好き。くだらないと言っても、読んで無駄なんてことはなく、馬鹿馬鹿しいからこそ元気になれる。そんな底の明るい文章が津村さんらしさで、この作品もざくざく出てくる。けど、そんな中にもシリアスな場面や、じわりと涙ぐむような話もあって。
    疲れて何も考えたくない時にこそ津村さん作品は読みたいけど、不意打ちに感動した。
    柴崎友香さんも似た雰囲気はあるけど、津村さんの場合はより明快で、人物がくっきりしている気がする。どちらも同じくらい好きだけど。
    個人的に、休みの前の日の雨や台風の日の夜なんかが一番オススメ。
    この作品を好きな人は、ウエストウイングも読んでみてほしいなあ。

  • カフェを経営する店主と従業員のアルバイトやパートさん、そして常連のお客さんや顔なじみ。彼女たちのそれぞれの人生模様がとつとつと描かれた物語です。
    基本的にみんな普通の人々、ではあるものの、一人一人に思いもよらない事情があり、トラウマがあり、悩みがある。現代人たるもの、それがもう普通なのかもしれませんが。
    彼女達は、それを誰かにひけらかすことはないけれど、ただ、日常の歩みのなかで、自分でひとつずつ一歩を進めてゆく。ほんのわずかずつでも。
    そのささやかな彼女たちの人生を前進させる姿、生きゆく姿に、ほんのり勇気や、がんばりたいなあ、という気持ちを得ることができました。ここで感動させる!という強い描写はなくとも、さまざまな何気ない台詞に、描写に、自然と胸の内が温まるような感覚を抱いたのでした。

    登場人物が多くてだれがだれだ?と混乱したりすることもあったりはしましたが、重すぎず軽すぎないバランス絶妙な人間模様と、おいしそうな料理描写に楽しんで読むことができました。良いカフェだなあ。

  • 6月の終わりに読んだら、登場人物が重なる『ポトスライムの舟』をもう一度読みたくなり、そっちを再読してから、もういちど『ポースケ』を読みなおす。

    ナガセの大学時代の同級生、ヨシカが奈良で開いている「食事・喫茶 ハタナカ」の従業員やその家族、あるいは店の客が視点人物となって、各章がゆるくつながっていく。話のなかで、「ハタナカ」でパートで働くとき子さんが「ポースケ」って何やねんーと歌うように、私も読むまでは「ポースケ」って何やろと思っていた。

    ポースケは、ノルウェーの復活祭のことだった。客のゆきえさんが、そういうお祭りがあると教えてくれて、ヨシカは「ポースケのおしらせ」をレジの横に貼りだし、人が集まるようならお祭りをやろうと考える。その貼り紙がある「ハタナカ」で、色んな人が行き交う。

    5年生になった恵奈(りつ子の娘)が視点人物になった章は、他の章の視点人物がみんな大人なだけに、印象的だった。こないだちょっとだけ会った、知人の小5の娘さんのことを思い浮かべたり、自分が小5だったときのことを、ぼんやり思い出したりした。

    そして、最初に読んだときにも、もう一度読みなおしたときにも、私の心に残ったのは、ヨシカが店を開こうと考えたときのこと。新卒で入った会社で、総合職として働いていたヨシカが、会社にそのままでいる、という選択肢を手放すところ。

    ▼ヨシカは、食事ができる店を開くことを考えるようになっていた。無視されてるけど、仕事はうまくいってるし、このまま会社にいるのもいいから、自分はぜんぜんやっていけるから、と何度も何度も自身に言い聞かせた。それでもヨシカは、自分で自分に仕事を与えられる場所が欲しいという願望を忘れることができなかった。
     それで辞表を出した。(p.248)

    『ポトスライムの舟』の時点で、ヨシカはもう店を開いていた。これは、それからさらに5年が経って、店を開いて、なんとか続けて7年が過ぎた頃の物語。

    「あとがき」には、この小説を書くにあたって取材したというお店がいくつかあげられていて、そのうちの一つのカフェは私も行ってご飯を食べたことがあった。ヨシカの店や、ヨシカの思いのどこかに、そのカフェの店主さんの存在も溶けこんでいるのかなーと思いながら、二度目は読んだ。

    ひとつ、読んでいて結構気になったのは、近鉄の奈良~難波間を、奈良に住んでる人はそんなに特急に乗るか?ということ。登場人物の何人かがこの区間を特急に乗っているが、快速急行に乗っても時間はそう変わらないのに(時間帯によっては、所要時間は5分も違わない)、500円ほどかかる特急料金を出すんかなあ?と思ってしまった。

    とくに、旅費や送料がもったいないからと、娘と孫のところへ来るのにいくつになっても九州から高速バスで来て、帰りの荷物を全部背負って帰るようなりつ子の母が、特急料金をわざわざ余分に払ってまでこの区間を特急に乗るかな~?と。そこが不思議だった。津村さんは、奈良へ行くのに特急に乗るんかなぁ。

    (6/30一読、7/13二読)

  • 奈良でおいしい食事とお茶を出すカフェ「ハタナカ」を営んでいるヨシカと、そのカフェのパート従業員や常連客の日々や仕事を描いた群像劇的作品だ。
    一見幸福そう、充実していそうに見えてもそれぞれの問題や、甘えや、駄目なところやだらしなさがあるということを熱くも冷たくもない視点でさらりと描いていて、ああ実際にこういう人いそうだなぁ、自分もこの中にいてもおかしくないなぁと思う。
    日々の生活のいい部分も悪い部分も同じスタンスで描かれていて、地に足がついているようでいて、でもドラマな部分もある。思い切り日常なようでいて、洒落たエッセンスもあり、独特の雰囲気だなぁ。
    タイトルのとぼけた響きはノルウェーのお祭りのことらしい。

  • ポースケ? タイトルから中身が全く予想できない。
    読み進めるうちに「へえー、そういうことなの」ってな感じ。

    なんとも言えない空気感の喫茶店が話の中心。
    店主に似たスタッフが集まり、それに釣られるようにお客さんが寄ってくるものなのかも。実際、あぁ、このお店の感じがいいわ〜と思うとスタッフなどの対応も良かったりするもんね。

    都会ぐらしではなかったので、仕事のあとに喫茶店やカフェに寄ってから帰るということがなかったのが残念に思える。
    それほど、こんな喫茶店があったらつい寄ってしまいそう。
    適度に力が抜けていて、好きに過ごしてくださいねというところが好き。料理にもこだわりすぎず普通がいい!
    色々な人の日常を垣間見れたようで、自分もその喫茶店の常連になった気分を味わえた。
    時間を置いてまた読みたいなぁ。

  • 34歳のヨシカさん営むカフェを中心にした人間模様。
    ヨシカさん含め7人の女性の物語。
    それぞれ平気な感じで日常を過ごしているものの
    誰にでも色々思い悩む事があり、生きにくさをなんとか
    やりすごして生活している。
    平和そうにみえてもみんな大変だよねって思いながら読む。
    淡々としているようで小さな事件などがそれぞれの章に
    盛り込まれているので読んでいて飽きない。
    推理小説のように先が気になってどんどん読みたい、
    でも読み心地がよいので早く読み終わりたくないと
    葛藤しながら読んだ。
    最後はポースケという北欧のお祭りのようなものを
    カフェで開催してそれぞれの女性達のその後が少しだけ
    わかるようになっていてとてもよかった。
    登場人物が多くてあれこれって誰ってページをめくりなおしたり
    しながら読んだので、もう一度じっくり読みなおしたい。

  • *ヨシカが営む奈良のカフェ「ハタナカ」でゆるやかに交差する、さまざまな女の人たちの日常と小さな出来事。芥川賞受賞作『ポトスライムの舟』から5年後の物語。 明日へ踏み出す勇気をくれる作品*
    やさしさとあたたかさと哀しさと諦めと希望が絶妙に織り込まれた、津村ワールドの魅力に満ち満ちた作品。読み終わった後にもじわじわとくる、この感情をなんと表したものか。美味しいお茶を淹れて、ゆるゆると丁寧に読み返したい、珠玉の一冊。

  • カフェをとりまく人々の短編集
    淡々とした人が多いのにあったかい
    クリエイティブで、後ろ暗いのになんだかんだ社会に溶け込む人(もしくはとけこもうとする人)が、人間関係に辟易しながらしぶとく生きている

  • 『ポトスライムの舟』の5年後、前作の主人公ナガセの友人ヨシカが経営する喫茶店のような食堂のようなお店が舞台の物語。
    ヨシカにナガセ、共通の友人そよ乃やりつ子とその娘恵奈といった人物も登場します。
    各章が一話完結の短編小説のようになっており、常連客やパート店員の女性が主人公として描かれています。

    「ハンガリーの女王」声が小さくおとなしいタイプのOLのぞみが押しの強い同僚との関係を見直す。
    「苺の逃避行」ヨシカの友人りつ子の娘・恵奈が学校でこっそりと苺を栽培する。
    「歩いて二分」パワハラを受けて退職して以来、睡眠障害を抱えるバイト店員佳枝。
    「コップと意志力」元彼からストーカーまがいの嫌がらせを受ける常連客ゆきえ。
    「亜矢子を助けたい」就活に四苦八苦する娘を助けたいパート店員十喜子。
    「我が家の危機管理」ネグレクトの疑いがある女の子を救いたくて心を痛めるピアノ講師冬美。
    「ヨシカ」体格が良くてしっかり者に見られるヨシカが会社員を辞めて店を開くまでの過去を回想する。

    下は小学生から上は就活中の娘を持つお母さんまで、登場人物の年齢層が広がったぶん世界観も広がりましたが、雑多な印象を受けてしまいました。
    終章の「ポースケ」では彼女たちが一堂に会し、元気を出して一歩前に進もうとする姿に心がほんのり温まりました。
    また、ナガセが会社勤めを続けながら新しい趣味を見つけていたり、お気楽そうに見えるそよ乃も子供の登校拒否に頭を悩ませていたりと各章の主人公以外の人物の描写も深いです。
    「コップと意志力」のゆきえさんの現彼氏、ぼんちゃんが物凄くいい味出してます。

  • 「ポトスライムの舟」の続編(前作を読んでいなくても問題ありません)。連作短編集。

    前作の登場人物たちの日常が一軒のカフェを中心に描かれています。ポースケというノルウェーのお祭りがあることを知ったカフェの店長ヨシカは、自分のお店でもなにかお祭りのようなイベントが開けないかと考える。

    登場人物がかなり多いので、途中からメモしながら読みました(笑)

    ポースケというなんとも気の抜けるようなタイトル、そして100%ORANGE さんの装画。それらのつかみどころ無いような雰囲気は文章ともマッチしていました。美味しそうなカフェメニューの描写も素敵です。

  • 働くのも暮らすのも、他人と関わらずに生きることはできない。そんな辛さを少し軽くしてくれるような、心温まる群像劇。「ビーバーは、食べるもんと家の材料が同じ」は名言。

  • カフェを経営するヨシカやパートさん常連さんたちの働く人たち。

    ノルウェーのお祭りであるポースケをヨシカのカフェで開催することを知った常連の加藤のぞみさんの職場での人間関係と化粧水。

    ヨシカの友人の娘の恵奈が小学校で一人内緒で育てている苺の話。
    前職で上司に嫌がらせを受けて電車に乗れなくなり、睡眠時間がおかしくなったパートの竹井さんの奮闘。

    常連のゆきえさんの元カレの理不尽さやレトルト食品を食べる日々。
    娘の亜矢子のうまくいかない就活に慣れないながらも協力するパートのとき子さん。
    ヨシカの友人のナガセが通うピアノ教室の冬美先生と変わった夫と隣人から預かっているコバタン。

    みんなで楽しんだヨシカのお店でのポースケ。
    毎日あくせくしながら働いて、お財布の状況を見ながら、ヨシカのお店でおいしいご飯を食べるひととき。

    働くって生きること。生きることの基本。
    そのなかで様々な人と出会い、いい人もいれば悪意を持った人に傷付けられることもあって、それでも未来の為に強く生きていく。

    ポトスライムの舟のヨシカ編、みたいな感じ。

    時折出てくるナガセがよかった(笑)
    そして恵奈ちゃんにも再会できて、彼女の学校生活を垣間見れて楽しかった。)^o^(

  • 「ポトスライムの舟」の続編かつサイドストーリー。
    だけど前作を読んでいなくても全く問題なし。

    悩んだり失敗したりしながらも、自分たちに出来る事を少しずつ積み上げながら生活している登場人物たちから
    ふわっとした元気をもらえた。
    タイトルの「ポースケ」の意味や脱力感のある響きも素敵。

  • うぬぅ。
    なんと、「ポトスライムの舟」の続編とは。
    あんなに「ああ、いい本だ。」思ったのに。

    「食事・喫茶 ハタナカ」のヨシカ。

    歩いて2分の竹井さんと考えさせられたとき子さんの生き方。
    ハンガリアンウォーターの加藤さんやピアノの林先生、梅さんとぼんちゃん。

    ナガセとそよ乃。
    りつ子とえなちゃん。

    あーもー、みんな大好き。
    っつか、津村記久子が大好き。
    愛を込めて呼び捨てだ!

    日々「生きにくい世の中だ。」と思っていて、
    でも、頑張ったり助けられたり諦めたり気合を入れたりしながら生きている。

    あたしも登場人物になりたい。

  • ヨシカさんのお店、食事&喫茶ハタナカに来る人々のそれぞれのお話。
    のんびりお茶を飲み、食事をしていくそれぞれの人にそれぞれの人生。
    きつい日常をそれとなく支えあいながらも、自立した関係が気持ち良い。
    ハンガリアン・ウォーター、うみうしの写真集、コバタン、いちごの隠れ栽培…ちりばめられたエピソードのひとつひとつが軽く好奇心をくすぐるのもいい。

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ポースケの作品紹介

奈良のカフェ「ハタナカ」でゆるやかに交差する、さまざまな女の人たちの日常と小さな出来事。芥川賞受賞作『ポトスライムの舟』から5年後の物語。

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