古代アレクサンドリア図書館: よみがえる知の宝庫 (中公新書 1007)

  • 中央公論新社
3.25
  • (1)
  • (7)
  • (13)
  • (3)
  • (0)
本棚登録 : 118
感想 : 10
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (199ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121010070

作品紹介・あらすじ

紀元前三世紀、エジプトのナイル河口に繁栄した国際都市アレクサンドリアに、世界中の英知を一ヶ所に集めんと建設された古代最大の図書館があった。蔵書数五十万冊ともいわれ、研究施設ムーゼイオンからは幾多の著名人を輩出したが、度重なる戦乱と異なる宗教間の争いにまきこまれ、全て灰燼に帰してしまった。本書はこの伝説的図書館の辿った歴史的運命を語るとともに、同時代の資料から在りし日の全容に迫ろうとするものである。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 名前こそ良く知られているアレクサンドリア図書館だが、建物の跡や蔵書の断片などはひとつも発見されていないという。
    過去の文献による断片的証言の寄せ集め以外には、何も残っていないのが実情らしい。
    著者はクウェート大学の教授であり、エジプト史(特にパピルス学)が専門で世界的にも著名な学者さん。多くの資料で紀元前の知の宝庫とその広がり、図書館活動の重要性を語る。
    散りばめられた数々の世界史エピソードと、よく出来たミステリー小説を読むかのような丁寧な考察に興奮がやまない。

    手始めはアレクサンダー大王の業績について。
    アリストテレスの教え子であり、大の読書家で探求心旺盛な王は、東方遠征を目指すが紀元前323年にあえなく死を迎える。
    報告書類に残された新しい時代精神、人間文化再生の願いは次なるプトレマイオスに継承され、アレクサンドリアの街に図書館とムーゼイオンが産声を上げる。
    ムーゼイオンは英語のMuseumのことで「博物館」の意。
    本来は文芸の神ムーサ(ミューズ)を祀る神殿のことで、図書館に隣接している。
    当代の大学者が研究に従事した場所だ。現代で言うアカデミーに近い。

    人びとの頭脳と心をこの地に向けさせるあらゆる魅力が備わった街となり、アレクサンドリアは世界の首都としての偉大さと名声を得ていく。
    他国との交易も盛んになり、インドのアショカ王が訪問した足跡もある。
    なんとも羨ましいのは、アレクサンダー大王の死後に分断された帝国の将軍たちが、ライバル意識で文化的優位性を競い合ったということだ。
    戦争による略奪ではなく、膨大な資金を投入したというのがとても良い。
    図書館と学術研究機関を首都におくのはすでに当たり前。
    ローマははるかに遅れており、ジュリアス・シーザーの登場まではだいぶ待つことになる。

    国王によって任命される図書館長の名誉は大変なものだったらしい。
    ムーゼイオンにいたっては、会員たちの税の免除と食住の保証があったという。
    優れた知の先駆者たちが手厚い庇護を受けたというのは、これまた良い話だ。
    図書館には登録と分類の業務に当たる職員がおかれ、原典に校正を施したりもしたという。
    ついでに、筆写人の給与は出来あがった仕事の質と行数によって定められていた。
    文芸と科学はこの地で融合し、医師を養成するクリニックも開かれていたとはまさに瞠目。
    エジプトの内外から、学問のためにやってきた学生たちの暮らしぶりも紹介される。近代の学生たち同様自分の学ぶ大学に格別の誇りを持っていたのが微笑ましい。

    千年を優に越える期間にわたって、アレクサンドリアの学術上の業績は闇夜を照らす光であり続けた。蔵書数50万冊とも言われた古代最大の図書館と、歴史上の著名人を幾多も輩出したムーゼイオン。・・しかし紀元前48年に戦乱で王立図書館はほぼ焼失する。
    ムーゼイオンとその他の図書館も、相次ぐ戦乱と宗教間の紛争で廃絶の運命となる。
    文章ではあっても無念さで涙がでそうだ。

    本書はユネスコが推進する古代アレクサンドリア図書館復興計画の一翼を担う目的で発行されたもの。
    2001年に誕生した新アレクサンドリア図書館はWikipediaで見られるから検索してみてね。
    11階建てで、広大な壁面には世界中の文字が彫られているらしい。

    紀元前4世紀から数世紀間のことが書かれた本書だが、この頃の日本はまだ竪穴式住居で自然採集が生業。古墳文化が開花した頃には、古代アレクサンドリア図書館は消失している。
    地続きの国々は常に戦乱の脅威に満ちてはいたが、華麗な文化の花も開いていたのだ。

    以上長いレビューになってしまい、申し訳ない。
    古代の図書館への強い憧憬が、本書でだいぶ消化されることになった。これ、良書ですよ。

    • nejidonさん
      Minmoさん、コメントありがとうございます。
      スマホからコメント投稿すると途中で切れたりすることが多いですね。
      読みながら、たぶんそう...
      Minmoさん、コメントありがとうございます。
      スマホからコメント投稿すると途中で切れたりすることが多いですね。
      読みながら、たぶんそうかなぁと思ってましたよ。お気になさらずに(^^♪
      この本は新書版で読みやすいです。
      類似本が多いのですが、これが一番だったかな。お勧めですよ~!
      2020/11/27
    • mkt99さん
      nejidonさん、こんにちわ!(^o^)/

      古代アレクサンドリア図書館!
      いやあ、このような知の巨大な空間は憧れますね!(^o^)...
      nejidonさん、こんにちわ!(^o^)/

      古代アレクサンドリア図書館!
      いやあ、このような知の巨大な空間は憧れますね!(^o^)
      もし、タイムトラベルが出来るなら見てみたい場所のひとつです。(笑)
      このような知の空間が戦乱に巻き込まれて消え去ってしまったとは何とも残念なことですね。

      せめて、新アレクサンドリア図書館には行ってみたいなあ。(^_^)
      素敵なレビューをありがとうございました!(^o^)
      2020/11/29
    • nejidonさん
      mkt99さーん!!
      お休みにお会いできるのが楽しみです(^^♪
      本当に、この図書館の全容が画像で見られないのが残念でたまりません。
      ...
      mkt99さーん!!
      お休みにお会いできるのが楽しみです(^^♪
      本当に、この図書館の全容が画像で見られないのが残念でたまりません。
      どの本も読んでもこの図書館に関してはテキストだけで、よけいに憧れますよね。
      新書版ながら読みごたえがあるのでmkt99
      さんにもお読みいただきたいです!
      そうそう、新アレクサンドリアにはせめて行ってみたい。
      その時戦争がないことを切に祈ります。
      ではでは、良い休日をお過ごしくださいませ。
      2020/11/29
  • ギリシアを含め古典文学に通暁していない身からすると、
    「ホメロスは時のはじめからすべての人々の知の根源であった」(プラトン)(p.106) という記述からして、新鮮であった。しかし、全編を通じて、ほぼ未知の分野であり、残念ながら、読後に内容が記憶に残らなかった。

  •  ただ一欠片の石さえも残っていないアレクサンドリア図書館だけど、近年、再び世界の叡智を一箇所に蓄えんとエジプト政府とユネスコの協力で新アレクサンドリア図書館が建設されたのだそう。本書はその記念すべき事業にあわせて、古代エジプトの国際都市アレクサンドリアに実在したとされる伝説的な図書館について考察した一冊。

     まず、第一章の図書館の創設者であるアレクサンダー大王に関する考察が興味深かった。アリストテレスの教え子であったアレクサンダーが探究心旺盛な性格であった事は知っていたけど、残された資料によれば兵法書、歴史書、劇作、文学、詩学、学術書、紀行文とジャンルを問わず様々な書物を愛した大変な読書家であったらしい。東方遠征の最中も遠征先に関する様々な資料に目を通すとともに、、本国ギリシャで評判の高い、いわゆるベストセラー本を使いに送り届けさせていたのだそう。

     してみれば、歴史的な大征服も大王の好奇心の故だったのかと思う。なぜなら遠征の目的は単なる征服だけでなく、閉ざされた国境を開放して通商や文化の交流を自由にすることにあり、それは今でいうところの電波通信網やインターネットの普及に匹敵するブレークスルーであっただろうからだ。
     様々な断片的資料から図書館の実態に迫った本論も、古代地中海地方で知識や情報が如何に重要視されていたか知る上で意義深い内容だ。

  •  紀元前三世紀、エジプトのナイル河口に繁栄した国際都市アレクサンドリアに、世界中の英知を一ヶ所に集めんと建設された古代最大の図書館があった。蔵書数五十万冊ともいわれ、研究施設ムーゼイオンからは幾多の著名人を輩出したが、度重なる戦乱と異なる宗教間の争いに巻き込まれ、凡て灰燼に帰してしまった。本書はこの伝説的図書館の辿った歴史的運命を語ると共に、同時代の資料から在りし日の全容に迫ろうとするものである。

  • ふむ

  • ギリシア人やエジプト人の名前とその注釈に難儀しながら読んでいます。

  • [ 内容 ]
    紀元前三世紀、エジプトのナイル河口に繁栄した国際都市アレクサンドリアに、世界中の英知を一ヶ所に集めんと建設された古代最大の図書館があった。
    蔵書数五十万冊ともいわれ、研究施設ムーゼイオンからは幾多の著名人を輩出したが、度重なる戦乱と異なる宗教間の争いにまきこまれ、全て灰燼に帰してしまった。
    本書はこの伝説的図書館の辿った歴史的運命を語るとともに、同時代の資料から在りし日の全容に迫ろうとするものである。

    [ 目次 ]
    第1部 背景(探検家アレクサンダー;アレクサンドリア―新時代の首都、多民族・多文化的環境の実験)
    第2部 歴史(ムーゼイオンと図書館;学問の開花)
    第3部 終焉(図書館とムーゼイオンの最期;エピローグ―アレクサンドリアからバグダッドへ)

    [ POP ]


    [ おすすめ度 ]

    ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
    ☆☆☆☆☆☆☆ 文章
    ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
    共感度(空振り三振・一部・参った!)
    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • <a href="http://www.bk1.co.jp/product/00737671"><B>古代アレクサンドリア図書館</B> よみがえる知の宝庫</a><br>(中公新書 1007)<br> 1991.1<br><br><br>アレキサンドリア自体はエジプトにありますが<br>マケドニアのアレクサンドロス大王の偉業の結果生まれた<br>普遍的な性格を持った知の宝庫…という訳で地中海に分類しました。<br><br>ユネスコのプロジェクトにより2001年夏に<br><a href="http://www.bibalex.org/English/index.aspx">「新アレクサンドリア図書館」</a>が完成しています。<br>こちらも合わせてご覧になってはいかがでしょ?

全10件中 1 - 10件を表示

松本慎二の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×