アメリカ海兵隊: 非営利型組織の自己革新 (中公新書 1272)

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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121012722

作品紹介・あらすじ

1775年に英国を模して創設されたアメリカ合衆国海兵隊は、独立戦争以来、2度の世界大戦、朝鮮・ベトナム・湾岸戦争などで重要な任務を遂行し、遂にはアメリカの国家意志を示威するエリート集団へと成長した。はじめは海軍内でとるに足りなかったならず者たちが自らの存立を懸けて新たな戦術を考案し、組織の自己革新をなしとげたのである。本書は、その戦績をたどりながら、「最強組織」とは何なのかを分析する試みである。

感想・レビュー・書評

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  • アメリカ海兵隊
    非営利型組織の自己革新
    著:野中 郁次郎
    中公新書 1272

    太平洋戦争でなぜ日本軍は敗れたのか、帝国陸軍に対峙した組織、それが米海兵隊でした
    戦略的機動力を駆使する海兵隊は、グローバルな軍事組織であり、即応部隊、陸海空の統合機能を有する強襲遠征部隊である
    日本軍と戦うために、水陸両用作戦という概念を創造し、一連の作戦を通じて、それを実行する組織的能力を構築していった
    海をもって陸をたたくというオレンジプランの中核をになったのが海兵隊であった

    太平洋戦争での、帝国陸軍と、海兵隊との出会いは、ガダルカナル島であった

    ならずものの集まりと見なされていた海兵隊に、革新的な使命を付加したのは、エリス少佐であった

    第一次世界大戦後に、太平洋における軍事プレゼンスが低下したアメリカでは、ハワイ、グワム、フィリピンなどの拠点をもとに、日本の保有する前進基地を奪取しなければ、太平洋を支配できないことが論じられた。すでに真珠湾のはるか前から、アメリカでは、日本軍をたたくことが計画されていたのである

    そのために、太平洋にちらばる諸島を1つ1つ落としていくためのプランが考案された。その中核プランが、水陸両用作戦である
    水中破壊チーム、湾岸設営隊、艦砲攻撃、信号隊、航空爆撃とその支援などである

    軍隊郵送船がどうしても、海岸に接岸であるかは不明、そこで、小さな、舟艇を操って、上陸しなければならないところから、出発している

    1924年クレプラで行われた、大規模上陸訓練で、海兵隊は今後起こり得る失敗という失敗をすべてやってのけた
    そこで学んだ成果が、航空偵察、低空爆撃、地上部隊支援のために機銃掃射であった。さらに、地上部隊を空から近接支援することが重要であることもわかった。

    海兵隊がすごいところは上記の失敗を踏まえて将校を含めた軍事訓練のカリキュラムを大幅に変更したことだった

    理論的な見直しが勧められて、その結果上陸作戦のマニュアルを作成した
    水陸両用作戦は、5つのカテゴリに分けられて実戦に供せられることになった
     ①指揮系統、②艦砲射撃、③航空支援、④艦ー岸移動、⑤海浜橋頭保の確保 である
    この機能をもつために、もともと歩兵の集団であった海兵隊に、陸海空の機能が強化され、単独でも作戦の立案、実行ができる部隊へと変貌していくのである

    実践1:ガダルカナル;ソロモン群島最大の島

    ソロモン群島の確保のために、海兵隊はガダルカナルに上陸した
     ①テナル川畔
     ②血染めの丘の戦闘
     ③日本軍の第二次総攻撃 を制して、ガダルカナルは米軍におちた
    その戦訓
     ・上陸直後は、一列縦隊で前進する
     ・午後は早めに前進をやめて塹壕を掘る、明るいうちに偵察する
     ・砲兵隊も、周囲の地形を観察して、あらかじめ射距離を決めておく
     ・島では道らしい道はなくトラックもはっていくのとあまり変わりがなかった
     ・戦車は防衛には役にたったが、ジャングルに入ると動きがとれなり、地雷の餌食になった
     ・無線機は湿度がたかいためにすぐ腐食し、無線電話も使い物にならなくなった、
     ・白兵戦の多かったところは、武器の重量に対する配慮が必要、60mm砲までが携帯できる限界であった

    実践2:タワラ環礁:中部太平洋の島

    タラワの戦いは、艦砲射撃と海岸線での強襲ではじまった 空爆は日本軍にはそうダメージを与えられていなかった
     ・占領地の中央に指揮所を設置
     ・日本軍の陣地の破壊と応酬
     ・艦砲射撃と超低空からの近接航空支援爆撃による状況の打開
    その戦訓
     ・上陸攻撃用機材の再検討、水陸両用装備に対する装甲の見直し
     ・艦砲射撃評価技術の向上、精度向上のための艦砲演習の改善
     ・無線通信設備の完全な防水化
     ・船舶乗組員と上陸用舟艇の揚陸の熟練のための徹底的な訓練

    実践3:硫黄島

    アメリカを良く知る知将栗林中将との闘い
     ・水際作戦、戦車の破壊、無力化
     ・全島に対する空爆
     ・塹壕による白兵戦、火炎放射器による掃討戦
     ・結果日本軍を上回る損害を出して終了
    その戦訓
     ・制海・制空権の確保
     ・艦砲、近接航空支援による連携の不足 ⇒FSCCの設置へ
     ・艦砲支援の不足
     ・105mm砲、75mm迫撃砲は日本軍の防禦陣地を破壊することができなかった

    実践4:沖縄戦

     ・太平洋戦争における海兵隊の最後の戦い

    第二次世界大戦後の海兵隊

     朝鮮戦争
     ベトナム戦争 ゲリラ対軍用ヘリの戦い、即応部隊の強化

    海兵隊の特徴
     ・ブートキャンプでの原体験の共有 海兵隊とは、歩兵の集団、歩兵が海・空・陸に展開する
     ・海兵隊のコア・バリューとコア・スキルの共体験

    未来の戦場など予測はできない、できることは戦場で負けないように自分と自分の部下を鍛え上げることだ

    近年の情報通信技術の進歩により情報はますますリアルタイムで獲得ができるようになっている
    偵察、レーダ、衛星などをつかっていちはやく情報を収集し、収集されたデータを関連づけて解釈し新しい関係を見つける

    海兵隊は、即応部隊でありつつける

    目次
    はじめに
    第1章 存在の危機
    第2章 新たな使命の創造―水陸両用作戦
    第3章 教義の実践―南太平洋方面作戦
    第4章 教義の革新―中部太平洋方面作戦
    第5章 革新への挑戦―水陸両用作戦を超えて
    第6章 組織論的考察―自己革新組織
    海兵隊出身代表的著名人
    アメリカ海兵隊賛歌
    主要参考文献

    ISBN:9784121012722
    出版社:中央公論新社
    判型:新書
    ページ数:212ページ
    定価:720円(本体)
    1995年11月25日初版
    2009年05月30日15版

  • 「蒙がを開かれる」とはこのことだ。道に迷っている場合ではない。本書は著者の代表作『失敗の本質』と対で読まれなければならない。日本軍の「失敗の本質」はマニュアル君がそこかしこに跋扈したせい。一方、海兵隊が時代の荒波に揉まれながらも前線に立ち続ける理由は「無頼漢」気風を持ち続けているからだ。両者の大きなちがいは「官僚化するか否か」である。官僚機構は平時に発達する。日本軍は誕生も遅く「日清日露」以来、存亡の危機に立たされることがなかったので、形式主義や前例主義に頼ることになり、臨機応変に対処する考えを失ってしまった。かたや海兵隊はつねに「そもそも必要なのか」と疑義を挟まれ続ける組織だったために、存在意識を先鋭化させざるをえなかった。「生存の危機」こそが発明の母。『ピーターの法則』で言及される「無能状態に陥らないためには過剰適応しないことだ」というテーゼをそのまま地でいっている。そして、忘れてはならないのは、システム上の問題だけでなく気概の面でも、日本軍は海兵隊に太平洋で完敗していた点だ。タラワや硫黄島での日本軍を忘れてはならないが、海兵隊は勝つことに執着しており、あらゆる方法を駆使することを厭わなかった。やっぱり前のめりでいかないと。うまく思いをかたちにできないので再読します。

  • 海兵隊の名前は知っていても、その存在の歴史、経緯、立ち位置などは全く知らなかったが、本書により多くのことを知ることができた。著者の名に惹かれて本書を手にしたが、高いパフォーマンスを生み出す組織のカラクリとしても大変読み応えがある内容であった。

  • 第二次大戦を舞台とした小説の参考文献としては役に立つかなと思う。

  • 旧日本軍は思考のシステムにおいて、米軍に勝ることができなかった。
    組織の存在価値を常に問い続けることが、私たちにできるのだろうか。
    コア・スキルの共有という概念を初めて知る。

  • 失敗の本質の野中さんの本ということでアマゾンに薦められて購入。組織論自体は公共組織なので営利組織にはそのまま転用できないのかもしれないと思ったが、勉強になる。こんどはSEALの本を読んで比較してみたい。

  • 硬直しがちな軍事組織がどんどん改革してゆくのは強い。

  • 組織論として秀逸なんだろうとは思います。
    でもこれって軍隊の話ですよね?自己革新とか言われても正直困ってしまう当方は、歳を食っても青いということでしょうか。
    人間の業の一断面として、真剣に、かつ懐疑的に本書を読むことが肝要かと。間違いなく重要な話であることは間違いないけれども、不用意に飛びつくものではないなと思います。偶然8月15日前後に読んでいた者としての素朴な感想です。

  • 最後の30頁より前はすべて前振りという過酷な内容でありましたが、組織のあり方を考えるにはとても参考になります。
    イノベーションの源泉は、機械的な形式知にあるのではなく、人間的な暗黙知にあるのである。両者の相互作用から、知が組織的に生み出されていくのである。
    この部分は納得。
    共体験は相手の思考プロセスまで暗黙的に分かるので、戦闘行動に不可欠のチームワークの知を涵養するという。
    この部分は不納得だが、相互信頼を前提としているのであろう。
    ただ、ベースには存在理由への問いかけ(理念)と生存領域の進化(戦略)が必要であり、キーワードはやはり集中であることを再確認できた。

  • 105円購入2011-12-22

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著者プロフィール

野中郁次郎
一九三五(昭和一〇)年、東京に生まれる。早稲田大学政治経済学部卒業。富士電機製造株式会社勤務ののち、カリフォルニア大学経営大学院(バークレー校)にてPh.D.取得。南山大学経営学部教授、防衛大学校社会科学教室教授、北陸先端科学技術大学院大学教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授などを歴任。一橋大学名誉教授。著書に『組織と市場』、『失敗の本質』(共著)『知識創造の経営』『アメリカ海兵隊』『戦略論の名著』(編著)などがある。

「2023年 『知的機動力の本質』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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