物語スペインの歴史: 海洋帝国の黄金時代 (中公新書 1635)
- 中央公論新社 (2002年4月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121016355
作品紹介・あらすじ
キリスト教国の雄スペインは、カスティーリャ、アラゴン両王国の婚姻により成立した。八世紀以来イベリア半島を支配したイスラム勢力を逐い、一四九二年、レコンキスタを完了。余勢を駆って海外へ雄飛し、広大な領土を得て「太陽の没することなき帝国」の名をほしいままにする-。国土回復戦争の時代から、オスマン・トルコとの死闘を制して絶頂をきわめ、宿敵イギリスに敗れて斜陽の途をたどるまでを流麗な筆致で描く。
感想・レビュー・書評
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「物語スペインの歴史」岩根圀和。中公新書2002。
大学の先生(外国語学部だそうですが)が書いたものです。
「キャパの十字架」を楽しむための準備運動の一環です。
・北アフリカのイスラム圏と、ローマからのキリスト教文化とのせめぎ合いの地であり、完全にイスラム圏だった時代も長くあったこと、そして決して悪政でもなかったことが良く分かった。
・レコンキスタ(キリスト教側の国土回復)に1400年代までかかった。800年くらいからずっとせめぎあいで、その間は普通に国王制の国家を中心とした群雄割拠。
・レコンキスタ終盤くらいからは欧州各地と同じ、各地血縁の王政。スペインのステイタス向上にはコロンブス含めて「アメリカ大陸の発見とそこでの言葉も失うほどの非人間的な虐殺と搾取」があった。
・でも結局欧州中心で言えば「田舎風」だったんだなと思うのは、無敵艦隊の儚い栄光があったとしても、中心の動きからは「辺境」だった。たとえばプロテスタント、宗教改革というのは入ってこなかった。
・多分それはそれ以前に「イスラム」を異端とする残酷非道な異端審問が行われていて、その流れの中でいわば新教の侵略を早めに阻止したと言えるか。それとも辺境で新大陸からの搾取に依存しすぎて産業革命への転換が遅れたからか。
・だから同じく辺境だったイギリスの台頭とともに衰えた感。オランダ植民地も失う。これが無敵艦隊の敗退とセット。エリザベス1世の時代。1558-1603。この時代がセルバンテス。
・王政が続くが国外の植民地と影響力を立て続けに失ってフランスに追随する時代。そしてナポレオンの征服で「革命の輸出」に洗われて、ナポレオン後は王政復古するも共和制とのせめぎあい。
・20世紀に入ると悲惨が続く。第1次世界大戦~ロシア革命を経て、軍人のクーデターで混乱時代に突入。1930年くらいに無血革命で第二次共和制となるが、軍部右翼(というか反共資本主義勢力)と共産主義勢力の狭間で混乱、世界恐慌の中、軍人フランコが反共勢力を結集して挙兵、ナチスの支持も受けて「スペイン内戦」の結果、1970年代まで続く独裁政治。
・フランコの死後一瞬王政復古するも、王家が分かっていて民主制にようやく移行して今にいたる。
というような流れがまさに物語として大筋頭に入った感じです。自分にとっては良書でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
スペインの歴史の中でもイスラム、レコンキスタ、レパント海戦、無敵艦隊、スペイン内戦という主要な事件に限って語った本書。他の読んだことのある物語シリーズと比較して、物語色の極めて強い本であろう。歴史を網羅的に描こうというよりも、特徴的な事柄をまるでそこにいるかのような臨場感で描いている。読み終わった今、まだイギリスを追われて失意のままにスペインに戻る無敵艦隊の1兵士であるかのような錯覚に嵌っている。歴史書として評価は人それぞれだろうが、個人的にはとても面白い文学作品であった。出てくる漢字や熟語が少し難しいのも人を選ぶかもしれない。
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スペイン史のハイライトをかいつまんである本。
彼の国がどのように成り立ち、どんな性格を持つのかわかりやすく構成されていて面白い。
章立ては以下の通り
1. スペインイスラムの誕生
2. 国土回復運動
3. レパント海戦
4. 捕虜となったセルバンテス
5. スペイン無敵艦隊
6. 現代のスペイン
発行が2002年 2013年に10版を数えているので最終章には追記があるとよいかもしれない。 -
レパントとアルマダの2大海戦を中心としつつ、ムスリムのジブラルタル上陸からETAによるテロまでのスペイン史を物語的に描いた歴史本。
レパントの海戦が1571年、アルマダの海戦が1588年、その間が黄金時代だとすると(一般的にはもうちょっと広く言われるが・・・)、あまりにも短く、そして華々しい歴史だったと思わざるを得ない。
結果として主に中米以南に大きな影響力を残し、ハプスブルグの栄光に預かりながらも大きな汚名を着せられることにもなった、世界でも指折りの数奇な歴史であることは間違いない。
後書きにあるように、元より網羅性を追求したスペイン史ではないが、その歴史が持つ魅力は十分伝えられているのではないかと思う。完成度というか、歴史本としてきっちり完結していて、読みやすさもあり、なかなかオススメできる本だと思った。 -
史実から逸脱しすぎない程度に物語化されたスペイン黄金時代の本。しっかりとした歴史を求めるには足らない部分もあるが、把握さえできれば、という場合にはオススメ。言葉選びもよく、読みやすいと感じた。
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アンダルシア地方周遊旅行中に歴史の理解を深める為に購入。イスラム支配〜レコンキスタの流れを知ることで、アルハンブラ宮殿、コルドバのメスキータをはじめ、観光の役に立ちました。他スペイン無敵艦隊、スペイン内戦といった歴史が書かれていますが、中でもETAのテロの歴史が印象に残りました。
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イスラム朝の隆盛から、キリスト教の発展そしてレコンキスタ。太陽の沈まぬスペイン帝国の誕生、イギリスとの争いや無敵艦隊の敗北。そしてサラッとではあるが、現代の内戦や独裁政権についてと中世以後の一通りのスペイン史を読みやすく通読できる良本。
スペインを代表する人物とはいえ、セルバンテスの左手がどうなったかについて一章割いていたのはよくわからないが、スペイン史に興味を持って最初に手に取るのにおすすめ。 -
あとがきにて著者言及の通り、網羅的な歴史解説ではない。
イスラム支配時代〜レコンキスタ完了までの知識補給によい。後半はセルバンデス周辺のもろもろとなるので、大航海時代などは他の情報源を参照されたし。 -
『物語○○の歴史』はイタリアを読んだことがあって、とても面白かったのです。
著者がいくつかの出来事を取り上げて物語るという形です。
岩根圀和さんは文学畑を耕しているかたなので、そういう特徴がでています。
ジブラルタルをこえたターリックの軍。
スペイン・イスラムの誕生です。
それに対する国土回復運動、
レパント海戦、
イギリスに敗れた無敵艦隊。
最後の『現代のスペイン』ではアフリカから不法入国して強制送還される人々のこと。
同じようにジブラルタルを渡った、8世紀のイスラム教徒と対照的。
そしてアルジェから、スペインに帰って来ることができたセルバンテスも。
三通りのスペイン上陸。
ドン・キホーテ作者のセルバンテスは、レパント海戦で活躍し九死に一生を得、その後海賊に捕まりアルジェで奴隷となり、四度も逃亡しようとしますが失敗し、五年間の捕虜生活のあと身請けでやっと帰国します。
彼はイギリスとの海戦のときは、小麦やオリーブ油の調達の仕事をしました。
その戦いに参加したのは詩人ローペ・デ・ベガ。
彼もなんとか生き延びます。セルバンテスの調達のおかげでもあります。
その後あまり仲良くなかったらしいけど。
その二人と対照的なのがガルシア・ロルカ。
セルバンテスに次いで知られるスペインの作家。
彼を殺したのはスペイン市民戦争だったのです。
同じく現代ではバスクの問題が。
バレエのパ・ド・バスクは優雅なステップなのに。