ターミナルから荒れ地へ - 「アメリカ」なき時代のアメリカ文学

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (265ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120048333

作品紹介・あらすじ

21世紀の新しいアメリカ文学を知るいちばん刺激的な読書案内。

感想・レビュー・書評

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  • 理想的で立派な「アメリカ文学」を追い求める時代は終わり、移民作家の台頭によって変化しつつあるアメリカの小説たち。〈ターミナル化〉と〈荒れ地化〉をキーワードに、翻訳者が新しい時代の小説の地図を描く文学ガイド。


    グローバル化によって「テクノロジーと移動が生み出す世界、かたやそれと同時に進行していく不毛化という両極」に身を置きながら書かれた世界文学(アメリカに限らない)の特徴を、著者は〈ターミナル化〉+〈荒れ地化〉と呼んでいる。ターミナルが多様性のポジティヴな面を指しているとすれば(その分ビジネスライクでもある)、荒れ地はポストアポカリプスSFが現実化したかのような混沌であり、従来の価値観では育たなかった新しい芽が生えてくる自由さの象徴にもなっている。グローバル化をこのように言い換えるのは文学以外にも有効だと思い、三品輝起『雑貨の終わり』の感想にも援用させてもらった。
    第Ⅲ部の「伯父さんと戦争」にまとめられているように、〈マッチョなアメリカとの別れ〉というテーマが全体に通底しており、2016年当時の空気が思いだされる。女性作家も取り上げられているけれど、フェミニズムやクィアな小説としてまっすぐ語ることはなく、多様化によってメインストリームに浮上してきたカウンターというくらいの扱い。〈荒れ地化〉した文学界でむしろ生き生きと芽を伸ばしている人たち、とは見なされているか。
    そして藤井さんに限った話ではないのだが、個人的にユージェニデスの『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹』について話すとき、語り手「ぼくら」の有害さに触れない評者が気になって仕方がない。全てが「ぼくら」の妄想かもしれない、とすることで彼らの暴力性に言及しているつもりなのかもしれないけれど、その妄想こそが現実の「姉妹たち」を傷つけ、犯したということを描いた小説だと私は思っている。あの小説に書かれたことをある時代特有の「切なさ」に還元されるなんて堪ったもんじゃない。

  • 「アメリカ」が変化していること、がわかった。ヒスパニックやメキシカン、カリビアン(だったかな、カリビアンっていうのをわたしはドラマ「オレンジ・イズ・ザ・ニュー・ブラック」で知った)など移民が増えて、「白人」が少数になってきている、っていうのはきいていたけれども、そういう流れで「アメリカ文学」も変わってきているという。(ざっくりしすぎで、ちょっと違うかもしれないわたしなりのまとめですみません。)
    そういう新しいアメリカ文学の紹介。
    クラシックな流れをくむいわゆる普通の小説ではなくて、現代小説っていうのか、変わってる、奇想、とか、実験的なものが多い。
    わたしはそういうのが苦手で、ほとんど読んでいないのだけれど。これからのアメリカ文学を知るには少しは読まないと、とか思った。
    エッセイというか、創作っぽいエッセイ?もおもしろかった。著者の藤井光さんて、柴田元幸さんとか岸本佐知子さんとかみたいに、自分で書ける人なんだなあと。1980年生まれてって若い。。。

  •  軽妙洒脱にアメリカ文学を語り、紹介していく。僕は、まるでラジオDJを聞いているような感覚を覚えた。

     奇想、大陸横断、戦争文学における父性の不在や英語を母語としない者による英語による創作。テーマごとに比較や比喩を織り交ぜ、本屋の書棚から抜き取り、手にもってみたくなるように読み解かれていく。

     僕が今まで読んだ本のうち、最も良かったと思う一冊『すべての見えない光』を翻訳されたのが、本書の著者でいらっしゃる。原作の持つ面白さはもちろんだが、翻訳者の藤井光さんの翻訳があってこその感動だったんだなと、強く思った。

  • そう言えばこの著者の訳した作品を読めていないことに気づかされる。私自身の勉強不足を痛感させられる。アメリカ文学を中心にグローバルに(村上春樹も視野に入れて)文学を概観しようとする姿勢は生真面目そのもので、むろんややユーモアも交えてはいるのだけどそのギャグは滑っている。結果として読み物としては良く言えば真摯な英文学研究のドキュメントとなっており、悪く言えばもう少しコアに/冒険したものを読みたかったかなというところ。だが断じて駄本ではない。著者が訳する作家をもっと読み込み、ディープに奇想と戯れたいと思わされた

  • 藤井光「ターミナルから荒地へ」 http://www.chuko.co.jp/tanko/2016/03/004833.html … 読んだ、おもしろかった。純アメリカ人作家よりも、南米ルーツだったり他国語混じりの作品だったり、体裁を含めちょっと捻った作品を取り上げることが多い翻訳家による、米文学の現在への論考と読書ガイド(つづく

    翻訳行為はゲロと同じ、というのがこの人らしい。作品解説と自分の話との境界が時々判りにくいし、もっと解説領域が広範だといいなという要望はあるけど(何度も同じ作品が登場する。堀江敏幸の博学と守備範囲の広さと比べてしまう)内容も紙面構成も凝ったのはナイストライ。わたし何様?(おわり

  • ガイブンファンとして「翻訳者買い」をする翻訳者の一人、藤井光さんによるアメリカ文学談。
    アメリカという国が国際線ターミナルのように無国籍になりつつあるなかで、多国籍(=アメリカ国籍だがルーツは違う国)の作家達が現代の荒涼とした荒れ地を切りひらいている…藤井氏は様々な国にルーツを持つ現代作家をよく訳すが、アメリカ文学に対するこのスタンスの表出だったのか。確固たるアメリカらしさを描いていたのはアーヴィングやパワーズの世代まで。さらにアメリカ以外のルーツ=移民文学でもない。今の世代はもっと自由な開拓者だという。藤井氏の優れた言語センスも伺え、面白かった。
    「オースターが柴田元幸、カーヴァーが村上春樹を得たように」ダニエル・アラルコンやセス・フリードやプラセンシアは藤井さんを得た、「幸福な作家」だ。

    余談:それにしても、翻訳界での柴田さん村上さんの存在の大きいこと。藤井さん曰く、村上春樹は現代のアメリカ文学そのものに影響していると。

  • 書籍についてこういった公開の場に書くと、身近なところからクレームが入るので、読後記はこちらに書きました。

    http://www.rockfield.net/wordpress/?p=7359

  • そういえば、近頃確かに「アメリカとは何か」という主題の小説にあまりお目にかからない。ロードノベルも激減しているように思う。
    アメリカで書いている作家たちの出身も多彩になった。

    読んだばかりのカレン・ラッセル「お国のための糸繰り」やダニエル・アラルコン、つい最近肉声で朗読を聞いたセス・フリードなどが登場してくるので、とても身近に感じる。「国境なき物語団 日米編」が面白かった。

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著者プロフィール

1980年大阪生まれ。北海道大学大学院文学研究科博士課程修了。東京大学文学部教授。主要訳書にD・ジョンソン『煙の樹』、S・プラセンシア『紙の民』、R・カリー・ジュニア『神は死んだ』、H・ブラーシム『死体展覧会』、M・ペンコフ『西欧の東』(以上、白水社)、D・アラルコン『ロスト・シティ・レディオ』、T・オブレヒト『タイガーズ・ワイフ』、S・フリード『大いなる不満』、A・ドーア『すべての見えない光』(第3回日本翻訳大賞受賞)、R・マカーイ『戦時の音楽』(以上、新潮社)、N・ドルナソ『サブリナ』(早川書房)など。

「2021年 『マレー素描集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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