- Amazon.co.jp ・本 (287ページ)
- / ISBN・EAN: 9784120049859
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
谷崎潤一郎の妻松子の妹重子の目線で書かれている、谷崎家の妖しくもデンジャラスな暮らし。
こういう作家の暮らしぶりの小説を読みたかったのです。
しかも谷崎潤一郎なんて、まさにうってつけ。
「細雪」は実はまだ読んでいなかったから、読む前にこちらを読んで良かったかも。 -
文豪谷崎潤一郎の生涯を賭したミューズ探しの旅、と言ってしまうともう一言で終わってしまうのですが、うーん、ここまで実在していた人物及び家族を赤裸々に描いてしまうところに桐野さんの凄さを感じました。
谷崎の築いてきたミューズ候補の女性たちで成される家族帝国ではあったけど、彼がずっと待っていたのは作品世界に縛り付けられそこから抜け出せない女性よりも、それを打ち破る自分の予想や現実を遥かに超えた女性だったのだろうかと思いました。
終盤近くの重子がひれ伏す谷崎を足蹴にするシーンなどは、ちょっと「痴人の愛」を重なりましたが、現実で彼を本当に足蹴にした女性は小説世界のナヲミではなく重子しかいなかったのでしょうね。
だけど、そんな重子でさえも、実は二重に張り巡らされた小説世界の住人でしかなかったのでは…とラストはちょっとゾクッとさせれました。
一つ目の枠は超えてきたけれど、実はもう一つ枠があって…などと思うとやはり文豪って業が深いよ、と嘆息せざるを得ません。 -
谷崎潤一郎を頂点とした、過程の中の王国とそこに生きる女性たちがねっとりとした筆致で描かれています。
閉鎖的な環境下で彼女たちが抱く、嫉妬や羨望、優越感に焦燥…といった感情が読み手にリアルに伝わってきて、恐ろしいのについ読み進めてしまう。ラストシーンにはゾッとしました。
過激な言葉は使われていないのに、こんなにも心を抉るのかと、桐野さんの文体に感動しました。 -
谷崎潤一郎と彼を囲む女たちの話。
小説のモデルとなったとも言われている
妻や妹、息子の嫁、女中らなど
女が彼の創作の源だった。
女たちから見た谷崎は
さぞかし憎らしかっただろうが
だからこそ愛しかったのだろう。
読み終わって謝辞を見てびっくり、ちまこさんご存命… -
何かの書評番組で谷崎潤一郎の「細雪」の続編的作品だと知って、映画やTVドラマで見てきたので興味が湧き読んでみた。確かに「細雪」の続編とも言える実録谷崎潤一郎一家とも言える作品であるが、これもまた著者の一方的分析のみであり今は亡き谷崎に反論のしようもない、その辺は昨今の三流週刊誌のゴシップ記事のようで、下世話な一般大衆には受けそうである。この頃の日本作家と言えば私小説ばかりで面白みに欠けるものばかりになって、文学の衰退が感じられたが、やっと最近になって文学にも多様性が出てきて世界にも御せるようになった。
-
谷崎潤一郎『細雪』その後譚でもあり、モデル問題のようでもあり、小説とは何かをひも解いていくのでもある、のがこの小説です。
語り手、主人公「重子」が『細雪』の3女「雪子」であると明かされるところから始まります。あのたおやかで楚々としているのに、芯の強そうなところが見える美人。神秘的なのか、やはりうちを分け入ると自意識過剰なのか?
谷崎潤一郎という作家の老境・晩年(アラカンから七十代終わりで死ぬまで)の作家としての心境、書きざまを周りの女性から描いてもいます。
それにしても妻の妹、妻の連れ子の娘、妻の連れ子の息子の嫁、女性お手伝いさんが5~6名、と常に女性に囲まれて暮らす作家のその精力の旺盛さには並々ならぬものがあります。小説を書くために「ぎんぎらぎん」だったのか、もともと強いお人だったのか。周りの人々は危険性を感じながらも魅せられていくのはよほど個性的にすごい人だったのでしょう。それともお作品の方だけがすごかったのでしょうか。
桐野夏生さんの文章は相変わらずそつのないものでわたしにとっては読みやすいのでございました。 -
谷崎潤一郎の三人目の妻の妹の視点から、晩年の谷崎家のデンジャラスな暮らしを描く。
語り手となる妹は『細雪』のモデルであり、谷崎を慕う主人公はそのことが生きる上での支えとなっている。語り口調は上品で穏やかだが、谷崎に愛されることを切望している女性たちの姿は何とも痛々しい。
奔放に振る舞う谷崎も、さもありなんという感じで、桐野夏生のとらえかたが実に巧みだ。
文豪と称される谷崎、『春琴抄』『刺青』『痴人の愛』などを読んだのはたぶん10代の頃で、禁断の美を感じるどころか純真な心には気持ちの悪さしか感じなかった。が、30歳前後で読んだ『細雪』はおもしろかった記憶がある。
興味のある女性を身近に置いて執筆の原動力とする、老いてますます盛んな作家、やはり読み手もある程度熟していないと魅力はわからないのだと、本作を読んで改めて思った次第。