西太后: 大清帝国最後の光芒 (中公新書 1812)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (284ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121018120

感想・レビュー・書評

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  • 非常に面白い

  • 蒼穹の昴を読んで、興味が湧き他に中国の歴史などを読んだが、この本はとにかく読みやすかった。名前などに馴染みがあったのもあるが、説明が丁寧で時にユーモアがあり、読み切ることができた。
    西太后については、諸説あるのだろうが、事実に基づいての推測に根拠が感じられた。
    最近の中国の動きや文化大革命など、中国特有の考え方の根源に少しだが、触れたような気がした。

  • 西太后の人生に触れるだけでなく、清の国の統治のあり方、何故、日本と比べ、近代化が遅れたのか等、筆者の個人的見解も含めて踏み込んだ考察もあり、学ぶこと多し。

    以下引用~
    ・「選秀女」は、清朝独特の后妃選定制度である。
    秀女とは、皇帝の妃や側室の夫人の候補のことである。清朝では、適齢期の旗人の少女たちの集団面接を皇帝自らが行い、秀女を選んだ。

    ・臣下どうしを対抗させ、臣下の勢力を分散すること。これは中国の政治の常道であった。毛沢東が鄧小平を失脚させたのち復権させたのも、みな同じ理由である。

    ・西太后にとっての権勢とは、ずばり崇慶太后の再来になることに尽きた。彼女の夢は、息子の同治帝が無事に成人し、生母である自分を大事にしてくれることであった。つまり、至高の生活文化を満喫することこそが、西太后の野望であった。男の権力者のように強力な軍隊を保有することにも、戦争に勝利することにも、西太后は興味を持たなかったのである。

    ・和魂洋才と中体西用は、一見すると似ているが、決定的な差がある。「魂」は無形だが、「体」は目に見えねばならない。(日本はソフトな開発独裁国、中国はハードな開発独裁国)

    ・中国の歴代王朝には、清流と呼ばれる良心的知識人の一派がいた。清流とは、国政の実権は把握していないが、その代わり財界との癒着や腐敗とは無縁で、純粋に天下国家を憂え、堂々と正論を述べる気骨の士たちのことをいう。

    ・清仏戦争では、清軍の第一線の将兵は勇戦し、フランス軍を破った。しかし、もし戦争がこのまま継続すれば、李鴻章は自分の虎の子である北洋軍閥の兵力を割いて、ベトナムに送らねばならなくなる。
    そうすれば、清国の勝利は揺るぎないものになるだろうが、李鴻章の軍閥も多少の損害を免れない。

    ・西太后が海軍の予算に目をつけ、これを横取りした理由。(頤和園への流用)
    ①李鴻章の政治的発言を抑制
    ②銀の海外流出抑制
    ③国内の主戦論を抑える(60の大寿に向けて)

  • 本書は大変上手に読ませていく。読みはじめると止まらない。
    まず、西太后を理解しなければならない理由が明確に述べられる。それは西太后が現代中国を知る上で如何に重要だからである。清朝末期が領土的にもナショナリズム的にも現代中国の原点であり、清朝末期こそが西太后の時代であった。実質的な建国はアメリカ合衆国より短いとまで言われている。
    また、西太后をめぐる俗説の紹介が多数ある。史実ではないにしても西太后の人となりや当時の雰囲気をイメージすることができ面白かった。解説のなかで比喩や比較に中国史の有名人物を多用することも読んでいて面白い理由のひとつである。ヴェーバーの統治形態の類型をつかうことも理解をたすける。

    西太后のグロテスクなまでの理想の生活への欲求と、近臣のあまりのやる気のなさがシンクロして、奇跡的な西太后長期政権が現れたように見える。しかし何よりも、他を圧倒するオーラなりカリスマ性がすごかったのだろう。

  • 蒼穹の昴の影響で読んでみた。西太后の人となり、清朝末期の歴史もつかめた。とても読みやすく勉強になった。

  •  際物的興味で手に取ったが、読みやすくもちゃんとした歴史書だった。筆者は西太后を、呂后や則天武后と異なり「女性的な権力者」と位置付けている。その「野望」は、国を強化し戦争に勝つことよりも、ご馳走・旅行・祝いといった「至高の生活文化」満喫であり、排外主義は思想や論理に基づくものではなく多分に感情的なものだったというのだ。筆者は断言を避けているが、だからこそ国が滅亡するほどの列強との正面衝突を避けられ、清朝の多少の延命が図られたということなのだろうか。
     筆者は義和団をその後の抗日戦争や文革の大衆狂乱に、変法新政を改革開放になぞらえ、西太后の時代を現代中国の「小規模実験工場(パイロット・プラント)」と呼んでいる。やや安易なたとえとも思えるが、一つの視点だろう。
     また、自分は現在の一元的な中国共産党歴史観には批判的なつもりだったが、西太后=怪物、光緒帝の変法自強=正義、といった先入観があり、知らず知らずのうちにその歴史観で見てしまっていることに気づかされた。本書を読んで、西太后への印象は、怪物というより、多分に感情的で贅沢好き、権力の匂いにまずまず敏感な人物、という、以前の先入観よりは割と他の時代や場所にもいそうな人間というふうに変わった。

  • 面白かった。
    西太后は、女性的な専制君主だった、というのが筆者の基本的認識。
    皇帝の母として、息子にかしづかれたいという願望のみで、決して自らが皇帝になる希望はなかったという。

    少女期から、その死までを、丁寧に資料にあたりながら描き出されている。
    巷間に流布している話も、これは根拠がある、これはない、とされていく。
    清朝の統治システムが、それまでの王朝に比べ高度に完成されていたことの指摘が最初にあるので、西太后の行いがどの程度の異例さなのかが理解できる。

    西太后の読み書きのレベルがについての話が興味深い。
    中級の書記官の家の生まれたため、文書の読みはそれなりにできたけれど、書くほうは当て字なども多かったとか。
    こういった、これまで聞いたことのなかった話がたくさんある。
    他にも、東太后は愚昧ではなかったとか、西太后が熱河から帰還した際に、通る道を整備した事業がどの程度のものであったかなどは、具体的な様子も分かって面白い。

    この手の本の中で、本書が親切だと思えた点がある。
    人名が出てくる度にちゃんとルビが振ってある。
    一度出てきたら二度とは振らないという本が多い中、この配慮はありがたい。

  • 西太后といえば、幼少の皇帝を操り、政治は二の次で自らは贅沢三昧、それが清国滅亡のきっかけとなった。というのが歴史的評価だが、著者はそれに異を唱える。むしろ、この時代に女性がトップについたことは中国にとって幸運なことであり、結果的に中国はインドや東南アジア諸国のように完全に植民地支配されず、独立を保つことができたというのが著者の意見。

    西太后が贅沢を好み、国費を無駄にしたのは事実だが、彼女の欲望はそこまでだった。もし、彼女が中国の歴代男性権力者のように、自分の権威を示すために有能な家臣を殺害し、侵入してくる外国への挑発、戦争を繰り返していたら、中国は内乱やクーデターの連続でやがて列強から分割統治されていただろう。西太后が権力を維持した目的は自らの豪華な生活を維持したいだけだった。

    こうした身の回りのエゴだけに徹した女性が50年間中国を支配したことは、中国にとって結果オーライだった。

  • 西太后の生涯。
    現代の日中関係の基盤は西太后の君臨した清朝末期から築かれていた。
    読みやすくて面白かったです。

  • 西太后が権力を掌握した清末に、現代中国の基礎が確立されていた点が興味深い。

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著者プロフィール

1963年生まれ。明治大学法学部教授。専攻は中国文学。主な著書に『京劇――「政治の国」の俳優群像』(中央公論新社)、『西太后――大清帝国最後の光芒』(中公新書)、『貝と羊の中国人』(新潮新書)、『漢文力』(中公文庫)など。

「2023年 『西太后に侍して 紫禁城の二年間』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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