アントニー・ブラント伝

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (598ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120047718

作品紹介・あらすじ

英国の機密情報を長年ソ連に漏洩し続けた「ケンブリッジ・ファイヴ」。その一人にして、コートールド美術研究所を率いた著名な美術史家。「スパイ、同性愛、国を裏切り、女王まで窮地に追い込んだ悪党」と激しく指弾されたアントニー・ブラントとは、どのような人物なのか。戦争と革命に翻弄された20世紀の襞に光を当てる傑作評伝。オーウェル賞、王立文学協会賞受賞!

感想・レビュー・書評

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  • 桑子利男さんの翻訳は読みやすい。スキャンダルな事実をも、妙な解釈代弁を差し込まない著者の淡々とした筆致が読み手を真摯にさせる大著。

    プッサンの研究、英国美術史学を立上げ牽引した手腕は、さすがらしく全世界の美術界で知られる存在に。ロイヤルファミリーにも仕え、ナショナル・トラストの初代絵画顧問として王室美術の管理指南役を務めるも、もう一つの顔はケンブリッジファイブの一員でソ連のスパイ。

    センセーショナルな事件に対し極力感情を排して書かれた文章は行間を読む楽しさに満ちあふれ、良書の好例。美術史学の有り体、プッサン研究に関する記述とスパイ活動と割かれる分量は五分と五分で、ブラント当人の心情に読者が多角的にアプローチできるしかけ。

    息苦しいパブリックスクールの体験が後年のスパイへの転身に影響を与えたのかも等、読み手の解釈の自由度が高い。共産主義に傾倒しスペイン内乱に心をかき乱される若者ブラント。ケンブリッジ時代はケインズとの交流、ヴィトゲンシュタインとの確執も、血気盛んな若かりし時代。

    戦時中のロンドン、パーティ三昧で息抜きする情景も興味深い。また王室の窮地を救うべく、自ら戦時下のドイツでの隠密活動に向かう。淡々飄々としつつ、自分を表に出さない禁欲的な性格から想像できない八面六臂の活躍ぶり。

    共産主義への共感は若気のいたりだったのか、ゲイであることでの英国社会での居心地の悪さが幾ばくかの影響を与えたのか、それらの解釈はすべて読者にまかされる。ブラントの相反する多重的な振る舞いに、読者は翻弄されつつも複雑な人間性の虜になる。

    しかし、ケンブリッジファイブである。イギリスの外務省やMI5,MI6に潜り込んで上層部に次々出世。そもそもエリート達がスパイなのだからタチが悪い。あまりにも盗み出す情報の質が高く、その分量も半端ない為、ソ連側は情報の内容をなかなか信頼できないジレンマに笑。

    そして、ブラントはスパイを辞めても美術界ではどんどん出世。ルーブル美術館の職員全員と知り合いで、どこにでも自由に入ってゆける。羨望を集め、美術界やコートールド研究所内での評価が高まる一方、スパイであることが露呈しないか、おののく日々。

    ナチスと同盟時のソ連のスパイである過去。一方、英国の美術史学をアマチュアリズムから学問研究的なものに昇華させ、17世紀フランスイタリア美術の大家で爵位も。スパイ発覚後は錯綜する事実に周囲も困惑、読み手も翻弄されつつブランドの生涯につきあう醍醐味満載。

    <その他の書籍紹介>
    https://jtaniguchi.com/tag/%e6%9b%b8%e7%b1%8d%e7%b4%b9%e4%bb%8b/

  • ケンブリッジ・スパイの一人、アントニー・ブラント。この著名な美術史家は、なぜ国を裏切ったのか。謎の人物の奥底に迫る傑作評伝。

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