イエス伝

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (281ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120048036

作品紹介・あらすじ

聖書には、書かれた言葉の奥にある不可視のコトバが無数に潜んでいる。そしてイエスの生涯には、立場の差異を超え、作り手の衝動を著しく刺激する何かがある-内村鑑三、『コーラン』、遠藤周作、シュヴァイツァー、リルケ、ユング、柳宗悦、井筒俊彦、ロダン、白川静…先人たちのコトバを手がかりに聖書を読み、今も私たちの傍らに生きるイエスに出会う。

感想・レビュー・書評

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  • 「イエス」を語るためにキリスト教だけにこだわらずあらゆる宗教・哲学・叡智を用いていて、これまで読んできた宗教関連書とは違い、新鮮に読めた。学術書というより読み物として面白い。
    年代も性別も違うのに以前から著者に親近感を感じていたのが、クリスチャンホーム出身で宗教を考える中で井筒先生に辿りつくなど、バックグラウンドが似ていたからだと知った。

  • 本書で若松英輔は、我々に今まで出会ったことのないイエスと立ち会わせてくれる。
    この一書だけで、この作者の懐深い包容力を理解することが出来、信用できる著者であることが納得できる。

    「コトバ」とは意味を伝達するものだが、若松がイエスから聞き取ろうとする「コトバ」は意味を超えている。
    理性による理解という通常の言葉理解を超えて、直接、心に、魂に、訴えかけてくる「コトバ」に、若松は耳を澄ましているのだ。
    そして、心に、魂に直接届くイエスの「コトバ」を聞き取った若松は、それを読む者に共有してくれる。

    聖書を読んでも、聖書に関する参考文献を読んでも伝わってこないイエスの肉声。
    そのもどかしさを感じた人も多いことだろう。
    新約聖書の成立自体が、苛烈な政治的抗争の中で、イデオロギーとしてまとめられたものであるから、その政治的な雑音に掻き消されて、簡単にイエスの肉声を聞くことはできないのだ。
    都会の騒音の中で、幽けき音がかき消されてしまうのと同じだ。
    しかし、突然騒音が消え、美しい日差しが差し、爽やかな風の音が響き渡ることがある。
    そんな風のように、イエスの声を聞くこと。
    人知れぬ悲しい経験を積んできた、それでいて人間理解に真摯な姿勢を持ち続ける若松だからこそ、騒音の中からもイエスの肉声をしっかりと聞き取ることが出来るのだろう。

    と言うことは、若松のような姿勢で聖書に対さなければ、イエスの声は聞こえてこない、ということだ。
    イエスの言葉と行動をイデオロギー的に再構成して、宗教組織を形作る目的で作り出された新約聖書からは、容易にイエスに接近することは出来ないということなのだ。
    だから、多くの人は、聖書に躓き、イエスの声を聞き損ねてしまう。

    ルター、カルヴァンの宗教改革は、キリスト教内部で、イエスの肉声を聴く行動だったと言えるだろう。
    それがプロテスタントというキリスト教の一大潮流をつくりあげ、カトリックと血で血を洗う抗争を繰り広げだのは、周知の事実だ。
    また、それが、現代資本主義を生み出したことも。

    それに対して、若松は、キリスト教の外から、キリスト教という組織原理から離れたところから、イエスの「コトバ」を聞きとろうとする。
    若松が聞き取ったイエスの「コトバ」の何と瑞々しく、何と奥深く、何と魂を震撼させてくれることか。
    それは「イエスのコトバ」でなくとも良かったのかもしれない。
    ゴータマ•ジッダールタでも、親鸞でも、ガンジーでも良かったと言える。
    人間の魂に触れる「コトバ」を紡いだ人たちであれば、だれでも良かったのだ。
    「イエスのコトバ」が導く先には、ゴータマも、親鸞もガンジーも、空海も、マホメットも居る。
    真の「コトバ」は一つ所に繋がっていくのだから。

    若松がイエスのコトバに到達するためには、多くの導き手が存在している。
    ドストエフスキーやリルケと言った作家、詩人。
    シュバイツァーと言った実践に携わった医者。
    ヴィヴィカーナンダと言ったヒンドゥー教の指導者。
    井筒敏彦と言ったイスラム学者。
    そして何よりも、長嶋愛生園のハンセン病患者たち。
    更には、キリスト教徒ではなく何気なく聖書を読んで感銘を受けた女性。
    若松の自由で柔軟な心は、多くの導き手の読みに感応して、イエスのコトバの深みにそっと錘鉛を下していく。

    若松の紡ぎ出すコトバ、若松の聞き取るコトバに、静かに耳を澄ませたい。

  • あまりキリスト教には詳しくないです。
    イエスの細かな話がわからなくて、でも後半のキリストと磔のあたり、ちょっと知ってる話だと興味深く読むことができました。

  • イエスの全生涯を批評家でクリスチャンの若松さんの視点を通して深堀していく。宗派や国境を超えて考察される。読み終えたとき、自分が漠然と感じていた人間イエスの姿がよりくっきりと、実体をもって、胸が痛くなる鮮烈さで迫ってきた。

  • ますますイエスの像が神秘と不可解を増してくる捉えようのなさ。

  • 18/02/24。

  • 「沈黙」「アメン父」などキリスト教関係の本を読み、その流れで手に取りました。
    キリスト教を知ろうとしても、結局は元々キリスト教の素地が無いし、信者になりたいわけでも無いので、歴史的な意味では理解したとしても、肝心の「信仰とは何か」という問いは感情で納得できないままです。ですが、この本では信仰の無い人でも、信仰としてのイエスキリスト像を理解できるようになっていると思います。実際にキリストが奇跡を起こしたとか、生き返ったとかそういうことがあったどうかではなく、神を受け入れること、「アメン父」でいうところの「宗教はココロの問題では無い」ことが、なんとなく理解できたような気がします。
    また、キリスト教だけでなく仏教やイスラム教について、他のキリスト教文学作品についても書かれており、いろんな本が読みたくなります。

  • キリスト教のイエスについての評伝。
    かなり難しく、キリスト教だけでなく人物概要などの深い知識がないと文章自体も分からない。
    自分の読解力が足りないだけなので、深く読めるといいのだが…。

  • ●若松さんの深い知識がちりばめられ、イエスを通して
    多面的に語られていて味わい深かった。

    ●イエスの軌跡は、新約聖書、4つの福音書(マタイ、
    マルコ、ルカ、ヨハネ)をもってしてもイエスの軌跡
    はわからない。

    なぜなら、福音書はイエスの伝記的事実の記録ではなく
    共同体としての進信仰表明だった。


    ●キリストの誕生を祝う日さえもはっきりしていない。
    イエスの存在が独り歩きして、イメージが出来上がって
    きている。

    イエスの誕生は、イスラームの聖典「コーラン」に
    おいてイエスの誕生をはっきり意志している。
    イエスの誕生がキリスト教だけのものでなかった。


    ●ここでの「十字架」とはイエスの死と復活を意味
    する。それを今日再現しているのがミサである。
    ミサが「最後の晩餐」に淵源しているように、
    イエスの生涯において、食べ物あるいは食事は
    きわめて重要な意味をもつ。食事はイエスにとって、
    いつも高次な意味における和解のしるしであり、
    「贖罪」の営為だった。

    あるとき弟子が食べ物を差し出すとイエスは、
    おもむろにこう語った、「わたしにはあなた方の
    知らない食べ物がある」このヨハネ伝にある一節も、
    食べるとは肉体と共に魂にふれることに等しい。
    イエスはたびたび、徴税人や罪人といった社会的に
    虐げられた人々と食事をする。(p135)

    食べるということを改めて考えさせられる件だった。
    森のイスキアで佐藤初女さんが、様々な人に食事を
    供して、一緒に食べてきた光景が浮かんだ。

  • 私のイエスは、「教会」には留まらない。むしろ、そこに行くことをためらう人のそばに寄り添っている――キリスト教や学問的なアプローチからでは見えてこない、今に生きるイエスに出会う。

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著者プロフィール

1968年新潟県生まれ。批評家、随筆家。 慶應義塾大学文学部仏文科卒業。2007年「越知保夫とその時代 求道の文学」にて第14回三田文学新人賞評論部門当選、2016年『叡知の詩学 小林秀雄と井筒俊彦』(慶應義塾大学出版会)にて第2回西脇順三郎学術賞受賞、2018年『詩集 見えない涙』(亜紀書房)にて第33回詩歌文学館賞詩部門受賞、『小林秀雄 美しい花』(文藝春秋)にて第16回角川財団学芸賞、2019年に第16回蓮如賞受賞。
近著に、『ひとりだと感じたときあなたは探していた言葉に出会う』(亜紀書房)、『霧の彼方 須賀敦子』(集英社)、『光であることば』(小学館)、『藍色の福音』(講談社)、『読み終わらない本』(KADOKAWA)など。

「2023年 『詩集 ことばのきせき』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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