キム・フィルビー - かくも親密な裏切り

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (447ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120047190

作品紹介・あらすじ

冷戦下の世界を震撼させた英国史上最も悪名高い二重スパイ。そのソ連亡命までの30年に及ぶ離れ業を、M16同僚との血まみれの友情を軸に描き出す。

感想・レビュー・書評

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  • 同著者による最新作「KGBの男」を先に読んでいて、あまりの面白さにこちらも手に取った。もちろんこちらも事実に基づいていて、実在の二重スパイ、キム・フィルビーの半生を描くドキュメンタリー。スパイ小説のようにスリリングで、ボリュームはあるが、読む手が止まらない。
    イアン・フレミングやグレアム・グリーンなど、後にスパイ文学作家になる面々も登場し、なるほどここに繋がってくるのか、と。さらにあとがきを書いたジョン・ル・カレ、その代表作スマイリーシリーズのスマイリーのモデルがこのキム・フィルビーだという。



    本著の主人公はMI6でありながらKGBのために働いたフィルビーと、その友人であり同じくMI6(セクションV)の同僚のニコラス・エリオット。また、CIA職員であったジェームズ・アングルトンを中心とした物語。
    ナチスが台頭し、第二次世界大戦が始まる頃から物語は始まる。ケンブリッジ大学出身で後にKGBが仕込んだ二重スパイとなる5人を合わせてケンブリッジ・ファイブと呼び、フィルビーもその一人だった。学生時代に共産主義に傾倒していたフィルビーだが、それは若気の至りだったとして、MI6のスカウトに応じ、反ファシズム、のちに反共産主義のために忠義を尽くしていた…かに見えただが、実はずっとソ連のために機密情報を漏らし続けていた。

    にも関わらず、人当たりがよく、(MI6職員として)成果も出していたフィルビーはしっかりと出世の道を駆け上がり、アメリカ駐在のワシントン市局長という極めて重要なポジションまで登り詰め、ゆくゆくはMI6長官候補とまで言われるに至る。
    同時にソ連スパイとしても大活躍し、イギリス・アメリカの重要作戦を失敗させることに貢献する。

    同じくケンブリッジ・ファイブであったマクレインの正体がバレて亡命し、同時にフィルビーの友人であったバージェスも亡命。誰が亡命に加担したのか、正体がバレているという情報を漏らした「第3の男」は誰なのかとフィルビーに危機が迫る。MI5はフィルビーが第3の男であると確信しており、更にはアメリカの新聞にもその噂が載り、フィルビーは会見で身の潔白を訴える(この時のフィルビーの会見は後にMI6の人をだますための研修資料になるほど完璧だった)。
    しかし確たる証拠がないため、なんとか難を逃れ、エリオットの助けでMI6へ復帰するが、その後のフィルビーは酒に溺れ、仕事には不真面目になっていく。

    そして、ソロモンという古い知人がフィルビーにソ連側のスパイにならないかと勧誘を受けたことがある、という暴露から、イギリス側はフィルビーの正体を確信する。フィルビーから自白を引き出す役割を、親友であるエリオットが引き受け、最終対決へ。
    エリオットから問い詰められ、フィルビーは二重スパイであったことを自白する。しかしその後、エリオットは故意か不注意か、フィルビーに隙を与え、その間にフィルビーはソ連へ亡命した。

  • キム・フィルビーという名前は聞いたことがあった。イギリス上流階級出身で、MI6のスパイとして働く一方で、ソ連に忠誠を誓い、ソ連のために情報を流していたいわゆる「もぐら」二重スパイ。
    あまりにも有名な彼のことを主題にした本はたくさんあるそうだが、本書は、フィルビーとその親友で同じくMI6に勤務していたニコラス・エリオットの「友情」をテーマの一つにしている点が特徴らしい。
    実際、エリオットのみならず、米CIAのアングルトンなど、フィルビーとスパイどうしの内輪であるからこそ親密な友情を育んだ(と思い込んでいた)人々がフィルビーを信用し、窮地に追い込まれた彼を助け、裏切られる様があまりに切なく描かれている。

    共産主義を通じて知ったソ連を「祖国」と呼び、一生かけて奉仕するフィルビーの熱意を理解できる人はそんなに多くはないのではないか。
    そのような二重生活がフィルビーには「楽しかった」のだと筆者は評価するが、エリオットやアングルトンのフィルビーに対する好意的な感情が本書に描かれていることでその評価に説得力が生まれている。親しい友人や家族を裏切り、しばしば孤独に苛まれながらもソ連に献身を続けたフィルビー。
    でも、その欺瞞に満ちた一生を振り返ってみて、心から楽しかったと彼は思えたのかな…

    人間の精神というのがいかに複雑なものか。ある場所では美徳と捉えられるもの(例えば、イギリス支配階級の強い連隊意識)が時には思いがけない事件の温床となるものか。
    何事にも二面性、多面性があるのではないかと思わされる、フィルビーを取り巻く人々の物語だった。

    原題は "A Spy Among Friends: Kim Philby and the Great Betrayal" だが、その副題をあえて「かくも親密な裏切り」と訳した邦題のセンスにうっとり。

  • ボーイズクラブとしての情報部。この時代の「政治」の重たさ。飲み過ぎの害と飲まなければやっていられない境遇。友情と嘘

    人名索引があるとよいくらい人物がたくさん出てくる。ル・カレによるあとがきも良い

  • 親友をだまし続けたスパイ

  • 上流階級の出自、MI6の高官であったにもかかわらずソ連のスパイであったキム・フィルビーの伝記。イデオロギーから祖国を裏切るという、今は昔となった冷戦時代の東西冷戦の雰囲気を知りたい読者にはおすすめ。また、007やスマイリーシリーズなどの英国スパイ小説の原型も感じられ、英国スパイ小説のファンにもおすすめ

  • MI6の幹部になったKGBのスパイの実話。当時はこんなことが、と驚く内容。スパイの方式は古典的だが、周囲をいかにだましていたか、周囲がだまされる様子。人の固定観念。階級社会に紐づけされた人々の感情・・・。組織を守るためという、コンプライアンスとは全く関係ない世界。

  • 聞いたことの列挙のような感じだし、実際に、書き方も、・・・と言っている!とか、・・・と思い返している、となっており、いまいち感情移入できない。
    自分には合わないので、途中で棄権。

  • 裏切りのサーカスの元ネタであり副島隆彦によれば007も第3の男もモデルにしてるというソ連と英国の二重スパイ、キムフィルビーの伝記。欺瞞に満ちた人生と魅力的な性格が面白い。何度も疑われては逃れてきた過去や彼のせいで多数の死者が出てるのは驚くべきことだ

  • 冷戦の時代。イギリスのみならず西側世界に大きな衝撃をもたらした
    稀代の二重スパイ、「ケンブリッジ・ファイブ」のひとりでもあるキム・フィ
    ルビー。本書はフィルビーの評伝であると共に、スパイ同士の友情の
    物語でもある。

    フィルビーと同様にイギリスの上流階級に生まれたニコラス・エリオットは
    無二の親友を亡くした直後にフィルビーに出会い、その人間的魅力に惹か
    れた。

    生まれ育った環境が似ていたふたりの心が通じ合うに多くの時間は必要
    なかった。情報機関に所属し、ふたりは共に出世街道を歩む。

    そのなかでフィルビーがソ連に通じていることは何度か発覚しそうにはなる。
    1回目はソ連の在外大使館員によるもの。イギリス情報機関の二重スパイに
    関する情報を携え、イギリスへの亡命を打診して来た人物はフィルビー自身
    によって見殺しにされた。

    2回目はアメリカ情報機関の暗号解読班によるお手柄だった。これはイギリ
    ス側も無視することは出来ない。だが、状況証拠のみによる二重スパイ疑惑
    は、フィルビー擁護派と懐疑派にイギリス情報機関を二分しただけで、本人
    は事情聴取も上手く切り抜けた。

    しかし、3回目には疑惑は決定的なものとなった。過去、フィルビーにソ連の
    スパイにならないかと誘われた人物の証言が得られたのだ。

    その年月、約30年。祖国イギリスではなく、ソ連に向けたフィルビーの愛国心
    が完全に暴かれることとになる。

    親友の不遇の時代、精神的な支援はもとより経済的にも支援を惜しまず、
    フィルビーの家族さえも支え、信じ、多くの秘密を分かち合ったエリオットは、
    自らフィルビーの尋問を買って出る。

    どんな心境だったのだろうな。後年、エリオットは自体が発覚する前から
    フィルビーを二重スパイだと疑っていたと語ってるのだが、それは後付けの
    言い訳なのだろうと思う。だって、ソ連側へ情報を渡すのにエリオットだって
    利用されていたのだから。

    ただ、エリオットはどこかでフィルビーを憎み切れなかったのではないかと
    思う。フィルビーへの一連の尋問を後任に引き継ぐ際、フィルビーに監視も
    つけず、尋問場所であったベイルートを離れているのだもの。

    筋金入りの情報部員であるエリオットだ。うっかりしていた…なんてことはない
    だろう。著者も推測しているのだが、すべてが明るみに出る前にフィルビー
    が亡命できる機会を作り、イギリス情報機関の面目を少々保つと同時に、
    友を重罰から守ったのではないだろうか。

    エリオットの出世はフィルビー亡命で閉ざされた。だが、エリオットよりも酷い目
    にあったのはアメリカCIAのジェームス・ジーザス・アングルトンだ。

    CAIの前身となる情報機関は諜報のプロフェッショナルであったイギリスで教え
    を受けた。アングルトンもその時のメンバーであり、講師となったフィルビーに
    心酔した。

    そうして、フィルビーがワシントン支局に赴任した際には一緒に食事をしながら
    多くの秘密を共有した。エリオット同様、アングルトンの漏らした秘密はすべて
    フィルビーを通じてソ連に報告され、潜入した多くの工作員が殺されたり、行方
    不明になったりしているのだ。勿論、失敗した作戦も山積みだ。

    フィルビー二重スパイの衝撃は、アングルトンにパラノイアをもたらした。以降、
    アングルトンは誰彼かまわずにソ連のスパイだと疑ってかかるようになってしま
    うのだもの。

    スパイを扱ったノンフィクションは他にも読んで来たが、スパイと二重スパイの
    友情にスポットを当てた本書は、これまでのノンフィクションと一味違う。

    作中、イアン・フレミングやグレアム・グリーンの名前も登場し、イギリスが行った
    スパイ大作戦の模様も詳細に綴られている。

    ジョン・ル・カレによる「あとがき」も秀逸。

    でも。スパイは結局は幸せになれないのかも。あれほどソ連に尽くしたフィルビー
    だって、亡命後はプロパガンダに利用される以外はモスクワがもろ手を挙げて
    歓迎してくれたのではないんだものね。

    蛇足だが、この「かくも親密な裏切り」というタイトルも格好いいわ。

  • 2017 041 0802

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著者プロフィール

イギリスの新聞タイムズでコラムニスト・副主筆を務め、同紙の海外特派員としてニューヨーク、パリ、ワシントンでの駐在経験も持つ。ベストセラー『KGBの男 冷戦史上最大の二重スパイ』をはじめ、『英国二重スパイ・システム ノルマンディー上陸を支えた欺瞞作戦』『キム・フィルビー かくも親密な裏切り』(以上いずれも小林朋則訳、中央公論新社)など諜報戦を追った著作に定評がある。『ナチを欺いた死体 英国の奇策・ミンスミート作戦の真実』(小林朋則訳・中公文庫)は映画化もされた。

「2022年 『ソーニャ、ゾルゲが愛した工作員』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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