物語ウクライナの歴史: ヨ-ロッパ最後の大国 (中公新書 1655)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (268ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121016553

作品紹介・あらすじ

ロシア帝国やソヴィエト連邦のもとで長く忍従を強いられながらも、独自の文化を失わず、有為の人材を輩出し続けたウクライナ。不撓不屈のアイデンティティは、どのように育まれてきたのか。スキタイの興亡、キエフ・ルーシ公国の隆盛、コサックの活躍から、一九九一年の新生ウクライナ誕生まで、この地をめぐる歴史を俯瞰。人口五〇〇〇万を数え、ロシアに次ぎヨーロッパ第二の広い国土を持つ、知られざる「大国」の素顔に迫る。

感想・レビュー・書評

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  • ウクライナ侵攻があってから
    気になっていた本。

    紀元前から時系列になっており、
    とても分かり易かった。

    豊かな土壌ゆえに様々な民族が統治する
    姿から、改めて、島国、日本は恵まれていると
    痛感した。

    ロシアとウクライナの関係性も理解
    できる良書である。

  • なぜ侵攻したのか「本で知りたい」…いま売れている、ロシア・ウクライナ関連の書籍 : エンタメ・文化 : ニュース : 読売新聞オンライン
    https://www.yomiuri.co.jp/culture/20220405-OYT1T50086/

    元駐ウクライナ大使が伝える、複雑で懐の深い歴史とは? 黒川祐次『物語 ウクライナの歴史』を読む|Real Sound|リアルサウンド ブック(2022.3.29)
    https://realsound.jp/book/2022/03/post-996760.html

    佐藤優の読書ノート---黒川祐次著『物語 ウクライナの歴史――ヨーロッパ最後の大国』(佐藤 優) | 現代ビジネス | 講談社(2014.4.6)
    https://gendai.ismedia.jp/articles/-/38829

    物語 ウクライナの歴史|新書|中央公論新社
    https://www.chuko.co.jp/shinsho/2002/08/101655.html

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      〔週刊 本の発見〕『物語 ウクライナの歴史 ヨーロッパ最後の大国』 | レイバーネット
      http://www.labornetjp.org...
      〔週刊 本の発見〕『物語 ウクライナの歴史 ヨーロッパ最後の大国』 | レイバーネット
      http://www.labornetjp.org/news/2022/hon251
      2022/05/02
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      『物語 ウクライナの歴史』は、どんな人に読まれているのか? - HONZ
      https://honz.jp/articles/-/51425
      『物語 ウクライナの歴史』は、どんな人に読まれているのか? - HONZ
      https://honz.jp/articles/-/51425
      2022/05/03
  • 日々報道に胸を痛める
    でも、あまりにないも知らないことに愕然として図書館予約
    長く待った
    東欧のこと何も学んでこなかった
    私がサボっていたからなのだが、あまりにも無関心だった
    地図を横に置かないと読み進められない
    時間がかかった
    国境線が無理にかえられ、国もなくしていく
    今の侵攻のことは書かれていないけれど歴史を少し理解できてよかったな
    「インネン」のロシア
    どうか撤退してください

    ≪ 俯瞰して この地の歴史 この国土 ≫

  • 【はじめに】
    本書は2002年の出版で、2004年のオレンジ革命は本書出版後の出来事であり、2014年のマイダン革命と続くクリミア危機・ウクライナ東部紛争はさらにその10年以上後のことになる。
    著者は、「私自身がウクライナを「発見」したように、日本においてもウクライナが「発見」されるべきだと考える」と本書を書く理由を説明している。2022年、ロシアのウクライナ侵攻によって、残念ながら誰もが望む形ではない形でウクライナは世界に「発見」された。この状況において、私たちが何事かを言いうるためにはウクライナの歴史を知ることが、誠実であるためには必要であると感じたことから、最新の現代史は含まれていないながらもバランスの取れた好著として評価の高いこの本をひとまず手に取った。

    ウクライナといえば、世界的な穀倉地帯として有名である。大前研一がかつて、日本企業が安価な土地を買い占めて大規模農業をやればいいのではとその著作に書いていた。事実ウクライナは、欧州の穀倉地帯として小麦や大麦、とうもろこしの一大生産地となっている。そして、過去にはそのことによって、ナチスの生存圏(レーベンスラウム)とされて第二次世界大戦でドイツ軍に攻め込まれこととなった。最終的に、第二次世界大戦の独ソ間の絶滅戦争における激戦地となったことは大木毅の名新書『独ソ戦』にも詳しい。ウクライナ人の母親を持つベラルーシのノーベル賞作家スヴェトラーナ・アレクシエービッチは、『戦争は女の顔をしていない』と『ボタン穴から見た戦争』で、女性や子供といった弱者の視点からも彼の地で刻み込まれた悲壮な経験があることを世に知らしめた。そして、同じくアレクシエービッチのノーベル賞受賞作でもある『チェルノブイリの祈り』で、原子力発電所の大事故によって大きな傷を負ったことも知った。現代史だけを見ても決して幸福な歴史を持つ地域ではないのだ。

    【概要】
    ■ ウクライナの多難な歴史
    ウクライナの問題は「国がなかったこと」だ、著者はウクライナ史の権威であるオレスト・スプテルニーの言葉を引いてそう説明する。「多くの国において歴史の最大のテーマがネーション・ステート(民族国家)の獲得とその発展であるのに比し、ウクライナでは国家の枠組なしで民族がいかに生き残ったかが歴史のメインテーマであった」という。歴史を遡ると、ソ連の支配よりも、第二次世界戦よりも、さらにその以前からずっとウクライナの地は明確な国家としての独立性が保たれていたとは言えない。
    このあたりは、日本という国では、足利から織田信長、豊臣家、徳川家と権力が移ったとしても所詮は同一民族内での覇権の奪い合いであったわけで、欧州や中国とも異なる日本の特性でもあろうと思う。ウクライナはその点では、何度も民族の支配権が移る地域であった。もともとはキエフ・ルーシ公国として10~12世紀にはスラヴ民族系の大国として栄えたこともあったが、モンゴル民族がこの地に侵攻し、その後のキエフ公国の衰退からルーシ(ロシア)という名前をモスクワにとられ、その後、ポーランド、リトアニア、ロシア、オーストリア、と支配国がころころと変わることになった。1667年にはキエフを通り黒海に流れ込む現在のウクライナ国土を東西に二分するドニエプル川を挟み、右岸(西側)をポーランド、左岸(東側)をモスクワが分割統治することになった。その後、ポーランドが自国の分割によって勢力を弱めたことから十八世紀末からはその土地の八割方がロシアの支配下に、残りをオーストリア帝国が支配することになった。支配国であったロシアとオーストリアが敵同士に分かれた第一次世界大戦後、ウクライナは独立を目指したが、ディレクトリア政府、西ウクライナ政府、義勇軍(白軍)、フランス、ポーランド、パルチザン(黒軍)、ボルシェビキ(赤軍)が入り乱れて、1919年から1920年の混乱期には十四回も政権が交代したと書かれている。そして結局はソ連、ポーランド、ルーマニア、チェコによって分割されることになった。そしてその後、国土の多くを占めるソ連邦に編入された地域では、スターリンの暴政が引き起こした大飢饉(ホロドモール)で350万人とも言われる多くの人びとが餓死することとなった。その後も第二次世界大戦のバルバロッサ作戦において苛烈な戦場となり、数多くの命が失われ、膨大な国富が失われた。人口の六分の一にも相当する530万人が亡くなり、ソ連・ドイツの双方が撤退時に焦土作戦を取ったことからその物質的損害はソ連全体の40%にも及び、ロシア、ドイツ、フランス、ポーランドのどこよりも多くの物質的損害を被ることとなった。

    ■ ウクライナのユダヤ人
    ウクライナの地には多くのユダヤ人が暮らしていたが、十九世紀末に起きたユダヤ人差別のポグロムが発生しており、このことが引いてはナチスの支配下に置かれてからホロコーストを受け入れる下地ともなった可能性もある。ホロコーストを広く分析したティモシー・シュナイダーの『ブラックアース』で、絶滅収容所の前にホロコーストの端緒となった重要な契機として指摘されたバービ・ヤールの谷間に集められて射殺された事件はキエフの郊外でのことである。多くのユダヤ人が彼の地で犠牲となり、それはもちろんナチス支配によるものではあったが、ドイツ支配下におけるウクライナにいた多くのナチ協力者をソ連軍がナチスともども彼らを駆逐して解放したという物語がロシア側にあることは、今般のプーチンがウクライナのナチ勢力の排除をロシア人向けに侵攻の口実とするひとつの理由となっているのかもしれない。
    もちろん、ゼレンスキー大統領がユダヤ系であることからも、その点自体はおよそ毛頭根拠のないことではあると言えるのだが、そういった歴史的な経緯もそこにはあるのだと考えられる。

    【所感】
    著者は、第一次大戦後に多くの欧州諸国が独立に成功したのに対してウクライナが独立を維持できなかったことをカリスマ指導者が生まれなかったことに一因があると分析した。ソ連崩壊を機にした1991年の独立においてもレーニンやピウスツキ、マサリクに相当するようなカリスマは生まれなかったと述べた。そして今、ゼレンスキー大統領がウクライナ史においてカリスマ的リーダーとなるのかもしれない。著者も2002年の出版からこれほど大きな歴史的な波がウクライナを襲うとは想定していなかったかもしれない。いや、逆に過去の歴史や地政学的観点からは、1991年の独立ですべてが収まるとは決して考えてはいなかったのかもしれない。いずれにしても、ぜひとも増補版か続版を出して著者の考えを伝えてほしいところである。

    本書の最後に著者は、ウクライナが欧州の大国になる潜在能力について高く評価をしている。欧州でロシアに次ぐ第二位の国土面積を有し、人口は5000万人でフランスに匹敵する。肥沃な大地で、農地面積は日本全体の面積にも比肩するほど広い。地政学上の重要な位置を占め、「ウクライナがどうなるかによって東西のバランス・オブ・パワーが変わる」と書いた。まさにそのことが今回の事態を引き起こしたということを考えると皮肉である。

    ウクライナ紛争から目を逸らさずに個人が学ぶべきことは、人命第一・戦争反対を言いつのり、プーチンを悪役に仕立ててロシアを批判することでは”ない”のかもしれない。もちろん、命が大切でないということでもないし、今回のロシア側の行動に責任がないとも言わないし、戦争は必要があればやればいいというのではない。ただ、遠く離れた日本にいて、単純化された意見を述べたり、与したりすることは、本書を読んだ後ではあまりにも浅い考え方のように思える。世の中の流れに沿ったものではないかもしれないが、ウクライナ紛争をして近現代史の暗部をそのうちに含むウクライナの歴史と地政学的力学を学ぶ機会とすることがもっとも誠実な行動なのかもしれないと思われた。何か具体的に影響を与えることができるような行動をなすことができる個人や組織はおそらく別ではあるが、少なくとも自分にとってはそうだと。

    ウクライナの多くの人(決して全員ではないということも大事だ)は、命を懸けても「ウクライナ」を守りたいと思っていることだろう。それはロシアに征服されてしまうと、また多くの迫害や殺害が行われるからという恐怖からだけではない。人の命よりも大事だと人が信じるものが今もあり、それは前近代的なものではなく現代においても有効であるということだ。それはおそらく自由と平等といった理念だけではなく、歴史的なものを抜きにしては形作られるものでない。コロナ禍では、人命の過保護が進む世界の中で、ウクライナの出来事は何かを示すもののような気がしている。それを理解するためには、歴史と哲学とが必要なのだと。

    【補足】
    ちなみに本書の内容は、中田敦彦のYouTube大学で紹介されている。
    【ウクライナとロシアの関係史①】歴史的背景から見たウクライナ侵略
    https://www.youtube.com/watch?v=FohNAIWzYvw
    【ウクライナとロシアの関係史②】世界大戦とソ連に翻弄されるウクライナ
    https://www.youtube.com/watch?v=pwPkSrqbLTk

    どうも便利な世の中になったものだ。

    ----
    『チェルノブイリの祈り』(スベトラーナ・アレクシエービッチ)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4006032250
    『戦争は女の顔をしていない』(スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4006032951
    『ボタン穴から見た戦争――白ロシアの子供たちの証言』(スベトラーナ・アレクシエービッチ)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/400603296X
    『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』(大木毅)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4004317851
    『ブラックアース(上)』(ティモシー・シュナイダー)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/476642350X

  • 中公新書の物語シリーズは大好物であり、本書も素晴らしい内容でウクライナ史を俯瞰し、うまくまとめてくださっている。

    書籍の性格上『ガリツィアのユダヤ人―ポーランド人とウクライナ人のはざまで 野村真理 著』では描かれなかったウクライナ東部の歴史的流れもこちらで押さえることができる。

    また、リトアニア公国やキエフ・ルーシ、クリミアにも多くのページが割かれており、東欧の郷土博物館には必ず展示室がある古代であるスキタイ(遊牧騎馬民族)から歴史の詳細が記載されているのも助かる。

    そして、文化面での記述もしっかりなされている。日本では、ロシア人音楽家とひとくくりにしてしまっているアーティスト、ホロヴィッツやオイストラノフ、ミルステイン、ニジンスキーなど多くの人物が、実はウクライナ出身であることも気がつかせてくれた。

    <ウクライナ関係書籍紹介>
    https://jtaniguchi.com/books-recommended-ukraine/

    <その他の書籍紹介>
    https://jtaniguchi.com/tag/%e6%9b%b8%e7%b1%8d%e7%b4%b9%e4%bb%8b/

  • 日々のニュースに心が痛くなりながら、なぜこんなことになったのか、自分がほとんど何も知らないことにもどかしくなりました。
    特に、ウクライナについては東欧にある国、ということしか知りません。
    この国が、そしてそこで生きる人々が、どんな歴史を辿ってきたのか。
    その大きな流れを学びたいと思い、本書を手に取りました。

    ウクライナは地政学的にも、資源的にも重要な土地であること。
    それゆえに、長きに渡り他国の支配下にあったこと。
    しかしその中でも独自の文化を育み、決してアイデンティティを失わなかったこと。
    その歴史を知るにつれ、より一層現在のウクライナの状況に胸が苦しくなりました。

    巻末のウクライナ略年表は1999年で終わっています。
    この年表を現在まで書き連ねれば、ロシアとの戦争のことが出てくるのだ…と思うと、やるせない気持ちになりました。
    どうか1日も早く、彼の地に穏やかな日々が戻りますようにと願いつつ読了。

  • この本は、ユーチューブ大学で、あっちゃんが紹介していた本なので、読んでみました。
    ウクライナの歴史から、現在に至るまでの状況を、をわかり易く紹介してあり、参考になりました。
    ぜひぜひ読んでみて下さい。

  • 現在のウクライナの地域に文明を築いたスキタイ人の神話的な話に始まり、争いが絶えず隣国に翻弄される歴史の物語
    農業に適した土壌というところが争いが絶えないことの根底にあるんだろうなと思いました。

  • ウクライナは、同国語で、ルーシー、つまり、ロシアの語源なのだ。ロシアはウクライナから分かれていった国とある。その関係は、モンゴル支配終了から始まる。

    ウクライナの重要性 
    ① ヨーロッパの大国になりえる潜在力 面積ロシアについて、第二位、5千万の人口は、フランスに匹敵する
    ② 地政学的の要所である。西欧世界と、ロシア、アジアを結ぶ通路であり、地中海への玄関でもある

    ウクライナの特徴
    ① ソビエト・ロシアと融和しているにも関わらず独自の文化、言語を保持し続けてきたユニーク性。ソ連時代は教育を奨励、ウクライナ語による学習などが盛んに。
    ② キリスト教ではあるが、ギリシャ正教⇒ロシア正教⇒ウクライナ正教 である。ローマ教会とは一線を画す
    ③ ユダヤ人が多い
    ④ 農業大国であるが、工業国でもある。

    ウクライナ史概説

    BC8世紀 キンメリア人 印欧語族
    BC7世紀 スキタイ人がウクライナ地域を制圧、ペルシャの騎馬民族
     BC2世紀にスキタイ人が滅び、いろいろな民族が対応、やがて、東スラブ人が現れ、7世紀には同時にひろがる
    862年  リューリク ノヴゴロド公に キエフ公国の始まり
    1240年 モンゴル軍、キエフ制圧、タタールのくびき
    1502年 キプチャク汗国滅亡 タタールのくびき終わる
      この間、ポーランドとリトアニアに相互支配される
      コサック、始めはポーランドに味方する、登録制に、各国へ派兵される
    1765年 エカテリーナ2世の南下政策により、ロシアに併合、独立が失われる
    1853~56 クリミア戦争 ロシアにより、セヴァストーポリ軍港が置かれる。
    1917年 第一次大戦後、一瞬独立 ウクライナ国民共和国樹立、ロシアとオーストリアに二分される
    1922年 ソビエト連邦へ ウクライナは、ソ連、ポーランド、ルーマニア、チェコスロバキアの4国に分断
    1986年 チェルノブイリ事故発生 ソ連への不信感が増大
    1990年 350年ぶりに主権を回復

    目次は以下の通りです。
    まえがき
    第1章 スキタイ 騎馬と黄金の民族
    第2章 キエフ・ルーシー ヨーロッパの大国
    第3章 リトアニア・ポーランドの時代
    第4章 コサックの栄光と挫折
    第5章 ロシア・オーストリア両帝国の支配
    第6章 中央ラーダ つかの間の独立
    第7章 ソ連の時代
    第8章 350年待った独立
    参考文献
    ウクライナ略年表

  • 日増しに混迷を増すウクライナ情勢。「ウクライナを知る65章」で点として少しウクライナの知識を得られたが、通史としてこの本があるのを知り、増刷されて手に入れることができた。著者は1996年11月の赴任から1999年6月の退任まで約3年間、ウクライナ大使を務めた黒川祐次氏。

    赴任してみると、抱いていた穀倉地帯のイメージだけではなく、複雑で非常に懐の深い大国であると感じるようになり、日本にもっとウクライナを紹介したいとの思いから、ある国や民族に関する知見の基礎になるのは歴史であるので、歴史を通してウクライナを紹介したい、とあった。

    読んで見ると、ウクライナはまさに大陸の中にある国で、回りに国がたくさんあり、とても影響、というより侵入、されてきた歴史の集積なのだな、島国日本とはまるで違う歴史の国なのだ、と思い知った。対外関係史といっていい。そして黒川さんすごい! 膨大な量の参考文献を読み、咀嚼して分かりやすく、しかしけっこう細かく書いている。また文学作品なども一部紹介しているのがとてもいいと思う。

    印象に残った詩がある。タラス・シェフチェンコ(1814-61)の「遺言」1845年作 だ。時代的にはロシア帝国とオーストリア帝国に分割占有されていた時代。

    わたしが死んだら
    なつかしい ウクライナのひろい丘の上に
    埋めてくれ
    かぎりない畑と トニェプルと
    けわしい岸べが みられるように
    しずまらぬ流れが 聞けるように

    ドニェプルが ウクライナから
    すべての敵の血潮を
    青い海へ 押し流すとき
    わたしは 畑も 山も
    すべてを捨てよう
    神のみもとに かけのぼり 
    祈りもしよう だがいまは
    神の ありかを知らない
      
    わたしを埋めたら
    くさりを切って 立ち上がれ
    暴虐な 敵の血潮と ひきかえに
    ウクライナの自由を
    かちとってくれ
    そしてわたしを 偉大な 自由な
    あたらしい家族の ひとりとして
    忘れないでくれ
    やさしい ことばをかけてくれ

    また、ある歴史的事象を、ウクライナから見ると、ロシアから見ると、と両方書いている。この場合おおむね反対になる。おおむねロシアから見たことが日本に入ってきていたのか、という気がした。

    <ウクライナという地名>
    ○10世紀後半 キエフ公国の最盛期
    ○12世紀 キエフ公国の停滞、諸公国並立
    ○14世紀~17世紀 この時期にロシア、ベラルーシ、ウクライナの民族に分かれ、言語も独立言語となる。ウクライナという地名が生まれたのもこの時期。分化の要因:かつてのキエフ・ルーシ公国は、この時代にモスクワ大公国、ポーランド王国、リトアニア大公国と分割され、それが長期間固定化されたため。


    メモ
    <第1章 BC750~ スキタイ~騎馬と黄金の民族>

    <第2章 9~10C キエフ・ルーシ~ヨーロッパの大国>
         6c後半 キー兄弟がキエフ建設
         862 リューリクがノブゴロドの公になる
         978 ヴォロディーミル聖公の最盛期
           のち次第に中心がモスクワに移る。
           ルーシ(ロシア)という名前もモスクワに取っていかれる
    ○1125年のヴォロディーミル・モノマフの死後、1240年のモンゴルによるキエフ占領までの1世紀の間に、キエフ・ルーシ公国はゆっくりと解体の過程に入った。
    ○大公と地方の公の継承方法が兄弟相続から父子相続となり自分の領地の保全に走り、
    ○12世紀にはほとんど独立した10~15の公国ができ、キエフ・ルーシは諸公国の連合体となった。
    ○その中の有力国が、北部のノヴゴロド公国、南西部のハーリチ・ヴォルイニ公国、北東部のウラジミール・スーズダリ公国(ここから分かれたのが後のモスクワ公国)

    <第3章 14C中頃~ リトアニア・ポーランドの時代>
    ○14世紀半ばにハーリチ・ヴォルイニ公国が滅亡してから、17世紀半ばにコサックがウクライナの中心勢力になるまでの約300年間、ウクライナの地にはウクライナを代表する政治権力は存在しなかった。この間はリトアニアとポーランドがウクライナを支配した。
     キエフ・ルーシ公国の時代にはほぼ全域にわたって単一のルーシ民族であったものが、この期間中に、ロシア、ウクライナ、ベラルーシの三民族に分化し、言語もロシア語、ウクライナ語、ベラルーシ語という独立した言語になっていた。また「ウクライナ」という地名が生まれたのも、ウクライナの歴史を通じて最もウクライナ的といえるコサックが生まれたのもこの時期。
    ○分化の要因:かつてのキエフ・ルーシ公国がこの時代にモスクワ大公国、ポーランド王国、リトアニア大公国と分割され、それが長期間固定化されたため。

         1316 リトアニアがベラルーシ、ウクライナの北部を支配下に
         1340年代 ヴォルイニはリトアニアに、ハーリチはポーランドに併合される。
         1362 リトアニアはキプチャク汗国を破りウクライナの大半を領有
         1569 ルブリンの合同:リトアニアはポーランドに事実上併合され、ウクライナの大部分はポーランド領に。
         
    <第4章 16C頃~ コサックの栄光と挫折>
         1530頃 ポーランド、ロシアの圧政に対抗しウクライナ・コサックはザポロージェにシーチ(要塞)建設 
         1648 フリニツキーはポーランドに対しコサック・ヘトマン国家を認めさせる。
         1654  フリニツキーは対ポーランドのためモスクワ国家の保護を求める。
         1667 アンドルソヴォ条約 ドニエプル右岸はポーランド、左岸はモスクワの主権を相互承認

    <第5章 18C末~ ロシア・オーストリア両帝国の支配>
         1795 ポーランド王国はロシア、プロイセン、オーストリアの3国に分割され、西ウクライナの一部はオーストリアの領地に。その他大部分はロシア領地に。ロシア帝政下では「小ロシア」と呼ばれる。

    <第6章 1917~1920 中央ラーダ~つかの間の独立>
         ロシア革命、第一次世界大戦後、民族自決の原則に従って、リトアニア、ラトビア、エストニア、フィンランド、ポーランド、チェコスロバキア、ハンガリーが独立を果たす。
         ★大戦下、ロシアは連合軍、オーストリアは同盟国となったため、両支配下のウクライナ人は敵味方に分かれ戦うこととなった。
         ウクライナは1917年11月、中央ラーダ(ウクライナの民族組織・議会)は「ウクライナ国民共和国」を創設し国家の樹立を宣言。
         ・・が、北や東からは赤軍(ボルシェビキ)、西からはポーランド軍、南東ドン川からは白軍(ロシア反革命軍)、南西オデッサからは白軍を助けるためフランス軍、が攻めて来た。
         1920年6月 ボルシェヴィキはキエフを奪還し、10月ポーランドはソヴィエト・ウクライナ政府を承認し、ウクライナ国民共和国は最後を迎えた。 


    <第7章 1919、1945 ソ連の時代>
         ・第一次大戦後 ソ連、ポーランド、ルーマニア、チェコスロバキアの4カ国に分割統治される。
         1922 ソビエト連邦成立 ウクライナはソ連を構成する共和国の一つとしてその後約70年存続。
         1941年11月 ドイツが全ウクライナを占領
         1945 ヤルタ会談でリヴィウを含む東ハーリチはソ連領に、そのかわりポーランドはオーデル・ナイセ川以東のドイツ領を与えられる。
         
    <第8章 1991 350年間待った独立>



    2002.8.25初版 2022.3.10第9版 購入


    ウクライナ危機の世界史的意義:黒川祐次 「政策オピニオン」2020.9.1 一般社団法人平和政策研究所 
    https://ippjapan.org/pdf/Opinion168_YKurokawa.pdf

    在ウクライナ日本大使館 ウクライナ外観(PDF) に歴史と現況が載ってている(33ページ)
    https://www.ua.emb-japan.go.jp/itpr_ja/info-ua.html

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