石原吉郎 - シベリア抑留詩人の生と詩

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120047503

作品紹介・あらすじ

死と隣り合わせの重労働と飢え、そして人間に対する過度な不信…。厳寒の地シベリアで詩人は何を体験し、日本社会に何を見たのか。62年の生涯を丹念にたどり、詩からエッセイ、短歌俳句まで精緻に読み解き、戦中・戦後体験と透徹した作品世界を捉えなおす。

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  • 今生【こんじやう】の水面【みなも】を垂りて相逢はず藤は他界を逆向きて立つ
     石原吉郎

     昨年は、詩人石原吉郎の生誕100年にあたる年だった。それに合わせて刊行された細見和之の著書は、従来の石原論を揺さぶる、新たな読みの可能性を提示している。

     過酷なシベリア抑留体験をエッセーに多くつづった石原ゆえ、読者は「石原=シベリア抑留詩人」と規定し、むしろ過剰にその体験を背負わせすぎてきたようだ、と細見は指摘する。なるほど、シベリアでの「実体験」と、帰国後10数年を経て書き始めたエッセー、つまり「追体験」とを同じ質のものととらえては、読み誤るところも少なくないのだろう。

     別な見方を提案する細見は、詩の語を注視し、年譜や詩で用いられた漢語を丁寧に検証している。また、ユーモアあふれる詩にも言及し、意外な側面も見いだしている。

     さて、石原は晩年に歌集「北鎌倉」を刊行した。過度の飲酒で緊急入院し、点滴を受けながらの病中詠であった。

     石膏のごとくあらずばこの地上になんぢの位置はつひにあらざる

    「石膏」のように身動きのできない病床の姿は、身体的拘束そのものである。けれども、その拘束に抗おうという祈りのようなものが詩人の「位置」だったのか。

     掲出歌は、藤の花房が垂れて水たまりに映っている光景。水面に映ることで、藤は「逆向き」に上を見上げる構図となる。すでに死を意識し、心身は下り坂にあるはずが、この歌では精神が上向きに覚醒しており、はっとさせられる。1977年、自宅で入浴中に急死。享年62。

    (2016年3月20日掲載)

  • 孤高の詩人は厳寒の地シベリアで何を体験し、日本社会に何を見たのか。62年の生涯を丹念に辿り、詩からエッセイ、短歌俳句まで精緻に読み解き、戦中・戦後体験と作品世界を捉えなおす。

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著者プロフィール

1962年、兵庫県丹波篠山市生まれ。2014年10月から大阪文学学校校長。2016年4月から京都大学教員。
詩集:『沈むプール』、『バイエルの博物誌』、『言葉の岸』(神戸名ビール文学賞)、『ホッチキス』、『家族の午後』(三好達治賞)、『闇風呂』、『ほとぼりが冷めるまで』(藤村記念歴程賞)
主な詩評論集:『アイデンティティ/他者性』、『言葉と記憶』、『ディアスポラを生きる詩人 金時鐘』、『石原吉郎』、『「投壜通信」の詩人たち』(日本詩人クラブ詩界賞)

「2023年 『京大からタテ看が消える日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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