アドルフ・ヒトラー: 独裁者出現の歴史的背景 (中公新書 478)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121004789

感想・レビュー・書評

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  • ◆ヒトラー贔屓なのか、叙述される内容の偏りと漏れ落ちを感じさせるが、前世紀第2四半期のドイツの保守的・民族的思想の内実、ナチスを生んだミュンヘンという土地柄など、ナチス・ヒトラー成立の淵源を見通せる歴史書◆

    1977年刊行。
    著者は成蹊大学名誉教授(ドイツ現代史)。


     前世紀第2四半期の世界を揺るがしたドイツ総統ヒトラー。悪の権化とされて久しい彼が独裁権を掌握するに至る背景とその来歴を、家族関係、ドイツの政治・社会思想や大衆意識、ナチスを育んだ政治状況を軸に、ドイツの民族・保守思想、あるいは保守的政治家との連続性を強く打ち出す形で叙述する。

     ドイツがヒトラーを生んだ以上、親近性のある保守思想との連続性の否定は困難だろう。ところが、本書は、保守思想を悪い形で反映した突撃隊や親衛隊の蛮行に殆ど触れない。つまり彼らの存在が社会に与えた影響。反ナチ行動への抑止的効果に言及しないので、偏頗的な叙述であることは否定できない。
     また、第一次世界大戦中ないし戦後の軍隊内教育がヒトラーの政治思想を育んだとみているにも拘らず、それについて「国防軍内部の政治教育」や「政治思想啓発講習会への派遣」といった抽象的な説明に止まり、その内実について検討されないうらみもある。

     さらにヒトラーをして「従来のドイツ帝国主義者なみに、…戦争を避けながらドイツの欧州制覇をなしとげたい」としつつ、「強引な侵略目標を修正する意志がなかった」とも評しており、これは戦争を避けたいと評し得ない。
     むしろ、ヒトラーとは、戦争という強引な手段を用いても侵略目標を貫徹する人物、つまり従来のドイツ帝国主義者とは大きくかけ離れた指向の持ち主だと露呈しているのではないか。にも関わらず、著者はそれを等閑視し、むしろ読者の誤導を誘うような評価・解釈を行っているのではないか、との懸念が彼方此方にある。
     その他にも、理由=事実を開示せずに評価的結論を出す場合も散見。

     かような問題はあるが、ヒトラー・ナチスの母胎とも言うべきドイツの保守的・民族主義的思想の内実と淵源。ナチスが成長した場、つまりミュンヘンという土地柄と住民意識の実。
     あるいは、ナチスとは直接関わりが薄いままできた北ドイツ農村で、何故ナチスが政党として民衆の投票先に変化していったか、その過程と、ナチス中央部のコントロールを逸脱した地域密着の地方組織の政策的手腕の一端。
     これら20世紀第2四半期のドイツの内幕を素描し得る側面は本書に内包されていて、ここは本書の買いの部分だろう。

  • このように歴史を冷静に分析する目は必要。この本の命題は 「ヒトラーはドイツの例外的現象ではない」つまり ヒトラーとナチスは ドイツの歴史と社会が産み育てた ということ

    第二次世界大戦は ヒトラー個人の戦争だと思っていたが、第一次世界大戦に敗戦したドイツ民族の戦争であったことを認識した

    1924年 ヒトラーのミュンヘン時代に ヒトラーの世界観「反ユダヤ主義+反マルクス主義+ドイツ民族至上主義」が形成。戦争中なので、民族主義は 当然とも思った

  • あんまおもろなかったなぁ。

  • アドルフ・ヒトラーが出現した背景と経緯がよく分かる本である。まず、ヒトラーの先人であるキリスト教社会主義のルエガー(ウィーン市長でインフラを整備)、ドイツ民族主義シェーネーラーについて言及しており、ヒトラー以前に反大資本から反ユダヤ主義にいたる流れがあったことが分かる。ヒトラーの生誕や青年時代については、ユダヤ家系説、ヒトラー家貧困説などを間違いであると、経済的データを積みあげて論じており、父アロイスや母クララも別に異常人格ではなく、ヒトラーもムラ気があるものの別に異常人格でなかったことが指摘されている。ヒトラーはオーストリア=ハンガリー帝国で育ち、美術学校に二回落ちた後、第一次世界大戦でドイツに志願兵として赴いたが、軍では大して出世はしなかった。しかし、ドイツ革命のあと、極右集団乱立のなか、ドレイクスラーに見いだされ、レーム・エッカート・マィエルなどの人々から支持されアジテーターとして頭角を現し、演説のスター性からNSDAP(ナチスの正式名称)の党内権力をにぎった。基本的にナチスは中産階級が支持し、1921年あたりから党勢が発展、22年にはハーケンクロイツで示威行動をしている。ナチス左派は1927年にはじまる農業恐慌を期に農村でも勢力を拡大した。それまでの既成農村権力は危機を救えなかったし、農業団体も静寂主義をとっていた。農民によるフォルクラント運動はテロに走り支持を失う。そうしたなか、重農主義をとったナチス左派は救世主であった。1933年、ヒンデンブルクから宰相に任命されると全権委任法、突撃隊粛正、義務兵役制、自給自足制を行い、オーストリアを「合邦」し、戦争準備に突き進んだ。基本的にナチスを狂気の産物としてみるのではなく、政治的、社会的、経済的に成立していく様子が描かれており、ホロコーストもヒトラーの狂気が生み出したものではなく、もっと根が深く広範な現象であることを論じている。ヒトラーの評伝であるが、ヒトラー政権の成立までで、ヒトラーの死はかいていない。

  • ドイツの歴史がメイン。ヒトラーとドイツの関係

  • 4121004787 288p 1995・5・30 22版

  • 題名にだまされる。「アドルフ・ヒトラー」個人のことを書いた本ではありません。

    副題「独裁者出現の歴史的背景」そのまんまの内容。

    反ユダヤ主義、民族至上主義、反自由主義はナチズム独特なものではなく、彼の出生地、オーストリアと南部ドイツのバイエルンに横溢していたことがよくわかる。

    結局、ヒトラーじゃなくてもあーいう事態にはいずれなったのではないかと考えさせられる。

    今だって、バイエルンはドイツの政治の中でもっとも保守的・右翼的な勢力の牙城だもんね。

  • 「ワイマル共和国」が制度面から「なぜドイツに(略)」を説明しているのに対してこちらはちょっと歴史よりかと思われます。アイコンとして・機能としてどうしてヒトラーが受け入れられる素地となったのかという点に関心を持つとこちらなのか…どっちにしても中公新書の活字の書体と文字間隔はどうも苦手で「ワイマル共和国」同様なんかすいすい進まない本でした。ヒトラー自身にはあまり興味はなかったのですが、なぜ「反ユダヤ主義」が浸透したのかという点の記述が非常に参考になったように思います。

  •  ヒトラーの出現とその思想背景などバックグランドを探るものが論点のメインであり、ヒトラーそのものに直接関する事は少ないので注意を。しかし、おそらくこうした構成主義的な立場から著者がアプローチしたのは、これが初版される時代にはヒトラーに対する誤解や多くの過ちがあったことだろう。それは著者が本書の中で度々取り上げる、カリスマ性や偉大な指導者としての誇張、もしくはヒトラーを人格破綻者、精神障害者、禁断の子ども(父と母がおじと姪の関係にあり、そこで生まれた為に障害を持っていたとする説)などを排する為の試みだったのだろう。ヒトラーがオーストリア・ハンガリー帝国の出身で、その為同国の政治指導者二人の思想の影響を受けたというのはおもしろい。ただ、結局はボンボンだったんだろうね、中途半端な。だから、下からの革命家(彼の主張に則れば反革命。同じだけどね、見方を変えれば)やカリスマ的指導者としての演出が必要だったと。

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