新・日本の外交―地球化時代の日本の選択 (中公新書 1000)

著者 :
  • 中央公論新社
3.59
  • (6)
  • (12)
  • (20)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 149
感想 : 13
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121010001

作品紹介・あらすじ

軍事はもとより政治にまして経済を優先されてきた戦後日本は、世界有数の貿易黒字国・債権国となったいま、「持てる国」として世界経済の不均衡を助成していると批判される。そして、戦後世界秩序の大転換の中で、経済力と軍事力の間のギャップが不信感を呼んでいる。市民国家そのものが変貌し、協調と責任分担を根本理念とする、地球化時代というべき国際秩序の下で、日本に何が可能か。戦後五十年を検証して日本の未来を考える。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •  明治維新から太平洋戦争直後までの外交の流れを著した『日本の外交』の続編。本書では、太平洋戦争の結末から1980年代の日本外交を概観する。

     著者は、太平洋戦争期までの日本を軍事強国・経済弱国とし、戦後の日本はその対称であるとする。そして戦後の日本には、軍事と経済のギャップを埋め正当化する思想が求められたにも関わらず、外交理念の確立が遅かったという。「日本」の政策に思想的な追求が遅れているという状況は、本書から四半世紀経過した現在においても同様なのではないかと感じる。

     まさしく副題の通り、地球化時代が不可逆的に加速している現在において、自分の自身の生活に関わる「日本」の選択と選択肢たちを検討するために、知識を深めようと刺激された2019年一冊目だった。

    以下、心に残った文メモ。 
    「現在の世界を理解するために、固定化した過去のイメージにとらわれず、柔軟性のある見方を持った上で、最近の諸現象の意味を探り、それが近い将来にいかなる動きとつながっているのか、考えてみるべきであろう。要するに、バランスのとれた歴史感覚が必要とされるのである。(中略) 未来を創るのも、過去の遺産と同時に現在の努力である。」

  • 2012.12記。

    「日本の外交」刊行から20余年を経て1991年に出された続編。

    米ソ冷戦、第三世界の台頭、そして冷戦の終焉・・・いずれの時代も興味深いが、一番印象に残ったのが、本書の刊行年に日本がまさにバブルの絶頂(からの今思えば転換点)にあったこと。

    円安に起因する貿易摩擦で対日批判が吹き荒れ、ロックフェラーセンターの日本企業による買収で「アメリカの魂が買占められた」と激震が走る。日本の輸入の少なさの原因を国内の歪んだ慣行や商習慣に求め、内需拡大のための「構造協議」を要求する米国。それに対する反発の象徴が石原慎太郎・盛田昭夫「Noと言える日本」のベストセラー化。まさにそういう時勢だった(本書はそうした風潮に警鐘を鳴らすことで終わっている)。

    昔日の感あり。

  • 『日本の外交』(中公新書)の続編で、太平洋戦争後の国際状況の中での日本外交の歴史を扱っています。

    東西冷戦という大きな枠組みの中で、戦後の日本がアジアにおける共産主義の防波堤としての役割を果たしながら、経済成長を遂げてきたことを概観するとともに、日本に確固とした外交理念が欠如していたことが、冷戦後の日本の外交の混迷を招いたという指摘がなされています。

    日本の外交史に見られる枠組みが提示されていた前著に比べると、ややスケールの大きさに欠ける印象もあるのですが、いまだ評価の見定めがたい現代史を扱っている以上、やむをえないように思います。戦後日本外交史が分かりやすく概観されていて、おもしろく読みました。

  • 入江昭『日本の外交』の続き。前作が、カバーしていない戦後の日本外交史についてまとめられている。
    戦前から我が国の外交は、国際環境に合わせて場当たり的な対応に終始し、一貫した外交思想を持っていないというのが筆者の主張であり、本書においても、そのように主張しているところがある。しかしながら、90年代に近づくにつれ、外交の根源的思想をどうするかということについて議論が始まりつつあると述べられており、だんだん我が国でもそのような機運が高まってきていることについて述べられ、本書は終わっている。(本書が書かれた時代は、1990年である)
    私自身、外交は国際環境によって規定されると考えているため、筆者の主張する外交の思想がよくわからなかったが、二作通じて読んだことで、筆者の言わんとしていることを理解し、共感することができた。2000年代が終わり、2010年代も半ばを迎えつつあるが、今の筆者は90年代と00年代をどのように評価するか、興味深いところである。

  • 戦中の日本の状態を軍事・経済・思想の面から見る必要がある。軍事については大国であったが、経済については小国であった。思想については、アジア主義を掲げていたがアメリカの理想に比べれば、普遍性に欠けていた。このように軍事面ではアメリカに対等であったかもしれないが、経済・思想面で劣っていたことが太平洋戦争に負けた一因であろう。

    戦後において、思想面が大変重要になってくる。戦後米ソという二大帝国による国際秩序が生まれたが、その2国の対立は資本主義と社会主義という思想面でのものであった。日本もその国際秩序に組み込まれていく中で、米国占領の影響を受けながら、どのような思想を持つか選択したければならなかった。

    米ソの思想的対立が、軍事・経済にも及びそれぞれが同盟を作るようになって行った。日本も米側に組み込まれていった。その中で、朝鮮戦争などにより、日本の軍事的役割の必要性を米が感じ日本は再軍備に進んでいく。日本の米側単独講和もこの流れの一つである。したがって、日本は軍事・経済・思想について米に強く影響されることとなった。

    1950年代は、世界的には米ソの核の脅威にさらされ双方の軍事同盟が結ばれるようになった。また第三勢力が台頭してきた。日本は、軍備を最小限にとどめ、経済発展を最重要視していた。そのため中国とも、一定程度貿易を行っていた。しかし、朝鮮との関係を改善しようとしないなど、思想面では、戦前と変わらなかった。

    1960年代は中国等の新興国が発展してきている。日本は単にアメリカを追随していたのではなく、ベトナム戦争には消極的で、沖縄返還などでもアメリカに対抗していた。日本も外交方針を明確にする時期に差し掛かっていた。

    1970年代は、アメリカが軍事的に経済的衰退していく転換点であった。それゆえ、米中の国交を結ぶことになった。日本は、世界の外交的役割を自覚するようになり、中国などと文化交流も進めた。

    1980年代になって、米ソ冷戦の終戦が現実的になってくる。その中で、国家以外のアクターが力を持つようになるなど、国際関係に変化が出てくる。日本は、順調に経済発展していたが、貿易摩擦などでアメリカ等から警戒心を持たれるようになる。依然軍事は小さかったが、経済とのギャップを埋める思想がなかったので、いつ軍事大国化してもおかしくないと考えられていた。国際協力が必要になってきた。

    国際秩序の新たな構築が迫られる中で、日本はどのような役割を持つべきかという理念を持つことが重要である。特に人権などを尊重し、国際協調に貢献するべきである。

  • 前著 日本の外交の続編。1960年代以降の外交を中心に、政治・経済的な面の戦後史的な本。内容は、下記の通りであり、基本的な政治史がわかれば全体像もわかりやすいと思う。

    序五十年の軌跡

    第1章 日米戦争の結末
    第2章 日本外交の再出発
    第3章 平和的共存の芽生え
    第4章 第三世界の抬頭
    第5章 経済混迷期の外交
    第6章 「ポスト冷戦」の世界へ

    二一世紀に向かって

  • 戦後日本の経済力と軍事力のギャップ、そのギャップが、国際秩序の中で
    如何に評価され、外部からの評価をどう国内の動きにつなげていくか
    これがここ20年ほどの日本の課題であったと思う。
    この本は戦後から現代までの主に外交分野での軌跡を追いかけているが、常にその時々で沖縄が絡んでいる。
    その沖縄の絡みから、戦後日本を提示する方法があると、思いたい。

  • 前著「日本の外交」の続編。戦後日本外交の変遷が冷戦下の政治・軍事・経済・文化的側面より包括的に考察されている。

    敗戦直後から1950年代までの日本外交の変遷については、公文書が当時すでに公開されていることもあり、現在の論調と遜色がない。日米安保体制のもとで経済発展を第一目標に掲げ、イデオロギーよりも経済的利益に重きを置く日本外交の姿が描き出される。

    一方、後半部分の1960年代から1990年代に関しては現在と異なる視点が何点か見受けられた。しかし、当時の日米貿易摩擦をはじめとする国際状況を考慮すれば致し方がないものとも思われる。

    注目すべきは、1980年代の考察から非国家主体の台頭や地域統合の活発化に触れている点だろう。現在と照らし合わせてもこの点は卓見といえるはずだ。

  • 戦後外交について。

  • 名著『日本の外交』の続編として出された新書。

     歴史家が、「現代」「現在」を語ることの難しさを痛感させられた著作。外交史の大御所である入江昭氏が書いた著作であっても、15年経った現在読んでみると、論証の度合いや認識不足という点が気になってしまう。

     歴史家は常に、過去の一事象を取り上げて論じる。もちろん、その一事象の原因・背景・経過そして影響までも知った上で、その一事象について論じるのである。しかし、現在は違う。我々が生きる現在には、過去はあっても未来はない。現在を形作っている原因・背景すらもはっきりしない。
     そのような状況の中で、現代史の通史を描くことは歴史学者として勇気のいることだと思う。


     さて、本書の肝心の中身であるが、冷戦は終結からソ連崩壊の間に書かれているため、時代の「過渡期」で試行錯誤している様がうかかがえる。
     その一方で、前作から貫かれている「定まらぬ日本の外交姿勢」ということは明確に打ち出されている。今や当たり前の概念となったボーダーレス時代の地球を見据えた著作と言えるだろう。

     ただ、日米関係の考察は鋭いものがあると思うが、日韓・日中関係についてはやや考察が甘い部分があるように感じた。

全13件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

ハーバード大学名誉教授

「2017年 『西洋の論じた日中・太平洋戦争 同時代英語文献復刻シリーズ  第2回配本:戦中期編 全6巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

入江昭の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×