ポースケ

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著者 : 津村記久子
  • 中央公論新社 (2013年12月9日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (283ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120045752

ポースケの感想・レビュー・書評

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  • 「ポトスライムの舟」の続編ともいうべき作品。
    奈良の居心地の良いカフェを中心に、出入りする女性たちの人間模様を描いていきます。
    前のを読んでいなくても差し支えありません。

    「食事・喫茶 ハタナカ」を経営するヨシカ(畑中芳夏)は34歳。
    体格がよく子供の頃からしっかり者と見られてきた。
    ある日、ポースケというフィンランドのお祭りがあることを知り、何となく店でやってみようかと考えます。
    品数は少ないが日替わりで親しみやすい料理を出すお店のコンセプトは、一人で来てもくつろげる場所。
    店の奥には持ち寄りの本棚があり、借りて行ってもいいことになっている。

    店でてきぱき働く陽気なオバチャンのとき子さんは、3人の子がいる主婦。弁当工場などで働いてきた。
    今は末娘が求職中で、はらはらしながら見守っています。
    企業が見ることもあるからと娘がブログを作ったが、書く暇もないので代わりに書いているという。

    若い店員の竹井さんは、店から2分のところに住んでいる。
    電車に乗ることが出来ず、浅い眠りでは悪夢を見るため、疲れきってから倒れるように寝て、へんな時刻に目が覚めてしまう状態。
    会社で直属上司のモラハラに遭い、壊れてしまったのだ。
    この描写は迫力があります。
    何気ない日常がゆるやかに過ぎ行くうちに、希望の光が見えるのが嬉しい。

    ヨシカの友人りつ子の娘・恵奈は小学生。
    飼育栽培委員で、植物を育てるのが大好きなのだが、意地悪な先生の目を盗んで、苺を余分に育てている。
    学校の隅っこで起こるあれこれが妙に面白い。

    にぎやかな主婦のそよ乃も、ヨシカの友人。
    明るく人懐こいが、不登校になった息子のために奔走する日々。

    店の常連ののぞみは、大人しい会社員。
    強気な先輩やいい調子の後輩に挟まれて、いささか苦労している日々。
    ポースケに参加してみようかと、ふと考える。

    一人暮らしのゆきえは、彼氏のぼんちゃんとゆるゆる付き合っている。
    ところが元彼が妙な手紙をよこし、ストーカー化してきた。上からものを言っていた男は、自分がふられたのが納得いかず、いまだに支配したいらしい。

    ピアノの先生の冬美は、夫と二人暮らし。
    ピアノが好きでお試しに来た幼い女の子が、よく世話をされていない様子なのが気にかかっていた。
    母親が引きこもっているらしい‥

    登場人物が多くて、ちょっと混乱‥メモを取る必要があるかも。
    急いで読むことはなくて、楽しみにじっくり読めばいいのかな。
    どこにでもいそうな人の誰にでも、色んな悩みや事情があるんですね。
    ちょっとした出来事や美味しい食べ物に、親しみを感じながら読み進められます。
    こういうお店が近くにあったら、いいのに!
    登場人物の年齢や境遇の幅が広くなったため、誰でもどこかで共感できそうです。

  • 奈良でカフェを営むヨシカ。そのカフェに集う人々の日々をゆるやかに綴った連作短編集。
    母子家庭の小学生の娘、就活に苦戦する娘を抱える主婦、元彼のストーキングに悩むOL…皆がそれぞれ大なり小なり、生きていく上での煩わしさを感じている。だけど津村さんは相変わらず絶妙な距離感で、時にユーモアを交えながら、自然にそっと、立ち止まっていた登場人物らを歩ませてくれる。その押しつけがましくないところに救われる。
    毎回津村さんのフード描写は絶品なのであるが、今回はカフェが舞台であるからして、出てくるお料理がもうどれもおいしそうなのだ。いくつかのカフェを丁寧に取材したことが窺えるようなカフェの日常。ヨシカが提供するこの空間が、お客さん達の憩いの場所になっているということが自然に伝わってきて微笑ましい。それが存分に感じられるのが、終盤の「ポースケ」のシーンだ。ポースケって、当初「ポー助」みたいな誰かの呼び名かと思ってましたが(笑)ノルウェーのイースターのようです。でも、この「ポースケ」て響きが間抜けでかわいくって、津村作品によく合ってるなと思うのだ。カフェが舞台って描き方によってはしゃらくさくなってしまいがちだけど、ただおしゃれなだけじゃなく、書棚にノルウェー語の本やウミウシの写真集があったり、海外ドラマが流れてたりと、店の雰囲気にも「津村イズム」が感じられるのがまたいい。話の流れに絡む小ネタのチョイスも巧いです。
    そして、「一喜一憂を延々と繰り返すことこそが、日々を暮らすということ」というくだりが印象的だ。
    「えらい人は先々のことを見据えてどうのこうの考えられて、八喜三憂とかに調整できるのかもしれないけれども、我々しもじもの者は、一つ一つ通過して、傷付いて、片付けていくしかないのだ。そうする以外できないのだ。」
    ほんとにね、八喜三憂なんてやりたいけど(笑)私もまた要領のよくないしもじもの者だと自負しているので、小さいアップダウンに翻弄されながら暮らしていくのだ。そんな当たり前のことを再確認して、足もと見つめられたなって思える。津村作品を読むと。
    ところで本作は「ポトスライムの舟」続編ってことで、ナガセの登場が懐かしかった。「ポースケ」のみでも十分楽しめるけど、「ポトス…」と合わせて読めば面白さ倍増かも。「ポトス…」発表からだいぶ時間が経っているので、改めて読み返したいな。

  • 冒頭───
     その日の最後から二番目のお客は、店の奥に置いてある高さ一八〇センチの本棚を指さして、あそこに横積みしてある本って店主さんの趣味なんですか? 来るたびに様子が違ってるんやけど、と不思議そうに訊いてきた。若い、といっても三十代前半ぐらいに見える男のひとだった。最近の人は、よほどの年齢にならない限りは皆若く見える。わたしの本もありますけど、パートさんの本もあるし、お客さんが持て余してなんとなく置いていく本もあるし、とヨシカは答えながら、千円札を受け取り、興味のある本があればお貸しします、と付け加えた。
    ──────

    どうも最近は長編小説と言っても、章ごとに視点が変わる作品が多い気がする。
    視点が変わると、自分の頭の中でも脳内再生の切り替えをしなければならず、それがちょっと疲れる。
    少し時間を空けないと前の視点が頭に残ったままなので、切り替えがスムーズにできない。
    年を取ったせいかな。

    食堂とも喫茶店ともつかないようなヨシカの経営する店に集う様々な客たち。
    それぞれ、何かしらの悩みや問題を抱えている。
    章ごとに、ヨシカやその客たちの視点で自分の日常が語られていく。
    会社での人間関係に少し疑問を抱いているのぞみ。
    母しかおらず、学校で密かに苺を栽培している小学生の恵奈。
    どこでも寝てしまい、電車にも乗れないという奇病を抱えている竹井さん。
    別れた彼氏のストーカーまがいの行為に悩まされているゆきえ。
    就活で苦しんでいる娘を何とか手助けしてやりたいと願っている十喜子。
    夫婦仲に不満はないが子供ができないピアノ教師冬実。

    些細なことのようで深刻であったり、重い問題なのにさらっと軽く書き流したり、その辺りの津村さんの描写や心情表現がいつも上手いなと感心する。
    基本的に悪人は殆ど登場しない。
    みんな、心のどこかに少し傷を負った優しい人ばかり。
    悩みや問題も、最後には明るい光が射し込んでくる。
    完全に問題が解決したわけではないけれど、まだまだ頑張れば未来は明るい。
    それぞれの客のエピソードは、つらいことがあっても人間何とかなるものだと希望が持てるような展開だ。
    そして、最終章はみんなを集めて“ポースケ”というノルウェーで行われているという復活祭の開催。
    集まったみんなの少しはにかんだ笑顔が目に浮かぶようだ。

    ありふれた日常だけど、光に満ちた新しい明日は必ずやってくる。
    寒くて身体も心も冷え切っているときに飲む温かな一杯のミルクティー。
    そんな感じを抱かせる、心休まる秀作だと思います。
    いやあ、好きだなあ、津村さんの紡ぎ出す独特の作品世界。
    彼女の作品を読むたびにファンになっていきます。

  • もう津村さんの作品はここずっといつもおもしろい。安心。
    これもものすごくよかった。
    会社を辞めてはじめたカフェに従業員やお客として次第に集まってくる人々の話で。

    津村さんの作品ではいつも、人々の会話の繊細さというか会話している人たちの心の繊細さというかを感じる。普段わたしたちだってなにげなくしゃべっているようで、その実、心のなかではあれこれあれこれ考えてるよなあ、というのをあらためて思い出すような。(いや、わたしだけじゃなくてみんなもこんなに考えてるんだったら、わたしももっと気をつけなきゃいけない、緊張するなあ、とかとも思う)。

    わたしは人と気やすく打ちとけたり、社交したり、友達になったりするのが苦手なので、共感するところがすごく多く、また、いろいろほっとした。そして、まあまあちょっとずつ頑張らなきゃいけないなあとも。

    あと、津村さんの作品を読むといつも、ほんとうにほんとうにささいなことでも楽しいと思うことがあればいいんだよねえ、とか思う。

  • 津村さんのよさがとってもよく出てる作品かと。
    物語の中で繰り広げられる日常にどっぷり入れて、それが心地よい。
    非日常、ではないんですよね。

    人生には一喜一憂しかなくて、それを繰り返しながら日々を生きるしかない、っていうのが、諦観ではなくて前向きな生き様として描かれていて。
    うれしかったり、落ち込んだり、たのしかったり、苦しかったりする、愛すべき日常。
    なんだろうなあ、やっぱり好きだなあ、としか言い様がないんですが。
    生真面目で善良な登場人物たち。
    みんながんばれ。おれもがんばる。

  • 津村記久子さんの最新小説。
    本屋さんで偶然見つけて、その場で買いました。
    大阪出身で大阪在住の同年代の小説家さんで、
    きっかけは友人に勧められて、5年くらい前に「ミュージック・ブレス・ユー」を読んだことから始まるんですが、
    なんとなく常に最新刊を読むようになって3年くらい経ちます。
    文章も世界観も嫌いじゃないので、そういう人を常に進行形で追っかけることができるのは、これはこれはで読書の愉しみですね。

    で、「ポースケ」です。
    一年前か二年前に、サラリーマン小説家であることを辞められたそうで。
    どことなく装丁(ORANGE100%さんですね。素敵ですね)を見た感じからも、
    タイトルからも、「あ、なんとなく肯定的な方向、前向きな方向に向いてきたんじゃないかな」と感じたんです。
    悪くない意味で、そうでした。

    「ポトスライムの舟」の続編というか姉妹編というか、という言葉でも言えるんですが、
    読んでなくても全く大丈夫だと思います。

    奈良の、恐らく近鉄沿線沿いの、駅前商店街のどこかに、「ハタナカ」という喫茶店があります。
    喫茶店というか、21世紀的にはカフェ、というのかも知れませんが。
    どうやらそんなに狭くなくて、ご飯も食べられるようなお店です。
    そこのカフェの店主、従業員、常連客たちの、連作的人生模様短編小説集、というのがいちばんざっくりした言い方ですね。
    年代的には小学生から、50代くらいまで。共通点は唯一、女性っていうことですね。
    それぞれに、元カレがちょっとストーカーぽかったり、子供が就活で苦しんで家の中が暗かったり。
    学校の先生が嫌だったり母子家庭だったり、パワハラで前の会社を辞めて後遺症的な心身症的な病気があったり、
    子供が欲しいけどできない夫婦でもうアラフォーだったり、肌が弱くて職場の女性先輩がどうにも仲良くなれなかったり。
    色々ありますが、津村記久子さんの小説世界なんで、
    別に犯罪とか国際的陰謀とかは起こらないし、
    派手に一流企業で戦士のように働いている人も出てこないし、
    アンニュイな美男と美女が抽象的な哀しみに浸ったりブンガク的にHをしたりすることもありません。

    ひたすらに具体的で瑣末な現実的な事柄が見えたり語られたりして。
    みんなが大抵それほど立派でもなくて。
    なんだけどほとんどみんなが妙にサブカルチャーと呼ばれる、「テレビのバラエティのように超メジャーな位置づけになっていない、軽めの文化風俗的事象」
    について詳しかったり、楽しんだりしている、という、共通項があったりするけれど。まあそこは看過するとして。

    (欧州サッカーとか、外国語とか、フィギュアスケート、海外ドラマ。
    脱線しますが、津村さんの中に基本的に海外嗜好があるんですね。妄想としての海外の世界。フィクションとしての海外性というか。
    それがあるから、ローカルに留まって作品を書けるのか。どっちが卵で鶏か、わかりませんけど。
    これがまた、年輪が一周して、津村さんが日本古典文学とか仏像とか自社とか歌舞伎とかを、
    本当に好きになったらどういう小説になっていくのか、それはそれでワクワクします)

    特段ドラマチックなことはなくて、起こるとすれば悪いものごとだったりする予感に満ちている。
    そして、世界は男性的な暴力と、思いやりのなさと、強い者による累進的独占と、救いのなさと断絶と孤独に満ちているんですね。
    そして、それをウェットに謳うこともなく、淡々とむしろ時折ユーモラス。
    そこら辺の、知的であるというか思考的であることの肯定と、
    その引換にヤンキー的な盲目的肉体的な享楽や他人との一体感みたいなものと、絶対に相容れない冷温さ。
    でも他者を見下さない謙虚さと、合理的であるがゆえの諧謔味。そのへんが、多分僕は好みなんですね。

    なんですが。

    旧作と比べると、まあ、ざっくり明るい予感、再生と調和と協調の夜明け感が多いです。
    ほっとするっていうか。

    前作の「今からお祈りに行きます」の二篇も若干そうだったんですけどね。

    この「ポースケ」については、僕はうまいバランスになっていると思います。
    考えようによっては、これは今までの津村さんの中で最高傑作とも言えるし、
    いちばん「売れそうな作品」とも言えるし。いちばん、初心者かつあまり本を読まない人に勧めやすい小説でもあります。
    この方向性が更に進んでいくとどうなのか。
    もっと大きな物語を語れるスケールと頼もしさの作家さんになるのか。
    それとも、もはや、
    「以前の若かった自分の感受性を再生産して色付けするだけの、
     保守的なエッセイ風物語作家」
    になるのか。
    これは結局読み手次第なのでむつかしいですよね。
    当てはまらない極端な例ですが、
    「貧乏で世間に笑われ差別され虐められて不幸にのたうちまわっている小説家」
    が、それが故に素晴らしい作品を書けて、認められた時に。
    「裕福で文化人になって、むしろ、奪われたり落ちることを心配するだけになったときに、どうなんだ」
    という話なんですよね。

    それも大きく含めて、またまた今後の新作が楽しみです。

    そして、奈良と言っても大阪都市圏が近い奈良のあたり、
    という場所柄の空気感というか好ましい感じというか、
    それはそれで無論、リアリズムというよりも、津村さんなりのファンタジー世界としての、ということなんですが、
    よく感じられました。やっぱり、地理的に分かる現代小説っていうのは、また違う愉しみもあって良いですね。
    コレばっかりは、そりゃ行ったことない人には分かる訳が無いですものね。
    まあ、本質的なことじゃないんだけど、でも結構、なんていうか・・・楽しいことですよね。
    やっぱり、「あの小説の舞台になった場所かあ」っていうのは、知らぬ土地を訪れるときのワクワクの一つにはなりますものね。

  • もう終わった過去のことを思いだしてイライラしたり、前に進めなかったり、わかるな。
    特別なことは起きないけど、頑張ろうって前向きになれる。

  • 能天気に見える中年女性も、さばさばと生きているような店主も、夫も職もあって困ることなどなさそうな30代も、小学生の女の子さえ、みんな人には言わないだけで、いろんなものを抱えて生きている。その彼女達が、ちょっとだけ前に進む話。

    読み終わったとき、世界が変わって見えることはないけれど、少し気分が軽やかになれる。

    女性が主人公だが、周りにいる男性がまた興味深いキャラクターで、ついほくそ笑んでしまう。

  • ポトスライムの舟、が好きなので、続編と聞いてワクワクしながら図書館にリクエスト。
    表紙の絵がかわいくて個人的にツボ。
    100%オレンジという方らしい。

    恵奈の章にサラッと出てきた、《選択的孤立者》になる時と場合もある。という表現がやけに気に入った。

    精神的な餌食にされる。って表現もうまいな。

    登場人物たちの胸の内と日常生活が、次々に明かされて行くのが飽きなくて面白い。

    このヨシカさんのお店が、うちの近くにあればいいのにーと何度も思った。

    個人経営の飲食店のバイト経験者として、
    あの時代を懐かしく思い出しながら読んだ。

    みんな人生いろいろありながら、それでも一喜一憂しながらひたすらに生きてゆく。
    人生ってそうゆうもん。
    と言われた気がした。

  • 津村氏の、ほんのちょっと社会の流れからはずれちゃったとか、人間だれしもがいつだって、そんな不安を抱えて、それでも生きている、そんな作品が好きで、本作はある喫茶店を通して、地味だけど、それぞれ、存在している、主に女性たちが描かれています、ポースケという謎めいたことばが、しっかり最後にまとめられていて、うん、特に、幅広く女性におすすめする作品です。

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ポースケの作品紹介

奈良のカフェ「ハタナカ」でゆるやかに交差する、さまざまな女の人たちの日常と小さな出来事。芥川賞受賞作『ポトスライムの舟』から5年後の物語。

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