日本の米: 環境と文化はかく作られた (中公新書 1156)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121011565

作品紹介・あらすじ

日本の山河は二度にわたる大土木事業の結果である。先祖たちはいかにして大地に刻みをいれ、今日の山、川、平野を作ってきたのか。『水と緑と土』の著者が米を通して日本の歴史を検証。一滴の水も森林も古墳も、さらにはコンピュータに強い現代人の特質までも米の文化の所産であることを説き、日本人が米作りを放棄すれば環境も文化もアイデンティティも失うと警告する。土木の世界に光を当て、農業の価値を新しい視点から捉え直す。

感想・レビュー・書評

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  • 米を作るために先人たちが苦労してきたことがよく分かる。治水や治山、砂防、城作り、測量など全ては米作りと関係している。その中で日本人は自然観や文化を形作っていった。その環境が過酷であればあるほど民俗芸能や信仰が発達していく。
    儲かるか儲からないかで農家が米作りを諦めていく中で、なぜ米を作るのかということを考えなければならない。先人はなぜ米を作ってきたのか。そこにはヒントがある。
    米作りを通して見る日本の歴史は、そのまま現代に直結していることが分かる良い本でした。

  • 【感想】
    綿密な調査と該博な知識と楽しい郷土史と現実離れした保護主義的提言とアホみたいな国民性論。


    【簡易目次】
    序章 吉野ヶ里はなぜ滅びたか 003
    一 稲は命の根なり 014
    二 米の文化、古墳 033
    三 列島改造の仕上げ、条里制 055
    四 第二の列島改造 085
    五 技術の秘密、和算 131
    六 木を植える文化 165
    終章 風景を読む 194



    【目次】
    目次 [i-iv]


    序章 吉野ヶ里はなぜ滅びたか 003
      消えた大集落
      弥生の王国
      アオ灌漑
      歴史の教訓


    一 稲は命の根なり 014
      縄文の蓄積
      弥生人のネックレス
      アダム・スミスの賛辞
      余剰、この大いなる天恵
      水と日本人
      徐福伝説


    二 米の文化、古墳 033
      国土の大改造
      畑と水田は違う
      水争いの発生とリーダー
      吉備の十二ヶ郷用水
      上毛野国
      三ツ寺遺跡が語るもの
      溜池と古墳
      大山古墳


    三 列島改造の仕上げ、条里制 055
    1 大和川紀行 055
      直角に曲がった川
      土木の川
      大窯業地帯
      狭山池
      「亀ノ瀬」の地巡り
      平城京
      古代大和がなぜ栄えたか
     「水の上は地行くごとく」
      条里制の意義
    2 秩父条里物語 073
      秩父というところ
      太田千畳敷
      市子の墓
      日本の原風景


    四 第二の列島改造 085
    1 水を治める 085
      山の文化
      仁徳天皇と和気清麻呂の夢
      大和川の付け替え
      利根川と荒川
      都市と農村
      江川と芋代官 
      藍作と吉野川
      海の大干拓 
      驚異の増収
      海の交通も米が作った
    2 水を引く 115
      無名の天才たち
      辰巳用水
      箱根用水
      徳島堰
      五庄屋の大石堰
      山田堰
      吉井川の田原井堰


    五 技術の秘密、和算 131
      鉱山技術と用水技術
      築城ブームと石工集団
      十二貫野〔じゅうにかんの〕用水
      江戸庶民のレジャー、数学
      超ベストセラー『塵劫記』
      長者丸の漂流
      日本人と数学
      太閤検地
      安積〔あさか〕疏水開拓の父、中条政恒
      ドールンと野蒜〔のびる〕築港
      和算家と地租改正
      「寸志夫〔すんしふ〕」
      豊後の石工たち


    六 木を植える文化 165
      森林は米が作った  
      水系の思想
      世界最古の保安林立法
      林業の発生
      「自分の水は自分で作る」
      日本列島を囲む帯、海岸林
      森林を守る水田
      木地師〔きじし〕の里
      木を植える文化
      神宮備林
      式年遷宮「二〇年」の秘密
      「稲のチカラ」


    終章 風景を読む 194
    1 石の文化 194
      石垣水田
      鉄の技術、石の技術
    2 平野を作る 198
      「三津七湊」
      「葦沼」
      越後平野の「はざかけ」
    3 浮き田 205
      大宮台地の樹枝状谷
      荒沢沼の河童  
      関東の「国引き」
    4 日本最大の伝統客土 211
      日本一の麦どころ
      泥付け
      仁徳陵の百倍の土量  
      地球環境と日本農業


    あとがき(一九九三年九月 富山和子) [223-227]
    参考文献 [228-232]

  • 日本人はお米文化を当然のように誇りにしているけれど、その実を知らないで軽いノリで誇りにしているよな。ずるい。現代日本人はずるい、そう思えてくる内容だった。


     米を作ったから日本人は強くなった。米を作るために水を操る民族になった。米を作ったから日本の国土は出来上がった。米を…米が…米の…。


     お米食べろよぉ!! ってことですね。


     日本の治水技術の物語は地味にすごい。それもすべて米を育てる為から来ているんだなー。って。
     阿蘇山の話はしびれたな。

     阿蘇山行きたい。

  • 日本の米を中心にして,水,土,植林,そして共同活動の大切さを実感できる好著である。日本各地を巡り,歴史を紐解きながら物語が展開するので,臨場感をもって読み進めることができる。例えば,命懸けで田や畑に水を引くための水路をつくるために5人の庄屋が奉行に願い出るそのくだりは心に迫るものがある。

    *推薦者(農教)H.H.
    *所蔵情報
    https://opac.lib.utsunomiya-u.ac.jp/webopac/catdbl.do?pkey=BB00031973&initFlg=_RESULT_SET_NOTBIB

  • 知らなかった日本人の歴史を教えてくれた。
    祖先から脈々と受け継いできたものが、私の中にはあるのだな、と感じた。

  • 水田を作るのに必要な技術や共同作業、労働力があったからこそ、溜池、用水路や堰、堤防、干拓、古墳、森林(阿蘇の森など)も作ることができたという。河川や堰、用水路の例がたくさん紹介されている。水田の文化が日本人の気質や国土を作ってきたという視点はおもしろかった。

    ・BC3世紀頃、秦の始皇帝の命により不老長寿の薬を求めて男女3000人を連れ、五穀の種と百工を伴って日本へやってきたという徐福伝説が全国各地に伝えられている。
    ・国土の改造は、稲作開始から律令国家の成立と条里制までの時代と、室町末期から江戸中期までの治水と新田開発の時代の2度にわたって行われた。
    ・吉備は出雲とともに鉄の文化の土地柄で、上毛野など北関東とともに大陸渡来の技術集団のメッカだった。
    ・大和川は1704年に堺の海に注ぐ形に付け替えられた。
    ・猪苗代湖から郡山まで水を引く安積疏水は、明治維新で失業した士族を入植させるために明治政府が国営で行った。
    ・日本の土地制度の改革は、秀吉の太閤検地、明治の地租改正、戦後の農地改革の3回行われた。
    ・伊勢神宮の正殿は、丸柱を地中深く埋め込む掘立柱が用いられるため、耐用年数が短い。これが古代に遷都を重ねた背景とも言われている。

  • 最近は食する量が減っているとはいえやはり日本人にとって米は特別な農作物である。伊勢神宮には神前に供えるための米を作る水田があるそうで、天孫降臨の時代から稲作が行われていたのであります。

    日本の米という題名からはなにやら日本での米作について書かれている本かと思うのであるのですが、こちらは日本の土木史ともいえるような本。
    日本人は米を作るために治水に精力を注いできた水のないところに水を引き、暴れる川を治め浅瀬を田に変える。大半が山岳地帯である日本列島に水田を造り続けたのである。

    川から水を引き1枚1枚の田に水を薄く引き回し川に戻す。こんな緻密な農業を延々と続けてきた國はほかにはないのである。
    おかげである時期の日本は中国インドといった広大な大地を有する國は別として最大規模の人口を有する國となったのだそうだ。

    さらに水田が膨大な水をたたえるダムとして機能し、日本の環境を守ってきた。水源を守るために営々と植樹をつづけ森林を守りさらには新たに造林をしてきたのである。日本のこの環境は自然にできたのではなく日本人がつくってきたのである。西洋に於いては農業は自然破壊であるのだが、米作は環境を造り守っていくのである。

    題名とは裏腹な内容の本ではあるが嬉しい裏切られ方である。

  • 素人の私には
    なかなかイメージもできず
    100%理解したとは言い難いが、『素晴らしい』の一言。


    ≪お気に入り部分≫

    水をめぐっての緊張関係の文化、緊張関係によって共同体が生まれ、緊張関係によって初めて共同体の秩序も維持される社会。それが、日本の文化なのであった。(本書P28)

    文化の中心地が大河川の下流平野の低地にまで下りてきてから、まだほんの300~400年に過ぎないではないか。それ以前の長い長い年月、上流の文化の時代があって、山々は栄えていた。
    その山のにぎやかさに支えられて日本の森林は守られてきたのであり、その水をいま私たちは飲んでいる。
    日本の山々は、神のおわすところであった。水の神、田の神である。海の神まで山に祀られ、海の漁民たちも山を仰いで暮らしていた。(本書P85)

    私たちは川の水も地下水も、自然物と思いがちである。そして事実、水の値段には水を作ってきた農民の労働の費用など含まれてはいない。川の水も地下水も、人件費の注ぎこまれた。実に高価な生産物なのであった。(本書125P)

    米を語る。それは水を語ること、緑を語ること、土を語ることであり、相撲をはじめとする民族文化を語ることであり、日本文化の土台と特性を語ることであり、「地方」を語ることであり、地球環境を語ることであり、そして、日本人のアイデンティティを語ることであった。(本書222P)



    米作りが日本を作ってきた。
    米作りがあったから、豊かな日本が築けた。

    今私たちが使っている『水』はどこからきて
    誰か築いてきて、今に伝わっているのか。


    米作りが復活して山が栄えたら
    また世界が一回りもふたまわりも違ってみえる。


    これからを生きる日本人の必読書!!!!!!!

  • 土木とは、これほどまでに魅力的で、これほどまでに日本の国土形成に影響を与えているとは、恥ずかしながら全く認識していなかった。日本の米を語ることは、川を語り、森林を語り、石工や木地師などの技術を語り、平野を語り、そして、日本人が3000年かけて築いてきた米作りの営みを語ることであった。
    本書の扱う分野の幅広さと、具体的なプロジェクトの取材力に感服。

  • [ 内容 ]
    日本の山河は二度にわたる大土木事業の結果である。
    先祖たちはいかにして大地に刻みをいれ、今日の山、川、平野を作ってきたのか。
    『水と緑と土』の著者が米を通して日本の歴史を検証。
    一滴の水も森林も古墳も、さらにはコンピュータに強い現代人の特質までも米の文化の所産であることを説き、日本人が米作りを放棄すれば環境も文化もアイデンティティも失うと警告する。
    土木の世界に光を当て、農業の価値を新しい視点から捉え直す。

    [ 目次 ]
    序章 吉野ヶ里はなぜ滅びたか
    1 稲は命の根なり
    2 米の文化、古墳
    3 列島改造の仕上げ、条里制
    4 第二の列島改造
    5 技術の秘密、和算
    6 木を植える文化
    終章 風景を読む

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著者プロフィール

●著者/富山和子(とみやま・かずこ)
群馬県に生まれる。早稲田大学文学部卒業。立正大学名誉教授。日本福祉大学客員教授。評論家。主な著書に『日本の米』『水と緑と土』(中公新書)『水の文化史』『水の旅』(中公文庫)がある。児童向けには、『川は生きている』『道は生きている』『森は生きている』『お米は生きている』『海は生きている』『びわ湖』(以上すべて講談社)がある。『海は生きている』は、青少年読書感想文全国コンクール課題図書にも選ばれた。川、道、森、お米、海と続く、「生きている」シリーズは、日本の自然と人々の営みをわかりやすく説いた児童向けノンフィクション作品としてロングセラーとなっている。

「2017年 『海は生きている』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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