- Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121000279
感想・レビュー・書評
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チャーチルの「民主主義は最悪の政治形態である。民主主義以外のあらゆる政治形態を除けば。」というセリフは、運用する側の問題如何でもある。ワイマル共和国の盛衰史、もしくは衰亡史を読むと、外部からの圧力もあったとはいえ、とても民主制を運用できる状態ではない。下手である。
ドイツは歴史的に賢い国だった。カントもいたし、ニーチェもいた、この時代にはハイデガーもいた。しかし、そんな国でも不幸なかけ違いが連鎖すれば、転がり落ちることを誰にも止めることができない。おそらくこの時代がドイツ史上最悪の時代といっても過言ではないと思うが、誰もそれをコントロールできない。
ワイマル共和国の歴史は短いが、部分的には建て直しに成功したと思える時期もある。ヒンデンブルクが大統領の座に就いたあたりは政治的混乱もハイパーインフレも落ち着いている。アメリカからの資本の影響が大きいとはいえ(そのせいで大恐慌の傷は深くなるが)、失業率も改善される。しかし、ヒトラーの独裁を許す結果になったのもヒンデンブルク(パーペン)である。
ヴェルサイユ条約や外資による経済復興など外的要因も大きいし、内政上の問題も思ったより理性的に動く人間も多い。シュライヒャーの暗躍と失策などもあるが、当時でも無法者の右翼政党ナチスへの危機感は共有されており、最善ではないがベターな対応をしているように思う。
しかし、それも歴史がこうなってしまった以上は失策の誹りを免れないだろう。
そのあとの歴史は知っての通りだが、本書は意外とリーダビリティを高めるような構成がなされており、読みやすい。ワイマル共和国についての概要はこの一冊で充分かのようにさえ思える。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「しかし彼らは目前の苦境に追われて、社会と人間の存立のために最も重要なものがなんであるかを認識することを忘れた」
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最近読んだ新書で最も示唆に富み、かつわかりやすいという名著に思います。
政党の偏狭な視点、楽観、民主主義への不理解•国民の未成熟がナチス台頭の内的要因となったとの指摘は、50年を経ても今に問いかけるものがある。
最後の数ページだけでも繰り返し読みたい。
単純に、二つの大戦間のドイツ史を知る上でもこれ以上なくまとまっていて読みやすい。
ドイツ史からドイツ史以上のものが学べる傑作新書である。 -
学生時代からずっと読みたい本に挙げていたが、最近も話題になってることがきっかけで購入し、四半世紀以上を経て漸く読了しました(2014/3/8)。そういうわけで、今の日本との異同を意識しながら読んだわけですが、戦後賠償、経済的困窮など当時のドイツならではの固有の事情が大きく、類似性こそ多くは認められなかったものの、官僚制や君主制に慣れ切って共和制などの民主政治に不慣れで、画期的な憲法も形式に過ぎず、ワイマール体制がナチズムを生んだ教訓は今日も生かすべきと痛感しました。立憲主義がいかにあるべきか、今日的な民主主義はどうあるべきか、そして有権者として自分はどういう姿勢で政治に臨むべきかを考えるのに有益な一冊です。
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ふたつの感想を持った。
ひとつは、いくら制度を理想的なものにしても、
景気や国際状況の前にはその維持すら難しいということ。
人が理想のために生きるのではなく、
生存のために生きることが前提となっている。
これは特別なことではなく、
日本に置き換えてみれば通説であったはずの
天皇機関説の排撃や、現行憲法九条の解釈の変遷、
また統帥権の拡大解釈など様々思い起こされる。
ただ、ヒンデンブルクはまさか国を滅ぼしたくて
首相を選んだわけではないはずだし、
授権法を成立させた議会も同様だ。
より良い(ましな悪を?)選択してきたはずが
その積み重ねにおいて結果失敗だったことは、
ドイツの記述に日本を重ねてしまう。
もうひとつの感想は、ワイマール憲法下では権力が分散していて
政治の意思決定に難があるのではないかということだ。
理屈上は参政権をもつ国民が増え、その分国政に対する権利が
分散されたことになる。
それとは別に地方の行政組織の独立性や政党の激しい対立や
政治団体のもつ暴力的な組織について述べられている。
長期政権は無く、内閣が短いスパンで次々に変わっている。
このような状況では恐慌からも、対外的な債務の弁済からも
国民を守ることは難しそうだ。
ワイマール下でナチスが望まれたことについて現状打破の期待が
大きかったこが容易に想像できる。 -
ワイマル共和国に関する知見を大いに深められた。マイネッケ『ドイツの悲劇』と合わせて読むと、よりナチスを生んだ社会状況について考察を深められるだろう。