ドキュメント裁判官: 人が人をどう裁くのか (中公新書 1677)
- 中央公論新社 (2002年12月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121016775
作品紹介・あらすじ
「判決と国民感情に隔たりがある」「裁判に信頼が置けない」という声が聞かれ、裁判官による不祥事もしばしば取り沙汰される。司法制度改革をめぐる論議でも、「国民が裁判に積極参加できるシステムを」との意見が大勢を占め、裁判員制の導入が決まった。司法の担い手である職業裁判官たちに今、何が起きているのか。法服をまとった「聖職者」たちの重責と苦悩とは。人が人を裁く現場を追い、あるべき司法の姿を探る。
感想・レビュー・書評
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多数の裁判官・元裁判官へのインタビューをもとにした、読売新聞の連載記事の書籍版。
まず取材のスタンスがよかった。この手の本にありがちな「変な判決」を揶揄する内容でなくて読んでいてストレスがない。読売新聞ゆえだろう。
その上で普段語られることのない裁判官の胸のうちを覗き見ることを目的に掲げ、一人一人の裁判官の葛藤や信念を描く。
簡裁や破産手続き、持ち回り決済などの典型的でない訴訟手続きについて触れられていた点も、現場の現実を知れてよかった。当事者の救済のためにはとにかく迅速さを追求すべきときもあるし、本人訴訟など公平性から一段降りて柔軟に接すべき時もあるだろう。
最高裁への上告も、その実大半は上告理由をこじつけたもの、というのは面白かった。
そして時代感もよかった。本書に掲載された事件は多くが90年代のものだが、オウム事件や池田小学校事件、危険運転の厳罰化の契機になった東名高速二児焼死事件など特に刑事事件は重要なものばかりでその点でも勉強になった。
また裁判員裁判の導入前夜でもあり、一票の格差や非嫡出子訴訟などで違憲判決が出始めた時期でもある。現在の司法を考える上でも、90年代は興味深い時代だったといえるだろう。
総じて、20年以上前の新聞コラムだがいま読んでも面白かった。2002〜2022年ぐらいの射程で続編をやってくれないだろうか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
105円購入2011-03-02
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「裁判官には国に遠慮し、おもねる傾向が強かった」と過去形で記載があるが、現在形でしょう。
また、過去の判例を重視し、その理由として整合性なり地域による格差がないようにというような論理が使われるが、言い逃れできるように過去の判例と照らし合わせているだけとしか思えない。
制度的な欠点はあるにしても、やはり裁判官は国より、自分よりなんだなと再確認した一冊。
口が重いであろう裁判官の話を載せているのは労力がかかっているだろうとは思う。
払ってもいい金額:500円
(追記)こんな記事がありました。
パナホーム訴訟、会社と弁護士が高齢女性へやりたい放題 庭園破壊&高額虚偽請求
http://news.infoseek.co.jp/article/businessjournal_131811/
私も裁判を見たことがありますが、少額訴訟だったせいか、事実確認など非常にいい加減で、初めに判決ありきで誘導的に進めるなぁと思ったことがあります。 -
首都大学東京推薦図書
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裁判官は、誠実でなければならない。そのすばらしいプレッシャーに、まじめに取り組む人たちが多いことには安心する。
九州大学
ニックネーム:すず -
人が人を裁くことの難しさ。興味深い判例が多数。
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裁判官の人となりや仕事のあり方について、今まで知らなかった内部事情も踏まえて紹介している。考慮すべきは多々あり、時に批判を受けるような判決であっても、公正中立の立場で最大限の考慮がなされたものなんだとひしひしと感じた。
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嬉しかったのはこの本に関する前向きなレビューの数々。人間味がわかったとかどんなことしてるか分かってよかったとか。こういう取組みはよい、私自身聞いて書き集めたり話したいぐらい。自分の立場から見ても、刑事・民事は勿論、全国3700人弱の裁判官の母体の中から幅広く紹介してくれてるな、仕事のいい面悪い面もバランスいい印象。
「誰が何と言おうと私達はちゃんとやってる」とか「上級審でひっくり返されなかったからちゃんとやってるんだ」みたいな内部的な評価や満足だけでなく、こういう視点も意識していくべきだと思う。 -
司法は三権の中で最も独立した権力。裁判官の拠り所は社会的要求でなく適切な刑罰の適用。でないと刑が法を無視して一人歩きしかねない。法が時代不適合になっていると思われるなら、改定するのは政治(行政)の義務。裁判官の、公に出せない人間味が興味深い。
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法学部志望者必読。