怒り(下)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120045875

作品紹介・あらすじ

愛子は田代から秘密を打ち明けられ、疑いを持った優馬の前から直人が消え、泉は田中が暮らす無人島である発見をする-。衝撃のラストまでページをめくる手が止まらない。『悪人』から7年、吉田修一の新たなる代表作!

感想・レビュー・書評

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  • 寝食忘れてというのはいささか大げさだが、睡眠時間を削って上下巻一気に読み切った。
    続きが気になって気になって。
    でも、これはないよ。こんな終わり方って・・・。
    あんまりですよ、吉田さん。

    世田谷の住宅街で起きた夫婦殺害事件。
    現場には血で描かれた“怒”の文字。
    犯人はそのまま逃走し、1年が過ぎた。
    並行して3つの舞台が描かれる。
    房総、東京、そして沖縄。
    そこに登場する3人の男たちと、彼らと関わる人々。
    前歴不詳の男たちをどこまで信じられるのか。
    一体この3人の中に犯人はいるのか。

    この3つの舞台は全く交わることがない。
    それぞれの地にそれぞれの人間模様があって、登場人物も多いし目線もころころ変わる。
    それでも混乱させることなく物語にグッと引き込む吉田修一の文章力は見事だった。

    作者のインタビューを読むと、怒りとは大切な人を信じられない自分に対する怒りなんだと言う。
    それは分かる。この小説のテーマが怒りよりもむしろ信じられるのか信じられないのかだと言うのは間違いない。
    それでもやはり、犯人の怒りが何だったのかすくい取ってほしかった。そうでもしないとやりきれないじゃないか。

    テーマとしては悪くない。
    新聞小説としても躍動感を求めるならこれ位センセーショナルに書かないと受け入れられないのかもしれない。
    でももうちょっと他の書き方がなかったのだろうか。
    なんだかもったいない。

    「悪人」が好きな人なら、お勧め。
    かなりエンタメ度が高いので満足できると思う。
    今回の評価はちょっと辛口です・・・。

    • koshoujiさん
      お久しぶりです。
      これ、確かに、
      犯人の怒りの根源が何処にあったのか、全然わからないですよね。
      読み終わっても、理解不能。
      ん、ん?...
      お久しぶりです。
      これ、確かに、
      犯人の怒りの根源が何処にあったのか、全然わからないですよね。
      読み終わっても、理解不能。
      ん、ん?
      何が「怒」なんて書かせたの?って気分。
      最後には、まあ、いっか、と無理矢理読み終えちゃいましたけど・・・。
      2014/02/25
    • vilureefさん
      koshoujiさん、コメントありがとうございます♪

      そうなんですよね・・・。
      “怒”って相当強い言葉ですよね。
      それなのに全然突...
      koshoujiさん、コメントありがとうございます♪

      そうなんですよね・・・。
      “怒”って相当強い言葉ですよね。
      それなのに全然突っ込んでない(^_^;)
      吉田さんに期待している分残念でした。
      どちらかと言うと「路」寄りの作品が好きなせいでしょうか。
      2014/02/26
    • koshoujiさん
      たしかに「路」は、読んでいて、とても心地よい名作でしたね。
      たしかに「路」は、読んでいて、とても心地よい名作でしたね。
      2014/02/26
  • 犯人山神一也は、整形し、逃亡を続けている
    捜査は難航し、2回目の公開捜査番組が放映され、整形した犯人の顔写真が公開されたことにより、房総の田辺、東京の直人、沖縄の田中、それぞれの周辺でも、人々の心に陰が生まれ、微妙な波風が立ち始める

    愛子にとっての田辺、優馬にとっての直人、それぞれがなくてはならない存在になりつつある
    しかし、一方で彼らの過去を信じきれない自分もいる
    自問自答を繰り返す
    信じられるか、信じられないか。それはとても主観的なもの
    自分に相手を信じる自信があるかないか。要するに、自分に自信があるか、ないか

    読んでいるこちらまで胸が苦しくなった

    意外な形で結末を迎え、犯人は亡くなってしまったことで
    殺人現場の「怒」の意味するところは、結局明かされないままなのが、消化不良みたいでスッキリしなかった
    各人の揺れ動く心理描写がよかっただけに、残念だ

    北見刑事の愛した美佳の過去も明らかにならなかったが、美佳の過去が明らかになることが重要なのではなく、ここでもまた、どんな過去があるにせよ美佳を信じきれるかどうかが重要だったのだろう

    タイトルの「怒り」は、愛するものを信じきれなかった自分への
    怒りなのかもしれない








  • (下)巻、読みおわったけど やはりやられてしまった(笑) 八王子での残忍な夫婦殺しの犯人探しは、あちこちの地域で起きている話が並行して進むけど相互の関係は無い!どころか割合いに早く犯人は明らかになる。実は作品の核心はそれからの各物語にあり、けっこう切なくて泣かしてくれる。"人を信じる"と言うことに読み手が思いを致す仕掛けになっておりました。長崎出の作者なので舞台が親しみ易いのもちょっと嬉しい。

  • 信じる、信じない。
    信じたい、でも信じられない。

    他人を信じられなくなり、大切なものを失うことになる人間。
    最後まで信じ切ることで、失いかけたものを手放さずに済んだ人々。
    「怒り」は、犯罪を起こす要因にもなるし、他人を守る衝動を突き動かすことにもなる。

    八王子夫婦殺害事件の犯人逮捕に向かって警察が迫り来る直前、思わぬ形で新たな事件が引き起こされる。
    それは彼にとって、必然だったのか、それとも偶然だったのか。

    三つのストーリーは最後まで交差することはないのだけれど、それぞれの人の持つ感情の揺れ具合は似ている。
    ただし、どこまで人を信じ切れるか、その思いの強弱が、切ない終わりを迎えるか、幸せな結末を迎えるかの分岐点になる。

    吉田修一の作品の中では、「悪人」に近い内容のものだと思うが、最後まで面白く読めた。

  • 怒り。
    やるせない気持ちと言い換えても良いのかもしれない。
    自分ではどうすることもできないこと。人を信じられない弱さ。
    世間に溢れている『事件』と、傍観者でしかない自分。
    ある日突然関係者に立たされ当惑する自分。

    山神の意図が分からないままでなんとも煮え切らないが
    それもまたリアルであるとも思うし、はっきりしたところで
    また別の怒りが湧き上がってくるだけなのではとも思う。

    映画よりも小説の方が、警察サイドの描写があることもあって
    山神の正体が3人の内誰なのか早く読み取れる印象。
    事を起こす前に捕まえるべきと示唆されるものの
    まさか事を起こされる側に回るとは。

    映画でも、自分が一番感情移入しやすいのは優馬だ。
    直人を信じきれず、警察からの電話で動揺し、
    探したいと思っても待つしかできず。
    喫茶店で妹を見つけて慌てて駆け寄る。
    彼の『弱さ』を、自分は笑えない。

    愛子が通報した時、映画を見ていて本当に驚いた。
    小説はヤクザが押しかけてくる様子などその後のことも書かれており
    警察にとっては空振りでしかなかった通報だが
    愛子の決死の通報により幸せに見えた日常が終わってしまう。
    田代を信じきれなかった愛子が悪い、とは、とても言えまい。
    愛子は自分や父を責めるだろうが、訊いても答えてくれない中で
    疑心暗鬼になるのは当然だと思う。

    ある意味で、優馬も愛子たちも山神の一件の被害者なのだが
    法律上は当然そうは取られない。
    あの事件が無ければ不幸にならなかったはずの人たちの運命が捻じ曲げられる。
    現実でもこういった目に見えない被害者はたくさんいる。

    しかしながら希望が見えるのが田代と愛子たちで
    村の人たちも協力してくれ、解決できそうな光がある。
    父親の迎えを待っていた愛子が、田代に有無を言わせず
    銀の鈴で待っていてと言ってひとりで必死に東京まで迎えに行き、
    切符を買って戻る姿が力強く、守られているだけの愛子ではなくなった。
    金銭問題さえ解決すれば、愛子と田代はうまくやっていけるのではないかと思える。

    優馬が一緒の墓に入ると言っていた約束とも言えない直人との約束を
    せめて実現させるところには泣いた。
    直人が自分の生を諦めていなくて、妹に言っていたような優馬への気持ちを
    本人に伝えていたなら違った未来があったかもしれないが
    こんな二人だからこその淡く美しい日々があったのだとも思うのだ。

    一番救いが見えないのが泉たちで、辰哉が取り調べ中、
    泉が告白したと聞いた時だけ泣いたこと、
    自分のことは忘れてくれと手紙を寄越したことがあまりにも悲しい。
    「信じていたから許せなかった」。
    知らない人にはなんのことが分からないとしても、辰哉の動機説明としては
    十分な言葉である。
    だからと言って包丁まで持ち出すのは一足飛びに過ぎる気はしなくもないが
    泉のことが好きだったこと、責任を感じてきたこと、
    田中が人がいないときは客の荷物を乱雑に扱っていたこと、
    そして父のこと。
    色々なことが積もりに積もり、遂に決壊してしまった。
    自分が酔っ払わなければ。田中に懐かなければ。落書きをみなければ。
    辰哉は自分自身にも怒っているかもしれない。
    だがそれらの『ミス』はここまでの重い十字架を一人で背負い込まなければ
    ならないほどのものだろうか。
    あまりにも救いが無いと思ってしまう。

    こうして我々読者が抱く怒りもまた、表題につながっているのだろう。

  • ハッピーエンドは1組だけ。もう少し違う結末になって欲しかった。終盤はハラハラしてまあ面白いんだけど、なんか中途半端で途中で終わってしまった感じ。ところで"怒"ってなんだったの?

  • 人を信じた人間の成れの果てと、人を信じれなかった人間の成れの果てを見た気がする。
    解決できていないことはどんなに逃げてもやってくる。怖いし、離脱したいと思うけどそれを片付けないことにはどこまでも追ってくる。勇気をだして解決策を見つけることも大事だと思う。失敗したとしてもやり直しがきくのが人生。

  • 世を騒がせた実際の殺人事件に
    着目した話ということだから、
    八王子の殺人事件の犯人は容易に分かる。
    ただ、犯人山神の背景が下巻を読んでも分からず。
    彼の怒りが、
    どこに向かって誰に向かって放たれているのか。
    その怒りは、この物語で語られる全ての人物が、
    私たちが抱えている怒りなのか。
    人を裏切ることは安易だが、信じきることは難しく、
    自分さえをも信じきることは雲を掴むごとく難しく。
    だけれど、人々は抗うように、踠き苦しみ、
    目の前の誰かを愛そう信じようとするのか。
    房総の海へと駆け出す2人、
    雄大な富士山、
    青空と白い雲。
    未来へと。

  • それぞれの結末を向かえる3つ、いや4つのエピソード
    人を信じることの難しさ、その意味を考えさせられます

    重い話なのに、読み進めずにはいられなくなる
    裏切られたとき、それが怒りへと転化するかしないか、その差はどこにあるのか?

  • 八王子で起きた夫婦殺人事件。
    惨殺現場には血文字で「怒」の文字が
    残されていた。
    事件から1年後の夏、物語は始まる。
    逃亡を続ける犯人・山神一也はどこにいるのか?

    数人の登場人物の物語が並行して進んでいく
    のですが、殺人事件とは関係のない人たちだったのに
    それでもこういった事件はどこか別の全く
    関係ない所にも影を落として哀しい
    影響を与えるんだな…と。

    自分の身近に細かい素性のわからない
    少し前に知り合った人物がいて
    親しくなり相手に対してどんどん興味がわき、
    愛情や友情といった感情を抱くようになっても
    相手は過去を語ろうとしてくれない。
    そんな時に相手に一年前に起きた惨殺事件の犯人との
    共通点を見つけてしまったら…

    ただ、その想いだけで相手を信じられるかというと…
    人を信じられない人は、結局人に信じてもらえない
    のはわかるのですが、人を信じ切るって本当に難しい。
    それぞれの登場人物と自分の立場を置き換えたら
    やはり信じるの難しかっただろうなぁ、と…
    それぞれ人物の中にある「怒り」を思うと
    読み終わりはあまりに哀しい気がします。

    帯にあった「身近な人ほどなぜか大切にできない」
    という一文がすごく内容を表現していると思いました。
    謎が謎のまま終わっている点が多々あれど
    (わざとだと思うのですが)
    ぐいぐい読ませる面白さでした。
    この作者さんの他の作品も読んでみよう…

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著者プロフィール

1968年長崎県生まれ。法政大学経営学部卒業。1997年『最後の息子』で「文學界新人賞」を受賞し、デビュー。2002年『パーク・ライフ』で「芥川賞」を受賞。07年『悪人』で「毎日出版文化賞」、10年『横道世之介』で「柴田錬三郎」、19年『国宝』で「芸術選奨文部科学大臣賞」「中央公論文芸賞」を受賞する。その他著書に、『パレード』『悪人』『さよなら渓谷』『路』『怒り』『森は知っている』『太陽は動かない』『湖の女たち』等がある。

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