サハリン棄民: 戦後責任の点景 (中公新書 1082)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (228ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121010827

作品紹介・あらすじ

戦前・戦中、炭坑資源開発のためサハリン(樺太)に渡った労働者の中には強制的・半強制的に募集・連行された韓国・朝鮮人が数万人いた。終戦とともに始った引き揚げ事業はサハリンにも及んだが、その中に帝国臣民として徴用された朝鮮人は含まれていなかった。彼らはソ連統治下のサハリンに残されたのである。冷戦・南北朝鮮対立という国際環境、そして日本の戦後責任への無自覚に抗し、故郷訪問に至るまでの45年の足跡を克明に辿る。

感想・レビュー・書評

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  • サハリン残留コリアン問題について勉強する本その2。著者は1970年後半以降、帰還運動を中心的に担った研究者ー活動家で、本書は問題の解説よりも、どのように問題の「解決」をはかったかという運動の証言として、非常に貴重な価値をもっている。戦後責任の解決とは、たんなる人々の「意識」の問題だけでない(そこを変えるために働きかけるのもたいへんに重要ではあるが)。日本・ソ連・韓国・北朝鮮の硬い政治構造の中で、当事者の希望である帰還を実現するには、たんに「正しさ」を主張するだけでは済まない。正しい行動をとっても効果を生まないどころか、望ましくない結果をもたらすこともあるのが政治というものだ。自分たちをとりまく構造を分析し、どのアクターをどう動かすことが最も効果的なのか、という戦略的な思考が、活動家には求められる。その観点から考えれば、たとえば、正しさという軸で評価したときに最も重要と考えられる裁判闘争に、本書が異なる評価を下していることにもうなずけよう。
    もとより、運動にたずさわる活動家自身の評価である以上、純粋に「客観的」であることはありえない。だが、政治を動かした当事者の視点なくして、客観的な運動の評価ができないことも事実だろう。
    残留コリアン問題にとどまらず、他の戦争責任問題、いや、社会運動全般にとっての重要な教訓が、この運動には含まれている。ある程度の年月がたち、一定程度の「解決」がなされた(と同時に新たな問題も生まれた)今日だからこそ、この運動の経験から多くを学ぶことが可能になっていると思う。

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著者プロフィール

1946年生まれ。東京大学法学部卒業。東京大学大学院法学政治学研究科教授、明治大学法学部特任教授などを歴任。東京大学名誉教授。専攻は国際法学。著書『サハリン棄民』(中公新書、1992年)、『人権、国家、文明』(筑摩書房、1998年)、『「慰安婦」問題とは何だったのか』(中公新書、2007年)、『「歴史認識」とは何か』(中公新書、2015年)、International Law in a Transcivilizational World,(Cambridge University Press,2017)など多数。2018年10月逝去。

「2018年 『国際法』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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