北方領土問題: 4でも0でも、2でもなく (中公新書 1825)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121018250

作品紹介・あらすじ

「北方領土問題」は、日本とソ連の戦後処理をめぐる交渉のプロセスのなかで生まれ、1956年の日ソ交渉においても、これを解決することができず、平和条約の締結に至らなかった。以来五〇年、事態が進展しないなか、中国とロシアの間で、同じく第二次世界大戦に由来する国境問題が解決した。本書は、この係争地を互いに「分け合う」という政治的妥協に至る道筋を検討し、日ロ間への具体的な応用を探るものである。

感想・レビュー・書評

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  •  クリル=千島列島の日露国境問題解決への現実的提言。中露国境画定を参考に、日露双方の「面子」が立つ形で「4でも0でも、2でもなく」、歴史的経緯に拘泥しないフィフティ・フィフティとして、国後・択捉間での国境画定と4島の「特別区」化による政治的妥協を提示する。約10年前の著作だが、その間の日露両国におけるナショナリズム世論の急台頭と国内政治体制の保守・硬直化を考慮すれば、極めて楽観的で実現性は薄い。鳩山一郎内閣の日ソ国交回復交渉を、外因的に不利な状況の中、粘り強い交渉を通して利益を勝ち取った成功例として再評価している点が注目される。

  • ロシア外交を専門とする著者が、北方領土問題を中ロ(ソ)の国境問題と比較して議論を展開する。19世紀から続く中ロ国境問題は、国際法ではなく係争地を分け合う政治決断によって解決された。著者は、中ロの方法を参考に、日ロ双方がウィン-ウィンで解決する方法を模索する。

    著者の提起は興味深いが、本書の一番の価値は北方領土問題の事実の分析だと思う。教科書にも載る領土問題だが、「北方領土問題」がいつから問題化したのか等の経緯や双方の主張・論点が書れている本は案外少ない。本書は、日ロ双方のバランスをとりながら、北方領土問題について客観的かつコンパクトに記述している点が好感を持てた。

  • その後、某社から竹島、尖閣を含めた解決策についても書かれておりますね。

    中ロの事例を参考に、日ロ双方が納得できる方法を模索されていらっしゃいます。
    ほかのレビューにありましたが、「北方領土問題」がいつから問題化したのか等の経緯や双方の主張・論点が書れている本は案外少ない。と書かれた方がいらっしゃって、それについて同意でした。

    これからの人にとっては、そこの部分を知ることも今後のために不可欠だと思います。

  • 一読してわかったことは、とにかく領土問題に客観的見解などない、ということだった。

    だいたい、どこがあり得る「線」なのかということも、厳密にみると何とも言えないらしい。(千島列島の先かも知れない)

    日本政府は現状を不法占拠と見なしているが、ロシアにはロシアの言い分があり、お互いの主張は近くなったり遠くなったりしつつ平行線をたどったままなのだ。

    膠着状態が打開されない一因は北方領土が両国間にとって真に切実な問題ではないからだ、という指摘もあるが、宙ぶらりんな状況を早く解決しなければならないのは当然だろう。

    著者は、もとロシアと中国の国境画定プロセスの研究者である。(現・北大スラブ研究センター教授)

    その立場から、領土(というか国境)問題に対してユニークな視点を提供している。

    それが副題の「4でも0でも、2でもなく」である。結論だけポンと書けば、国後までは日本に戻せ、ということである。

    落としどころとしてはアリなのではないか、と思った。また数十年にもわたって出口のない駆け引きを繰り返すより、現実的な線で決着をはかるのがお互いのためになりそうだ。

  • 2013年4月末、平和条約締結に向けて加速的な動きが首相から指示された時期であり、これまでの北方領土問題を振り返ることができる書。なるほど、フィフティーフィフティー方式であれば、2と4の中間というのもあり得る。いずれにしても、今後の外交交渉の進展を期待。

  • 中ロの領土問題に詳しい著者が、中ロの領土う問題解決方法を例に挙げながら、日ロの北方領土問題を考えるもの。

    特に中ロの問題などは知らないことが多く、知らない地名が多かったので理解するのに苦労した。
    日ロの問題についてもある程度の知識を持っていれば、興味深く読み進めることができると思う。

    領土問題や国際社会での日本のあり方などは、どちらかと言えば無関心であったが、今後関心をもって考えて行くよいきっかけとなった。

  • 前半は中ソ/露間で行われた国境策定交渉のアプローチを振り返り、
    これを踏まえたうえで後半は日露間における
    北方領土の国境問題を検討する一書。

    構成が面白く、読んでいて全編にわたって飽きない。
    北方領土問題に暗い自分にとっても
    争点、問題がスムーズに理解できた。
    また筆者の主張も納得のいくものであり、
    ひとつの意見として非常に参考になった。

  • 完全に解決した領土問題である中露の国境問題の方法論を分析し、日露間の「北方領土問題」に適用するにはどうしたらよいかを細かく考案している。
    特筆すべきなのは筆者のスタンスが冷静であることだ。サブタイトルの通り、四島返還論や二島返還論ではなく、二島+αを考えていくことを主張しているものの、筆者はその他の立場についてもその価値を認めている。
    過去の歴史に学び現在に活用するという視点でも重要な示唆を与えてくれる良書。北方領土問題に感心のある方は一読をオススメする。

  • この著書は、「北方領土問題」というテーマを中露と日露の国境問題比較論を元に考察し政治的な妥協や日露間への応用の可能性を探っている。序章では現在なお続いている北方領土問題が、日本とソ連の戦後処理をめぐる一連のプロセスの中から発生した問題であり、1956年の日ソ共同宣言によるロシア側の2島返還検討と日本側の4島一括返還方針から始まる主張の食い違いからどう踏み出すのかが課題であるという。第1部では中露、中央アジアの国境問題を例に取り、法律的な議論を排除したフィフティ・フィフティ方式という相互の利益に配慮した解決方法が縷々解説されており、実に興味深い。第2部では中露の教訓を日露に適用して考察する。ここでは多方面から2島(色丹・歯舞)返還+αを模索し分析する。日露のフィフティ・フィフティや国境線をどこに設定するのか?国境地域に暮らす人々の解決への望み、相互の利益等が解説されている。
    以上、日露相互の主張が平行線を辿り袋小路に入っている現局面において、両国が妥協しうる第3の道があるということを啓示する書物であると感じた。

  • [ 内容 ]
    「北方領土問題」は、日本とソ連の戦後処理をめぐる交渉のプロセスのなかで生まれ、1956年の日ソ交渉においても、これを解決することができず、平和条約の締結に至らなかった。
    以来五〇年、事態が進展しないなか、中国とロシアの間で、同じく第二次世界大戦に由来する国境問題が解決した。
    本書は、この係争地を互いに「分け合う」という政治的妥協に至る道筋を検討し、日ロ間への具体的な応用を探るものである。

    [ 目次 ]
    1 中ソ国境問題はいかに可決されたか(暗闇のなかの模索 相互に受け入れ可能な妥協 中国と中央アジア―中ロ方式の試金石 十三年目の最終決着)
    2 日ロ国境問題をいかに動かすか(中ロ最終決着の衝撃 中ロのやり方をどう適用するか 四島返還論再考 未来への決断)

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著者プロフィール

所  属:北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター教授
専門分野:ボーダースタディーズ、北東アジア地域研究

「2021年 『北東アジアの地政治』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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