レインコートを着た犬

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著者 : 吉田篤弘
  • 中央公論新社 (2015年4月24日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (235ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120046728

レインコートを着た犬の感想・レビュー・書評

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  • アンティークな家具や年代物の楽器、明治大正ロマン、古い映画館、古本屋、昔ながらの商店街、
    カフェではなく喫茶店、昔ながらの銭湯、
    昭和歌謡、場末のBarなどなど、
    生まれてくる時代を間違えたのか(笑)、
    ただ単純にジジクサイだけなのか(笑)、
    何故か古くて郷愁を覚えるもの、
    または粋でロマンを感じるものに 強く惹かれるし、
    古いものを見ると胸がドキドキする。

    そんな僕がずっとお気に入りで
    吉田篤弘にハマるきっかけとなった作品が
    月舟町三部作の第一弾、
    『つむじ風食堂の夜』だった。
    そしてシリーズも今作でついにラストとなるようで…( >_<)
    慈しむように
    別れを惜しむように
    ゆっくりゆっくりと読み進めた。


    商店街という場所には特別な時間が流れる。
    老人も若者も子供たちもみな同じように行き交い、触れ合い、
    日々ドラマが生まれる。

    今回は月舟シネマという映画館の看板犬「ジャンゴ」が語り部。
    犬の視点から見た商店街の懐かしい面々の姿に
    終始笑顔で読み進められたし、
    このジャンゴがまた
    なかなかいいキャラをしているのだ(笑)

    B級アクション映画が好きで、
    デ・ニーロの親方の影響で
    「シノゴノ」「ヘキエキ」「トント」などのいささか古くさい言葉を話し、
    親兄弟はすべて警察犬なのに
    自分だけが映画館の番犬であることにコンプレックスを抱いている
    繊細な一面を持っている。
    その反面、映画館の看板犬だけに
    映画こそが人間の発明の中で最も素晴らしいものであると信じている純なヤツ(笑)

    彼の夢は
    もし奇跡が起きて自由の身になったら、
    分からないことを沢山知りたいから図書館に行くことと
    自分にも笑顔というものが芽生えるかもしれないという理由で銭湯に行くこと。
    (銭湯から出てきた人間たちはみな笑顔なんだそう)

    この悩み多きジャンゴが本当に愛しくて、
    (笑いたいと日々願ってる犬の設定だけで、おじさんは涙腺がゆるむゆるむ)
    普段は気楽に見えるけど、
    「ああ~、犬の世界も大変なんだなぁ~」と思わず同情してしまった(笑)


    心の中で思っていることをなかなか口に出せず、
    名前のとおり、どこまでもまっすぐで
    あまり笑わない生真面目な性格の
    映画館「月舟シネマ」のマスター、直(なお)さん。

    ジャンゴを「アンゴ」と呼び、
    自分のあだ名を「紅色」と聞き間違えるくらい横文字にうとい(笑)、
    古本屋の主人、デ・ニーロの親方。

    屋台を営むデ・ニーロの親方の女房、サキさん。

    月舟シネマ内のパンの売店で働く
    初美さん。

    月舟シネマの常連で
    サンドイッチ屋トロワで働く青年、大里(オーリィ)さん。

    口は悪いし貧乏だが誰より映画が好きな
    「スーパー・コンビニエンス・ストア」に勤めるタモツさん。

    月舟アパートメントに住み、人工降雨に関する研究をしたためている
    つむじ風食堂の常連客の「雨降り先生」。

    同じくつむじ風食堂の常連で、「そのあたり一周の旅」に出たきり戻ってこない
    読書好きの果物屋の青年。
    (オレンジの灯りで本を読むイルクーツクに行きたかったあの青年です)

    つむじ風食堂で働くサエコさんと
    看板猫のオセロ。

    タモツさんが姉から預かった
    美少女犬の黒柴レイ。

    などなど、シリーズをずっと読んできた人にはたまらない、
    懐かしき月舟町の商店街の面々も
    オールスターキャストで登場するのも楽しい。
    (欲を言えば、雨降り先生との恋の行方が気になる劇団女優の奈々津さんや、帽子屋の桜田さん、屋根裏のマダム、トロワのリツくんなどのその後も見て見たかった)


    無条件に好きなシリーズだけに
    今回も忘れられないシーンが沢山ある。

    直さんが道を誤らないよう、初美さんが不安にならないよう、
    一緒に夜の散歩に着いていくジャンゴのシーン。

    憧れの初美さんに
    おでこを押し当てられてうっとりしたり、
    レインコートを着せられた犬を嘆くジャンゴのシーン(笑)。

    「私は月の音が聞こえるようなこの夜の時間を失いたくない。ロビーに響く雨だれの音を失いたくない。もちろん、客席のいちばん後ろからこっそり映画を見物する楽しみを失いたくない」と
    赤字続きで閉鎖寸前の月舟シネマに苦悩するジャンゴのシーン。

    普段は静かな直さんが
    つむじ風食堂を追い出されそうなジャンゴを守るために大きな声を出して
    「僕の犬だ」と叫ぶシーン。

    そして親方の言葉、
    「昔から負けるが勝ちって言葉があるだろ。(途中省略)
    屋台とか古本屋っていうのは、世の中のどんづまりにある最後の楽園みたいなもんでさ、そういうところへ辿り着いた連中が、全員、マケイヌであっても俺はまったく構わない」は
    吉田篤弘がずっと描いてきたテーマである
    「いつかは消えてなくなってしまうものへの憧憬と鎮魂」を表していて
    激しく共感した。


    それにしても月舟商店街の面々には、
    ほんといい夢を見させてもらったなぁ~。

    シンプルだけど厳選され吟味されたであろう言葉たち。

    月舟シネマの古い映画とポップコーンの香り。
    つむじ風食堂のクロケット定食。
    いかついおじさんが営む古本屋。
    トロワのサンドイッチとスープ。
    夜遅くまで灯りをともしててくれる果物屋。
    夢の中では僕も商店街の一員となり、
    何度もジャンゴと散歩に出かけた(笑)
    白黒ネコのオセロを抱き、
    オーリィさんやタモツさんと映画談義に花が咲いた。


    吉田篤弘が描くのは、
    静かなふりをして饒舌で、
    古臭いのに確かなもの。

    ふつうの人のふつうの強さ。
    そこから紡ぎ出されるもの。
    時が経とうと決して変わらないものだ。


    沢山の物語を食べて、僕たちは大人になった。
    大人にも物語が必要なのだということを
    僕は吉田篤弘から教えてもらった。
    きっといつの時代も、
    物語は人が成長する上で重要な食べ物なのだ。


    サヨナラはツラいけど、
    彼らに会いたくなれば、またすぐに本を開けばいい。

    別れがあるから人は出会うのだ。
    だからサヨナラなんてコワくない。
    万物おしまいよりいづる。
    僕たちはそんな国に生きてるのだから。

  • やっぱり好き。大好きです。
    『つむじ風食堂の夜』、『それからはスープのことばかり考えて暮らした』、『つむじ風食堂と僕』を読んでいれば、大好きな月舟町にまた戻ってこれた幸せを噛みしめることが出来ます。
    でも、この本が月舟町への初めての旅だったとしたら、それはそれでワクワクドキドキの楽しい旅になったのかもしれない。
    私には想像することしか出来ないけれど。

    今回の主人公(語り手)は、月舟シネマの番犬ジャンゴ。町の人気者。
    そして、もう一人の主人公が月舟シネマの現マスターの直さん。
    直さんは映画館の経営が苦しいことに悩んでいます。
    直さんだけでなく皆が皆悩みを抱えています。
    映画館の経営、古本屋の経営、食堂の経営…etc。
    好きなだけではどうしようもない現実社会の厳しさということなのでしょうか。
    ジャンゴの目を通して語られる月舟町の人達の想いは辛くもあり、苦くもあり。
    それでもなお、やはり甘くもあるのでした。
    ジャンゴの優しい眼差しと月舟町の人達の温かい心がふわふわと私を包み込みます。

    物語の終わりに直さん達はある答えを見つけます。
    その答えはゴールでもなければ華々しいスタートでもなく、それはただのいつもの道の途中のちょっとした段差なのかもしれません。
    一度見つけた答えがその先もずっと変わらずに自分を支えてくれるとも限らず、やっぱり違ったと後悔したり、また悩んだりすることもあるかもしれません。
    いや、あるのです。
    それが生きているってことなのではなかろうかと考える今日この頃です。

    直さんのたどり着いた「今」の答えは、私の「今」の答えにはなりません。
    それも当たり前過ぎる程に当たり前。
    がっかりもしないし、さびしくもないこと。
    自分の「好き」を信じていつもの道を勇ましく歩き続けている月舟町の人達のことを考えるだけで、私には勇気が漲ってきます。
    私も力強く歩けそうな気がしてきます。
    それがこの本を読み終えた「今」の気持ちです。

    また月舟町に行きたいな。
    また月舟町の人達に会える日を心待ちにしながら、今日もいつもの道を歩き続けましょう。

  • 月舟町を舞台にしたシリーズ三部作の最後の1冊です。

    レトロな雰囲気を残す月舟町。
    しかし、そんな月舟町も変わらないようで変わっていく。
    本作では町や人の様子が、月舟シネマの看板犬・ジャンゴの目を通して綴られていきます。
    変わらないものはない、ということに少し寂しくなりつつも、ゆるりゆるりと移ろいながら、その土地で続く営みの愛しさに鼻の奥がツンとしました。

    果物屋の青年のファンなので、今回は登場回数が多くてちょっとうれしいです。
    いつかまた、月舟町に帰ってきたくなったら三部作を手に取りたいと思います。

  • 月舟町シリーズの第3作。
    月舟シネマの番犬ジャンゴの視点から、月舟町に住む人々の日常を描いている。

    人はみな、時として自分に自信を無くし、これからのことに不安を持ったり、でも、ちょっとしたことで気持ちが前向きになったしながら毎日を暮らしているものだと思う。
    この物語に登場する人たちも、そんな風に毎日を送っている普通の人たちなのがいい。不器用だけれど、お互いを想い合う姿に、じんわりと気持ちが温かくなる。
    そして、自分もまた明日から前を向いてゆっくり歩いていこう、と思うのだ。
    このシリーズは、これからも心がささくれたときなどに何度も読み直すんだろうなぁ・・。

    ジャンゴ、可愛い。大好き。
    彼の視点と、某缶コーヒーのTVCMで地球調査をしている宇宙人ジョー○ズに同じ匂いを感じて、なんだか可笑しくて、愛しかった。

  • 久し振りに気合を入れて、
    部屋全部の床磨きをする事にした。

    普段は四角い部屋を丸く掃いているだけなので、
    隅々が汚れている。
    モノもあれこれ置きっぱなし。

    そんな中、
    (あ~、いつの間にこんなに…っ!)
    愛おしい古本の小山が出来ていた。

    図書館での廃棄本、
    同館のリュースコーナー、
    ブクオフ、
    古書店
    知人から…

    あらゆる所で手に入れた本が部屋の一画で緩やかな稜線を描いていたのだ。
    (さすがにこれは…。)
    掃除の為に一時的に本を数回に分けて移動させ、
    埃だらけの床をピカピカにした。
    ふー。

    そこで発生したネガティブな霧が、
    (生きてる間にこれ、全部読めるのかよ…)と、もやもやかかり始めてきたので、
    払拭する意味でも、とりあえず掃除も終わったし
    図書館から借りてる本を、読もう~っと。
    と、手にとったこの本の中で
    つむじ風舞う例の街にある映画館で番犬をしている「ジャンゴ」からワン!と吠えられた気がした。

    (おっ…おっと??)

    そういえば、以前「つむじ風食堂の夜」を読んだ時も
    星がコトン、と胸の中に落ちてきた。
    それと、どこか似たような感覚。

    ジャンゴは賢い犬だから、
    私は彼の言いたい事が良くわかった。
    彼自身は
    (俺は犬だから、人間の考えてる事を理解するのは難しい。)
    と、嘆くが
    純粋なジャンゴの目を通して見る、月島町に住む人達の生き方を見ているうちに…
    私の山々(古本)達まで、ざわざわと息を吹き返してきたように思えたのだ。

    ワンッ!と吠えられたのは、
    本を急かされる様に読むのはヤメて。
    例え、山の一番下っ端にいたとしても、気長に待ってるから。
    そう、そうでした。
    これから山を一歩一歩征服してゆく、という楽しみを積み上げてきたのは他ならぬ自分じゃないか…

    いつも、忘れた頃に大事な事を思い出させてくれる、大好きな物語。
    ありがとう。
    つむじ風吹く界隈に住む皆さん!と、ジャンゴ♪

  • 月舟町三部作の三作目。
    今までの登場人物も次から次へと出て来てとても楽しかったです。
    もっと読んでいたい。
    のんびりした雰囲気の中に、ハッとさせられる言葉やじんわり心に響く言葉がひそんでいて油断ならない本でした。
    前の二作はどこから読んでも心地よくて、何度も読んでます。この本もまたそんな本になりそうです。

  • 月舟町シリーズ三作目。

    果物屋にハラハラしたり
    犬の考察にワクワクしたり

    名前が毎回違ったり

    『僕の犬だ!』の一言に感動したり

    本当に雨と希望の物語でした。

    月舟町シリーズ、終わってほしくない。

  • 「つむじ風食堂」や「それからはスープ~」とリンクしているみたいで、また一連の篤弘さんの本を繰り返し読んでみたくなる一冊です。
    今回はまさかの犬目線。しかしそれが妙にしっくりしていてあっという間に読み終えまだまだ終わってほしくないといういつものジレンマに陥ってしまう。
    なんて素敵な商店街なのでしょう、私も住人の一人(?)になり、肉球に草かなんかを挟ませながら駆け廻りたい!(犬として参加希望!)
    人生に相当するドッグライフ、という言葉、賛成ですね。

  • このシリーズほんと好き。ほのかな憧れ

  • この町に住みたい。どこか懐かしくて、ほっとした。

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レインコートを着た犬の作品紹介

小さな映画館"月舟シネマ"と、十字路に建つ"つむじ風食堂"を舞台に、「笑う犬」を目指すジャンゴと、彼を取り巻く人々による、雨と希望の物語。月舟町シリーズ三部作・完結編。

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